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エピローグ

「――入れ」

 学園長室の重厚な扉を数回ノック。すぐに返事は来た。

 踏み入れたそこは、広い面積の割に物数が少ないシンプルな内装。

 中央に応接用の机と椅子が。奥にクラシックなデスクと、ここの主である――

「久方ぶりだな」

 言うほど久しぶりでもない気がするけれど、しかしかのエヴァ・エンリフィールドがそう言うのだからそうなのだろう。こちらも挨拶を丁寧に返した。

「まさか学園に魔族が潜む日が来ようとはな。どうやらそれなりの年月を経ての計画だったようだし。学生に危険を及ぼしてしまって申し訳ないばかりだ」

 学園長は険しい顔でうなだれていた。

 大規模な被害が出る前に大方の魔族や内通者は捕まえられたが。

 しかし残りの1人にしてやられた。

 エレミー・ルークス。

 1年A組に所属していた少女だった。彼女はクラスメイトであった――

「そしてまさかレイン・レイブンズが神の系譜に連なるものだとはな。これほど驚いたことはないよ。なぁ、そう思わないか――グレイ?」

「ええ、こんなに驚くことはないですね」

 ああ、あんなに衝撃的な展開になるとは……って、なんでお前が生きているんだだと?

「そうだ。グレイは潔く死んだはず――」

「ちょっとちょっと。呼び出しておいて勝手に殺さないでくださいよ」

 バッドエンドで終わり……なわけあるか! 

 オレはハッピーエンド至上主義だ!

 では、レインに言ったあの約束の(くだり)はなんだった? 

 あれは演出だよ。劇のラストシーンっぽくて良かっただろう? まぁホントに死んだ時のための保険で……いやいや、口がすべった、あれは保険じゃない。保険じゃないぞ。

 全て計算通りにこと運ぶと分かっていたさ。だから後でレインをからかってやろうとデタラメ言ってやったんだ(もちろん後で生き帰って、そんなことを言った時はレインに殺されかけた。乙女の気持ちをもてあそぶなだってよ)。

「しかしよくもまぁあのケガから復活したものだよ。心臓グサリだろう?」

「前のレインを殺すってのはつまり、神としての力を【分解】してなくすということ。すごいエネルギー量で処理するのは苦労しましたけど、それを全部【吸収】すれば致命傷の1つや2つ余裕で治るってものです。むしろ戦う前に蓄積していたダメージや疲労も全部解消できました」

 だが全ての【神力】を消しきったというわけではない。レインの新たな意識がまたいつ顕れるか分からない以上、オレはアイツと常に一緒にいなければいけない。

 それに自我がなかったとはいえ、相手が魔族だったとはいえ、レインは友人としていた相手を殺してしまっている。表面上は気にしてないといっていたが、あのピュアな少女の本音だとは思えない。オレは当分彼女から離れず色々とケアをしていくべきだろう。

「と言いつつ、君は1人で学園長室に来てるじゃないか」

「今はクロスと一緒に留守番をしているので、まぁ大事にはなりません」

 ちなみに冗談で『万が一の時のために風呂もこれから一緒に入ろう』と提案したら、恥ずかしがりながらも了承してくれた。据え膳食わぬは男の恥――と思ったが、今度はクロスに殺されかけて断念せざるをえなかった。無念。

「なんだか一件が終わっても殺されかけてばかりだな」

「そうですね……」

 確かに、思い返すと危機感ある状況というのは打開できていないのかもしれない。

「そういえば試合、出るんだってな」

二人組戦(デユオ)だけですよ。レインに言われて渋々です」

 あれから知り合った【二席】が、学園でよく絡んでくるようになった。

 二席が認めた未知なる男だなんて噂にもなっているらしい。

 レインがいつも隣にいるし、隠居暮らしもそろそろ限界だと思っていた頃だ。

「そういえばまた神絡みらしい案件が回ってきている。どうやら2人ぐらいで、というか2人で受けた方がいいような仕事だが……」

「2人をそんなに強調しなくても。カジノの件だって学園長は色々と――」

「私はラブコメを見たいんだよ!!」

 なんだその理由は……。

「はいはい分かりました。2人で受けますよ」

「それでいい。では仕事の話を……っとその前に、煙草吸うだろう」

 学園長は引き出しを開け、いつもの紙煙草を取り出すが――

「オレ、最近レインに説教されて、結局は煙草はやめるよって言ったので」

「な、禁煙か!? ぬぬぬ、尻に敷かれおって……1本くらいバレないだろう!? どうだ、例の如く約束を破っては、どうせ嘘の1つや2つバレはしない!」

 酷いことを言う人だ。それでも教師か。

「アイツとの約束ぐらい、正直でいようかなって思うんです」

 だから結婚の約束に関しては、本気だ。真剣だ。

 嘘偽りなく、オレはアイツと一緒にいたいと思っている。

 彼女と約束することは、もう偽らない。もう嘘はつかない。

 神妙な顔つきの学園長だが、やれやれといった感じでついには苦笑する。

 しかしオレはそんな彼女に近づき、握られていた紙煙草を1本奪う。

 え?と目をパチクリさせる彼女の前で、オレは煙草を銜えて火をつけた。

 そして深く吸って紫煙を吐く。

「お、おいグレイ、さっき煙草は辞めるよって……彼女と約束したんじゃ……」

 約束はしていない。ただ言っただけだ。

 

「美味いなぁ。本当に煙草は()めるよ」

 四節からここまで読まれた方、お疲れさまでした。

 長かったでしょう(笑)?


 そしてですがこの回で物語は幕を閉じます。

 なんだか展開が波だってしまったのですが、というのも、ボクが応募する新人賞は『応募中に更新することは禁止』だそうなんです。

 つまりいま完結させておかないと、春か夏くらいまで更新できない……それはマズイ!と躍起になっていました(笑)。

 もし機会があれば続きを書きたいものです(その時は四節から全て書き直したい……。学園のシステムをもっと活かしてですね)。

 

 聖剣学園はこれで完結ですが、特に新作のめどは立っていません。

 当分は『9番目』だけでしょうか。

 ちょっとした宣伝ですが、9番目のコミカライズも今年から始まる予定なので、興味があれば覗いてみてください。

 ここまで物語に付き合ってくださり、ありがとうございました。

 またどこかで! 

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