37・殿下、過信していたことを後悔す
米艦隊を撃退した事でフィリピンは救援が無理になったことを悟ったのだろう、あのパイプ加えた将軍が降伏してきた。
正直驚いた、まさか降伏するとは思わなかったからだ。
が、考えて見れば逃げるべきところがない。現在南方国家は中立であり、対日感情を別にすれば素直に英連邦の一角としての義務を履行している。
何やら英国首相が釘を刺すようなことを言ったらしいのだが、日本には伝わっていないところを見ると非公式な話だったんだろう。今では素直にインド洋の警備を行っている。
これは少々意外な展開と言えなくもない。まさか、あの南方国家が参戦しないとは考えても居なかった。米国と共に参戦してくる前提で計画を練っていたが、参戦の気配がないので南方作戦を何一つやる必要が無い。下手に突いて参戦されても困るので、内南洋への展開も最小限だ。
当然、ソロモンの戦いなど起きそうにない。
その代わりとしてアリューシャン列島での消耗戦が起きてしまっている。
ダッチ・ハーバーとペトロパブロフスク・カムチャツでは、後者の方が立地は良い。ただ、米国側も後方支援基地は存在するので、ダッチ・ハーバーだけの能力を見ればよいという訳ではない。
しかも、この周辺は霧が多いので航空機にも艦船にも向かない戦場だ。
そんな中で何か打開策は無いかと考えた。
「そういえば、未だウェーク島を落としていなかったな」
米国の有力な艦隊を壊滅した事で半ば死に体ではあるが、南方作戦が無かったことでここすら放置している。
ならば、ここを落として南にも戦線を設けて米国の気を逸らすのはどうだろうか?
ただ、参謀たちはあまり良い顔をしていない。素人考え過ぎたか?
「ハワイを狙う意図もなく、島を攻略してどうしたいのでしょう?フィリピンも落ちた今、必要性があるとは思えません。時間があったことで米国も相応の防備を固めてしまっているでしょうから、犠牲を覚悟しなければなりませんよ?その価値があるとは思えません」
そう言われてしまえばそうなんだが。
「では、攻略を餌に米海軍の残存艦艇を釣りだすというのはどうだろうか?」
史実、ミッドウェーで日本側がやりたかったことでもある。が、アレの場合、まるで意思統一なく二兎を追ってしまったがために散々な結果となってしまった。
アレもコレもと詰め込んだ挙句、空母釣りだしという臨機応変な対応が必要なところに上陸時間を指定した事で、臨機応変な対応が出来ないという事態を招いたのだからどうしようもない。
現場の判断も悪ければ、そこに至るまでにいくつもの齟齬があったし、なにより、連戦部隊をそのまま投入するというバカげた作戦だったのだから頂けない。
それに今現在、少なくとも無傷の空母が居るのは間違いないのだから、それを釣りだす事に意味はあると思う。
「つまり、北方に隙があるように見せるわけですね」
そう言うので頷いた。
ウェーク島自体はどうでも良い。今のところは。そう見せかけて、米艦隊を釣りだせたらめっけものだと思う。
思い付きを参謀たちが作戦として仕上げていく。そして、担当する艦隊が割り振られた。
囮役のウェーク島攻撃隊は新造の雲龍型が主力と決まった。まだまだ出来立てで、航空隊はともかく、船の方は不慣れなものが多い。しかし、囮だ。
これで北方に隙が出来たと米艦隊が出てきてくれたら、そこをベテランの翔鶴、瑞鶴で叩く計画である。
作戦準備が終わったころには完全に春を迎えようとしていた。ソロモンほどではないが、アリューシャンは冬なのに熱かった。
各艦隊が順次出港していく。
後は待つだけだった。
「何という事だ・・・」
作戦結果はとんでもないものだった。
完全にしてやられた。
「沈没艦こそありませんが、攻撃隊の未帰還も多く、艦隊の再編には半年以上かかる見込みです」
釣りだしを狙った北方は完全な空振りだった。翔鶴、瑞鶴はカムチャツカ周辺で遊弋していただけだった。
対して、ウェーク島攻略部隊は、島の航空隊だけでなく、空母艦載機まで加わった攻撃で大損害を出してしまった。
しかも、まるで空母の居場所を掴むことも出来ずに一方的に攻撃に晒されて退却してくることになった。
普通に考えてオカシイ。
米側に自由に動かせる空母があったからというのは容易いが、そう言う問題ではない。なぜ、北方での釣りだしが出来ていなかった?
作戦の詳細に関する分析が行われた。
考えられるのは、作戦が米国側に見破られていた可能性。史実とは完全に違う作戦なので転入者のチートではありえない。それ以外の理由によってだろう。
俺の考えたそのままをやるようなヘマはしていない。参謀たちが詳細を考えていた。それを見破るほどの有能な人物?
まるで戦記物やスペースオペラの世界ではないか。
しかし、その可能性には疑問がある。こちらの参謀たちを出し抜くような作戦を立ててはいない。
確かに、本土に戦艦部隊を接近させるなど奇想天外ではあったが、こちらに待機部隊がある事、確かに600海里での発見は幸運だったが、航空機の哨戒圏を考えると、あと100海里もすればどのみち発見できていた。
アレがドーリットル隊ならば、完全に防げたかは分からない。しかし、戦艦部隊であれば、問題なく阻止できた。会敵海域が多少、本土に近づくだけの話で、米戦艦の主砲が日本に届く距離まで接近出来るはずがなかった。
つまり、米側は日本の能力を過小評価している。では、なぜウェーク島に限って?
「そういえば、暗号はどんなものを使っているんだっけ?」
まさか、無いとは思うが、その可能性を考えて見た。
「ハッ、これです」
用意されたものを見て愕然とした。それはまさに、史実で解読された暗号そのままだったからだ。なぜ、誰もそれを変えようとしなかった?他に転入者居たんじゃなかったのか?
しかし、誰も解読されていると疑ってはいないらしい。
「ならば、あえて解読される前提で作戦を立ててみようじゃないか。解読されていても問題ないものを頼む」
さて、米国にナニカが居るのか、暗号が解読されているのか、試してみようと思う。




