オスフェ家の本気(デールラント視点)
明けましておめでとうございますm(_ _)m
「デール、わかっているの?このシアナ計画は諸刃の剣よ?」
オリヴィエの整った顔立ちが鋭くなる。
そして、その言葉に他の二人も深く頷いた。
「魔物がネマの盾となるか、魔物がルノハークとやらを呼び寄せてしまうのか。後者だった場合は、どう手を打つのだ?」
ゴーシュの言う通りだ。
シンキがネマを守る盾となればと思っていたが、ルノハークの全容自体が見えてこない以上、危険は常にある。
ネマがシアナ計画を提案してきたとき、危険なのはわかっていた。
わかってはいたが、魔物を手懐けるということを面白いと感じたのだ。
直感とも言うべきものが、やった方がよいと。
今では少し後悔している。
ネマと別れる前は、シンキとグラーティアだけだったが、ヴィルヘルト殿下からの手紙によれば、さらに増えているらしい。
我が娘ながら、困ったものだ。
「本当はせん滅したいのだがな…。ゴーシュ、シンキに稽古をつけてやってくれないか?」
「ほう。盾の方を強くするというわけか」
「あぁ。生憎とまだ時間はありそうだからな。カーナはフィリップに頼んであるから、ラルフの方はセルリアにお願いしよう」
彼らが強くなれば、必然とネマの守りも強くなる。
ラルフには悪いが、セルリアの特訓に耐えてもらうとしよう。
「しかし、調査の方はどうするのだ?部下が信用できないとなると、手駒が少なすぎる」
どうやら、サンラスもルノハークには手を焼いているようだな。
ミューガ領でも、ルノハークらしき冒険者風の集団が目撃されていると情報はあっても、それ以上詳しいことがわからない。
「すでに、情報部隊に動いてもらっている」
「彼らが動いているのに、情報がこれだけとは…。かなり厄介だな」
サンラスの言う通り、情報部隊は他国にも引けを取らない諜報機関だ。
しかも、ここの隊長は精霊術師でもあるので、精霊から情報をもらうこともできるのだ。
極秘扱いなので、知っている者はほとんどいない。
「なので、ヴィルヘルト殿下にも動いてもらうことになった。陛下も影を放ったと仰っていたが」
ヴィルヘルト殿下は聖獣の力を使い、様々な情報を集めることができる。
特に、風の精霊は情報収集が得意らしいので、他国や他の大陸についても殿下はお詳しい。
「結局、待つことしかできないわけね。後手に回るのは好きじゃないのだけど、仕方ないわ」
オリヴィエはそう言っているが、自分の領地で手駒にできる人材の確保は、着実に整っているようだ。
私の方も進めてはいるが、まだまだ足りていない。
「それはそうと、シアナ計画に必要な書類、ちゃんと通しておいたわよ」
「助かるよ」
シアナ計画はオスフェ領内でやるが、国にこういう事業をやるという申告は必要だ。
場合によっては、国から申告を却下されることもある。
そして、この申告が通れば、王立魔術研究所の協力を得やすいという利点もある。
ネマが発見したというオンセンを、山の麓まで通す仕組みを作るには、研究所の技術がなければ不可能だろうと、セルリアに言われたのだ。
あとは、オスフェ家として正式に依頼を出せば、サザール老が承諾してくれる。
そこら辺の根回しも、セルリアによって終わっているので、心配はない。
他にも、協力者として各組合が出資してくれるよう働きかけもしている。
「ほんと、ネマってば面白いことを考えつくわよね」
「そうだな。これが成功したら、ぜひうちの領でもやってもらいたいね」
「それ、いいわね!私のところもお願いね」
サンラスもオリヴィエも、好き勝手言っているが、安易に決めていないか?
「別に構わないが、仲介料は取るぞ」
「ちょっと、がめついわよ!」
馬鹿を言え。
こちらが試行錯誤して作り上げた手法を、苦労せずに手に入れるならば、相応の対価を払ってもらわないとな。
「でも、オンセンだっけ?それを領内で見つけられれば、十分美味しい話だと思わないか?」
「美容にもいいって、本当かしら?」
ちょっと待とうか。
オンセンが美容にいいなんて、初耳なんだが?
「どこで知った?」
「どこって、セルリアがネマの手紙に書いてあったと言っていたけれど…」
オリヴィエの言葉が、次第に聞こえなくなっていく。
どうしてだ!
どうしてセルリアには手紙を書いて、私には何もくれないのだ!!
それに、セルリアめ!
ネマからの手紙のこと、私に黙っているとは…。
ネマは、私のことが嫌いなのか?
はっ!これが噂に聞く反抗期というやつか!?
ネマに、お父様嫌いなんて言われたら、この先どうやって生きていけばいいんだ…。
「オリヴィエ、デールが面白いことになってるよ」
「面白いから、そのままにしておきましょ!」
この日はこれ以上、話すこともなかったのでいいのだが、三人は落ち込む私を放置していった、思いやりのないやつらだったことは明確だ。
数日後、ようやくネマたちが帰ってきた。
玄関で出迎えると、ネマが走ってこちらにやってくる。
可愛い娘を受け止めようと、両手を広げるが、ネマはセルリアの胸へと飛び込んだ。
…やはり、ネマに嫌われているのだろか。
ラルフとカーナから、帰宅の挨拶を受けるが、対照的な二人が少し面白かった。
やや疲れた様子のラルフに対して、カーナは輝きを放ちそうなほど、生命力に溢れていた。
どうやら、フィリップたちとの旅は充実したものになったようだな。
そのあとで、セルリアと子供たちの間でちょっとした話し合いが持たれたが、子供たちの説得とセルリア自身の好奇心によって、ネマが連れてきた魔物や動物を家で飼うことを許したようだ。
「おとー様、抱っこしてー」
普段よりも豪華な夕食が終わり、セルリアと二人で食後のお茶をしているときだった。
お風呂から上がったネマが、髪が濡れたままの状態でこちらにやってきた。
「お安いご用だが、濡れたままでは風邪をひいてしまうよ?」
「おとー様がかわかしてくれるでしょう?」
断られるとは微塵も思っていないところが、ネマらしいな。
まぁ、断るわけないが。
「あら。甘えん坊さんね」
セルリアの言葉に、まだ子供だからいいんだもん、と聞こえないように反論していた。
ネマの体が冷えないよう、『温かい風』と『保温』の魔法を使う。
そして、ネマの髪を梳きながら、傷めないよう優しく乾かしてやる。
ネマは、ハンレイというハイコボルトの毛並みがいかに素晴らしいかを語っていたが、髪が乾くころには、ぐっすりと眠っていた。
セルリアに、ネマを寝台に寝かせてくると告げて、ネマの部屋へと向かった。
途中、私の腕の中で眠るネマを見たパウルが、珍しく微笑みを浮かべ、はしゃぎ疲れたのでしょうねと言った。
パウルが扉を開けて、軽く寝台を整えると、どこからともなくグラーティアが現れた。
「眠っているから、起こさないようにな」
そう言うと、グラーティアは両前脚を上げた。
これは、わかったということか?
ネマを寝台に横たえて、上掛け寝具をかける。
さらに、部屋が冷えないように魔法をかける。
グラーティアはネマの頭の上で寝るみたいだが、寝相の悪いネマに潰されないようにな。
パウルは、ネマの枕元に炎竜殿の竜玉を置いた。
「優しき夜に安らぎを」
就寝時の決まり文句を唱え、ネマの部屋をあとにする。
…そういえば、スライムがいなかったようだが。
「パウル、スライムが見当たらないようだが?」
「白でしたら、台所にいますよ」
「台所?」
「はい。屑を処理してくれるとかで、ネマ様に捨て箱に入れるように言われまして」
…つまりは、スライムにとっては食事ということか。
この家も、賑やかになったものだな。
子供たちが帰ってきたことで、シアナ計画は本格的に動き始めた。
ラルフは組合の長を勧誘し、カーナは何かを作っているようだ。
セルリアも、普段の仕事をこなしながら、いろいろな人と会っている。
もちろん、ラルフを手助けするために、裏で動いている。
特にシアナ計画に乗り気だったのが、大工組合と宿屋組合だった。
ネマが考えていた宿泊施設が、今あるものと変わっていたのと、オンセンという新しいものに、興味を惹かれているようだ。
というわけで、設備の方は概ね順調というところだ。
工事自体は、結界を張ったのちになるだろうが、早ければ風の季が終わる前に完成するだろう。
ルノハークに関しては、領内の貴族のうち、信頼できる者に動いてもらうようにした。
一人はイレーガ伯爵。
ネマがゴブリンに連れていかれたときに保護した、双子の父親だ。
しっかりと身辺を調べてみたが、特に怪しいものは出てこなかった。
私の意志を政策に取り込み、成果も上げている。模範的な代主といえるだろう。
もう一人は、パーゼス侯爵だ。
彼はある意味、ルノハークの被害者でもある。
もちろん、彼のことも調べたが、相変わらずの王族主義者で安心した。
ひょっとしたら、忠誠心は私よりも強いかもしれないな。
我が領内では、パーゼス侯爵を筆頭にして、ルノハーク対策組織を作っている。
しばらくは、我が家の使用人たちにも裏の仕事をしてもらわねばならないな。
どうにか、手駒がそろったところで、子供たちがまたしてもやってくれた。
カーナはセルリアが発明した、ミュガエを使った魔法糸を改良して、新たな糸を作り出したのだ。
セルリアによると、この応用を使えば、織物に使われる糸や鉱物の性質を持った糸も作れるようになるだろうと言っていた。
となると、動物の毛を使い糸を作る従来の方法に、価値を付けることもできるというわけだ。
南のディルタ領や、鉱物資源が豊富な東のワイズ領は喉から手が出るほど欲しい技術だろう。
難点といえば、ミュガエの養殖が国に管理されている点だが。
その点の打開策を、ネマが持ってきたのだ。
ネマが言うには、魔術師が発明した技術の権利を国が管理するといったものだった。
その技術に価値があれば、お金を払ってでも使いたいと思う者がいるだろうというところから閃いたようだ。
魔術師の技術を登録してもらい、その技術の使用料を使いたい者が国に払う。
そして、国はそれを発明者である魔術師に払う。
このときに、一定の金額に達していれば、そこから税金を支払うことも可能にすれば、職業納税と同じことになる。
いくつか甘いところもあるが、充分に使えると思った。
発明者を明確にして、技術を保護するのであれば、発明者からも少しばかりお金をもらうことになるだろう。
しかし、生活を便利にする魔法などは、当たれば大きいだろう。
今まで、王立魔術研究所の独占状態だったのだから、一攫千金もありえるな。
セルリアが期待しているのは、発明したものによって、お金が発生することで、研究費用になり、より一層研究が盛んになることだ。
そうなれば、我が国はさらに発展することができるかもしれない。
やはり、我が子たちは天才だ!
ネマが、お父様の役に立ったかと聞いてきたが、この子の才能が恐ろしいほどだ!!
絶対に嫁にはやらんからな!
そう思っていたら、セルリアがネマに恐ろしい質問をした。
好きな人はいるのかと…。
ネマに好きな人だと!?
お父様は許しません!!
誰だ?ゴーシュのところのガッシュか?それともヒューイか?
どちらにせよ、あんな脳筋なガキは却下だ!
ネマと懇意にしている、騎士団の者か?
危険な職業に就いている者も却下だ!
…まさか、ヴィルヘルト殿下か…。
それこそ、闇に葬ってでも阻止してやる!
「ラース君!」
ネマの答えに、私だけでなく、家族全員が安堵したのは言うまでもない。
側に控えていた、マージェスも胸をなで下ろしている。
我が家の使用人たちにとっても、ネマのお相手は気になるところというわけか。
やはり、生半可な男には任せられないということだな。
「私の娘たちは、どこにもやらん!」
ネマを抱きしめるカーナごと、娘たちを抱きしめる。
そして、この大切な家族を守るためにも、国に害をなすであろうルノハークを野放しにしておくわけにはいかない。
久々に、本気が出せそうで嬉しい限りだ。
パパン、大暴走の回でしたー。
お仕事をする、格好いいパパンを書こうと思っていたのに、ネマが絡むと勝手に暴走していった…。
格好いい、パパンよ…いずこに…。




