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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第五章 第一節 冒険者と昇格試験 前編
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第百十八話 馬車と久しぶりの遠出

馬車に関して指摘を頂き、小型から中型へと変更したいと思います。

申し訳ありません。以前の話は時間が取れ次第修正する予定です。

「――っ! 複合式種弾(シードバレット)! 発射(ショット)!」


 マルシアの叫びと共に植物が生成。そこから手の平大の弾が飛び出していく。


 目標はコボルト。その頭部が、一瞬にして吹き飛んだ。


 複合式にて作り上げられた弾は通常の魔術と違い、威力、速度、大きさ全てにおいて上回っていた。


 仲間が瞬く間に屠られたことに怯んだコボルトたちに、黒騎士が襲い掛かる。それに合わせ、先ほど設置した飛弾草から、再び弾が飛び出していった。


 生命操作(ライフパペット)もしっかりと扱えるようになったシルヴィアは、槍と盾の両方にそれをかけている。盾を周囲に浮かべ、苦手な槍を両手で持って何とか克服すると、一端の騎士として戦える様になっていた。


 三度、弾が飛び出す頃には、黒騎士の槍で二体のコボルトがその生命を散らしている。


 結果、俺とシャンディが手を出す必要は全くなく、二人は計五体のコボルトをあっという間に倒していった。


「もうコボルト程度じゃ相手にもならないな」


「そうね。そろそろレベル4も任せてみてもいいかしら」


 御者台に座っている俺の言葉に、シャンディがユニコルニスを撫でながら返答した。


 暖かさに釣られ、魔物の出現も頻繁になってきている。少し前の遭遇率と比べるとえらい違いだった。天と地の差とは言うが、地の季節の方が過ごしやすいのは、俺たちが大地に根付いて生活しているからだろうか。何にせよ、俺たちにとっても暖かいのは大歓迎だ。


 用の済んだ暖魔石は袋の奥へと突っ込み、馬車の中に転がしてある。小さな魔石だが、これから増えるであろう、こうした荷物の運搬も楽になるのは良い事だ。予備の片手半剣(バスタードソード)だって置いておけるしな。


「ただいま戻りましたっ!」


 意気揚々とマルシアが戻ってくる。


「……ただいま、です」


 少し遅れて黒騎士が続く。その手には魔石と毛皮。ちゃんと戦利品も回収しているようだ。


 俺はそれらを入れる為の皮袋を渡すと、感覚強化(ブーストセンス)で辺りを窺っていく。かなり遠くに反応があるが、俺たちの進む方向ではないので放置して構わないだろう。


 俺たちの目的地は魔窟。その目的は言わずもがなである。


 あれから馬車を購入した俺たちは、遠出の為の準備をしていった。保存食に魔石や投擲具の補充をし、ラーナやリーゼロッテたちにも、しばらくの間、街を離れる事を言付けておいた。


 その次の日に休暇を挟んで、俺たちはオッドレストを後にする。


 門の前で準備してあった馬車を受け取り、今では西街道を進んでいる途中だ。


 久々の遠出と言う事で、なんとなく気分がいい。空もぐずる様子は見られないし、魔物も順調に姿を現している。


 今までは街に篭っていた……と言う訳でもないが、日帰り出来る距離のみの限定された行動だった。レベル3時代はそれが当たり前の事だったが、やはり遠くに出るとなると新鮮な気持ちになる。


「やっぱり馬車は楽ですね」


 御者台に座る俺の肩越しに外を見ながら、マルシアが呟いた。その奥では、シルヴィアとシャンディが仲良く魔術書に眼を落としていた。


「ああ、歩くよりは断然楽だな」


 ユニコルニスの足音を聞きながら、そのまま他愛のない会話を続けていく。


 今回目指しているのは、獣の森と言われる魔窟だ。それはオッドレストから西、更に大陸内部へと向かう途中にある。その名の通り、魔獣が賑やかに闊歩している森だ。何故、このような場所を選んだのかと言うと……まあ、一般的な魔獣と言えば、頭に浮かびやすいのはコボルトだろう。そして、コボルトと言えば因縁の相手、コボルトリーダーである。


 レベルは5。同じ高さまで辿り着いた今の俺が、どれだけアイツと戦えるのか。レベル6への通過点と考えれば、これほどぴったりな相手は他に居ないだろう。


 獣の森よりオッドレストに近い魔窟は幾つかあるのだが、ここは俺の意思を尊重してもらい、皆の了承は得ている。


 真っ直ぐ向かうとすると距離にして片道六日程かかると言う事だが、今回は特に急ぐ用事もないし、道中はシルヴィアたちの授業も含め、ゆっくりと進むことにしている。




「お疲れ様。ユニー」


 本日の行程を終え、マルシアがユニーこと、ユニコルニスを撫でていく。それに対し、ユニコルニスは気にするなと言わんばかりに「ぶるる」と鳴いた。


 皆、馬車から降りて野営の準備に取り掛かっていく……とは言うものの、用意するのは夕食だけだ。


 寝るのは馬車の中でいいし、物を詰め込む余裕が出来た分、寝具の類も充実している。


 夕食は道中で手に入れたお馴染みのオーク肉。今日だけで計四体分を手に入れてしまったが、さすがに多い。それは次の村までの食糧分に相当するだろう。保存食を使わずに済むと言えば良い事だが、毎食これだと直ぐに飽きが来そうである。


 まあ、贅沢な事を言っているのは自覚している。しかし、街に長いこと篭っていると舌がうるさくなるのは仕方のない事でもある。徐々に本来の冒険者生活に慣らしていくしかない。


 食べやすいサイズにオーク肉を切り分けると、火魔石の近くにかざして炙っていく。その傍ら、シャンディとシルヴィアは眼の届く範囲で食べられそうな野草を探していた。


「他に何かすることはありますか?」


 マルシアがユニコルニスの世話を終え、俺の元へと戻ってきた。


「……特にないな。こっちも焼けるのを待つだけだし、暇なら二人の手伝いでもしてやってくれ」


 俺は少し考えると、野草を探している二人を指して言う。


「わっかりました!」


 大きく頷くと、マルシアは二人の元へと駆けていった。


 今回は戦闘が多かったと言うのに、元気なものである。




 空には満天の星。


 食事を終えた俺たちは、順に眠りへとついていった。


 最初の番であるシルヴィアとマルシアの二人と交代し、草木も眠りについている様な雰囲気の中、俺は中天に浮かぶ月を眺めていた。


 まだ始まったばかりのこの季節。夜ともなると、さすがに気温も下がってくる。……かと言って、暖魔石を使用するほど寒いわけでもない。こういう時は灯りも兼ね、火を起こす事も多い。


 特に、無駄に金を掛けたくない低レベルの冒険者たちにとっては極当たり前の事だ。


 眼の前で燃ゆる焚き火に視線を戻すと、俺は大きく伸びをする。


 パチパチと火の爆ぜる音だけが辺りに響いていく。


 しばらくの間、俺はぼーっとそれを見つめていたが……どうにも落ち着かない。


 頭を掻きながらため息をつくと、脇に置いてある片手半剣(バスタードソード)を手に、ゆっくりと立ち上がる。


 ゆらゆらと揺らめく炎に向けて、抜いた剣をそのまま一閃。分かたれた炎の一部が空へと消えていく。


 昼間の戦闘のほぼ全てが、シルヴィアとマルシア両名の手によって片付けられていた。俺の出る幕はほとんどなく、それはそれで良い事なのだが……少々物足りない気分でもある。


 俺はそのまま片手半剣(バスタードソード)を振るい続けていく。斬り下ろしからの斬り上げ、横薙ぎからの返し刃。踏み込んでの突き。それらはほぼイメージ通りの軌跡を描き、空を駆ける。


 なんとなく興が乗った俺は仮想の敵をコボルトリーダーに設定し、以前の戦闘を思い返しながら更に動きを速めていった。


 大地には炎に生み出された俺の影が暴れ、形容しがたいものを作る。


「せいっ!」


 最後に渾身の一振り。そして、ゆっくりと息を吐く俺の頭に、乾いた布が被さった。


「夜も開けないうちから元気ね」


 それを手に取るのと同時に声が掛かる。振り返ると、そこには少々眠たげな眼をしたシャンディが立っていた。


「……済まない。起こしてしまったか」


「いいえ、そろそろ交代の時間よ」


「なんだ? もうそんな時間か?」


 シャンディの言葉に、俺は空を見上げる。先ほどまで中央付近にいた月は、気付くと大分傾いていた。


「……ちょっと張り切りすぎたか」


 どれだけやってたんだ、俺は。


「それはもう、ね。でも、それだけ動けば、後はぐっすり眠れるんじゃないかしら?」


「ああ、そうかも知れないな。……それじゃ見張りの続きを頼む」


「了解。おやすみなさい」


 乾いた布で汗をしっかり拭うと、俺は馬車の中へと潜り込む。


 中には幸せそうに転がっている二人が居る。昼間に十分働いたからか、その眠りは深そうだ。


 外に比べ、中は暖かい。そして同様に静かだ。二人の寝息だけが耳に届いてくる。


 そのまま二人の横に腰を下ろすと、俺も同じような体勢で眠りへとついていった。

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