うちの子だってば!!
ここから先は、コボルトのトラップエリアということで、案内役が来るまで待つことになった。
トラップがどんなのか興味あるが、落とし穴とかに嵌ってしまったら、それはそれで情けないのでやめておこう。
それにしても、凄く賑やかだな…。
子供のゴブリンは、森鬼や闘鬼が相手してくれるのが嬉しくてはしゃいでいるし、スライムたちは魔法をくれた人間にちょっかいを出している。
頭の上に乗るのがはやりなのか?
賑やかすぎるせいか、グラーティアが私の髪の中から出てこない。
白がいなくて寂しいっていうのもあるのかもしれないが。
あとで、ノックスと一緒に遊んであげよう!
-ワンワン!!
ようやく案内役が来たかと思ったら、でっかい白いもふもふが集団で走ってきた。
…なんかデジャブ…。
このままだと、衝突コースだけど、あの子たち止まるよね?
…って、止まらんのか!!
ふわもこの集団に囲まれ、押し倒され、顔中舐めまわされ…ふわもこを堪能するどころではなかった。
「お前たち、ネマ様から離れなさい」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、ふわもこたちはきゅーきゅーと甘えるような鳴き声を出して離れてくれた。
「ネマの持っているぬいぐるみとそっくりね」
ママン、感心してないで、助けてくれよ。
服も髪もぐちゃぐちゃになっちゃったよ。
へろへろな状態で、パウルに助けを求める。
スーパー執事なら、すぐに綺麗にしてくれるはずだ!
パウルは、私に浄化の魔法をかけ、ポケットから櫛を取り出すと、素早く髪型を整えてくれた。
結んでいる位置が違うので、違う髪型にしてくれたようだ。
さり気ない気遣いができるパウルは、きっと女性にモテるに違いない!
さて、気を取り直してと。
「みんな、大きくなったね!」
ハンレイ先生の孫のおちびさんたち。
ハンレイ先生には及ばないものの、私より大きくなっていた。
お座りして、尻尾を大きく振る姿はまさに犬。
みんなに、いい子いい子と首回りをわしゃわしゃすると、魅惑のもふもこな感触が伝わってくる。
指の腹をくすぐるトップコートは滑らかで、中のアンダーコートは毛が細いもののもふっとした弾力がやめられない。
ほっぺをうにうにすると、毛と頬の柔らかさとの感触がまた絶品!
やめて!とでも言うように、体をブルブルさせたので、一緒によだれまで飛んできた。
「…ネマ様…」
パウルの、せっかく綺麗にしたのにという心の声は聞こえなかったことにしよう。
「ネマ様、長く寝ていたとのことですが、もう大丈夫なのですか?」
聞き覚えのある声の持ち主は、トルフでしたか。
相変わらずのイケメンですな。
犬顔だけど!
「もう、大丈夫よ!」
そういえば、鈴子も闘鬼も私の状態を把握していたようだけど、ヒールランとかが伝えてくれていたのかな?
トルフに誘導されながら、山を登っていく。
獣道とも呼べないような、藪の中を突き進む。
「トルフ、わなってどんなのがしかけてあるの?」
「いろいろです。たとえば…」
トルフはあちらですと、指を差した。
視線をやっても、何があるのかわからなかった。
「もう少し前に出ても大丈夫ですよ」
トルフに言われるがまま、藪の中に二、三歩進むと……。
パキッという音とともに、ザッと何かが飛び出すような音がした。
トルフが素早く私の前に出たと思ったら、ガツッと鈍い音がした。
「おわかりになりましたか?ここら一帯は、投石の罠が仕掛けてあるのです」
……その仕掛けを私に踏ませたのか!!
つか、その飛んできた石を、剣の鞘で弾いたの!?
「トルフ!お前か!!」
今度は木の上から声が降ってきた。
次から次へと、いったいなんなんだ!
「設置し直したばかりの罠を、わざとやっただろっ!」
木の上から姿を見せたのは、見たことのあるハイコボルトだった。
「フィカ先生!!」
「ん?ネマじゃん!!」
草の氏長の年長組のフィカ先生。赤みがかった茶色の柴犬のハイコボルトだ。
星伍と陸星の本当のお兄ちゃんでもある。
「相変わらず、ちびっこいなー」
下の兄弟が多いからか、面倒見はすこぶるいい。
「ちびっこいはよけいだよ!!」
フィカ先生に文句を言うも、笑っていて聞く耳持たずだ。
「ネマ様は小さくても可愛らしいですよ」
トルフが慰めてくれるが、小さいが余計なんだってば!
「このように、罠は殺傷能力の低いものばかりです。罠にかかれば、すぐに草の氏が気づくので、冒険者は群れに近づくことはできません」
「罠の場所には、コボルトにしかわからない臭いがついているから、オレたちがかかることはない」
それで、案内役にはすぐわかるんだ。
…でも、鼻がいい獣人もいるよね?
「じゅう人にもわからないの?」
「種族によっては、わかる方もいます。熊族の方は凄かったですね」
熊の獣人かぁ。
そういえば、レスティンがワイルドベアーは鼻がいいって言ってたな。
だから、任務中に知らない人の臭いがすると教えてくれたりするらしい。
ただ、脱走した動物とか、臭いをたどって探すというのは難しいらしい。
その行為が、本能を呼び覚ますのか、目標を追い詰めてとどめを刺してしまうことがあるんだって。
トルフとフィカ先生から、どんな冒険者と遭遇したのか、いろいろ話を聞かせてもらった。
中でも一番多かったのが、若い冒険者だ。
さすがに、狩猟の氏が負けることはなかったようだが、生活の氏はわざと負けているらしい。
どうしてなのかを問うと、生活の氏は物作りが仕事だから、あまり怪我をしたくないんだって。
治癒の氏がいても、怪我の具合によっては完全に治らないこともあるから、軽く戦ってすぐ逃げることにしたと。
確かに、狩猟の氏と生活の氏では、戦闘能力の差は大きかったから、ある意味正しい選択かもね。
ちなみに、祭りは山が開放された当初しか行われていないとか。
フィカ先生が言うには、この山を知り尽くしているコボルトと来たばかりの冒険者では、コボルトの方が断然有利だという。
そりゃあ、そうだよね。
それに気づいてからは、冒険者たちは縛人を選ぶようになったって。
ようやく、歩きやすい道に出たら、コボルトの群れはすぐ近く。
ハンレイ先生のお孫ちゃんたちは、我先にと駆けていく。
元気だなーと思いながら、群れが生活しているエリアに入ると、見慣れた風景ではなかった。
洗濯物が干してある木もなく、かまどもない。
あるのは、人が住んでいそうな家ばかり。
村という程ではないが、ちゃんとした集落だった。
トルフたちは迷うことなく道を進み、ようやく見慣れた洞窟が出てきた。
「家みたいなのは?」
「我々と生活をともにしている人の住処です」
みたいではなく、本当の家でしたか。
つか、本当に人間が一緒にいるの!?
「ほとんどが、誓約に縛られている人ですが、中には生活の氏に弟子入りしている人もいます」
今度は、ベルお姉さんが教えてくれた。
ベルお姉さんは、縛人となった人たちの世話役みたいなこともしているらしい。
人手が欲しい生活の氏たちから、仕事内容を教えてもらい、どれだけの人数をどれくらいの期間働かせるのかとか、人間同士の揉め事なんかも仲裁に入るとか。
トルフが、ベルお姉さんがいて、凄く助かっていると言っていて、コボルトたちからも信頼されているようだ。
なんでも、織手と編手の氏は女性の冒険者から人気があるとか。
機織りを経験している女性が多いというのもあるし、他にも刺繍やアクセサリーを作ったりでき、織手と編手の氏が穏やかな性格のものが多いからだろうって。
逆に、ある程度歳がいっている人は、緑の氏と匠の氏が人気なんだって。
農業と木材加工だから、まぁ理由はわからんでもない。
つか、職業訓練所みたいになっているのは気のせいか?
集落の中を観察しながら、広場みたいなところに出た。
たぶん、魔蟲パーティーやったところだと思う。
「シシリーおねえさん!」
美人のダルメシアンが、空を仰いでいた。
私が声をかけると、その目が嬉しそうに細まった。
「ネマ様」
シシリーお姉さんは、お待ちしておりましたと言ったが、私が引き連れてきた人数を見て驚いてた。
「スズコとトーキまで。珍しいな」
「主様といられる時間は限られているからな」
そう答えた鈴子に、シシリーお姉さんは納得した。
「ベルから、偉い人が来ると聞いてたが?」
「ルイさんとテオさんだよ。あと、私の両親」
お兄ちゃんとお姉ちゃんのことは知っているので、紹介はいらないだろう。
「この群れの長、星読みの氏のシシリーだ」
「テオだ」
「ルイです。よろしくね」
シシリーお姉さんが挨拶すると、それぞれ名乗るが、テオさんはそれだけ?
「そういえば、スピカたちは?」
いつもなら、真っ先に飛んでくる姿がない。
「聞いていないのか?スピカなら修行に出ているぞ」
はい?修行!?
「なんの?」
「スピカなら、我々がお預かりしていますよ」
シシリーお姉さんに聞いたのに、なぜかオルファンが答えた。
つか、我々って?
「ネマお嬢様に仕えたいということでしたので、オスフェ家の使用人に相応しいよう教育しております。まだ一人前とは言えませんので、もうしばらくお待ちください」
「獣人とあって、なかなかの戦闘能力を持っています。あとは、作法が完璧になれば、すぐにでもネマお嬢様のお側に置けるでしょう」
パウルも知ってたの!?
というか、誰が教育してんの?
「星伍と陸星は?」
「護衛、潜入、暗殺。必要なことはすべて叩き込みました。あとは言葉の訓練くらいです」
オルファン!うちの子に何してくれてるの!!
「いいものを拾いになりましたね。下地があるせいか、かなり優秀です」
そりゃ、うちの子だから……って、ちがーう!!!
何がどうなっているのか理解できない。
「あいつらが望んだことだ。ネマは気にしなくていいんだぞ」
フィカ先生はそう言うが、うちの使用人はただ者ではないのだ。
使用人たちの基準で訓練していたら、あの子たちの命が危ない!
「心配はない。彼らは、ネマと一緒にいるために頑張っている。ネマはたくさん褒めてあげればいい」
考えが顔に出ていたのか、パパンが命の保証はしてくれた。
オルファンが褒めることは稀だから、凄いことなんだよとも言ってくれた。
そうか。じゃあ、会ったときにはいっぱい褒めてあげないといけないな!
「こりゃまた、大勢引き連れてきたな!」
誰かと思ったら、フィリップおじさんではないか!
相変わらず、ここに入り浸っているのか。
「フィリップ、お前は勝手に…」
「すまん、すまん。ロタ館はいろんなやつに捕まるから、面倒臭いんだよ」
どうやら、本当はアスムンロータで合流する予定だったみたい。
でも、紫のガンダルは他の冒険者にとっては憧れの存在だから、冒険者が集まるところにはいづらいんだろうなぁ。
「お、ネマ。ずいぶん寝坊したな!」
頭をぐわんぐわん回されて、首が痛い…。
治癒術師のお姉さんが止めてくれた。
「ネフェルティマ様がお元気になられて本当によかったですわ。女神様に感謝いたします」
そう言って、女神様に祈りを捧げてくれたのだ。
ありがとうございますとお礼を言い、変わらない紫のガンダルの面々にも挨拶をする。
「フィリップ、テオ様が貴方と手合わせをご所望なの。お願いできるからしら?」
「セルリアからのお願いなら、断れないな」
およ。フィリップおじさんも、ママンには弱いのか。
まぁ、オスフェ家で一番偉いのはママンだしな。
ママンがパパンを操っているのか、パパンが折れているだけなのかはわからないけど、ママンがダメって言ったことは決して通ることはない。
フィリップおじさんは、貴族出身ということもあり、洗練された礼をルイさんとテオさんにした。
ただ、次の瞬間には、無作法なおっさんに戻っていたけどな!
「じゃあ、早速やりますか!」
テオさんを訓練所として使っている別の広場に連れていってしまった。
「ルイ様はどうされますか?」
「この中をもう少し見て回りたいな」
ということで、生活の氏の仕事場を見て回ることになった。
ベルお姉さんの言う通り、織手と編手の氏の仕事場には、女性の冒険者が五人いた。
機織りをしたり、網を編んだりしている風景は、ここは農村だったっけ?と錯覚しそうになった。
井戸の回りでは、コボルトと一緒に人間が野菜を洗っていたり、畑仕事帰りの人もいた。
匠の氏の工房では、氏長が人間に対して丁寧に教えていた。
たたらの氏の工房では、何かを鍛えているブルドッグの回りで雑用をこなす人間という光景が印象的だった。
「……なんというか、やはり不思議な光景ですね。魔物が主体の空間に、人が溶け込んでいるというのは」
初めて見る人にとっては、インパクトが大きいよね。
ある程度耐性がある私ですら、びっくりな光景だし。
「生活の氏は他の魔物と違って、人に似たところがあります。それで、受け入れやすかったのではないでしょうか」
ベルお姉さんの説明を真剣に聞いているルイさん。
そんな光景を見て、ふと思った。
地球では、犬は人間のよき友と言われているが、コボルトの本当の姿を知ってもらえれば、よき隣人として関係を作っていけるんじゃなかろうか。
オーグルとか、一部凶暴な魔物がいるために、魔物全体が人を襲うイメージを持たれているが、コボルトはゴブリンたちよりも人に近い気がする。
「ライナスでやるなら、コボルトを主軸に持ってきた方がいいかもしれないな」
ルイさんの呟きが聞こえた。
軽いように見えて、ルイさんもいろいろと考えているようだ。
そういう真剣な姿は、さすが皇族と言いたくなるくらい、オーラが違っていた。
「そういえば、他のむれとはれんらくついたの?」
以前、フィカ先生がシアナ計画によって定住すれば、他の群れも合流するかもしれないって言っていたことを思い出した。
「あぁ。いくつかの群れは、ライナスの山間に逃げれたようだ」
シシリーお姉さんは、力の氏が長をやっている群れと連絡がついたと教えてくれた。
今は、ライナス帝国もミルマ国も、魔物を保護する動きになっているので、討伐される恐れは低いだろう。
その後、縛人から解放されても残っている人の話を聞いたりしていたら、テオさんがすっきり顔で戻ってきた。無表情だけど…。
「…参った」
フィリップおじさんも、凄く疲れた顔をして戻ってきた。
「噂に違わぬ腕の持ち主でした」
そうルイさんに報告するテオさん。
ルイさんが苦笑しているが、どちらが勝ったのかな?
「そういえば、セイレーンたちには会っていかないのか?」
フィリップおじさんに聞かれたけど、この大人数で洞窟に入るのは危険だからと今回は見送られた。
海がどうしているのかちょっと心配なんだけど。
「あぶないからダメだって。海は元気にしている?」
「あぁ。たまに、どっか出かけてるぞ」
はっ!?
出かけてる!?
洞窟から出ちゃダメだって、セイレーンのお姉様たちから言われてなかったっけ??
「心配するな。殿下が直接迎えにきてたから、人を襲うようなことはしていないさ」
……ヴィーーー!!!
そんな話聞いてないぞーー!!
つか、勝手にうちの子を使うなーー!!
とんでもないことが発覚したが、パパンもママンも知らなかったらしい。
とりあえず、今日はここまでにして、ヴィに手紙を出そうということになった。
山を下りて、アスムンロータに戻ると、ジョッシュたちが出迎えてくれた。
ルイさんとテオさん、王宮ご一行は、我が家が作った迎賓館みたいなやつに泊まるらしい。
そこも我が家の使用人が管理しているので、王宮と同じような対応ができるとのこと。
ちゃんとお風呂は温泉で、露天風呂も作ったらしいよ。
私も露天風呂入りたーい!!
「ネマ、殿下から手紙が届いたよ」
我が家の事務所兼住居に戻ってくると、パパンがすぐに手紙を書いてくれた。
その返事が届いたようだ。
さて、うちの子を勝手に使った言い訳を聞いてやろうじゃないか!
『カイには、例の事件に関して協力してもらっていた。ネマの承諾を得ていないことについては謝罪する。
また、カイには必要なことを教えておいたので、存分に使うといい』
だーかーらー!海はうちの子だっつーの!!
何が、存分に使うといいだよ!!
「さすがに、手紙では詳細は書けないようだな。王都に戻ってから、殿下に直接伺うしかなさそうだよ、ネマ」
別行動が許されれば、森鬼を連れて洞窟に行くんだが…。
明日は、シアナ特区で働いている人たちと会うことになっているので、別行動は許してくれないだろう。
うむむむ。
海!
ちょっとここまで来なさーい!!
珍しく、周りに振り回されるネマでした。
魔物の子たちが自由すぎて、こちらも振り回されてます(笑)




