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19・殿下、国内の変化を実感す

 どうも史実からずれている。


 そう感じ始めたのは大戦以後の事だった。


 いや、もちろん、俺が様々な改変をしている事は自覚しているし、欧州派兵で史実以上に日本人が欧米を知っている事も理解している。

 しかし、だからと言ってこうも変わってしまうのだろうか?


 考えて見れば、イタリア人が設計した艦艇は明らかに時代を超越していた。彼の言動からも転入者であることは間違いない。

 当然だが、イタリアの歴史も変わっている。


 第一次大戦後、リビアで石油が出たそうでイタリアの景気は良いらしい。しかも、建造中止になったはずの戦艦も運用されている。

 だが、戦後の日本でカイゼンやら品質管理やらがいきなり叫ばれ出しているのは、俺の改変とは関係ない気がするんだ。

 戦争からもうすぐ10年になるが、ここ数年は俺が導入したスイス製の工作機械やそれに関わる話だけでなく、まるで別の所から話が来ることが多くなった。

 最近聞いた話では、空軍ではすでにレーダーの開発を始めているそうだし、海軍では溶接の研究が盛んで、溶接に適した鋼材の研究も始まっているらしい。

 陸軍は今のところ大きな変化は無いのだが、戦車に関しては既に国産のモノが出来ているが、これは史実と大差ない代物だ。


 それは民間にも波及しており、英国へ留学していた造船所の跡取りが小型潜水艦のスクラップを購入して実家に送ったという話も聞いている。


 海外に目を向けると、とうとう大恐慌の鐘が鳴ったようだ。


 米国で株価が暴落して大騒ぎとなっている様だ。日本でもその影響は出ているのだが、史実と違って震災復興と共にロシアとの関係から東北や北海道でも産業振興が行われているため、幾分マシだった。


 日本はこの時期から凶作が続いてそれが社会不安の原因ともなるのだが、それも幾分和らいでいる。


 その一つが、この20年来研究が続けられていた耐寒性の稲の開発にとうとう成功してその普及が始まっていることで、冷害被害が幾分和らいでいる事。そして、揚げ皿に代表される代替食品の普及だろう。


 揚げ皿とは、フィッシュアンドチップスやフライドポテトを主とした食品群の事で、コメの不足を補う役割を担っている。

 もう一つはロシア料理の広まりだろう。とくにロシアでは日本の10倍もソバを食べているとかで、我が家でもカーシャやブリヌイがよく食卓に並ぶ。その原材料は当然ながらソバが使われている。

 そして、ソバは栽培面でも非常に優れていて、地域によっては夏ソバ、秋ソバの二期作が可能な事から、気候や天候によって栽培時期を選ぶことが出来るのも利点だ。

 また、ロシアや満州でも栽培されているのは大きい。


 さらに、ロシアでは小麦よりもライ麦を材料とした黒パンを主食としている事から、ライ麦生産も満州で拡大している。我が家の食生活が新聞や雑誌で紹介されると黒パン、オクローシカ、クワスの人気も出てきたようで、日本でもライ麦の生産が樺太を中心に始められている。


 現代でもあれやこれやと海外から入ってきた食品が流行っていたが、どうやらここでも同じらしい。都市部などでは我が家を真似て、朝食にカーシャを食べたり、夕食を黒パンにしてみたりしている様だ。

 なにせ、目端の利く商店ではソバを買い付けて、カーシャ用にと売っていたり、そば粉をブリヌイ用に売っていたりする。流石に黒パンの入手はまだまだ難しいが、東京や大阪のパン屋では販売しているところが出てきているようだ。

 農村でもソバの実があれば作れるという事で、これまで粗食や貧食として蔑まれていたソバ粥への認識が改められてきているのだそうだ。

 こうして米以外の穀物消費が増えると、当然、米から転作する農家も出てくる。それが農村の困窮を救う一助となっている側面もあるらしい。まあ、考え方によっては、米以外を食すことが貧しさだった筈が、流行の最先端となったという訳である。


 そんな日本の事情と異なって厳しさを増しているのが大陸情勢だった。


 それまで優勢だった南部勢力は北進の過程で英国権益の奪還を目指したことから、英国が支援から手を引き、北京政府支援に鞍替えした事で北進を停止せざるを得なくなった。

 その北京政府の主力であった満州軍閥は既になく、満州の大半はロシアの勢力下となっている。南部についても日本が勢力を伸ばしているので北京政府は維持出来ていない。更に内蒙古についてもロシアの支援を受けたモンゴルによる侵入が続いており、状況は芳しいとは言えなかった。

 英国の支援というのも、それらを容認する前提で行われており、南部と西部へと勢力を伸ばすことで生き残りを図っている状況と言えた。


 そして、問題の米国だが、未だスキンヘッドへの大量支援を続けている。それどころか、日本やロシアと組んで資源地域の囲い込みを行う英国との関係にも隙間風が吹き出した。

 


 

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