ある少年の回想 後編 (ベルガー視点)
「慰労会の夜。」と重複する個所がありますが、書籍版の方に合わせてあります。
WEB版と差異がありますので、ご了承ください。
おれがみんなを守ってみせると、そう決意を新たにしたが、街が物々しい雰囲気になってきた。
コボルトの一斉討伐をやるらしい。
どんどん増える冒険者に、親父がいないかと探してしまった。
この事が親父の耳に届いていたら、親父は急いで戻ってきてくれるかもしれないと思ったんだ。
でも、親父は依頼をおろそかにする人じゃない。
耳に入ったとしても、しっかりと依頼をこなしてから、急いで戻ってくるだろう。
そんな親父の姿が目に浮かぶようで、おれはつい笑ってしまった。
笑えるような状況じゃないのにな。
「ベルガー!大変だ!!」
ユーイが慌てた様子で駆け寄ってきた。
どうしたと聞けば、街に食べ物を探しに行ってた者たちが酷い怪我をして帰ってきたと言う。
急いでその子たちのもとへ向かうと、明らかに暴力を受けた怪我だった。
酷い苦しみように、骨の一本や二本、いっているかもしれない。
子供たちの中で、魔法が使える者はいても、治癒魔法を使える者はいない。
「あれ程街には行くなって言ったのに…」
「…あいつらも気にしてんだよ。あんとき、ベルガーを助けられなかっただろ?だから、少しでも役に立ちたかったんだ」
「あれはおれが悪かったんだ。お前たちは何も悪くないさ」
とりあえず、怪我の具合を見て、冷やしたり、固定したりと、できるだけのことをする。
「これから、熱が出るかもしれないから、誰かついててやれ」
おれは、みんなの代わりに食い物を取って来ないといけない。
今なら、冒険者がいっぱいいるおかげで、食い残しがかなり出ているのだ。
まぁ、ある決まった店だけだし、騎士のやつらが出入りしているから、見つからないようにするのが大変なんだけどな。
家主が逃げてしまった家を通り抜けているとき、人の気配に足を止めた。
ここら辺はもう、昼間でも人がいないような場所だ。
酔っ払った冒険者でも紛れ込んだのか?
「どうされますか?」
「この街から手を引く頃合いだな。まぁ、これだけ儲けさせてもらったんだ。あいつらも不満はあるまい」
…もしかして、人をさらっているやつらか?
「できれば、あの煩いガキを消したかったんですが…」
「いくら貧民街とはいえ、子供の大量死は目につく。あいつには頑張って食わせてもらわないと困るんだよ」
おれのことか!?
いったい、誰なんだ?
動くと見つかりそうなので、しゃべっているやつらが誰なのか、見ることはできない。
「しかし、いい街だったんですが。人が消えてもばれないし、金になる冒険者を集めても目立たないし、代主は間抜けだし」
「最後まで気を抜くなよ。パーゼスはあれでもやり手だ。まぁ、人の善意を信じすぎるきらいがあるがな」
「清廉潔白なお貴族様ってやつですか。俺はそういうの嫌いなんですよ。統括本部隊長くらい悪どい方が、人って感じするじゃないですか」
統括本部隊長って…あのラルカ(たぬき)に似たやつか!
「褒め言葉として受け取っておくよ」
楽しそうな笑い声とともに、褒め言葉ですよなんて軽口を言い合っている。
最初から、すべて騙されていたんだ。
「殿下もまだ子供だ。我々、王国騎士団に口を出すことはできんよ」
王子という身分ですら、大人には敵わないのか?
だとしたら、おれたちは…。
人の気配がなくなっても、おれはそこから動くことはできなかった。
どんなに強くありたいと思っても、敵うわけがないと、心のどこかで思っている。
どうすればいい?
親父、教えてくれよ。
誰も信じられない、誰も助けてくれない、誰も助けることができない。
そんなときは、どうしたらいいんだよ。
おれが悩んでいたせいか、怪我をした一人が死んだ。
高熱でうなされる中、ずっとおれに謝っていたらしい。
馬鹿だなぁ。おれに謝ることなんて、何もないのに。
むしろ、何もできなかったおれが謝らないといけないのに。
女神様、あいつが次に生まれてくるときは、たくさんの幸せを与えてください。
家族がいて、腹一杯食べて、いつまでも笑っていられるような幸せを。
陽が落ちると、街の方から喧騒が聞こえてきた。
殺気で満ちたものではなく、どこか陽気で楽しそうな喧騒だ。
しばらくすると、食べ物の美味しそうな匂いも漂ってきて、幼ない子供たちが、お腹空いたと泣き出した。
そうだ、何か食べ物を調達しないと。
街の様子を見に行けば、冒険者や騎士たちが酒を飲み、肉を頬ばる光景があちらこちらで見られた。
なかには、おれを蹴り飛ばした冒険者や、罵声を浴びせた騎士もいた。
ここで出ていって見つかれば、ただではすまないのはすぐにわかった。
この馬鹿騒ぎが終わったあとを狙うしかない。
一旦引き、みんなに夜中まで辛抱して欲しいと頼む。
一巡前と比べると、ガリガリに痩せ細り、いびつに腹だけが出ている姿。
正直、生きていられるのが不思議なくらいだ。
「ベルガー・クリエス、いるのでしょう?」
突然名を呼ばれ、訝しんでいると、周りの子供たちが異常に怯えていた。
何があったのかと向かうと、そこには恐ろしい顔をした獣人と、その獣人の肩に乗るネフェルティマがいた。
眼光鋭く、口元から覗く牙。子供をバリバリと骨ごと食らいそうな獣人だと思った。
「何の用だ」
獣人の姿を見て、泣き出してしまった子たちを下がらせる。
その様子を見て、獣人が一瞬悲しげにしたように見えたが、気のせいだろう。
ネフェルティマが、皿洗いをすれば食べ物がもらえると言ってきたが、誰がするか。
本当に、もらえるとは限らない。
言いがかりをつけられて、暴力を振るわれるかもしれない。
そんなこともわからないのか!?
「そう。あなたはその子たちを守るのではなかったの?ただ、あなたの好ききらいで、彼らをうえ死にさせるつもり?」
けして、好き嫌いで考えてなんかいない!
大人が言ったことを鵜呑みにすれば、酷い目にあうのはおれたちなんだ。
ネフェルティマは何もわかっていない!
「守るとは、がいてきから守るだけではなく、その子がいちにんまえになるように見守ることも守ることではないの?」
「お前に何がわかる!!」
「あなたのじじょーなんて、わかるわけないでしょ」
おれの怒りを受けても、あいつはあっさりと受け流した。
そう。誰もおれたちのことなんて、わかるわけがない。
「しかし、あなたがなすべきことは、さしのべられた手があんぜんなのかをたしかめ、その子たちをみちびくことではなくて?」
わかるわけがないと言いながらも、あいつは一生懸命に語りかけてくる。
おれたちに差し伸べられる手なんかあるのだろうか?
その手を掴んだら、もっと底に引きずり落とされるかもしれない。
「誰かを守りたいというのはすごいことだと思う。でも、あなたはその子たちの何を守りたいの?ちゃんと見て。その子たちが生きのこれるかは、あなたにかかっているの。あなたのせんたくしだいでは、あなたがその子たちをころしてしまうことだってあるのよ」
「おれが殺す…?」
じゃあ、謝りながら死んでいったあいつは、おれが殺したのか?
おれが選択を間違ったから、死んだのか?
「えぇ。あなたのみえのために、その子たちをぎせいにするのであれば、あなたがころすのと同じではなくて?」
見栄?
おれが見栄をはっていたとでも?
違う!違う違う!!
おれは助けを求めた!
「違う!おれはあいつらのために!!」
あいつらのために、食べ物も取ってきた!
あいつらのために、振るわれる暴力もがまんした!
全部、おれを頼ってくるあいつらのために!!
「ならば、いいかげんに気づきなさい!」
ネフェルティマが大きな声を上げた。
ネフェルティマの顔も、どこか苦しそうな表情をしている。
なんでお前がそんな顔をするんだ?
おれたちのことなんて、放っておけばいいのに。
「誰にもたよらずに生きていくことはできないの。あなたがまず、大人の力をかりることを学ばなくては」
ネフェルティマの言葉に、殴られたような衝撃を受けた。
誰にも頼らずには生きていけない…。
ならば、親という絶対的庇護者を失った子供たちは、死ぬしかないということか。
おれには親父がいるが、いくら親父とはいえ、これだけの子供を面倒見るなんてできっこない。
他に力を貸してくれる大人なんか…。
何もかも、諦めかけているとネフェルティマが言った。
「大人をりようするくらいしたたかになりなさい。でも、もくてきをみうしなってはダメよ?あなたはその子たちのために強くなるのでしょ?」
考えたことなかった。
大人を利用するなんて。
そんなことができると思っていなかったからかもしれないけど、誰も大人を利用していいなんて言ったことはない。
そうか、強い弱いって力だけじゃないのか。
どれだけ自分に有利に運べるか、そういったことも強さになるのか!
閉ざされた道が見つかった気がした。
おれが大人と対等にやりあうなんて、できないかもしれない。
失敗ばかりするかもしれない。
でも、おれができないだけで、他の子供たちにはできるかもしれない。
だからおれが、失敗しても先に行かなきゃ。
おれの失敗を、他の子供たちが活かせばいい。
ネフェルティマが言っていた、一人前になるまで見守るって、こういうことなのかもしれない。
おれがまずするべきなのは…。
「…お前の言いたいことはわかった。だったらおれは、お前を利用してやるよ!」
ユーイを含め、五人の名を呼ぶ。
みんな、おれと同じ年か一つ上で、魔法を使えるし、まだ動く体力が残っている。
「いいか。これからは、おれたちが中心となって、あいつらを育てる」
おれだけじゃない、みんなの力が必要なんだ。
そう言うと、驚いた様子から、嬉しそうに笑ったのが印象的だった。
おれはもっと早く、こいつらを頼るべきだったのかもしれない。
頼られたから、こいつらには頼れないと勝手に思い込んでいたんだな。
「まずは、皿洗いだ。明日からは、おれたちにもできる仕事をさがそう」
「大きい子たちなら、ぼうけん者くみあいに入るといいんじゃない?」
冒険者か。
親父の姿を見て、憧れていたときもあったな。
親父みたいになれるとは思えないが、冒険者も楽しいかもしれない。
「お前、なんか変わったな」
最初のときと比べると、ネフェルティマが変わったように思う。
ただ守られているだけの、ぬくぬく育った、変なお姫様だったのが、覚悟っていうか、しっかりしたなって思った。
「そーかもね。私のせいで死んでいった者たちがいるから…」
言ったあとで、しまったという顔をした。
魔物にでも襲われたのだろうか?
獣人も、ネフェルティマを撫でて慰めている。
誤魔化すように、行きましょうとネフェルティマが言う。
「りょーりにんさんはいい人よ。私は明日にはここをたつから、がんばって」
「ネフェルティマ、おれが強くなったらじまんしに行くからな。約束、忘れんなよ」
ネフェルティマがいなくなると聞いて、寂しいと感じた。
親父を見送るときのような、独りぼっちの寂しさだ。
「これで私たちは友だちね!」
「んなっ!!」
面と向かって友だちと言われ、あまりの恥ずかしさに赤くなる。
普通言わねーだろ!
友だちって、気づいたらなっていて、わざわざ口に出して言うことねーし!!
恥ずかしいやつだな!!
ネフェルティマと獣人に連れられて、街の広場の方に来た。
なんでも、コボルトを討伐した慰労会ってやつをやっているらしい。
その一角に、戦場のような殺伐とした雰囲気の場所があった。
特別に作ったであろう調理場だ。
焼き場で鍋を振る料理人が多く、別の場所では野菜を切ったり下ごしらえをしていた。
調理場から少し離れた場所では、次々に酒が運ばれていく。
この街に、こんなに食料があったのかと驚いた。
「お、ちゃんと来たな。待ってたぞ」
おそらく彼が、あいつの言ういい人なのだろう。
「お前たちはまず、これを食え!」
そう言って渡されたのは、大きな器に入ったフルカだった。
何かの肉と一緒に煮込まれたフルカは、どろどろになった雑穀に肉の旨味が染み込んでいて、とても美味しかった。
ユーイは泣きながら食べていて、あの子たちにも食べさせてあげたいと言っていた。
おれも同じ気持ちだ。
「皿洗いが終わったら、食べ残しは持って帰っていいからな。肉は残らねぇかもしれないが」
そう言う料理人は、冒険者は肉しか食わねぇとぼやいていた。
素直に頑張ろうって思えた。
あいつらのために、頑張ろうって。
それから、おれたちも、街も変わっていった。
ネフェルティマの側にいた王子が、何かやったらしくて、調査官ってのが来たらしい。
ラルカ(たぬき)に似たやつも、おれに暴力を振るった騎士も捕まったって聞いた。
他にも、悪い事をやっていた騎士や冒険者が、たくさん捕まったらしい。
そのため、よそからの騎士がたくさん来たり、代主って人が謝ったり、慌ただしかったって料理長が言ってた。
おれたちに食い物をくれた料理人は、街長の屋敷で働く料理長だった。
料理長の手伝いをしたり、冒険者組合で簡単な薬草集めの依頼をこなしたりして、食い繋いでいた。
「おい、ベルガー!おやっさんが帰ってきたぞ!!」
ちょうど、料理長のもとから帰るときだった。
おれの地区の仲間が、走って知らせにきてくれた。
おれは、お礼を言うのも忘れて、ひたすら走った。
「親父っ!!」
その見慣れた背中に向かって叫ぶ。
振り返った親父は、安心したような、でも何か辛いことがあったときのような、なんとも情けない顔をしていた。
「ベルガー!」
親父に抱きつくと、軽々と抱えられてしまう。
「…痩せたな」
何があったのか知っているのか、ずっとすまないと謝っていた。
「親父、ちゃんと金は稼いできたか?これから大変だぞ!」
親をなくした子供がたくさんいるのだ。
おれは、あいつらを守るって決めたから、親父すら利用することにした。
「おれ、冒険者になったんだ!あいつらがみんな独り立ちするまで、おれたちが頑張るから。親父、いろいろと教えてくれよな!」
「ベルガー、見ないうちに大人になったんだな」
「は?たった一巡だぜ。大人になるわけないだろ」
ぼけたことを言い始めた親父に、大丈夫かと笑って応える。
「体じゃない、精神だ。体はまだ子供でも、中身が大人になったってことだよ」
「…そう、なのかな?」
自分ではわからないけど、少しでも大人になれていたら嬉しい。
親父が帰ってきてからは、本当に忙しく、楽しい毎日だった。
親父から、依頼をこなすのに必要な知識と技術を教えてもらい、武器を使った稽古もたくさんした。
世話になった料理長のところへは、他の子に頼んだ。
まぁ、おれより料理の才能があったらしく、料理長にお前はもう来なくていいって言われたけどな。
…それが、優しさだって知っている。
おれが親父の側にいられるよう、冒険者として依頼の時間が取れるように、料理長がそう言ってくれたんだって。
冒険者としての色が、白から黄に上がったときに、組合からシアナ特区に行ってみないかと言われた。
なんでも、領主様直々の政策とやらで、色の薄い冒険者を育成する場所もあるらしい。
少し金はかかるが、シアナ特区にも組合があるので、依頼は受けられるし、あの伝説とも言われている紫のガンダルが拠点にしていると教えてくれた。
あの皿洗いをしたやつらと組を作って、親父に名をつけてもらった。
グランス、神代語で理想っていう意味らしい。
いつまでも、己の理想を追い求めろって、親父に言われた。
おれの理想は親父だよって言ったら、珍しく泣いたので、おれの方が慌てた。
シアナ特区は思ってた以上に面白かった。
山に入ると、魔物に遭遇することもあるし、薬草もあるので採取の依頼なら余裕でこなせた。
最初は魔物を見たら逃げていたけど、先輩の冒険者たちが稽古をつけてくれたり、魔物と対峙したときの注意とか、いろいろ教えてくれたので、今は勝利の方が多い。
一度、コボルトに捕まったときはどうなるかと思ったが、縛人として二十日間だけ畑を耕したら解放してくれた。
でっかいコボルト、ハイコボルトというらしい、それがしゃべれたことにも驚いたけど、人のように生活していたことに一番驚いた。
住んでいるのがコボルトでなければ、人の村とまったく同じだ。
おれたちの世話をしてくれたハイコボルトは、寡黙なやつで、必要なこと以外はしゃべらなかった。
だけど、オンセンを使わせてくれたり、帰りには持ちきれないほどの野菜をくれたりした。
おれたちが、レニス出身だと言ったからだろうか?
一度だけ、どうして人を襲うのかと聞いたんだ。
おれの街はコボルトに襲われたんだと。
そうしたら、自分たちも住処を追われ、食べ物に困っていたと。
自分たちはまだいいが、小さい子供たちが飢えで死んでいくのは耐えられなかったんだと。
それを聞いて、同じなんだなって思ったんだ。
こいつら魔物も、おれたちも、生きるために必死なんだって。
それから、魔物を殺そうっていう気はなくなった。
もちろん、全部ではない。
人を襲うやつは、討伐対象だ。
それ以降、山に入ると、顔見知りというか、おれたちにはコボルトの区別はつかないので、おれたちのことを覚えているコボルトに当たると、容赦なくやられ、また畑仕事をやらされることが続いた。
親父の知り合いの冒険者たちには可愛がって、というか、徹底的に扱かれているし、気がつけば緑に上がっていた。
そんなある日、シアナ特区に国賓級のお偉いさんが来るから、問題は起こすなと通達がきた。
国賓級と聞いて、ネフェルティマのことを思い出した。
凄く変わったお姫様だったが、あれでも上級貴族ってやつらしい。
あの日、騎士が言っていた殿下って言うのも嘘じゃなかった。
この国の王子様は、聖獣の契約者なんだと。
あの日見た、大きな動物こそ、その聖獣なんだろう。
よくわかんねーけど。
国賓級のお偉いさんが来る日は、山に入れないということで訓練所に向かったら、ネフェルティマと再会した。
なぜか、会ったときとまったく変わっていなかったが、元々変わったやつなのでそんなもんなのかもしれない。
「すごい!本当にぼうけん者になったんだね!」
凄いと褒められ、まだ緑だと言えば、親父に追いつくのもすぐだろうと言われた。
嬉しい反面、恥ずかしい気もしたが、あの約束を叶えるにはまだほど遠い。
「もっと強くなって、お前を驚かせてやるよ」
そう言うと、なぜかネフェルティマの方が嬉しそうだった。
そして、ネフェルティマがさらに驚く発言をした。
フィリップおじさんとやらに、おれのことをお願いしておくと言ったのだ。
そのフィリップおじさんは冒険者なんだろうと思ったところで、ある人物を思い出した。
確か、紫のガンダルの長が、フィリップだったような…。
「フィリップおじさんって…紫のガンダルのか!?」
ネフェルティマに聞くと、そうそうっていう軽い返事が。
いやいや、紫のガンダルに稽古つけてもらうの、すっごく大変なんだぞ!
いつ現れるのかもわからないし、目撃情報があった場所には人が殺到して、近づくこともままならない。
そんな凄い人にお願いって、お前何者だよ!!
なんだかんだで会話が盛り上がっていたのだが、ネフェルティマが移動するというので別れた。
まぁ、その後が大変だったけどな。
知り合いの冒険者に、無理やり酒場に連れていかれると、お嬢と知り合いだったのかと尋問を受けた。
ネフェルティマとの出会いを話すと、お嬢らしいと言って笑うおっさんども。
そう、一人だけでなく、赤の冒険者が集まっていた。
みんな、シアナ特区が完成する前の視察に同行したときに、ネフェルティマがいたらしい。
「お嬢は貴族様なのに、オレたち冒険者や騎士とも遊ぶくらい、気さくなお方だ」
「ベルガー、お前には高嶺の花すぎるぞ!」
「なっ!別にそんなんじゃねー!ただの友だちだ!!」
ネフェルティマのことを狙っているんだろうと言われ、心外だと言わんばかりに反論する。
「ムキになるとこが怪しいなぁ」
このくそ酔っ払いめっ!!
確かに、辛いときはあいつとの約束を思い出して、自分を奮い立たせたりしていたけど…。
恋愛感情とかじゃなくて、あいつだけには弱い姿を見せられないっていう、負けず嫌いなだけだ。
「まぁ、オスフェ公爵様が、凄く可愛がっているって話だから、強くならねぇと嫁にはもらえないな」
「だからっ!!」
違うって言ってんだろ!!
お姫様とおれじゃ、釣り合わないだろーが!!
「その話、詳しく聞かせてもらえるか?」
知らないおっさんが、おれの肩を組んでいた。
気配にまったく気づかなかった。いつの間に、このおっさんいたんだ!?
「紫のガンダル!!」
おれをからかっていたおっさんどもが、気持ち悪い歓喜の声を上げた。
「俺の愛弟子に、ネマに虫がついたようだから見てきて欲しいと言われたが…」
愛弟子って、紫のガンダルに弟子がいたとは初耳だ。
他の冒険者たちもざわついているから、知らなかったのだろう。
「ネマには、ベルガーは街の子供たちのために強くなりたいから、稽古をつけて欲しいとお願いもされているんだ」
…ネフェルティマのやつ、本当にお願いしやがったのか!!
「で、お前はどうしたい?」
「おれは…強くなりたい!何もできなくて、ただ周りを恨んでいただけの、あんな惨めな思いはもうしたくない!」
「じゃあ、いいだろう。緑のグランスは俺たち紫のガンダルが預かる。覚悟しておけよ。目標は、デールラントを倒せるまでだ!」
なんか、大ごとになっているけど、デールラントって誰だ?
あとで、今の領主様と聞いて、びっくりしたし、その領主様に見張られていると教えられて、もう一回びっくりした。
ただ、ネフェルティマに強くなったと自慢しに行ける日が、思ったよりも早く来るかもしれない。
それを、楽しみにしているおれがいた。
ベルガー少年の自覚のない初恋物語、いかがでしたでしょうか?(笑)
自覚がない分、私が大変でしたw
この子、本当に頑固で!
フィリップに弟子入りしたベルガーの苦労話はまたどこかで。




