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愛し子と…。(ヴィルヘルト視点)

一部、残酷描写あり。

朝の執務を終えたときだった。

風の精霊たちが慌ただしく飛び込んできた。


『大変!愛し子が大変!』


大変と言うばかりで、ネマの身に何が起こったのか要領を得ない。


「落ち着いて、ネマに起こったことを順を追って話せ」


ラースはすでに日向ぼっこから戻っており、殺気のようなものをまとっている。

ただならぬことが起こっているのは間違いない。


『愛し子がさらわれちゃったの!』


『早く助けてあげて!』


『シンキも倒れたから、愛し子は一人なの!』


いつもなら、楽しそうに愛し子のことを語る精霊たちが、焦りのためか断片的にしか情報をよこさない。

ネマが何者かにさらわれ、シンキは怪我を負ったかしてネマの側にはいないということか。


「ラース、行くぞ」


ラースなら、ネマの居場所がわかる。

ネマの誕生日にあげた腕輪は、風玉(ふうぎょく)といって、炎竜殿の竜玉と似たようなものだ。

ラースの力を宿しているので、居場所だけでなく、わずかに感情も流れてくるという。


ラースに跨がり、露台から空へと飛び立つ。

迷いもなく、ある一点を目指して飛んでいたが、何かを見つけ、急降下し始める。


-ガウ


ラースに促されて地上を見ると、白いものが疾走していた。

その後ろを馬に乗った者が追いかけている。


「ラルフか」


ラルフの方もこちらに気づいたようだが、すぐに白いものに集中する。

白いものは恐らくディーだろう。

しかし、オスフェ家の影が報せたとしても、早すぎるな。

上級貴族の地区から、中級下級貴族の地区へと入る。

地区を半周しないくらいの場所で、ディーもラースも止まった。

ラルフがついて来ているのを確認したディーは、ラルフを待つことなく屋敷へと飛び込む。

俺も急いで地上に下りるが、荒れ果てた屋敷に邪魔をされる。

生い茂った木々に、根や石でぼこぼこな小道。その小道を倒木が塞いでいる。

ようやくラルフも追いついたが、馬は外に置いてきたようだ。


「ヴィル、力を貸して欲しい」


ラルフにお願いされなくてもそのつもりだ。

しっかりついて来いよ!


「ラース、道を作れ」


ラースの風の力によって、邪魔なものはすべて切り刻まれる。

そして、切り刻んだものは風で吹き飛ばされる。

朽ち始めた扉をぶち壊し、屋敷の中に入ると、ネマの声が聞こえた。


「急げ!!」


ラースを先頭に、俺とラルフは走る。

お兄ちゃんと、ラルフを呼ぶ悲痛な声が聞こえてくる部屋に飛び込もうとしたときだった。


激しい爆発とともに、衝撃と熱風が俺たちを襲った。

吹き飛ばされそうになるのを、必死に耐える。


「何が起こった!?」


-グルルルルゥ


愛し子の暴走だと!

ラースの風が巻き起こる炎を押しのけようとするが、それ以上に炎の勢いが強い。

屋敷自体も半分ほど瓦礫と化している。


「ネマっ!!」


炎の中に入ろうとするラルフを、力ずくで引き止めた。

これはただの炎ではない。

水の魔法が使えるといえど、まったく役に立たないだろう。


「今は駄目だ」


「離してくれっ!ネマが、ネマを助けないと!!」


言われなくてもわかっている。

だが、ラルフまで何かあったら、それこそ……。


「精霊たち!この炎を消せ!」


ネマがいるなら、シンキの付けた精霊たち、炎竜殿の精霊たちがいるはずだ。

しかし、精霊たちから返事はない。

意識を凝らして精霊を見ると、いつも笑顔を絶やさない精霊たちが、苦悶の表情を浮かべている。

……愛し子の、ネマの力に引きずられているのか!?


なす(すべ)なく、ただ見ているしかできないとは。

聖獣の主として、創造神からの加護を受けていながら、幼い子供一人守れない自分が不甲斐ない。

歯を食いしばり、目の前の炎を消す方法がないかと思考が空回りする。


『ネフェルティマ、静まれ』


突如として降ってきた声。

仰ぎ見れば、青空を背にした真紅の巨体があった。


「炎竜殿」


炎竜殿が力強く羽ばたくと、猛火は徐々にではあるが勢いをなくしていく。

その光景に気をとられている隙に、ラルフが俺の腕を解いて走り出した。


「っち。待て!」


弱くなったとはいえ、いまだ炎は焼けるような熱を持って襲いかかる。

ラースが炎を押さえてくれているようだが、自分も魔法による防御を展開する。


「ネマっ!」


ラルフの方を見ると、ネマが倒れていた。

何かを守るように覆い被さり、その周りを炎が壁となってネマを守っているみたいだった。


炎竜殿が咆哮すると、すべての炎が一つとなり、炎竜殿の体へと吸い込まれていく。

炎がなくなると、炎竜殿は俺たちの側へと下り立つ。

体が大きいために、残っていた部分も壊れ、もう全壊と言っていいだろう。

そんな中、この部屋だけが辛うじて残っているような状態だ。


ラルフが治癒魔法をかけると、安心した表情を見せたが、それも一瞬だった。


「…ディー」


彼にとっても家族といえるものの名を呼ぶが、反応はない。

赤黒く変色した床と、ディーの体は広範囲が赤く染まっている。

ネマをさらったやつらに殺られたのか!?

焼け焦げた周囲を見回すと、少し離れたところに黒い塊があった。

周りの焼け方に比べて、より激しく燃えていたのだろう。

それは炭のようになっていた。

わずかばかりに人の形を残し、溶けて歪んだ剣が落ちていることからして、ネマをさらった者たちの成れの果て。

これをネマがやったというのか…。


「炎竜殿、説明願いたい」


『ネマが怒りに任せて、我の力を使い、暴走させただけのことだ』


簡単すぎる説明だったが、魔力がほとんどないネマにそんなことが可能なのか?

いや、この現状を見てしまったあとでは、魔力の有無なんて関係ないか。


『我の力は、ネマには負担が大きい。大きくなるまではと思っていたが、人の子は予想もつかぬことをする』


真名による契約でないのは、ネマのことを慮ってのことだったか。


『これだけの被害ですんだのは僥倖(ぎょうこう)だが、我が安易に竜玉を渡してしまったせいですまぬ』


幼いからといって、聖獣のことを正しく教えなかった俺にも責任はある。

炎竜殿が謝られることはない。


「炎竜様、ネマは大丈夫でしょうか?」


目を赤くしているラルフ。

ディーを亡くして辛いだろうに、それでも妹を守るために気丈に振る舞う。


『…わからぬ。神に与えられたこの力が、愛し子を傷つけるとは思えぬが』


それを聞き、ラルフはネマを強く抱きしめた。


「クレシオール様。どうか、どうかネマにご慈悲をお与えください」


治癒魔法ではない、ただ、神に縋る祈りだった。

その祈りに反応するように、精霊たちがネマの周りに集まり出す。

どこからともなく光が差し込め、炎竜殿の感嘆の声がすると、光はある姿となった。


『クレシオール様』


炎竜殿が頭を垂れる。

普段目にする女神像と同じ姿は、神々しく、まるで母親のように慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。


『ソルグランティオ、我が愛しき子を守れぬとは情けない』


『…申し訳ない』


その声音は澄んでいて、神の楽器と呼ばれるプープガーの音色のようだ。


『ラルフリード、ネフェルティマをこちらへ』


女神様に呼ばれ、ラルフはおぼつかない足取りながらも、ネマを女神様のもとへと連れていく。


『ネフェルティマ。創造の神に愛されし、可哀想な子。今は休みなさい。その傷ついた魂が癒えるまで』


女神様がネマを撫でると、ネマの顔に微かだが安堵の表情が見えた。


『そして、我が愛しき子を守りし魂よ。我が側へ(はべ)よ。いずれ来るそのときまで』


ディーの体が浮かぶと、体は小さな無数の粒となり、女神様の手元で輝く球体へと変化していった。


『ネフェルティマは時が来れば目覚める。それまでは我が守るゆえ安心おし』


そう言い残し、女神様は再び光となり、消えていった。

しばらくは誰も動けず、何も発しなかった。


「…クレシオール様、感謝いたします」


ラルフは涙を流しながら、女神様に感謝を捧げる。

ネマが助かったこと、ディーが女神様に望まれて旅立ったことに。




女神様の降臨は、王国中に知れ渡った。

王都の住人たちに多数目撃されたというのもあったが、創聖(そうせい)教があたかも自分たちの功績であるかのように公表したからだ。

ネマの存在は、ひたすら隠し通した。

愛し子として、創聖教が祀り上げるのを防ぐために。


ネマが眠りについてから、徐々にではあるが荒廃していく範囲が広がっている。

我が国としても、あらゆる対策を立てているが、いつまでもつか。


ネマ、早く起きろ。

みんながお前の目覚めを待っているぞ。


早くと言われたので、早めに更新してみました(笑)


ディーのことを悲しんでくださる方がいて、脇役にも愛着を持っていただけるというのは、本当にありがたいことだと思いました。

皆様が望んだ結果ではないかもしれませんが、ディーのこと忘れないでください!

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