親父が教えて貰った事
この前さ、ちょっと旅行にいったんだよね
西の方、地図で言うと住んでいる所から北西?
まあ、そこで小さな旅館って言うか、民宿みたいなところに泊まった
それで、自然とか温泉とか料理とか、堪能してたんだけど
3日目だったかな?
いきなり、民宿のオヤジが
「今日は外に出ないほうがいい」
そう言い出して、聞いてみたら
「穴の鬼が出るから」
それで詳細を聞いてみたら、十年ぐらいの周期で、近くの林に鬼が出るんだって
そんな話を聞いたら、喰い付くに決まってる
さらに聞こうと思ったんだけど、なかなか話してくれない
それで、「外に出れないなら、家の中で楽しむしかない」って言って
オヤジに豪華な料理を注文して、昼間から酒を飲んだ
もちろん、オヤジの口を軽くする為に
料理作り終わったオヤジを呼んで、一緒に食って、飲んだ
互いにベロベロに酔っ払った頃に、オヤジから鬼の事を聞き出した
昔々、江戸時代よりも戦国時代よりも昔
高名な術士が、このあたりに住んでいたらしい
彼は度重なる飢饉や山賊の襲撃によって、人の少なくなった村を憂い
ある儀式を行った
それは己の身を、神様に昇格させる儀式だったらしい
もちろん、唯一神とかじゃなくて、地方で祭られているような神社にいる神様
神様になると雨を降らせたり、悪敵から村を守ったり出来るようになる
その時代は幽霊や力を持つ人と、神様の境界線が曖昧だった
神様になるには、八百万の神に認められれば、それで良かった
それで、その術を成功させるには
一度、人間としては死ぬ必要がある
人として死んで、新しく神として生まれ変わる必要が
でも、術士は人間だから、死んだら終わってしまう
生まれ変わることなんて、出来ない
そこで、ある儀式を行った
箱の中に入り、仮面を着けて出てきて
さも今しがた、箱の中で生まれた者ですよって、神々を騙す
そんな儀式
何故顔を隠すのかというと、顔が分かったら同じ人間だとばれるから
もちろん、箱の中には依り代(藁人形)を用意しておく
依り代は術士の死体の代わりね
それで、自分は新しく生まれた神様だから、認めて下さいって
踊りを踊ったり、神々に訴えたりして、神様として認めてもらう
術士が儀式を行おうと、箱に入った時
何故かそこに依り代がなかった
盗まれたのか、忘れたのか
術士は困ってしまう
儀式の途中で、無理やり終わらせることは出来ない
儀式を見ている神様達を怒らせることになる
仕方ないので、仮面を着けたまま外に出て儀式を続けた
それがいけなかった
踊りの途中で、仮面が外れて顔が見えてしまった
見てる方は怒るよね
ただの人間が箱に入って、仮面を着けて出てきて
「俺、神様です。仲間に入れてください」
そんな話、通る訳がない
神々の怒りを買った術士は、顔を抉られた
顔の真ん中を、グルリと円形に刳り貫かれた
それで話が終わりだったら、良かったんだけれど
神様達が顔を刳り貫かれて、死んでしまった術士を見て
これは酷すぎる
そう思ったらしい
仕方ないから、そのまま術士を神様として認めた
神様になった術士は蘇ったんだけど
もはや、それは人間の思考を残していなかった
それが『穴の鬼』なんだって
何でも、見てしまうと、自分の顔も刳り貫かれるらしい
話を聞いて、神様が余りにも理不尽だったので、オヤジに聞いてみたら
「昔から神様っていうのは、そういうものだ。
主張が一貫していなくて、さっきと違う事を平気でする。
きっと人とは違う考えで行動してるんだろう。
触らぬ神に祟りなしって言葉があるだろ?
だから、穴の鬼にも近寄っちゃいけないんだ」
そんな事を言われた
話を聞いてちょっと沈んでいたら、急に外が騒がしくなって
民宿のオヤジが外から呼ばれて、玄関から出て行った
民宿の前に数人集まって、話をしてたので
聞き耳を立ててみると、子供が『穴の鬼』を見たらしい
穴の鬼とは言わずに、何か複雑な名前を言ってたけど
多分、間違ってないと思う
この前亡くなった親父の日記に、こんな内容の事が書いてあった
ちょっと、いや、だいぶ脚色してるけど
読んでてコワッってなった
水を溢したのか、後半が滲んで読めなくなってるし
本当の事かどうかも分からないけど、怖かった
画像アップしたかったのだけれど、探したら見つからない
遺品整理の途中で、日記がどっかいってしまったみたいだ
ちゃんと鍵のある棚に仕舞っていたはずなのに……




