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森鬼は人気者!

最近、暇なときが多いと感じる今日この頃。

シアナ計画は、私の知らないところで動いている。

お兄ちゃんが、どんどん組合の長をたらし込んで…。いや、勧誘に成功して、今では、商業組合、鍛冶組合、大工組合、宿屋組合、薬師組合などたくさんの組合がシアナ計画に参加することが決まったとか。

お兄ちゃんが言うには、大工組合と宿屋組合は動き出しているらしい。

大工組合は自分たちで下見に行って、場所の候補や測量なんかもやっちゃっているとか。

宿屋組合と宿の設計を話し合っているとか。

ちょっと、気が早くないかい?

そういえば、ママンの方でも、魔術研究所の人を調査に行かせるって言っていたな。

パパンの方は、ルノハークと思われる冒険者風の団体の目撃情報が入ったとか言っていたし、お姉ちゃんはハンレイ先生のぬいぐるみ製作にかかりっきりだ。

ソルには去勢の魔法を使える者を探して欲しいと、お願いはしてある。

今頃、風の精霊たちが頑張ってくれていると思う。

見つかったら、すぐに知らせると言っていたので、もうしばらくかかりそうだな。


で、暇はいけない。

お家でディーたちと遊ぶのもいいが、運動量が少ない気がする。

お菓子の摂取量を考えると、横に成長しないためにも、もっとアグレッシブに動かなければ!!

お菓子を食べないという方法は、私には存在しない!


さて、マージェスにお出かけの準備をお願いしよう。

私が保護者同伴なしで行ける唯一のお外は、王宮しかないのだが、竜舎や獣舎の子たちとなら、思う存分動き回れると思う。


「パウル、おうきゅうに行くって、マージェスに伝えて」


「畏まりました。くれぐれも、お怪我などなさいませんよう」


パウルも執事らしくなってきたな。

パウルがマージェスに伝えに行ってしばらくすると、お着替えしますよと使用人たちが入ってきた。

動きやすい服をお願いすると、オリヴィエ姉ちゃんからもらった、文様魔法がいっぱいのオレンジのワンピースを用意された。

そういえば、私が王宮に行くと言って、動きやすい服をお願いすると、いつも暖色系な気がする。


「今日はあかるい色なの?」


「お嫌でしたか?」


「ううん。どうしてかなって思っただけ」


「ネマお嬢様が王宮で遊ぶ(・・)際には、目立つ色をと旦那様から申しつけられておりますので」


ん?まさかの遭難用だったりしないよね?

ただの迷子防止だよね?

目立つ色なら、印象にも残りやすいだろうし。

いやいや、王宮に子供って珍しいから、王宮で働く人たちは、私だって知っているんだが…。

となると、やっぱり遭難用か…。

うん、安全対策だと思って、諦めよう!


お着替えがすんだら、森鬼とノックスを連れて一緒に馬車へ乗り込む。

残念ながら、(はく)とグラーティアはお留守番だ。

この二匹は、すぐに魔物だってバレちゃうからね。

ペット禁止な王宮でも、ノックスのような緊急連絡手段として使われる鳥はOKとなっている。

まぁ、獣舎の方では飛び回っているしね。


顔見知りの門番さんに挨拶して、馬車が王宮に着くと、これまた顔見知りの執事に似た服装の侍従(じじゅう)というお仕事の人がいた。


「ネフェルティマ様、ようこそおいでくださいました。本日はどちらに参られますか?」


私が、ヴィと遊びたいと言えば、ヴィに取り次ぎしてくれたり、竜舎や獣舎に行きたいと言えば、ダンさんやレスティンに連絡してくれる。

本来は、侍従ってお仕事は王族の秘書のようなものらしい。

我が家で言うなら、パパンやママンの専属執事みたいなものか。

王様のご好意で、王宮の窓口的な役割をしてもらっている。


「こんにちは。今日はりゅうしゃに行きたいのです!」


「畏まりました。では、迎えがきますので、こちらにどうぞ」


お迎えはヴィのときだと侍女だし、竜舎や獣舎だとそこの騎士さんが来てくれる。

もちろん、私が散歩がてら行きたいと言えば、お迎えなしでも大丈夫だ。

王宮フリーパスは伊達じゃない!


入口側のお部屋で、お茶をご馳走になっていると、またもや顔見知りの竜騎士さんが迎えに来てくれた。

まぁ、竜騎士と獣騎士に知らない顔はいないけれども。


「ネフェルティマ様、お待たせいたしました!」


「むかえに来てくれて、ありがとう。さっそく、行きましょう」


「はい。…あ、そちらの方は?」


「彼は森鬼といって、私のごえいよ。りゅうしゃに入るのに、王様のきょかがひつようかしら?」


うっかりしていたが、王宮フリーパスは私だけだった。

森鬼が施設内に入るのに、王様に許可をもらわないといけないのではなかろうか?


「そういうことでしたら、ダン隊長の許可があれば大丈夫です」


ふむ。王様に、私と一緒のとき限定で、森鬼にもフリーパスを出してもらった方がいいかもしれない。


「いえ。やはり、王様にことわりなく、というわけにもいきません。ほんじつ、王様にはいえつすることはできますでしょうか?」


部屋に控えていた侍従に声をかける。


「本日の謁見は終了しておりますが、陛下にお伺いして参ります。しばし、お待ちいただけますか?」


「はい。よろしくおねがいします」


あ!勢いで拝謁願ったけど、私も森鬼も正装じゃなかった!!

…あれ?そういえば、ちゃんとしたドレスで王様に会ったのって、最初の一回だけじゃん。

いや、でも、ワンピースでいいのか!?

うーん、日を改めた方がいい?

一人で悩んでいると、侍従が戻ってきた。


「陛下がお会いになると仰っておりますので、ご案内いたします」


えっ!?いいの??


(わたくし)めは、ここでお待ちしておりますので、いってらっしゃいませ」


竜騎士さんは待っていてくれると言うが、お仕事中なのに大丈夫なんだろうか?


「おしごとの方はいいのですか?」


「ご心配にはおよびません」


竜騎士さんがそう言うのなら、待っていてもらうか。


「なるべく早くもどりますね」


竜騎士さんを置いて、侍従に案内されたのが、いつぞやラース君に連れていかれた場所だった。

無駄に豪華な扉の前には、近衛騎士が二人立っている。

なんだか懐かしい感じがするが、相変わらず物々しいというか、恐ろしい感じもする。


「ネフェルティマ様を案内して参りました」


近衛騎士が私を認識すると、扉を開けてくれた。

侍従に促され、部屋の中に入る。

侍従も後ろからついて来たので、ちょっと安心した。

だって、王様と二人っきりとか、めっちゃ緊張しちゃうし!


部屋の中は、本棚と机しかなくて、これも変化なしだな。

机の向こうにいた王様は、上着を脱いで、シャツだけというラフな格好だった。

よかった。王様も軽装でよかった!


「ネマ、よく来たな。今日はどうしたんだ?」


「こんにちは、王様。えっと、おねがいがあって来ました」


まずは臣下の礼をしてっと。


「楽にしてよい。して、お願いとは?」


礼を崩して、姿勢を正して、いざ!


「おとー様からきいていらっしゃるかもしれませんが、私にごえいがつくことになりました。その者にも、私がいっしょのときだけ、おうきゅうへの立ち入りをみとめていただけないでしょうか?」


よし、ちゃんと言えたぞー!


「あぁ、例の件か。その者は今どこに?」


あ、そうか。王様は森鬼が魔物だって知っているんだった。


「このへやの外におります」


「連れて参れ」


私にではなく、後ろに控えていた侍従に命令したようだ。

扉が開く音がして、後ろを確認すると森鬼が入ってきたところだった。

ん?そういえば、森鬼はなんの礼を取ればいいんだ?

臣下の礼?敬愛の礼??

貴族ではないし、王宮勤めでもないから、敬愛の礼でいいか。


「りょうひざをついて、右手をむねにあて、あたまを下げてるのよ」


こっそりと教えようとも思ったが、どうやっても王様に聞こえそうなので諦めた。

森鬼は、私の言う通りに敬愛の礼をとる。


「もうしわけございません。まだ、れいぎさほうをおしえておりませんでした」


「そう、堅苦しくしなくてもよいのだぞ?彼も楽にしてくれ」


パパンもママンも、ましてやヴィもいないのに、いつも通りって失礼じゃない?

王様が許可してくれているから、いいのか?


「ありがとうございます。では、おことばに甘えて」


森鬼にも礼をやめさせ、私も普段の言葉遣いに戻そう。

ちょっと、肩凝るし。


「いつまでも立たせたままで、すまない。座って話を聞こうじゃないか」


ソファをすすめられ、森鬼と並んで座ると、ナイスタイミングでお茶が出される。

侍従の人、ずっとお茶のタイミングを計っていたのかな?


「いただきます」


お茶で喉を潤し、王様に森鬼のことを説明しようとしたときだった。


「そなたはもう、下がってよい」


そう言って、王様が侍従を下がらせた。

これは、侍従に聞かせられないお話をするということなのか?


「さて、彼がデールの言っていた魔物だね」


「はい。森鬼といいます」


私が名付けたことにより、森鬼は名前に縛られ、さらに『名に誓って』いることを説明した。


「全属性の精霊術が使えるのも、間違いはないかな?」


「はい」


「では、シンキに問う。世界の理とは何かを説明できるか?」


き、気のせいかな?

王様の目が、ママンのようになっているのは…。

あの、マッドな人たちと同じように、目がキラキラしちゃってるのは、気のせいだよね??


「世界の理とは、創造神が決めた、世界の調和だ。この世界が存在するために必要なもの。まぁ、すべては創造神の意志によって、変わるだろうがな」


「ほぉ。お前さんには、神の意志がわかると?」


「俺にはわからないが、精霊たちはわかっている。それだけで十分だろ」


森鬼よ。相手は王様なのだよ。

言葉遣いを…って、それを言っちゃうと私もってなるから、このままでいいか。

王様も固苦しくしなくていいって言ってたしさ。


「なるほどな」


王様、これだけで理解できたの?

私にはちんぷんかんぷんなんだけど!


「まぁ、心配ないとは思うが、忠告だけはしておこう。精霊に名を与えると、精霊は強くなる。しかし、その分、人の世界に近づき、創造神様の意志を聞くことができなくなる」


…精霊が人の世界に近づく?


「せいれいさんが、せいれいさんでなくなっちゃうの?」


「そうではなく、創造神様との繋がりが薄くなるといった感じだろう」


「創造神の意志がわからなくなれば、堕落者になる可能性も高くなるということか」


お、なんとなくわかってきたぞ。

精霊術師が精霊に名前を付ける。そうすると、精霊は強くなる代わりに、神様との繋がりがなくなってしまう。

神様のことがわからなくなると、精霊術師がお願いしたことが、神様の意志に反しないかが判断できず、『堕落者』になったり、『消滅』する可能性がグンッと高くなるってことか。

…あれ。精霊のことをナノって呼ぶようにしたのは、ダメだった?

個人名じゃないし、セーフだよね?


「そうだ。精霊とは、創造神様のためだけに存在し、力を奮うものだ。精霊が国を滅ぼすというのであれば、その国は創造神様には不要になったということだろう。また、滅びそうな国を救うというのであれば、まだその国は創造神様に必要とされているということだ。それらは、人の命にも当てはまるのだよ」


「むやみに、精霊から力を借りるな、ということか?」


「お前さん、なかなかの切れ者のようだな」


森鬼、すげぇな!

王様に褒められたよ!!

…って、現在進行形で、めちゃくちゃ精霊たちのお世話になってますけど!!

いつも、内緒話とか、特に風の精霊にはめっちゃお世話になりまくってますけど!!


「王様、せいれいさんたちに、いっぱい助けてもらってるのもダメなの?」


「怯えさせてしまったか。大丈夫だ、ネマ。ラースや炎竜殿といった、聖獣を通しての精霊術はまた違うものなのだよ」


うーん、何がどう違うのかわからないが、森鬼には精霊術を使わせない方がいいってこと?


「やることを与えなければ、それはそれで煩いんだがな」


「お前さん、よっぽど精霊に好かれているな。ならば、お前さんが間違った命令をしたならば、周りの精霊たちが諌めるやもしれんな」


なんだか、二人だけでわかり合っている雰囲気だな。この仲間外れな疎外感は、よくお兄ちゃんとヴィで味わっているよ。


「よし!ネマと同じように、王宮内の立ち入りを許可しよう。ネマがともにいることを条件とするが、たまには私とも語ろうではないか」


ん?どういうこと?


「シンキは特別に、私のところへは自由に来てもよいということだ」


私が首を傾げたからか、王様が説明してくれた。

…って、なんだって!!!

つまり、王様といつでも会えるよパスってこと!?


「言っておくが、精霊に関してはセルリアより詳しいぞ!」


王様の自慢気な顔という、レアなものを見てしまった。

というか、ダンディーなイケメンはどんな表情でも様になるな。

パパンも一応イケメンだけど、王様みたいにはいかないだろうなぁ。


「もちろん、ネマもいつ会いに来てくれてよいのだからな」


あれ?私のフリーパスも、さらにグレードアップした??


「いいの?」


「ああ、遠慮などせず、いつでもおいで」


こうして、森鬼は王様に気に入られ、フリーパスをゲットして、謁見は終わった。

王様はもっと話ししたそうだったが、お仕事があるので断念したようだ。

王様は精霊に関することを研究していたのかもしれない。

…ん?王様が精霊の研究だとして、ママンが魔法工学。そんでもって兄妹弟子。

サザール老の専門は文様魔法だと思っていたけど、ひょっとして違う?

弟子の専門がバラバラってあり得るのかな?

お家に帰ったら、ママンに聞いてみよう。


王様に、また来いと念を押されながらも、書斎のような部屋を退出した。

ふむ。なんだか、釈然としないというか、こんな軽いノリでいいの?ってな感じなんだが。

本当にこれでいいのか??


とりあえず、竜騎士さんが待っている部屋に戻り、今度こそ、竜舎に案内してもらう。

細かいことは忘れて、思いっきり遊ぶぞー!!


「赤ちゃんたちもだいぶ成長していますよ」


竜舎に行きがてら、竜舎の子たちの様子を聞く。

春先に生まれたリンドブルムとリンドドレイクの赤ちゃんたちは、すくすくと大きくなっているようだ。

また、竜騎士たちも巻き込んで、何か遊びたいな!


これも毎度のことなんだが、竜舎までが遠い!

最初の部屋から竜舎まで、徒歩二十分くらい。

お子様速度なので、大人だと十分か十五分かからないくらいだとは思うが。

健康のために、一駅歩こう的な距離だな。


やっとこさ着いた竜舎で、まずはダンさんに挨拶。

森鬼も紹介しないといけないしね。


「お久しぶりです、ネフェルティマ様」


「ダンさん、おじゃまします」


ダンさんは作業着のままで、手にはピッチフォークに似た農具を持っていた。

どう見ても、ヨーロッパあたりの農夫だな。


「隊長、せめて道具は置きましょう」


お迎えに来てくれた竜騎士さんが、呆れながらダンさんから農具を奪った。


「すまない。藁の入れ替えをしていてだな」


部下に怒られ、やっちまった的な顔のダンさん。

相変わらず、ここは仲がいい。

騎士なので、上下関係はしっかりしているはずなのに、気さくに言い合える雰囲気がある。

まぁ、ダンさんの人柄のおかげなのだろう。


「ダンさん、彼は森鬼といって、私のごえいなの。王様にもおゆるしをもらっているから、いっしょにりゅうしゃに入ってもいい?」


「ネフェルティマ様が一緒ならば大丈夫だろう」


あっさりと許可してもらった。

そういえば、竜舎の子たち、森鬼を見てビックリしたりしないかな?

というか、魔物だ!ってなって、攻撃してきたりしないよね?

…まずは、ギゼルに会わせた方がいいかもしれないな。


ぐるりと囲ってある柵の中に入り、早速ギゼルを呼ぶ。

私の声に気づいた子たちが、こちらに向かって来ようとしているが、上空から現れたギゼルの一鳴きで停止する。


「ギゼルッ!」


ギゼルにぎゅーっと抱きつくと、空を飛んでいたせいか、鱗がひんやりと冷たかった。


-待ちわびたぞ、ネマ。


グルルッと喉が鳴る音とともに聞こえてくるギゼルの声。

この感覚も久しぶりな気がする。


「ギゼル、私のごえいがいっしょなんだけど、彼もむれに入ってもいい?」


ギゼルに森鬼を紹介する。

森鬼は、大きなリンドブルムに何も感じないのか、ただ佇んでいるだけだった。


-変わった気配がする。人ではないな?


さすが、ギゼル!

よく、わかったね。


「そこらへんは、あとでおしえるね。ダメかな?」


-別に悪いものを感じているわけではないから、かまわんぞ。


「ありがとう!」


ギゼルも許可してくれたので、これで森鬼も一緒に竜舎で遊ぶことができる。

というわけで、ギゼルは嫌がる様子も見せず、私と森鬼を背中に乗せてくれた。


「…空を飛ぶとは、こういう感じなんだな」


王様にも、ギゼルにも反応しなかった森鬼が、飛ぶことには興味を示した。


「気持ちいいでしょ!ソルだと、まほうをかけちゃうから、風をかんじられないんだよね」


風を肌で感じる方が、断然飛んでいる感は強い!

多少寒くとも、空を飛んでいるという爽快感に比べたら、我慢も厭わない。


みんなが寛いでいる草原に到着すると、リンドブルムもリンドドレイクも我先にと集まりだした。


-ネマだー!

-遊びにきたの?

-おいかっけこ?かくれんぼ?何するの?

-誰か知らないやつがいるー。


わかった。わかったから、落ち着いてくれ!

そんなに一斉に来られると、潰されそうで怖いから!!


-煩いぞ、お前ら!


ギゼルが咆哮を上げると、またもやピタリと停止するリンドブルムたち。

さすが、ボスともなると、迫力が違うね。


「今日は、私のごえいの森鬼もいっしょだから、よろしくね」


私の一言で、一斉に注目を浴びる森鬼。

たくさんの竜に見られても、反応がないのはなぜだ!


-人間じゃない?

-人間じゃないね。

-なんだろう?


人ではないのはわかるが、種族までは掴めないのか。


「彼はね、ゴブリンだったのよ」


-ゴブリンちがう。

-ゴブリン、もっと小さいよ!


耳から聞こえるのは、ギャーギャーと騒ぐ鳴き声だが、竜玉(オーブ)を通して聞こえる竜たちの言葉は可愛くてたまらん!


「神様が進化させて、こんなに大きくなっちゃったの」


-神様?

-神様って何?

-僕も神様に大きくしてもらう!


その言葉に、一瞬だけ静かになると、僕も!私も!と、大合唱になった。

大きくしてもらうって、君たちそれ以上大きくなってどうするの?

え?人になりたいの?


-そうしたら、ネマとずっと遊べる!

-神様に人にしてもらおう!


お、おう。

頑張って、神様にお願いすれば、叶えてくれるかもしれんが…。


-…そうすると、ネマを乗せて、飛んだり走ったりはできないな。


ギゼルの一言に、再び静寂が訪れる。


-やだ!!

-僕、このままでいい。

-ネマ乗せて走るの好き!


というわけで、ギゼルのおかげで、謎の人間になりたい騒動は終結した。

この子たちは本当に、好きか嫌いかの本能だけで物事を決めているようだ。

竜騎士たちも大変だなぁ。


なんだかんだで、竜たちと遊び、森鬼も気に入られたようでよかった。

森鬼との力比べが面白かったようで、何度も挑戦している子もいた。

力比べといっても、森鬼が尻尾を引っ張るだけの、単純な遊びなのだが。

森鬼に負けて、ずるずる引っ張られるのが面白いらしい。

ただ、引っ張ってとお願いしているリンドドレイクもいたくらいだ。

ずるずるするのはいいのだが、草原の草が残念なことになっている。

あとでダンさんに言って、ちゃんと整えてもらおう。


さて、そろそろ移動しないと、赤ちゃんたちと遊ぶ時間がなくなってしまうな。

まだ遊ぶとゴネる竜たちを宥め、ギゼルに竜騎士の詰所まで送ってもらう。


「ギゼル、またねー!」


-あまり、我らを待たせるなよ。


そう言って飛び立つギゼル。

これは、もっと会いに来いということですね!

相変わらず、ツンデレさんだな、ギゼルは。


さて、ダンさんに、草原をグチャグチャにしちゃった報告をすると、またかってぼやいてた。


「また?」


「最近、草原や岩場とかを荒らすのが遊びになっていてな。草原だけでも、もう四回目だ」


ふむふむ。荒らすのが楽しいのではなく、竜騎士たちを困らせることが楽しいんだろうね。

困った子たちだ。

草原はダンさんに任せ、私は赤ちゃんたちがいる小屋に向かう。

リンドブルムとリンドドレイクの赤ちゃんは、卵のときからお世話をする竜騎士がつく。

一匹で生活できるようになるまでは、その竜騎士が寝食ともにするのだ。

だけど、お仕事のある日中は、その小屋でまとめてお世話するのだ。つまり、託児所ってこと。

もちろん、託児所にもお世話する竜騎士が数人いるのだが、それは当番制で、赤ちゃんのお世話係ではない者もするらしい。


「こんにちはー!」


託児所に突撃すると、ピギャーとかプフーとか、賑やかな鳴き声が聞こえてくる。

中は小屋というより、室内アスレチック場みたいな感じになっていた。

竜騎士の手作りであろう木の遊具や、魔法で作ったと思われるトンネルの遊具なんかが置いてあった。

これ、私も遊べるんじゃね?

端の方には、水飲み場やお昼寝用の寝床も完備してある。

これ、私も使えるんじゃね?

まぁ、お昼寝の場所には困っていないので大丈夫なのだが。

王宮でお昼寝といったら、ラース君のお腹と決まっているのだよ!

あれよりも寝心地のいいお昼寝場所はない!!


さてと、遊ぶぞー!!

赤ちゃんたちの中に入っていき、まずはそのコロコロとしたボディーを愛でる。

確かに、以前会った時よりかは大きくなっているようだが、赤ちゃん特有のポテッとした感じは残っている。


-ピギャ?

-ギャフッ!


誰だ!?みたいなリアクションだが、警戒はしていないみたいだ。


「ネマっていうの。いっしょにあそぼう!」


-プッフー!


遊ぼうと言った途端、リンドブルムの赤ちゃんが飛んできた。

しかも後ろから!


「わっと!!」


衝撃で前に倒れ、辛うじて手をつくことでベチャッとはならなかったが、犯人…いや犯竜は四つん這いになった私の背中の上で、ご機嫌な様子だ。


「ネフェルティマ様っ!」


お世話係の竜騎士が、慌てて駆け寄ってきたが、まぁ大丈夫。

ワンピースが少し汚れたくらいしか、被害はない。


-プギャッ!プップー!


背中の赤ちゃんが鳴くと、周りの赤ちゃんが竜騎士に突撃していった。


「っちょっと、お前たちっ!」


日頃鍛えている竜騎士なので、簡単にはやられないが、赤ちゃんたちの必死な訴えには撃沈した。


「わかったよっ!」


竜騎士が四つん這いになると、その背中に赤ちゃんたちも群がる。

リンドブルムはパタパタと飛んで、リンドドレイクは手足からよじ登って背中にたどり着くと、楽しそうに鳴く。

なるほど、お馬さんごっこか。

しかし、大人で鍛えている竜騎士はいいかもしれないが、子供の私には辛いものがある。

重い!

一匹だけでも重い!

背中にいる君も、あちらの竜騎士に行ってくれ。

その願いが通じたのか、背中の赤ちゃんも、竜騎士の背中に飛び移った。

とりあえず、お馬さんごっこからは離れた方がよさそうだ。


トンネルの遊具の中を覗いてみると、何匹かが身を寄せ合って寝ていた。

お昼寝用の寝床は別にあるのにと思いつつも、その寝顔を堪能する。

ピスーピスーという寝息も聞こえ、完全に熟睡しているようだ。

もしかして、暗くて狭い場所が好きなのか?

卵の中みたいで安心するとか?…ありえそうだな。

寝顔を眺めていると、ガコンッと音がした。

そちらの方を向くと、二匹が丸太で遊んでいるではないか。

観察してみると、一匹のリンドブルムが丸太によじ登り、寝そべる。

その後、もう一匹のリンドドレイクがよじ登ろうとするのだが、登る場所が悪いのか、丸太が回転して登れない。

それに巻き込まれ、寝そべっていたリンドブルムが落ちる。

リンドブルムが再び登り、リンドドレイクが丸太を転がす。また、落ちる。

それが繰り返されるものだから、落ちまくるリンドブルムが可哀想になってきた。

見ている分には、凄く楽しいのだが。

しょうがないので、リンドブルムが登ったあと、丸太が動かないよう押さえてあげると、ようやくリンドドレイクも登れた。


-プギャー


お礼を言われたみたいだ。


「どういたしまして」


リンドドレイクの子を撫でると、嬉しそうにスリスリしてくれた。

大人のリンドドレイクと同じように、頭部はゴツゴツした感じなのだが、まだ固さのようなものはない。

けして柔らかいわけではないのだが、大人とは違った感触が味わえる。


赤ちゃんたちと遊んでいたら、竜騎士が担当の赤ちゃんをお迎えに来た。


「ミリアを迎えにきました」


そう、お世話係に告げると、竜騎士は迷いもなく一匹のリンドブルムを抱き上げた。

抱き上げられたリンドブルムは不満なのか、ピギャピギャと暴れているけど。


「今日はミリアの好きなラルカフがあるぞ」


ラルカフという単語が出た途端に、赤ちゃんは暴れるのを止めた。

…現金だな、お前。

ラルカフという、赤いメロンに似た果物が好物なのだろう。

好きなもので釣られる…。この子たちらしいな。


それから、次々と竜騎士がお迎えに来たのだが、みんな間違うことなく、自分の担当の子を探し出していった。


「どうやってみわけているの?」


「体の色や鳴き声ですかね?まぁ、我が子みたいなものですから、間違うことはありませんよ」


お世話している竜騎士にとっては、自分の子は一発でわかるものらしい。

私からしたら、愛情のなせる業だと思うぞ!

ちなみに、帰り際にダンさんにも質問してみた。

赤ちゃんたちを見分けられるのか。

お世話している竜騎士は、ずっと一緒だからわかるってこともあるだろう。

しかし、お世話をしていないダンさんにはわかるのか?


「当たり前だろ?一匹一匹、顔も体つきも違うんだから」


ダンさんは、別の次元で赤ちゃんたちを見分けているみたいだ。

大人になれば、多少なりとも違いがわかるが、赤ちゃんのうちではなかなか難しい。

ふむ。私ももっと精進しなければいけないな。


お仕事が終わったパパンが迎えにきたので、一緒に帰ることにした。

私が王宮に行くと、パパンとママンに連絡がいくらしい。

帰るときにも連絡がいくので、こんな遅い時間までいてはダメだと、パパンに言われた。

赤ちゃんに夢中で失念していたが、お外はもう夕闇が支配している時間だった。


屋敷に帰ってしばらくすると、ママンも帰ってきて、パパンと同じように怒られた。

陽が落ちる前には帰ることを約束して、なんとか許してもらったが。

室内だと時間を忘れてしまうな。

そうだ!森鬼に時計を持たせよう!

帰る時間になったら、教えておくれ。



久しぶりに竜舎の子たちが登場です。

皆様、覚えていますかね?

リンドブルムが飛竜で、前脚が翼になった竜です。

リンドドレイクが地竜で、トカゲタイプな竜です。

やっぱり、生き物の赤ちゃんを書くのは楽しいですね!


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