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42・殿下、やはり国民性だと呆れかえる

 第二次真珠湾攻撃で被害を受けた空母部隊の練成が終わり、他の部隊の新編や機種転換が慌ただしく行われている。


 そんな中で海軍部から上がってきたのがリベンジマッチの作戦案だった。


「何々、うまく米軍を一網打尽にしたから、補充されてきている新編部隊も同じ手で狩りつくす?」


 おいおい、いい加減にして欲しい。そんなうまく行くわけが無いだろうに。


 しかし、あの勝利からこちら、大きな成果も事態の変化もなかった。外務省は停戦工作を模索しているらしいが、全く成果が上がっていないという報告が来ている。


 まあ、それもそうだろう。米国は確かに艦隊を失ったが、負けているという認識は無い。


 そもそも、米国で活動するロシアの前皇帝周辺からロシアに伝えられる米国の日常の話からは、大敗したというニュースはまるで流れていないらしい。

 確かに、戦争なので各所で犠牲が出ているとの報道はあるが、いうなれば小出しの報道によって、犠牲に国民も慣れっこなのだという。一挙に艦隊が壊滅したなどと言われれば厭戦機運も高まるだろうが、スキンヘッドを甚振り、南方国家を騙し打ちで砲撃し、米国にまで騙し討ちで牙をむいた国を懲らしめているというストーリーを国民は信じ、疑っていない。悪を倒すのには多少の犠牲は付き物と、そう言った情勢なんだという。


 ただ、すでに細々とながら、フィリピンの陥落情報は伝わっているし、噂程度には艦隊が壊滅した事実も知られるようになっているらしい。

 しかし、それよりなにより、黄色人種とそれと組んだ専制ロシアを懲らしめることは正義という声の方が強いのだという。


 そうした情報は参謀部では誰もが知る話だ。


 そうなると、日本としては米国により大きな打撃を与えたいと考える連中が出て来るのは仕方がない。


 初めはまるで相手にしなかった。しかし、参謀部海軍部だけではなく、参謀部全体にそうした空気が蔓延りだすまでにそう時間は掛からなかった。そうなると、止めるに止められなくなる。宮様権限は権威も含めて強大ではあるが、逆に、だからこそ使えないという場面も多い。

 このような場合が特にそうだ。下手に我を通せば、後で小さなことでも同様に俺がすべてを指示する必要性が出てきてしまう。

 それだけでなく、俺の権威を利用する輩も多く出てくることだろう。軍神が晩年苦労していたのがよく分かる。本人は院長元帥との交流で随分柔軟な考えと、もとからの国際感覚で判断していたのだが、周りはそうでもなかった。


「分かった、許可しよう」


 作戦の概要は史実のターニングポイントとなったミッドウェイそのまんまと言って良いものだった。これ、本当にやるの?


 あまり動きが無い昭和十八(1943)年の唯一の大作戦ともいえるものだった。


 参戦戦力は新編された雲竜型4隻となった。もしもに備えて北方にも艦隊を遊弋させるという。


 そして、実戦と訓練をはき違えたようなこの作戦はあまり準備期間を置く事もなく、僅か二か月の準備期間で実行に移された。

 本来ならば、艦隊の参謀たちは艦隊としてしっかりと作戦について考察、研究すべきなのだが、新人教育と転入したベテランとの摩擦解消や部隊編成に追われてまともに作戦を咀嚼できていなかった。しかし、参謀部としては早期の成果を望んでいたのは間違いなかった。


 実のところ、彗星と流星、そして、史実とはまるでサイズもスタイルも異なる烈風によって構成された部隊なのだが、烈風は二式艦戦の流れをくむ機体なので、零戦ほどの航続力は無い。

 彗星は急降下爆撃を主目的とはしているのだが、何よりも速度がある高速艦攻としての性格が強い機体だった。

 流星はそれまで日本に存在しなかったタイプの機体で、中艇(双発飛行艇)の爆撃能力を備えた艦攻と言えた。まったく九七艦攻とは性格が異なると言って良い。


 そんな機体をいきなり渡された現場では、未だに既存の戦術を踏襲し、彗星の高速性を生かせていなかったし、流星の搭載力などまるで宝の持ち腐れだった。烈風に至っては劣化性能という批判すら受ける状態になっている。米艦隊を一網打尽にしたのは機体性能ではなく、作戦が上手く嵌ったに過ぎない。


 そんな中でこの世界のミッドウェイ作戦は行われてしまうのだから、正直、まともに成功するとは思っていない。


「やはりそうか」


 作戦が行われ、その一報が参謀部に届いた時の俺はそうとしか言えなかった。


 調子こいて突撃していった上に、上陸作戦と釣りだしによる艦隊撃滅の優先順位すら無茶だった。


 どうやら陸軍には上陸優先と伝えて、対地攻撃の時間も指定されていた。


 しかし、片や空母部隊では艦隊釣りだしを優先するとして半数を対艦装備で待機させていた。


 当然ながら、甲板の装甲と機体の大型化によって一隻当たりの搭載機数が激減しているにも拘らず、作戦内容は旧来の空母定数を前提にしていたモノだから、対地攻撃の規模が小さすぎた。


 いや、ちゃんと艦隊参謀が流星の能力を理解していたならば、実は問題なかったかもしれない。しかし、量産された雲竜型に既存の空母部隊からとにかく経験者を割り振るという事で、誰もが新しい機体を熟知している余裕は無かった。短い準備期間で部隊編成を優先し、成功を厳命されれば新戦法、新戦術などという博打も出来ない。


 結果、流星を九七艦攻並みの爆装で送り出すという()()()()()を採ったことで、再度の爆撃を必要としてしまう。


 長距離偵察が可能な偵察機を積んでいたモノだから、敵空母も発見してしまう。


 空母部隊では何を優先すべきかが決められず、双方に中途半端な機数を割くという折衷案で妥協した。


 結果は予想通りだった。


 しかも、艦上の混乱から上空警戒機を上げていない空母まであり、敵攻撃隊に対処する防空戦闘機は著しく少ない状況となっていた。


「白竜、昇竜、角竜被弾、白竜は非装甲区画を貫通した爆弾によって艦内にも被害が出ています。昇竜は艦橋至近を被弾したため、電子機器が被害を受け、警戒、通信共に不能となっています。角竜は艦首を被弾し、飛行甲板だけでなく、航行にも支障が出ています」


「飛行隊に関しても、艦隊へ向かった攻撃隊のうち半数は未帰還、帰投した編隊も三空母の被弾によって機体を投棄する状態です」


「戦果については、レキシントン型空母に直撃弾二発、新型空母に対し魚雷一発は確実。空母以外にも撃沈の確認は皆無です」 


 結果は散々だ。新型はエセックス級だろう。たかが一発の魚雷で沈むとは思えん。レキシントン型に二発の500キロ爆弾か。仮に、これでお払い箱になっても、エセックス級が代わりに配備されて戦力は強化されて終る。三隻も被害を受けたのに、戦果はそれだけ。上陸作戦も空母の被害を見て中止。これじゃあ、史実と大して変わらんじゃないか。


 

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