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弟の大冒険


この前、消防しょうがくせいの弟が警察の厄介になった。

家族も激おこで、学校でも問題になったらしい。


それで、唯一の理解者である(自称)俺は弟に親身になって話を聞いた。

それが面白怖かったので、親から聞いた話で情報を補完して、カキコしてみる。


弟の名前をA、小デブの天然をB、勉強していそうなインテリ君をCとする。


発端はクラスで美人とされている、Uちゃんの飼っている小型犬が失踪した事。

まあ、俺もUちゃんを見たことあるけど、相手は消防なので感想はイマイチ。

でも、学校では人気者なんだと。


それで、ABCのトリオは勝手にUちゃんに、その犬を探してきてあげる、という約束をして、勝手に町中を自転車で爆走してた。


1日目は空振りで、町中を変な消防3人組がうろついている、って苦情が出てた。

2日目はABCが捜査範囲を広げて、他人の敷地まで入り込んで、そこの住人を驚かせたりして、怒られていた。


そんで、どうやら小型犬は町中にはいないと、ABCは結論したわけ。


俺の住んでいる町の外れには閉鎖された工場があって、そこはフェンスで覆われていて、犬が入り込める隙間もない。

ABCはそこに犬が入り込んだと思い込んだ。だけれど、工場に入ろうにも工場に続く道は閉鎖されているし、フェンスで入れない。

それで、周囲をうろついていた3人は近くの川に、廃水を流し出す為のデカイ排出口を発見した。


消防の好奇心を掻き立てるような、でっかい穴。

それが、川の横側に空いている。

方向としては工場の方向に続いているように見える。


川の側面はコンクリ舗装されていて、川は周囲の道より低い場所を流れている。

なので、川に降りないと排出口には辿り着けないし、周りには川に安全に降りられるような高さの場所はないから、下流の方から登ってこないと入れない場所だったらしいんだけど。


そこから入れば、工場に続く下水道に行けると思ったんだな。

ABCはそれを実行しやがった。下流の降りられる高さの場所から、紐をガードレールにくくりつけて、川に降りる。

それで、川に沿って工場の中に続く、下水道の入り口を目指して歩いた。


ちょっと考えれば、小型犬が川に降りて、工場の下水道まで移動して、工場の中に迷い込んでいるなんて、ありえないって分かるし、その排出口の先に工場があるかどうかも分からないのに。


とにかく、弟達ABCは排出口の前まで来た。

ここからは弟であるAの話。




大人一人が立って入れるほどの排出口を前に、BとCはビビッていた。


「よし、行くぞ」


ゴクリとBがノドを鳴らして、Cは背負っていたリュックを背負い直して、オレは家から持ち出した懐中電灯に明かりを点けて、下水道の中に入っていった。


下水道の中には変な臭いが充満していた。

病院で嗅ぐような薬の臭い。

川の途中で見かけた、足がいっぱいある虫が何匹かいる。

丸く変形している底に、変色して黒くなった水が溜まっている。

そんな中を進んで行った。


オレ達はUちゃんの飼っている犬の名前を呼んでみた。

下水道の中に声が反射して、声が返ってくる。

しばらく犬の名前を呼んでいたが、一番初めにBが疲れて声を出さなくなり、Cの声も小さくなって、オレも名前を呼ばなくなった。


「何か言えよ、お前ら」


「何かって、何?」


「本当にUちゃんの犬いるのかな?」


「知らないよ。でも、町にはいなかっただろ」


「Cが工場にいるって言ったじゃん」


「町にいないなら、工場じゃない? って言っただけだよ」


下水道を真っ直ぐに進んでいったら、Y字に分かれる場所に辿り着いた。


「これ、どっち?」


「分かんない」


「多分、ここからだと、工場は右だと思う」


とりあえず、Cの言う事を信じて右に向かった。

前に進んでいく内に、下に変なものが落ちているのに気づいた。

蛇の脱皮した皮みたいな、鱗のついた半透明の物。

2センチぐらいの小さいのから、20センチくらいの大き目のヤツまで。

それが何個も落ちている。

進むにつれて、数が増えてく。


「何これ?」


「蛇の抜け殻?」


「ねえ、変な臭いしない?」


オレ達は一度立ち止まって、落ちている変な皮を拾って見た。


「蛇みたいだけど……」


「なんか、いっぱいあるね」


「こんな大きな蛇、いるのかな?」


懐中電灯の光を進行方向に向けてみる。

先の方に、何か大きなものが置いてあるのが見えた。


「なあ、何かある」


「なんだろ、あれ?」


「……」


その何かは動いていなかったので、生物ではない事は分かった。


「よし、行ってみよう」


「もう、犬見つかんないし、帰ろうよぉ」


「まだ、工場に着いてないだろ」


早足になったオレに続いて、Cが走り出して、Bがついて来た。

すぐに置いてあった物が見えてきて、それが本当に脱皮した抜け殻だと知った。

でも、大きすぎる。

それは、人間2人が並んだぐらいの大きさだった。

巨大なキグルミに見えなくもない。

一部が大きく裂けていて、そこから何かが出て行ったのが分かる。

他には昆虫のような、節のある足がとび出ていた。

人間サイズに大きくした、セミの幼虫の抜け殻みたいなのに、鱗が生えた感じ。


「こんな生物、見たことない……」


「なんか、キモい」


「ねえ、これ大きいよね? ねぇっ」


「新種発見かも!」


「新種って?」


「発見した人の名前がつくような、生物かもしれないって事!」


「人間より大きいよ、クマじゃないの!?」


Cはいきなり興奮し出すし、Bは完全に怯えていた。

この時点で、犬を探すという目的は消え去って、新種の生物が下水道に住んでいるかもって言う、大発見にすり替わっていた。


「きっと、この奥にいる」


「マジか!? 発見したら誰の名前がつく?」


「全員の名前になるのかなぁ?」


「怖いよ、大きさを見てよ」


オレもCの興奮にあてられて、何かワクワクしてきた。

Bだけが大きさを気にしている。


「行ってみよう」


「おう」


「えっ、えっ、もう帰りたいよ」


「Bは帰りたかったら帰れ。

 でも、そしたら生物に、名前はつけてやらないからな」


「名前なんてどうでもいい……」


Bは半ベソをかきながら、それでもついて来た。


「うわっ、くっせぇ!」


「だから、何か臭うって……」


「きっと、生物が臭いを出してるんだ。人を寄せ付けない為に」


奥に進んでいくと、さっきまでの薬品の臭いとは違う、ゴミが腐ったような臭いが強烈に鼻を刺激してきた。

それを我慢しながらもオレ達は進む。


オレは先行するCの前を照らしながら進んでいて、前が良く見えなかったので、それに気づくのが遅れた。

いきなり、Cが足を止めた。

オレはその事を少し疑問に思いながら、止まったCを横から追い抜いて前に出る。


そしたら、道の先に光が見えた。

今まで進んできた道が行き止まりになっていて

四角い、開けた空間になっていたんだ。

上から光が差していたから、上に道が続いていたのだろうと思う。


壁はコンクリートで出来ていて、正面の壁に何かが張り付けられていた。

強烈な臭いはそこからしているようだ。

壁に張り付けられていたモノは、遠目からでは『T』の形に見えた。


「なんだ、あれ?」


張り付けられているモノに近付いていきながら、よく観察する。

よく見ると『十』の形に見えてきた。

頭の部分が黒かったので、髪が生えているのは分かった。

左右に指が5本あって、足の裏がこちら側を向いていた。

壁にうつ伏せになるように、裸の人が張り付けられているのが分かった。

でも、厚みがない。

頭の途中から尻の上まで、引っ張って開けられたような、裂け目がある。

張り付けられていたモノは、人の皮に見えた。

よく見ると、皮のいたるところに、釘のような金属が打ち付けられている。


思わず、オレも立ち止まる。


訳が分からない。犬を探しに来て、新種の生物がいるかもと思って、壁に人の皮が張り付けられている。

今まで嗅いでいた臭いが、人の死体から出ていた臭いだと気づいて、突然に気持ち悪くなった。


後ろから、誰かが逃げ出す足音が聞こえる。

多分、Cだ。

Cはオレより視力が良いって言っていた。


「えっ? どうしたの?」


一番後ろにいたBが戸惑いの声をあげている。

オレは吐きそうになる口を押さえて、Cの後に続いた。


「えっ、何なの?」


オレは口を押さえたまま、Bを蹴って道を引き返す。

Bは何も分からないままで、オレの後ろをついてきた。


「うわぁあっ!」


先に逃げたCの大きな声が響いた。

口から手を離して、懐中電灯を両手で持って前を照らす。

Cが立っていたのは、道がY字に分かれていた所だった。


Cが大量の白い手に捕まっている。

白い手が握っているのはCのリュック。

何がなんだか分からなかったけど、怖いという思いよりも、Cを助けなくちゃ、という思いが先行した。

オレはC目掛けて、走る。

大量の白い手は、Y字に分かれた反対の道から飛び出している。

Cは必死に左側の、オレ達が入ってきた方向に逃げようとしている。


オレはCにタックルをかまして、左に引っ張っぱった。

Cのリュックの肩掛け部分が破ける音がして、白い手が離れていく。

リュックは白い手が持っていってしまった。


一瞬だけ懐中電灯に照らされて見えたけど、白い手の主には目がなかった。

真っ白のノッペラ坊みたいな顔に、唇のない口だけがある。

良く見えなかったけど、複数の真っ白人間がCを捕まえようと手を伸ばしていた。


とにかく、そのまま走れるだけ走って、排水口から出た。

出た途端に足が絡まって転がってしまい、川の中にCとオレは突っ込んで、すねぐらいの深さの川に引っ繰り返った。

排出口の奥をうかがう。

いつの間にか夕暮れ時になっていて、空は赤く染まっている。


全身真っ白の顔無し人間達が出てくる気配がない、と分かって安堵した。

そこで初めてBがいないことに気づく。


「……Bは?」


Cの言葉でオレは我に返って、立ち上がってCに聞いた。


「どうする?」


顔面蒼白のCは答えない。


「少年、はっけ~ん」


その時に、後ろから声が聞こえた。

いつの間にか、川上から警察官がこっちに近付いて来ていた。

それに続いて、ガスマスクを着けた防護服の集団がこっちにやって来る。

警察官はカッコイイ顔だった。


「Bが、Bが中にいるんです!」


Cが起き上がって警察官に歩み寄る。


「誰か中にいるの? 大丈夫、俺達が何とかするから」


警察官の人はどこか人懐っこそうな笑顔を浮かべて、排出口に入っていった。

後からガスマスクの集団がついていく。


変に思ったのは、一番後ろにビニール袋を片手に持った、白衣を着たお爺さんが居た事だ。ガスマスクを着けた人がいた事もおかしかったけれど。


その後、2人の制服を着た警官が来てオレ達とCに毛布を渡してくれた。

体の大きい岩みたいな顔の人と、人の良さそうな普通の体格の人だった。


「あれって、何なんですか?」


少しして、Cが警察の人に聞いた。

人の良さそうな方が困ったように答える。


「説明が難しいけど、虫みたいなものだよ。

 卵から孵って、幼虫になって、蝶になる。

 君達は何種類見たのかな?」


「僕達は……」


Cがポツリポツリ喋り出して、今日体験した事を警察に話した。

オレはただ黙って、その様子を見ていた。


それからしばらくして、紫色の液体でビショビショになったBが、ガスマスクの人に抱きかかえられて出てきた。


「助かったみたいだね」


オレ達はBに駆け寄ろうとしたんだけれど、2人の警官に押さえられて、こう言われたんだ。


「Bくん、だっけ? 彼はこの後、検査が必要だから。

 君達は先に帰ってもらうよ」




それで、弟はパトカーで家まで送ってもらったんだと。

以上が、弟から聞いた妄想みたいな体験談。


親から聞いていた話と全然違うから、嘘っぽいけど。

親の話では犬を探して川を上流に向かっていたら、自殺死体がある現場に遭遇しちゃって、そこにいた警察官に保護されたって話だった。

Bは死体を直視してショックを受けて、一度病院に行ったって聞いた。

話を聞いた後で、弟が取って付けたみたいに「誰にも言っちゃあいけないんだった」とか言っててワロタ


俺が弟から話を聞いた後で、色々調べて分かった事。

Bはしばらく学校を休んでいたけど、その後元気に学校に通っている。

面白いのはBがその1日の出来事をすっかり忘れている事だ。

俺も直接聞いてみたけど、全然覚えていないってさ。

Cにも聞いて見たけど、貝みたいに口を閉ざして、俺には話をしてくれない。

工場近くの川にも行ってみたけど、人が入れるような排出口はなかったよ。

Uちゃんの犬は、保健所に保護されてるのが確認されて、帰って来た。


そういえば昨日、Cの所にリュックサックを返しに警察官が来たって。

岩みたいな顔の方。

それで、「もう、奴らは出てこないから安心しな」って言っていたらしい。


弟から聞いた事だから、これも眉唾だけれどな。

何か分かったら、またカキコしてみる。



「ペットのチロちゃん」「袋爺」「マンホールの蓋」

鱗虫シリーズ、結

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