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34・殿下、重責を拝命す

「宮には総長になってもらいたい」


 米国大統領が狂態を晒してチョビ髭すら凌駕するような演説をぶった次の日の事だった。俺は陛下に呼ばれていた。


「私が、ですか?しかし・・・」


 俺はまだ40代でようやく将星が付いたに過ぎない。それも皇族だからという特進の結果と言って良い。


「皇族軍人は他にも居る。そして、彼らは宮より階級も年齢も上だったな。しかし、二人と宮では絶対的な違いがある」


 陛下はそう言って俺を見た。二人との違い。


 言われるまでもない。俺は明治天皇の子であって、他の皇族とは何もかもが違う。昭和天皇、皇太子、弟親王に次ぐ皇位継承権、いや、下手をしたら皇太子を押しのけるだけのモノすらある。


「もし、世が親政であったならば、朕は宮に位を譲る必要があったかもしれない。まさか、そのことが分からない宮ではないと思う」


 そこまで言われて白を切り通して拒否する訳にもいかない。まさかとは思うが、エロ元老や院長元帥はこんな時のために俺を戦地へと放り出したのだろうか?


「分かりました。身命を賭してこの国難、見事乗り切ってお見せいたします」


 これまで裏方に徹してきたが、どうやら表に出る時が来たらしい。まるで某スペースオペラの様な経緯を経て、俺は大将へと昇進し、二日後には統合参謀総長を拝命することとなった。ブレーンはこれまで同様、院長元帥の教え子たちだ。


 こうして軍の最高位となった俺は対米作戦について考えることになるのだが、昇進の待ち時間があったのでタブレットを漁ってみた。

 様々な陰謀論やらが日米戦には語られているが、この世界の情勢ほどわかりやすいものは無い。


 これまでの経緯を振り返ってみると、チョビ髭を台頭させることで相対的に英仏の脅威を減殺し、朱毒の蔓延を遅らせつつ、米国の地位を押し上げようとしていた訳だ。史実ではレンドリース法によって英国から合法的に権益もカネも地位も奪い去って世界帝国から地域大国へと叩き落してしまっている。

 この世界ではさらに露骨にそれが行われようとしたわけだ。


 チョビ髭を史実以上に持ち上げて欧州を席巻させた。ポーランドをダシに英国支援も消極的にしか行わず、あわよくばドイツにのみ込ませようとしていたのかもしれない。いや、この世界でもレンドリース法自体は既に成立しているが、英国がそれを利用していないだけだ。もしかしたら露骨に山東利権や正統民国政府支援から手を引くことを要求されたのかもしれない。


 この世界の米国はあまりにも露骨すぎる。


 さて、俺は対米作戦として参謀たちから上がってきたモノから三案を選択した。


 陸空軍を主としたフィリピン攻略。海軍による真珠湾攻撃、そして、日露共同しての北方防衛だ。


 特に史実と違って米国がアラスカからカムチャッカを狙ってくる可能性が捨てきれない。


 米国の戦争目的は何と言っても日露戦力の勾引にあるという意見がある。米大統領が朱色ならばその可能性が一番に考えられる訳だ。

 ただ日本を相手にしただけでは、ロシアが游兵となってしまう。それはドイツに攻め立てられるソ連の戦力を東方から引き離せないという事になる。

 それでは困る訳だ。

 ドイツをコントロールするにはコーカサスの油田地帯を与えるわけにはいかない。もちろん、ソ連が大きく衰退するのも困る。

 そうならない為にはロシア軍を極東から動けなくする、或いは太平洋へと引きずり出す必要性がある。


 その方策としては、カムチャツカや極北での戦線を構築してロシアを勾引しなければならない。


 そして、史実知識からもそれを俺は確信していた。


「ロシア軍と共にカムチャッカにはマタギ連中を」


 そう、例のヤヴァイ連中の活躍の場だろう。東北や北海道の極寒の雪の中でもへっちゃらな連中ならやってくれるはずだ。この冬は樺太で訓練してたらしいから何の問題も無いと思われる。


 そして、状況は異なるが、やはり真珠湾を叩く必要があると思う。


 真珠湾を叩いて時間稼ぎをしている間にフィリピンの米軍を排除できれば、後が楽になるだろう。南方については南方国家の出方次第だ。出来ればただそこに行くだけで病気になるようなジャングルを戦場にはしたくない。資源ならシベリアや満州、テーハン(朝鮮半島)や華北でほぼ賄えているのだから、わざわざ南方へ侵攻する意味を見いだせない。


 こうして米国による事実上の宣戦布告からひと月後の九月十日には作戦計画が纏められることになった。


 その間も、何もやっていなかった訳でも、何も無かった訳でもない。


 米国はフィリピン駐留軍による台湾爆撃を敢行し、日本側もフィリピンを攻撃した。台湾の西方、大陸からもスキンヘッドの軍勢や米人傭兵部隊が攻撃を仕掛けて来るのでその対処もしなければならなかった。

 海上でもフィリピン駐留艦隊と日本軍は衝突を繰り返したが、未だ本格的な戦闘と言えるほどではない状態だった。


 そんな中でまず動いたのは日露の側だった。


 九月中にペトロパブロフスク・カムチャツを拠点に、アッツ島、キスカ島攻略を開始し、ベーリング島に飛行場を開設し、アッツ島と連携した防空体制を構築することになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろい、物語 [気になる点] 皇位継承の文言、仮にそうだとしたら生まれた子を区別するようになるのでは。 位を譲るなど、難しい。
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