ようやく会えたよ、あの種族!
ママンに連れてこられた冒険者組合。
王都の冒険者組合の建物は、かなり大きかった。
ベルお姉さんがいた、キャスの冒険者組合のおよそ五倍くらいだろうか?
我が家のお屋敷と比べると、一回り以上は小さいけれど、想像していたよりは大きかったから驚いた。
今日は森鬼がお休みというか、服がまだできておらず、外出禁止になってしまったので、保護者はママンだ。ちゃんと、護衛役の使用人も連れてきているけどね。
ママンに手を引かれ、建物の中に入ると、受付嬢と思われる女性がお出迎えしてくれた。
その女性に案内され、建物の奥の部屋に入ると。
応接室ではなく、組合の長の部屋なんだって。
本人が不在なのに、入っちゃっていいのかね?
パパンの執務室とは雰囲気が違い、どうやって使うのかわからないアイテムがたくさんあった。
壁一面の本棚には、隙間なく本が置かれているし、机の上にも散乱している。
パパンの執務室は、必要最低限しかものを置かない。本や書類などは、執務室の隣りに書庫があるし、机以外は窓辺にある肘かけ椅子くらいかも。
謎のアイテムが気になり、視線をキョロキョロさせる。
精霊とおぼしき像や黒い球体。これ、化石じゃないの?っていう石など、本当に様々だ。
つか、見たことのない生き物のはく製があるんだが、これ、触っても平気かな?
ちらりとママンの方を窺うが、優雅にお茶を飲んでいるので大丈夫かも。
そろ〜っとはく製に手を伸ばす。
見た目はダンゴムシの甲羅をかぶったネズミだな。
ようは、アルマジロの甲羅、鱗甲板って言うんだが、それがダンゴムシのように段々になっている。
結果、ちょっと変わったアルマジロ。
しかし、鱗甲板の色は紫だ!
触ってみると、予想に反してザラザラしてた。
見た目からツルツルしているのかと思ったのに、目の細かいヤスリみたいな感触だ。
コンコンって叩いてみると、鈍く重い音がしたので、甲羅はとても丈夫なのかもしれない。
「お待たせいたしました」
謎だらけのアイテムに、気を取られていると、誰かが入ってきた。
どうやら、このお部屋の主のようだ。
「オスフェ公爵夫人、お久しぶりでございますね」
その人物を見て、口をポカーンと開けそうになる。
はっ!いけない、いけない。ちゃんと公爵令嬢らしくしないと、ママンの顔に泥塗っちゃうね。
私は令嬢、私は女優!よし!
呪文を唱えて、いざ対峙!
目の前にいる人物がどんな人なのかを認識すると、ジワジワとテンションが上がってきた。
「貴方の望み通り、発案者を連れてきましたわ」
ママンのニコニコ笑顔。子供を自慢するときに、よく見られる笑顔だが。
「…子供…ですか?」
「えぇ。わたくしの末娘ですの」
「失礼いたしました。お嬢様、冒険者組合ガシェ王国本部の長、リリーアド・ジュダ・ワガイーターでございます」
すみません、名前がよく頭に入ってこないんです。もう一度言ってほしい。
「デールラント・オスフェのじじょ、ネフェルティマともうします」
ママンの前なので、礼儀作法はばっちし決めないとね。
頭の先から手足の先まで意識を集中して、優雅に挨拶をする。
「わたしのことは、アドとお呼びください」
よかった、助かった。
聞きなれない発音だったから、名前がよくわかんなかったんだよね。
「あの…アドはエルフですの?」
「ええ。ネフェルティマ様は、エルフをご覧になるのは初めてですか?」
「はい」
うぉぉぉ!!やっぱり、エルフだったー!!
地球でのエルフのイメージと違ったから、別の種族だったらどうしようかと思ったけど、エルフだー!
エルフだと思ったのは、なんといっても耳だよ!耳!
とんがったと言うより、本当に笹の葉のように長い。
ただ、髪は緑色で短く、目も緑。モノクルをしていて、知性は感じられるが、超美形ではない。美形っちゃ美形だが、顔面偏差値の高い我が国ではそこそこいるレベルの美形だ。
中性的な感じもせず、あとは背が高い。森鬼と同じくらいあるんでないかい?
「さぁ、ネフェルティマ様もお座りください」
アドに促され、ママンの隣に座る。
それにしても、エルフがこんなところにいるとはビックリだね。
「ネフェルティマ様はどうしてこの計画をやろうと思ったのですか?」
えーっと、なんか急に面接みたいになってんだけど…。
どう答えるべき?
「お友だちは守るべきものではございませんか?」
お友だちと言うよりは仲間なんだけど、仲間って言うと説明が面倒臭いし。
「ですが、魔物は人に害をなすものですよ?」
「それこそ、決めつけではありませんか。ゴブリンもコボルトも、森の中でじきゅーじそくができれば、人をおそうことはありません」
「人に、いや、他の種族に害をなさないと?」
アドは何が言いたいんだろう?
害をなすなさないなんて、そんなの状況次第じゃない?
「ではアドは、おそってきたものにたいして、むていこうでいるのですね?」
「はい?それはないですね」
そうでしょうとも。
普通、襲われたら、防御するなり、反撃するなりするよね。
「そういうことですわ。がいをなすなさないなんて、他のものが決めるのですから」
例外はあるだろうけどね。
オーグルとかは戦闘本能が強いために、よく他の種族を襲うらしいし。
まぁ、魔物軍団にオーグルがいないので、詳しくはわからないけど。
さすがに、オーグルやオークまで仲間にしちゃうと、あの山だと狭いだろうなぁ。
会っちゃえば、仲間になるかもしれないけど。
こればかりは、神様のお導きってやつだろうし…。
「では、なぜ、そこに冒険者を入れようとするのですか?」
「守られてばかりでは、あの子たちのためにならないでしょう?いずれは、外に出ていくのですから、たたかい方くらいはおぼえないと」
コボルトたちを見て思ったんだが、一ヶ所で保護していては、いずれ限界がくる。
繁殖をコントロールしても、生き物には種の繁栄という本能があるからだ。
ただ、増えた分を外に放つということは、魔物を増殖させるということになる。
外で増えてしまえば、結局は討伐されてしまうのだ。
今は、『ルノハーク』という脅威があるため、全体的に魔物の数は減っていると思われる。
では、その脅威が取り除かれたら?
比較的安全なレイティモ山で、ゴブリンとコボルトが増え、山を出ていく。
その中には、名前をもらって強くなっているものもいるかもしれないし、戦い方を覚えた個体も多いだろう。
つまり、死亡率が下がる。そして、繁殖率が上がる。
…あれ?これ、詰んでね??
「ネフェルティマ様は聡明な方のようですね。この計画がいかにおかしいのかお気づきになられましたね」
アドは、私が考え込んでいた様子を観察していたようだ。
その上で、聡明という言葉を使うあたり、いい性格をしている。
それくらいできないと、大きな組織の長なんてやってられないか。
「おはずかしながら、今、気づきましたわ」
それでも、笑顔で相手に告げる。
恥ずかしいと言いつつも、それは弱味にはならないよというふうに。
これは急いで作戦会議をしなければ!
つまり、一番の問題点は、増え過ぎないようにするためには、どうすればいいのか?ということだ。
ぶっちゃけ、ゴブリンたちはある程度自然淘汰されると思う。
あの原始的思考だと、レイティモ山でも危険がいっぱいあるだろう。
コボルトは…淘汰されないだろうなぁ。
名前を付ける習慣があるためか、ハイコボルトになりやすいし、言語能力があるおかげか、思考能力も高いと思う。
しかも、子だくさんだもんなぁ。
繁殖を抑えるためには、私は彼らに死ねと言わなければならないってこと?
それでは、シシリーお姉さんと約束した、安寧の地とは程遠い。
それに、私自身がそんな道を選びたくない。
うーん、久々に困ったときのソルさんだな!
-ソル!
-どうしたのだ?
-ゴブリンやコボルトを繁殖させない方法ってあるかな?
-ふむ、簡単であろう。子を生まないようにすればよい。
いやいや、ソルよ。
それができないから、相談しているんじゃないか。
-子供を生むなって言って、じゃあ生まないってできるの?
-言ったところで、どうにもなるまい。生殖能力そのものを断つのだ。
ん?んんんん!?
ソル、まさか、雄のアレをちょん切れと!!
-それって、去勢ってこと?
-おぉ!そんな言葉だったな。弱きものは、夫婦でなくとも子をなすからな。確か、古の魔法であったと思うが…。
そんな馬鹿な!
魔法で去勢ができるだと!?
人体に影響を及ぼす魔法は、治癒魔法しかないはずなのに。
-…ひょっとして、治癒魔法の一種なの?
-女神のご慈悲の一つだったと思うがの。
ちょっと、まとめようか。
まず、治癒魔法の中に、去勢できるものがある。
ただし、古の魔法ということは、今は使えない可能性もあるということだ。
どこかに文献でも残っていれば、お兄ちゃんかハンレイ先生が使えるようになるかもしれない。
…待てよ。治癒魔法に去勢があるってことは、昔にそれが必要だったってことでしょう?
繁殖しすぎるってことは、自然界のバランスが崩れるってことで、それを調整するために使っていたとか?
「一つしつもんですが、まものがたいりょーはっせいしたことってありますか?」
突然、今までの話とは関係ない質問に、アドは不思議そうに首を傾る。
「わたしが覚えている限りでは、ないと思います」
ということはだ、魔法が使える魔物か他の種族、たとえばエルフや獣人が、増えそうな動物や魔物にその魔法を使っていたとしたら?
大量発生を抑えていたとしたら、去勢の魔法を知っている可能性は大きい!
「エルフにちゆまほうを使えるものはいますの?」
「稀ですが、いることはいますよ」
去勢の魔法を使えるエルフを、精霊に探してもらえるじゃん!
エルフは精霊を見ることができる種族だって、本に書いてあったから、意思の疎通もある程度できるってことだよね?
獣人や魔物だったら、地道に探すしかないけど。
いや、一人でも見つかれば、魔法構造を教えてもらって、お兄ちゃんとハンレイ先生が覚えればいいのか!!
道が見えたぞー!!
-ソル、ありがとう!何とかなりそうだよ!
-何をするのかわからんが、役に立てたのなら何よりだ。
ソルとの念話を切り、今一度アドと向き合う。
「では、こうしましょう。あるていど、きょせーしてから外にはなちます」
「去勢…ですか?」
「えぇ。せいしょくのうりょくがなければ、ふえることはないでしょう?」
「そうきましたか…」
アドは苦笑いというか、困惑というか、複雑な表情になった。
「今回ばかりは、お馬鹿だと思っていましたが、変な方向に突き抜けてしまいましたわね」
ママンがクスクス笑っているが、ママンにお馬鹿って言われた…。
ここまでのやり取りを、口も挟まず見ていたって言うことは、ママンは気づいていたな!
シアナ計画の欠点というか、魔物の増殖をコントロールできないことに気づいていながら、黙っていたな!
つまりは、パパンもグルだな!!
つか、私、両親に試されてたってことじゃねぇか!!!
「しかし、去勢の方法があるのですか?」
なんか腹が立つが、ここは我慢だな。
ママンはほっといて、アドに集中しよう。
「いにしえのちゆまほうにあるそうです。エルフにつたわっていたりしませんか?」
「聞いたことはありませんが、エルフの治癒術師に会ったのは二季ほど前ですので」
は?二季!?
えーっと、二百年前って、アドは何歳なんだよ!
ラーシア大陸では、一年を一巡。百巡、つまり百年を一季という。使うことはまずないが、百季を一神時という。
神時は神様がまだ地上にいた時代のことらしいのだが、本当に神様が地上に下りていたかは不明。
まぁ、それだけ、遥か昔だってことだね。
「しつれーですが、アドはおいくつですの?」
「だいたい三百歳くらいです」
すっげー大雑把に言われたけど、ひょっとして歳を覚えていなかったりする?
エルフは長寿って聞いてはいたが、三百歳だとガシェ王国の建国に立ちあってたりするんじゃね?
「その魔法を使える治癒術師を探すのが大変そうですね」
「それは、せいれーさんにおねがいしようと思います」
風の精霊たちなら、あっという間に探せると思うんだよね。
「あぁ。この計画には、殿下も協力されていましたね」
ヴィとラース君に頼んでもいいし、ソルでもいいし、森鬼でもいい。
思ったより、精霊術使えるやついたな。
「ソルにおねがいします。おしえてくれたのも、ソルですし」
「ソル?」
あ、アドは知らないのか。
「北の山脈に住む、炎竜様のことですわ」
はっ!ママンにいいとこ取られた!!
「何やら、心ここに在らずって様子だったのは、炎竜様とお話をしていたからだったのね」
それもあるが、思考に没頭していたせいでもある。
「あの、炎竜様と契約を?」
「炎竜様のお心遣いで、真名の交換をしておりませんので、仮の主ってとこかしら?」
だからね、ママン。
ママンが自慢気に言わないで!
私に言わせて!!
「そうでしたか。原竜の長とも言われている炎竜様が、主を見つけられたのですね」
なんか、衝撃発言が聞こえたのは気のせいかしら?
ソルが原竜の長だとかなんとか。
…聞こえなかったことにしとこう。
ソル自身から、そんなこと言われたことないし。
「それで、ぼうけん者くみあいはどうなさるのですか?」
「あぁ。そうでしたね。残念ですが、今はまだ明確な答えは出せません。魔物が繁殖することは、去勢の魔法を使える者が見つからない限り解決とは言えません。また、前途ある若者を死なせてしまう恐れがあるのは、組合としても損害を被ることですから」
ふむ。つまりは、死というマイナス要素を除かない限り、冒険者組合は加担しないぞって言うことだな。
お兄ちゃんが言っていた、死なせないようにする魔道具がどうなっているかにもよるな。
その辺はどうなっているんだろう?
というわけで、ママンに聞いてみる。
「現段階では、完全に死者をなくすことは不可能というのが答えですわね」
やはり、厳しいのか。
そもそも、どうやって死なせないようにするのだろう?
転移魔法は無理だし、治癒魔法は治癒術師がいないと無理だし。
防御魔法を改造でもするのか?
「どういったまどうぐなのですか?」
「ここでは教えられないの。試作品で、ちゃんと結果が出ましたら、ご報告いたしますわ」
むう。凄く気になるんだが。アドがいては教えられないって、企業秘密ってやつなのかな?
「こちらの方は、いつでも構いませんので」
アドも、組合有利じゃなきゃ、やらないからなっていう心の声が聞こえる。
じゃあ、そういう利権とか絡みそうな大人の駆け引きはママンたちに任せて、私は去勢の魔法探しに専念しようかな。
結局、冒険者組合はシアナ計画に不参加っていう結果になってしまった。今のところっていう、暫定的な感じではあるが。
しかーし、ここではいそうですかとはいかないのだ!
こちらも、家族総がかりの一大プロジェクトなのだ!オスフェ家の底力、見せてあげましょう!!
冒険者組合を後にして、お屋敷に帰ってくると、早速ママンを質問攻めにする。
「おかー様がだまっていたのはわかるけど、私がこたえを出せなかったらどうしたの?」
「魔物の繁殖については、自然に任せますよ。ただし、放つ場所は選びますけれど」
んん?結局、自然淘汰ってこと?
それだと、解決策になっていないと思うんだが?
「厳しい環境に放てば、自然と生存できるものは限られるでしょう。それで強い個体が生まれたとしても、騎士団への試練とでもしておけば問題ありません」
えーっと、つまり、定期的に強い個体が生まれれば、騎士団への試金石…じゃないな、気を抜かないようにするための布石か?
魔物すらママンは利用するのか!?
…あ、私が言えることじゃないか。
「ネマ、わたくしたちは貴族ですよ。国や民に利があるのなら、魔物だろうとなんだろうと利用するものなの。騎士団が強くなれば、その分、民は安心して暮らせるの。そして、目の前に戦うべきものがあり、後ろに守るべきものがあれば、騎士団も国に牙をむこうとはしないでしょう」
…ママンが空恐ろしく思うのは、私だけだろうか?
騎士団が強くなって、クーデターを心配するのもわかるが、魔物が増え、強くなって、不満が溜まるってこともありえると思うのだが?
「そんなにかんたんにいくのかな?」
「あら。不平不満はどこにでも出てくるものなのよ。ただ、達成感が得られれば、ある程度は抑えられるものでもあるの」
なるほど。
魔物を退治した達成感。
民を守りきったという達成感。
あとは、不平不満をどこまで掌握するかは、上の手腕次第ってか。
去勢の魔法が見つからなければ、ママンの言う方法でもいいかもしれないが、ゴブリンやコボルトを厳しい環境に置くのも忍びない。
うん。早く魔法を探そう!
ソルー!手伝ってー!!
ママンのターンになるはずが、あんまりならなかった…。




