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009 《手がかり》

「リーナ・ティガーズ、貴様まだ2年だろう? 3年である(おれ)には〝さん〟付けが基本だぞ」

「ッカ、お前を倒して【四席】になれば問題ないだろうよ」

「ほう、面白いことを言う」

「おもしれぇのはお前のデカい図体と態度だけだ」


 【四席】――オリバー・ガーランド。3年生。

 甲冑(かっちゅう)を象った【神造聖剣(デウスファクト)】の使い手。

 風紀委員の統括であり、守りの聖剣使い、歩く要塞とも称される。

 

 【八席】――リーナ・ティガーズ。2年生。

 大鎌を象った【神造聖剣】の使い手。

 2年生ながらアウトローを束ねる人物、円卓でもはぐれ者で、その鎌は魂ごと狩るとか。


「――――」「――――」


 ついには無言で対峙する両者。

 お互いが聖剣を構え、攻撃の機会を計ろうとしている。

 もしくは相手が仕掛けてくるのを待っているのか。


(ど、どうしてこんなことに……)


 わたし――レイン・レイブンズは戦慄(せんりつ)していた。

 【四席】ガーランドさんの背後にいるが、こうも緊迫した空気では迂闊に動けない。

 これまでの喧嘩とは一線を画す剣嘩(けんか)、既に観客の大半は避難していた。


「……おい」


 だがすぐに刃が交わることはなかった。

 【八席】ティガーズさんが、不満そうな顔をしたのだ。

 原因は目の前にいる大男に対して……ではないようで、


「ガーランドの後ろにいる女」

「は、はい」

「お前1年だろ? ここはもう戦場だ、怪我する前にさっさと消えな」


 意外――だった。

 口調はあれだが、意味を勘ぐるに『心配』をしていたから。

 

「っふ。よく言うものだ。この1年生は貴様の部下が襲っていたのにな」

「……ンだと?」

「彼女と彼女の友人、1年生たったの2人を、お前の下っ端どもが十何人と囲んでいたのだよ。まして聖剣まで抜いていた。(おれ)が駆けつけなければ――」


 と、そこで説明は終わる。

 ガーランドさんはわたしを一瞥し、ふっと笑った……ように見えた。


「どちらにせよ、彼女たちは襲われていた。その事実は不変である」

「…………」


 短く簡潔に。

 この一件をティガーズさんは静かに聴いていた。


「……ちょっと待ってろ」


 構えていた大鎌を肩に乗せ……外へと歩いて行く?

 まさか逃げるのか?と一瞬ありえない疑いをしたが、


『――おい! さっさと起きろ!』


 割れたガラスの向こう、敷地には、先ほど殴り飛ばされた不良たちがのびている。

 彼女はその内の1人を蹴り上げ、物理的にたたき起こした。


『ぐへッ!? え、あれ……ね、(ねえ)さん!?』


 起き上がった男は、自分たちの派閥のトップがいることに驚いた様子。

 というか、本当に『(あね)』と呼ばれているらしい……。


『説明しろ。てめぇら、1年襲ったのか?』

『あ、えっと……』

『不用意な、しかも新米どもへの巻き上げ(カツアゲ)恫喝(ハッパ)は禁止って言ったはずだぜ。まさか知らなかったなんて言い訳しないよな?』

『ち、違います! これには事情が……あの、俺たちのダチがやられて、かたき討ちを……』


 完全に立ち上がり必死に弁明する男。

 それを一通り聞き終わった後――


『で、あの1年が()ったって証拠があんのか?』

『その……な、ないです……』

『勉強やら剣術は忘れて良いけどよぉ、信念だけは忘れるなっていつも言ってるよな? お前らが今回やったことは何も筋が通ってねえ』

『ね――姐さ――』


 舎弟と呼んでいたが、これ以上なくバッサリと言葉で斬る。

 彼女はそのまま手にしていた【大鎌】を振りかぶり――


『仕置きだ。テメェらの半端(はんぱ)な魂――ハンパなく刻むぜ』


 後ろ引きに構えた大鎌、殺気と聖力(カムイ)で空間が軋む。

 近くの建物も自然も、まるで恐怖しているかのように震えている。


羅意怒(ride)(on)薇威衝(beats)。聖剣――デスサイズ!』

 

 漆黒の曲刃(ブレード)が大きく一閃。

 すると大鎌が黒い旋風(、、、、)を巻き起こす。

 黒風は起き上がった男、そして倒れたままの男たちをも貫いていく。


(――風で斬った?)


 いやだが、人にも、周囲の建造物にも、外傷は一切ない。

 ただただ風が通り過ぎていっただけのような……。


「1年、念のため(おれ)の後ろに回れ」

「?」

「あれは死の風だ。当たればタダでは済まん」


 自分は鎧を纏っているから大丈夫だと主張する。

 視線を戻せば、立ち上がった男はまた地に伏していた。

 気絶……しているのだろうか? 見逃してしまった。


(それと、近くにあった木々が……枯れている?)


 まるで寿命だけ狩りとられたみたいな。

 しかしそんな能力は……。


「――待たせたな」


 彼女は大鎌を肩に乗せ、今一度わたしたちの前に現れた。

 能力を詮索思考する暇はないようだ。


「1年」

「は、はい!」


 1年生は300人もいるが、この場において呼ばれたのは自分だと察す。

 緊張は比較的解けていたが、つい大きく返答してしまった。


「良い返事だ。うちの男どもよか腰が入ってる」

「あ、ありがとうございます!」

「ンで、アイツらにはアタシが一発入れておいた。今回はこれで良しってことにしてくれ」

「わ、分かりました」

「――悪かったな」


 ティガーズさんはそのまま背を向け、大きく刺繍された【虎】を見せこの場から去って行こうとする。


「ほう。貴様がこうも簡単に退くとはな」

「ッカ。お前との決着はまた今度にするぜ」

(おれ)への謝罪はないのか? もしくは礼でもいいぞ」

「あるわきゃねーだろ。黙ってパトロールでもしてな」


 今度こそ、【八席】はその姿を消した。

 こんなことになってまで持つ感想ではない、だが――


「なかなかカッコイイ女だろ」

「――え」


 予想外なことに、わたしの抱いた印象を口にしたのはガーランドさんだった。

 

「誰にも屈しない。誰にも臆さない。誰にも信念を曲げない。あの漢気(プライド)があるからこそ、はみ出した者たちは彼女に付いていく」

「漢気……」

「それが正義の面で反映されれば良いのだがな。アイツはアイツで変わり者だ」

 

 はっはっはと豪快に笑う。

 ちなみに倒れた不良たちは、のちのち八席の仲間が回収しにくるようだ。


「あの……ガーランドさん、助けて頂きありがとうございました」


 改まって頭を下げる。

 例えあの場面を自力で切り抜けられたとしても、失うものが何かあったかもしれない。

 こうして五体満足でいられるのは、この人の助けがあったから。


「礼には及ばない。(おれ)たちは守るのが仕事だ」


 兜のせいで顔は見えないが、屈託のない笑みを浮かべているのは、なんとなく分かった。

 

「おっと。そろそろ巡回に戻らなくては。では気をつけて教室に帰りたまえ」


 ガシャガシャと音をたてながら、巡回ルートへと戻ろうとする。

 改めて見るその背は、身長や鎧と関係なく、関係ないナニカで大きく見えた。


(わたしはいつか、この人も、あのティガーズさんも越えなくちゃいけないんだ――)


 大きな壁だ。

 彼らが在学中に、わたしはどこまで――

 あ。


「が、ガーランドさん!」

「――む。まだなにか?」

「ひ、1つお尋ねしたいことがあるんです!」


 去って行こうとするところを止め、若干声を震わせながら。

 

「どうした? まさか自分の教室の場所を忘れてしまったか?」

「い、いえ、しっかり覚えています……じゃなくて、ある男の人を探しているんですが」

「む。ストーカー案件か。それは(おれ)より副統括に――」

「最後まで話を聞いてください!!」


 突っ込まずにはいられなかった。

 ある意味で毒気を抜かれ、震えは止まっていた。


「先ほどはガーランドさんに助けられたのですが、学園の初日に同じような状況になりまして、その時に1人の生徒に助けて頂いたんです」


 わたしは話せる範囲の事情と、自力で調べてダメだったことを伝えた。

 だが――。


「ふーむ。長剣型の聖剣使い。そして強い。……生徒会長ではないのよな?」

「はい。髪の色や体格も違うので。それに逃げ隠れする必要もないかと」

「では申し訳ないが(おれ)もそんな剣士に覚えはない。有益な情報は提供できなそうだ」

「そうですか……」

「悪いな」

「いえ、あくまでわたしが勝手に探しているだけなので。謝られるようなことは……」


 しかし現十二聖(アーサーズ)でも知らないと。

 だとすればもう打つ手は……。


「――この学園を、ここの生徒を、誰よりも知っている人物がいる。その方に尋ねてみるのはどうだろうか?」


 俯いた自分を見かねてか、ガーランドさんは閃いたとばかりに言った。


「そ、そんな神様みたいな人がいるですか!?」

「ああ。我々にとっては神にも近しい――ズバリ、学園長だ」

「え」


 学園長。つまりエヴァ・エンリフィールド。

 5年前に20人目の『剣聖』となった人物。

 最強の聖剣使い。わたしたち人間にとっての神的存在――


「君はその人に、本気で会いたいのだろう?」

「は、はい」

「ならばこそ、それだけの熱意があれば学園長に(じか)に尋ねるのはアリだと思うぞ。尋ねて不快にさせたり、まして殺されるような質問でもないしな」

「そ、そうですね……」

 

 どこかの放課後あたりで、学園長室に行ってみればいい。

 本当に最後、ガーランドさんはそう言ってこの場から去って行った。


「学園長に……」


 自分ではまったく思いつかなかった手段だ。

 まさに最後の手段。

 でも――やるしかない。

 

「できれば今日の放課後にでも……」


 そういえばアポなしでいいのか?とも思ったが、ここで予鈴が鳴り響く。


「も、もうこんな時間ですか――」


 急いで教室に戻らなくては。

 いくら初日遅刻が許されたとはいえ、そう何度も遅刻しては、わたしこそ不良と勘違いされるかもしれない。

 

「あ、そういえばエレミーさんは……」


 襲われてから一度も発言をしていない。

 気配も感じないし、先に離脱したかと思ったが――。

 

「き、気絶してる……」


 意識がないのでは、気が出るはずもないか。

 円卓十二聖(アーサーズ)の闘気を間近で浴びたのだ、並の者では意識は保てない。

 わたしだって、あの時は手も足もブルブル震えていた。


「エレミーさんを医務室に運ばないと……」


 聖力(カムイ)で手足を強化したので、女性1人抱えるくらいは楽勝だ。

 楽勝、だが――。




「……授業は遅刻確定、ですね」



 毎日更新で、これからも【19時】頃の更新になると思います。

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