気分は浦島太郎だよ…。
「ネマお嬢様、準備はよろしいでしょうか?」
「はーい!」
今日は待ちに待った視察の日!
ようやく、みんなに会えるよ。
しかも、視察にはパパンとママン、お兄ちゃんとお姉ちゃん、オスフェ家全員参加という豪華メンバー。
家族旅行みたいで、ワクワクするよね!!
「ネマお嬢様、大人しくしていてくださいね。くれぐれも、旦那様方から離れることのないようにお願いいたします!」
あれ以来、だいぶ過保護になってしまったパウル。
さすがに、今回はお客様もいることだし、無茶はしないよ。
はいと元気よく返事をしたが、どこか胡散臭げな顔をされた。
なぜだ!そんなに私のことが信用ならないのか!?
どうやら、信用されてないらしい。
私の守り役として、森鬼はもちろん、ノックス、白、グラーティアと、全員連れていくことになった。
それと、ようやくママンから解放された黒が、再び私に寄生することに。
ちなみに、灰、薄墨、銀鼠の三匹は、いまだにお兄ちゃんに寄生している。
お兄ちゃんの体内は居心地がいいから、出たくないんだって。
灰色の子たちは寄生主を守るので、そのままでもいいかなって思っている。
どれか一匹、お姉ちゃんに移ってもらえるといいんだが。
王宮で、ルイさんとテオさんと合流して、転移魔法陣でフォーべへ飛ぶ。
今回も大所帯だ。
我が家の護衛役として専属執事の四人と侍女が二人同行している。
ルイさんとテオさんには、近衛師団第三部隊が護衛に当たっていて、お世話係の侍女も王宮から派遣されている。
ちなみに、近衛騎士たちは制服ではなく私服だった。
目立たない配慮だろうけど、やっぱりカタギじゃない雰囲気は出ている。
フォーべからは馬車で移動なんだが、以前来たときよりも賑わっている気がする。
「馬車がいっぱい…」
ある建物の前に、ずらりと馬車が並んでいた。
今乗っている、貴族が使う箱馬車ではなく、幌がついた荷馬車だ。
「あそこから、シアナ特区へ行く馬車が出ているんだ」
パパンが教えてくれたのだが、シアナ計画の一環として、シアナ特区とこのフォーべを結ぶ馬車を定期運行しているとのこと。
ただ、それだけでは足りなくなったので、商業組合が近隣の馬を持っている農家さんにお願いして、乗り合い馬車を出しているんだって。
もちろん、歩いて行くことも可能なんだけど、比較的安いから、利用する人がほとんどらしいよ。
フォーべだけじゃなく、リコラという町やミューガ領のガーバンスという街からも馬車の定期運行を行なっているとか。
それくらい、人が集まるようになったってことにびっくりだよ!
見覚えのある風景が見えてくると、お姉ちゃんが見えたわよと声をかけてきたので窓にかじりつく。
何やら大きな門があって、門には騎士たちが立っている。
そこで身元を確認するとかではなく、ただ警備のためのようだ。
大きな門をすぎれば、そこはたくさんの人で賑わっていた。
半数以上が冒険者の身なりをしていて、露店なんかもあって、なんだかお祭りみたいな雰囲気だ。
「ここがシアナ特区だよ。ジグ村とは少し離してあるんだ」
レイティモ山の方にはメインの建物と、周辺には組合の施設と思われる建物群があった。
山の麓から平地に広がるように、お店や宿なんかが増えている。
メインの建物の前で馬車は止まり、改めて見ると結構大きかった。
入り口なんて、縦横3mはあるんじゃなかろうか?
ただ、扉がないので、枠みたいなのに装飾が施されていた。
入り口の上に、なんか書いてある。
「あ、アス……」
読めない。
たぶん、これ、神代語だよね?
「アスムンロータと読むんだよ。意味は始まりの地」
はっ!
RPGの最初のチュートリアルが終わって、プレイヤーがクエストに向けて装備を整えたり、レベル上げしたりする町ってことか!!
…誰か狙ってつけたのか?
まさか、私以外にも転生者が!!
「ヴィルが名付けたんだけど、冒険者たちにはロタ館って略称で呼ばれているんだよ」
お兄ちゃんが笑いながら、長いからねと言っている。
なんだ、ヴィか…。
「扉がないのには、何か意味があるのですか?」
ルイさんの質問には、お兄ちゃんが答えた。
「人の大きさに合わせると、獣人によっては小さいこともあるので、大きくしたのです」
確かに、フリエンスの獣人は大きな翼を持っているし、熊の獣人のラックさんなんて、頭ぶつけそう。
森鬼だと、頭の角が刺さったりして……。
想像するだけで笑える。
「この大きさに扉をつけてしまうと、威圧感があって入りづらいのでは?という意見が出ましたので、開放感を出すために扉をつけていないのです」
うんうん。
大きい扉って、それだけで威圧感とか重厚感があって、開けるのに尻ごみしちゃうよね。
「だが、扉がないと、寒い時期が大変なのでは?」
「入っていただければわかりますよ」
そう、お兄ちゃんが促すので、入り口をくぐってみる。
入り口を抜けると、空気がひんやりしているように感じた。
「なるほど!『微風の紗幕』か」
ルイさんもテオさんも、なんか感心してるけど、魔法が使われてるってことか?
「おかあ様、しゃまくって何?」
魔法ならば、専門家に聞くべきだろう。
「風で薄い幕を作って、空気の流れを遮る魔法よ」
風の幕?
いまいち、ぴんとこなかったので、もう一度出入りしてみる。
…風はどこに??
まったく風を感じられず、首を傾げる私をママンが笑う。
上品な笑い方だし、表情も柔らかいから、甘えても許してくれるときのママンだ。
その隣りで、パパンの顔が緩みきっているのは、見なかったことにしよう。
「こうしたら、わかるかしら」
ママンから、冷たい空気が発生したと思ったら、白い靄みたいなのが出てきた。
それは、広がるとともに色も薄くなっていくが、入り口の近くまで到達すると奇妙な動きを見せた。
靄が、左から右に流れ、消えていったのだ。
つまり、そこに空気の流れ、風が発生しているってことになる。
しかし、私には風なんてまったく感じなかったのはなぜなんだ?
「どうして風を感じないの?」
「ネマが、わたくしの作った体感の魔道具を身につけているからです」
はて?
体感の魔道具といえば、暑さや寒さを遮断するもので、以前身につけていたのは髪飾りだった。
今つけているのは、竜の鱗で作られたものなので魔道具ではない。
他は、王様たちからもらった首飾り、ヴィからもらった腕輪、うさぎさんリュックの中にゴーシュじーちゃんからもらった短剣といういつものアイテムだ。
あ!
うさぎさんにつけてもらった耳飾りか!!
金色の輪っかなんだけど、腕輪にしては小さいし、わざわざうさぎさんのためだけに作ったアクセサリーかって驚いたんだよね。
まさかの魔道具だったとは…。
「この子の耳についてるのがまどうぐ?」
「そうよ。魔道具としての構造はわたくしが作って、形や意匠はオリヴィエが考えたものです。だから、『微風の紗幕』の効果も弾いてしまったのでしょう」
つまり、ママンが作った魔道具の方が強いと言いたいんだな。
なんでうさぎさんにつけたのかと聞くと、竜玉からの魔力を吸収して作動するので、外さない限りずっと効果が続くらしい。
服に合わせるより、いつも持っているうさぎさんにつけた方が効率いいことに気づいたんだって。
ソルの魔力、勝手に使われているけどいいのかな?
あとでソルに聞いておこう。
あぁ!!
私がママンとの会話に夢中になっている間に、ルイさんとテオさんは、お兄ちゃんに案内されて先に進んでしまっている!!
急いで追いかけると、受付というか、ホテルのフロントに似ている場所に懐かしい顔があった。
「ヒールラン!ベルおねえさん!」
駆け寄ると、ヒールランもベルお姉さんもしゃがんで私と視線を合わせてくれた。
「ネマ様、お元気になられて、本当に嬉しい限りです」
「本当に心配したんですよ!」
ヒールランは今までに見たことのない笑みを浮かべ、ベルお姉さんは今にも泣き出しそうだった。
「しんぱいかけてごめんなさい。でも、もう元気だよ!」
元気だよアピールをして、二人を安心させる。
二人と再会してほくほくしていると、パパンが二人をルイさんとテオさんに紹介した。
「彼がこのシアナ特区の現場管理最高責任者のヒールラン・デュトです。隣りが補佐をしているアリアベル・テルース」
なんか、ヒールランの肩書きがえらいことになってる!
お兄ちゃんに聞いたら、シアナ特区のことはヒールランに一任しているんだって。
ようは、経営者であり、最高責任者はパパンだけど、ヒールランは支店長みたいな感じかな。
オスフェ家が直接雇用したのは、ヒールランとベルお姉さん、エルフのヴェルだけらしい。
他の人材は、シアナ計画という事業での雇用なので、直接ではないんだって。
まぁ、そこら辺の難しいことは、パパンに丸投げしていたので私が口を出せることはないんだが。
ヒールランたちも加わり、ますます大所帯になったと思ったら、使用人の面々がいなくなっていた。
それでも、この集団はとっても目立つようだ。
食堂に入ると、賑やかな会話が途切れたと思ったら、再び騒めきが起こった。
食堂というよりは、フードコートみたいで、いろいろな美味しそうな匂いが充満していた。
「ずいぶんと賑わっているね」
「こちらでは、宿泊客ではなくても、冒険者には安く利用してもらえるようになっています」
ヒールランは、食堂のシステムを丁寧に説明し、ルイさんが感心するという光景が続いた。
あぁぁ!!
兎族の獣人がいる!
面接のときのお姉さんかな?
あ!あっちにはネコ耳らしき獣人が!!
獣人の姿に鼻息荒くしていると、ベルお姉さんがあとで紹介しますよと言ってくれた。
楽しみにしてます!!
食堂の次は客室、娯楽室と続き、大浴場のときはルイさんのテンションが異常だった。
「これがオンセンですか!素晴らしい!!」
いやいや、ルイさんの国にも、大きな浴槽くらいあるでしょうに。
と思っていたら、ルイさんは他人とお風呂に入る状況に夢を持っているようだ。
「仲間とともに汗を流し、互いの肉体を褒め合いながらも、湯の中では普段言えないようなことを語らい、そこで絆が深まるのですね!」
変な人がいたわ…。
みんな、なんて言っていいのか、返答に困っているよ。
「叔父上、落ち着いてください」
テオさんが宥めて、我に返ったルイさん。
ちょっと恥ずかしそうにしなからも、シャワーもどきの使い方や、テラスの利用法を聞いている。
「叔父上は、ルダンを視察に行かれた際、その風習がいたく気に入られたようで」
ルダン。これはお勉強にも出てきてたぞ!
平民向けの銭湯のことだ。
ライナス帝国には、多数銭湯がある。
その昔、国の政策によって作られたものが、浸透していき、今では庶民の生活に欠かせないものになっているらしい。
我が国にも、ルダンの風習が根づいている地域もあるようだが、お風呂文化の方が強く、庶民のお家でも浴槽があるのが当たり前だ。
寒い地域が多いので、寒さ対策も理由かもしれないが。
ライナス帝国では、ルダンがご近所さんとのコミュニケーションの場となっている。
宮殿にも、使用人専用のものがあるらしく、そこでは数多の噂や真実、流行など、あらゆる情報が交換されているらしい。
銭湯というよりは、古代ローマ時代のテルマエの方が近いかも?
そして、ついでとばかりにテオさんが教えてくれたのが、ルダンのお湯を管理する職業は高給取りなんだと。
「うちのおやしきも?」
「えぇ。お屋敷では、湯を管理できるようになれば、相応の額が支給されますよ」
パパンの専属執事のオルファンが答えてくれた。
ママンの専属のフェーオとお兄ちゃんの専属のジョッシュは、今は別行動している。
たぶん、シアナ計画の事務所兼別邸みたいなやつのお部屋を、綺麗にしてくれているんだろう。
侍女の二人もいないし。
「テオー!来てごらん!」
また、ルイさんがはしゃいでいる。
今度はなんだ?
テラスには、テーブルとイス、カウチのように寝っ転がれるイスもある。
ここは、湯あたりなどを防ぐため、涼む場所でもあり、憩いの場でもある。
テラスの天井は開閉可能で、天気や気温によって開け閉めしている。
そして、私がお願いして作ってもらったのが、足湯だ。
一見、溝のようだが、お風呂のように排水口に栓をして、浴槽のお湯を入れる。
お湯を入れるのは人力だけど、二、三人くらいの小さいやつなのですぐに溜まる。
その足湯に、ルイさんが大興奮しているのだ。
「気持ちいいなぁ」
「…執務室に欲しい」
「それはいい考えだね。仕事も捗りそうだ」
お二人は足湯に浸かりながら、とんでもない会話をしていたよ。
執務室で足湯って…。仕事にならないような気がするんだけど。
足湯を満喫したあとは、会議室で昼食を取って、レイティモ山に向かう。
転移魔法陣が設置してある建物は、とても頑丈な作りになっていた。
ここにも騎士が立っていて、警備にあたっている。
今回も数回に分けて転移するわけだが、行き先を固定する作業は王立魔術研究所の人ではなかった。
お姉ちゃんが作った、オスフェ家の私設研究所の魔術師だ。
魔道具や設備にトラブルがあったときや、定期的なメンテナンスのために、数人が駐在しているらしい。
私設研究所自体は、王都近くの領地にあるって言ってた。
本当に、いろいろと変わったなぁって思う。
転移魔法陣でレイティモ山に入ると、熱烈歓迎を受けた。
スライムたちから。
ーうきゅー!
ーぷにょー!
ーにゃーん!
ーのーん!
鳴き声が賑やかだが、誰だ!にゃーんって鳴いたのは!!
元気いっぱいのスライムたちに、護衛の騎士たちが反応したので、急いで大人しくしてもらう。
「みんな、どうくつから出てきちゃったの?」
ーるぅるぅ!
色合いからして琥珀だろう。
ママもいるよーと言ったあとに、何かを見つけて、そちらに飛んでいってしまった。
そうえば、琥珀、他の子たちより大きくない?
赤ちゃんスライムは、白より一回り小さいくらいだったのに、琥珀だけ白よりも大きくなっている。
るぅるぅと鳴いている琥珀は、ご飯ご飯と誰かに催促しているようだ。
その様子を見て、他の子たちがずるいと鳴く。
誰にねだっているのか見てみたら、ヒールランだった。
ヒールランの頭の上で、ぴょんぴょん飛び跳ねる琥珀。
「ヒールラン、ひょっとして琥珀に魔法を食べさせてた?」
「すみません。なぜか懐かれてしまいまして。魔法をあげないと帰ってくれないので…」
「琥珀!めっ!」
琥珀を怒ると、怒られたことがわかったのか、るぅぅぅと悲しそうな鳴き声をあげた。
「魔法を食べるのは知っていたけれど、成長速度に違いが出るのね。ひょっとして、魔法を無効化するスライムは、魔法を食べていたのかしら?」
あぁ。ママンの研究者スイッチが入ってしまった。
しかも、それにテオさんが食いついてる!
無表情でママンに詳しく教えてくださいとか言っちゃってる!!
つか、テオさんの琴線が謎すぎるよ!
赤ちゃんスライムたちのご飯合唱が大変なことになってきたので、魔法が使える皆様にお願いするはめになった。
ルイさんとテオさんも、僕たちもいいかな?と嬉しそうに聞いてきたので、お言葉に甘えることにした。
「食べたいぞくせいごとに、せいれつ!!」
私がそう号令をかけると、赤ちゃんスライムたちは素早い動きで整列した。
カラフルで、虹のようになってしまい、ルイさんが綺麗だねと言ってくれた。
私は、スライムに魔法をあげることはできないので、雫を呼ぶ。
「雫!どこにいるのー?」
ーぷぅ!ぷっぷぷぅぅ!
ぷるんぷるんと揺れる大きなボールが現れた。
雫よ、最後に会ったときより大きくなってんな。
「雫ー!」
思いっきり雫に抱きつくと、極上の羽毛布団に包まれているような柔らかさだった。
あぁ、ヤバい。
これ、雫の中で寝たら、最高に気持ちいいやつだ!
抱きついたままだったが、雫が形を変えてくれて、卵型のようなイスになった。
おぅ。これはこれでまた…。
お尻と腰、背中のジャストフィット感がなんとも言えない。
ーぷぅぷぅぷー
ん?
私が眠っている間に、また生んだって?
どうりで赤ちゃんスライムの数が多いと思った。
ーみゅう!みゅっみゅっ!!
雫とまったりしていると、白が突然やってきて、雫に何か訴えていた。
ーぷぅ!
雫が許可すると、白は雫の中に入ってしまったではないか!
「白!?」
ーぷぅぷーぷっぷぅ
え?進化に必要なことって、どういうことだ雫!!
スライムの謎すぎる生態に頭を抱える。
親スライムは、環境さえ整えば、年中繁殖できるらしい。
しかし、繁殖能力を持つスライムは一匹につき一匹しか生まれないんだって。
雫にとってはそれが白で、本来なら親元から離れることはしないんだと。
洞窟で生まれた、最初の赤ちゃんスライムたちは、もう親離れがすんでいて、赤ちゃんではなく成体というのには驚いた。
雫は、白の成長も早いって言ってた。
やっぱり、名前を付けた影響かな?
親スライムになるには、進化を三回行わないといけないようで、白はこれが二回目なんだとか。
進化するのに、なぜ雫の中に入る必要があるのかと問えば、わかんなーいと軽いお返事が…。
ほんとにね、この世界で一番の謎が君たちスライムだよ…。
お待たせしましたー!
相変わらず、生き物が出ると執筆速度が違います(笑)
スライムたちは、書いていて楽しいので、スライムだらけの短編とか書いてみたいですな。




