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16・殿下、決断す

 満州軍閥爆殺事件が起きた頃、さらに問題が発生していた。


 なぜ関東軍が南満州確保に走ろうとしたのか。それにはここ数年の情勢が影響していた。

 

 騒乱が起きているのは大陸ばかりではない。ここ数年来、韓国における対立も激化している。


 明治四十三(1910)年に韓国ノ自治二関スル条約、いわゆる韓国自治条約によって朝鮮軍や統監府と言った日本の勢力が撤退し、李朝による統治が本格的に再開された。

 その後の韓国は北部山岳地帯を日本が租借し、鉱山開発に多くの韓国人労働者が雇用され、南部では日本への農産物輸出が盛んだった。

 こう書くと非常に豊かになったように見えるが、当然、そんな事は無かった訳で、韓国内には日本との関係によって潤う一部両班とそれを快く思わない勢力。そもそも両班の存在自体を嫌悪する勢力など、数多の勢力、派閥が混在し、複雑に絡み合っていた。


 第一次大戦まではそれでもまだ良かった。自治条約は軍の保有を禁じており、韓国内には治安組織しかなかったが、その組織は対外軍ではなかったが内国軍としての機能は十分有していた。その為、衝突も盗賊や山賊の縄張り争い程度の規模でしか起きておらず、もっぱら宮廷闘争や一揆のようなものが主流だった。


 ところが大戦以後、米国が韓国に接近し、開明派も支援を快く受け入れた。


 が、所詮は米国である。巧みな話術で翻弄する韓国内の各勢力のうち、本当に支援して良い勢力と、してはいけない勢力を正常に判断できずに多くの勢力へと武器や資金が流れ込むことになってしまった。


 例えば、南部で対日輸出を行う勢力は農業技術支援や港湾設備などを求め、批判的な旧態依然の勢力から妨害を受けていると米国にすり寄った。

 米国はその話を信じて近代的な農機具や港湾施設、肥料工場などを支援し、守旧派から身を守る武器も援助した。


 当然だが、韓国内の開明勢力から見て守旧派とは、農民から農産物を奪い取って日本に売った売価をすべて懐に収めている南部勢力の事だった。が、米国がそのことに気が付く事は無かった。


 北部でも反日を訴えて武器を求めた勢力が居り、米国は快く武器援助を行った。この勢力が北部両班と結託して住民を狩っては租借地へと労働力の「紹介」を行い、境界付近を荒らして「警備手数料」まで徴収している連中だとは、ついぞ気が付く事は無かった。


 韓国内で必要な武器は小銃や機関銃、大きくとも迫撃砲や歩兵砲トレンチガン程度の持ち運びが容易な物だった。治安部隊である以上、それで十分だった。戦う相手も日本軍ではなく、別勢力の治安部隊なので問題なかった。

 だが、それまでの単発式小銃や下手をしたら火縄銃や弓槍という状況と比較すれば、事態を悪化させるに十分と言える。


 関東軍から見た場合、韓国内のそれら勢力は間違いなく軍隊であった。仮に数個の勢力が糾合し満州軍閥と共同歩調を取られた場合、関東軍がそれを確実に防げるかは怪しかった。

 首領暗殺の動機の一つは、このような韓国情勢にあったと言って良い。

 関東軍は挟み撃ちになるのを恐れていたのだろう。しかし、日本国内ではそこまで深刻には受け止められていなかった。

 関東軍の反応が過剰だと言っても、この時すでに、米国では韓国移民を利用した反日工作が着々と進んでいた。一番大きく問題視されたのが、北部租借地での労働だった。


 米国では日英露の進出企業がまともに賃金を出すことなく働かせていると宣伝され、その労働者自体も韓国の支配層である両班と結託して住民刈りによって集めていると声高に叫んでいた。


 確かに、事実ではある。労働者の多くはマトモに賃金を手に出来ないし、両班や商人に攫われてきた者が大半だった。


 しかし、それは韓国の国内問題であって企業の責任ではない。当初、両班や商人が賃金を受け取っていたが、企業側は労働者へと渡す仕組みを作るようになった。

 しかし、企業に政策があれば両班にも対策があった。

 企業側が雇用や賃金支払いに厳格な規定を設けだすと、それに対応した対策を打って行く。最終的には家族を人質にして労働者が自発的に「仕送り」する巧妙な仕組みになっていく。当然だが、仕送りが家族の手に渡ることなどない。

 しかし、今更日本やロシアから労働者を呼ぶことも出来ず、多くの韓国人を解雇も出来なくなった企業は、両班との関係を続けていくことになる。なにせ、賃金は日本やロシアから労働者を送り込む場合に比べて非常に安く済む。ならば、問題があろうと転換できるはずもなかった。


 そうした現状維持が続く中、韓国では大きな事件が発生した。


 李朝の王宮が襲撃されたのだった。


 襲ったのは大陸から帰ってきた若者を中心とした新興勢力だった。彼らは王宮を襲撃し、政府機関を次々に襲い、政府機能はマヒしていくことになった。首都では主流派だった王党派や開明派の主要メンバーが襲撃により死亡、ないしは重傷で即応できる体制ではなくなり、それに呼応するように各地の農民たちが武器を持って蜂起しだした。まるでかつての反乱を思い出させるような状況だった。


「韓国において共産勢力が伸張、各所で要所を手中に収めている様です」


 この事態に対し、ロシアは早期の問題解決を要請してきた。米国は相手をしっかり確認せずに武器をばらまき続けている。


 このまま放置すれば満州や日本へも飛び火しかねない。


「韓国の治安機能が完全にマヒしているのでは仕方がない。我が国がその鎮圧に当たる必要があるだろう」


 これまで避けてきた問題を真正面から見つめる必要に迫られてしまった。しかし、出来れば関わりたくはないが、放置すれば影響が及んでしまう。悩ましい決断だった。

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