お兄ちゃんが×××すぎる!
翌日、お昼に調査官が三人到着した。
昨日の今日で!!と思ったら、レニスに到着した日に調査官の派遣をお願いしていたとか。
狸な隊長の横領問題と獣使いの暴行問題はヴィから調査官たちに引き継がれた。
この件の責任者はヴィが務めるので、調査官たちの意気込みも相当高まっているようだ。
本当に、ヴィの人気の高さにはびっくりだ。変態腹黒王子なのに…。
「ネマ、何か言ったか?」
「カッコイイデスネー」
心の中で言っていたとはいえ、察しが良過ぎるだろ。誤魔化そうとして、変なこと口走ってしまったではないか!!
「昨日、あれだけ説教されたのに、まだ懲りてないのか?」
そうなんです。
ラックさんがいる場で、ついコボルトに関わっていたことを臭わせる発言をしてしまったことで、お兄ちゃんとヴィの両方からお説教をされてしまった。
お兄ちゃんはお説教と言うより注意だったけれど、ヴィにはしこたま嫌味言われた。
自分が悪いから黙って聞いていたけど、精神がゲリゲリと削られましたとも。
腹黒改め、陰険王子と呼ぼう!
さて、残るはパーゼス侯に狸な隊長のことを知らせるだけ。これもヴィのお仕事だけど。
そうしたら、馬車に乗って次の街へ。
パパンがいないので日程を気にする必要はないが、コボルトたちが心配なので急ぎたいのは確かだ。
慌ただしくも出発の準備を終えると、赤のフラーダがお見送りに来てくれた。
「道中お気をつけて」
「ありがとう。君たちの活躍、楽しみにしているよ」
お兄ちゃんが短剣を突き出すと、剣士さんは自分の剣をお兄ちゃんの短剣に軽く当てた。
「あれ何?」
「騎士や武器を持つ冒険者の挨拶だな。お互いの武運を祈るという意味だ」
おぉ!なんか格好いいぞ!!
貴族の礼儀作法にはないもんな。学校で習ったのかな?
私はというと、最後にラックさんの耳を堪能させてもらった。
本当は尻尾がどんな感じなのかすっごく気になるのだが、それを言うと痴女認定されかねないので諦める。
熊の尻尾、気になるよねぇ?
「お嬢さんも元気でな。あまり、殿下と兄さんを困らせるなよ?」
誠心誠意、頑張ります!
みんなに手を振り、馬車に乗り込む。
だからさ、ヒールラン。お前はどうやって戻ってきているんだよ!!
ちゃっかり、騎士さん用の馬車に乗るヒールランを目撃してしまった。
いつ合流したのかもわからなかったぞ。
まぁ、人間側は誰欠けることなく出発はできた。欠けるどころか、実際は増えている。
ヴィについている、王様の私兵が増やされたらしい。姿を見たことないので、実感はないけどさ。
どうも、私が関わると、近衛騎士だけじゃ守りきれないと判断されたみたい。
そんなことはないだろと思ったが、使える手は多い方がありがたいので黙っておく。
今日向かうのはガレアという町。
ここは特に魔物の被害も報告されていないので、一泊するだけ。
ただ、問題は美味しいご飯があるかどうか。あと、お菓子もあると嬉しいのだが。そろそろ甘いものが食べたい。肉料理ばっかりは飽きる。
退屈な馬車の道中はヴィによる帝王学の授業となった。
上に立つ者の心得から、人心掌握の方法まで。ヴィが学び、自身が経験したことを踏まえて話してくれた。
民のことを思うのは良いが、民は甘やかしすぎるのもよくない。人は慣れる生き物なので、現状に慣れるとより欲張りになるからだ。民を甘やかせば、貴族はいい顔をしない。どちらを優先するかはその都度状況を見て判断しなければならない。
私は大人しくヴィの話を聞いていた。
それが私の糧になるからだ。
「ネマの場合は、まずゴブリンやコボルトから側近を選ばないとね」
ようやく、お兄ちゃんも話に入ってきた。
側近の候補ならすでにいる。名前を与えた子たちだ。
それを伝えると、お兄ちゃんは違うと首を振った。
「名前に縛られていると、ネマの言うことには逆らえないからね。ゴブリンだったら、シンキに名をつけさせるべきだ。コボルトは名持ちを選べばいい」
つまりは、身内以外からも登用しろってことですね。
「それから、一番問題になるのが人間だな。シアナ計画の根本が共存となると、人間の選別が難しくなる。ネマはすべてを疑ってかかるべきだな」
「しんよーしちゃいけないってこと?」
「信用に値する人物なら問題ないぞ?だが、その判断ができるまでどれくらい時間がかかると思う?俺の周りだって、小さいときから人となりや言動を見て、さらには親や兄弟すら観察してから決めているのだぞ?」
そうか、私はヴィに観察されていたのか。って、違う違う。
「やっぱり魔物も気をつけておいた方がいいかな。シンキの群れやシシリーの群れなら大丈夫だろうけど、他の魔物が合流するとなると、人間に恨みを持っているかもしれない」
じゃあ、私はどうしたらいいんだ!!
身内以外、誰も信用できないじゃないか!!
「うぅぅ…」
「ネマは人間を観察することから始めようか」
うなっていると、お兄ちゃんが提案してきた。
人間観察ですか…。動物の観察なら大好きなんですが、人間か。動物の一種だと思えばできないことはない、かも?
「本来なら社交に出てから、実践で学んでいくべきものなんだけどね」
ですよねー。
貴族の利害が絡む人間関係とか、昼ドラ顔負けのドロドロした男女関係とか、侍女たちが面白おかしく話してるのしか知らないし。
お兄ちゃんたちはすでに学校で習得ずみってか。
ということで、今度は人間観察のポイントや、会話で注意すること、心象の与え方など、私はどこぞの面接に挑む就活生か!っていうくらい詰め込まれた。
唯一の救いは、ある程度の話術はアンリーから習っていたこと。ただし、身についているのは最低限レベルだとヴィにダメ出しされたがな!
脳味噌がパンパンになってしまったので、休憩中のほとんどをラース君との癒しタイムに当てた。座ってばかりも辛いので、ノックスと追いかけっこして遊んだりもした。馬車の馬に餌をあげるのを手伝い、ついでになでなでもしといた。
やっとこさガレアに着いたときは、屍のようになっていたけど。ご褒美として、お兄ちゃんがマドレーヌのような焼き菓子を買ってくれたので、無事復活!
脳みそ使ったときは甘いものに限るね!
ガレアはレニスには及ばないものの、大きな街道沿いということもあり、かなり賑わっていた。
今日泊まる宿は町で一番高級な宿だし、前もって立ち寄ることは知らせてあったので、町長や地方豪族みたいな人たちからの出迎えもあった。
その人たちの相手はヴィとお兄ちゃんがしたので、私はまたもや仲間外れ。最近、仲間外れされることが多いな…。
だがしかし!この宿には看板犬がいたのだ!!
看板犬はフェルギーという種類で、獣騎隊にもいたはずだ。全体的にビーグルに似ているが、色は白と黒のツートーンだ。黒地に白なのか、白地に黒なのか微妙なところで、面積的には白の方が割合多いかも。
毛並みはラース君や我が家のディーには劣るものの、愛嬌のよさは完璧だ。さすが看板犬!
お腹をわしゃわしゃしてあげると、大人しく腹を見せるのだから慣れてるなと思った。
これも接客のうちなのだろう。気持ちよさげに目を閉じ、尻尾を振ってもっと撫でろと要求してくる様も板についている。
おっと、君の尻尾でホコリが舞うから、少し落ち着こうな。
すると、女将さんらしき女性が、わんこのおやつを持ってきてくれた。餌づけもできるとは、やりよるな!
ちなみに、わんこのおやつは有料だった。ほんと、商売上手な女将さんだな。
わんこと戯れているうちに、挨拶に来た人たちは帰っていったみたい。
ご飯にするから、手をしっかりと洗ってこいと言われ、爪の中までしっかりと洗ってやった。
私とお兄ちゃん、ヴィの三人は護衛の関係上、ヴィの部屋で食べて、騎士さんたちは下の食堂で交代で食べるよう。
みんなで一緒にワイワイやる方が楽しいのだが、野宿でもない限りそれはできない。
だけど、最後の日くらいは私の我儘を発動させて、みんなでご飯を食べようと企んではいる。
バーベキューみたいにして、外で食べるのも面白そうだよね!
高級な宿なので、ご飯もフルコースだった。
前菜はあちらの世界でもお馴染みのパテみたいなもの。黄色のパテの上には色とりどりの丸い物体が載っている。
一口サイズよりさらに小さめにしてあり、お兄ちゃんはパテと丸い物体を一緒に口に入れた。
お兄ちゃんの真似をして食べてみると、それはまるでスイーツの如く。黄色のパテはオレンジピールのような甘みの中にほろ苦さがあり、丸い物体は潰すととろりとしたシロップが溢れる。シロップ自体はスースーするミントみたいで、パテと合わさると甘みが鼻から抜けるような感じだ。美味いかと言われれば美味い!次はここら辺で採れる新鮮野菜のサラダ、スープはモツのようなお肉を使ったがっつり系。だけど味は程よい酸味があって、ペロリと食べきれる。
フランス料理ならスープの次はパンなのだが、こちらではナンのような平たいパンが出る。少しスープを残しておいて、それに浸して食べるのもいいし、次の魚料理と一緒に食べるのもまた美味い。
魚料理はガードラというマグロより大きな魚だ。デカいくせに白身魚だ。味は濃厚で白子みたいな感じかな?サーダの実のソースが味を引き締めるのに一翼を担っているな!
で、ここでソルベが来ると思いきや、こっちではフルーツなんだな、これが。
口直しなのは同じなんだけどね。ぶどうみたいな見た目で味が柚子っぽい。皮ごと食べれるが、酸味のおかげで、梅干しを食べたときみたいに口がキュッとなる。
お肉料理は骨付きソテー。上品に食べるのが一苦労な一品だ。お肉自体は羊に近い生き物だったかな。図鑑でしか見たことないのだが、毛は糸や暖房材に使え、乳は栄養価が高く、若い個体の肉は上質な赤身肉。その名もメーデルだ!
お肉を堪能したあとは、香草茶で一休み。もちろん、デザートが待ってますとも。
デザートはベリーっぽいソースがかかったクレープもどき。これも綺麗に食べるのに腕が問われる一品である。
生クリームの代わりは、ライズの樹液と呼ばれるものだ。ライズの木からとれる樹液は、他の液体と混ぜると膨張し、メレンゲのようにふわふわになる。それを様々な果汁で作っているのだ。
今回はソースがベリー系なので、中もベリー系かと思いきや、チョコ系だった。
チョコとベリーって相性抜群だよね!
こちらのチョコはカカオではなく、デアという実の種から作られる高級食材だ。なので、デアのお菓子は中々食べられない。新年のお祝いに王宮のパーティーに出て、やっと巡り会えるスーパーレアだ。
これは、じっくりと味わうしかないだろう。
デザートは時間をかけて味わい、食後の紅茶は至福の一時だった。
マジで料理人さんに感謝です。ごちそうさまでした。
あとはお風呂に入って、明日に備えて寝るだけ。お風呂はお兄ちゃんと一緒に入った。
お兄ちゃんってば、着痩せするタイプだったみたいで、脱いだら凄かった!
綺麗な細マッチョ。ゴツくなく、バランスよくついた筋肉。腹筋も程よい感じに割れていた。いつの間に鍛えてたんだろ?
まぁ、幼少期の特典だと思って、脳裏に焼きつけておこう。
今日はお兄ちゃんが一緒に寝てくれるようだ。
最近、寝相が悪いことに気がついたので、お兄ちゃんを蹴飛ばさないか心配だ。
元々、寝つきはいいのだが、お兄ちゃんが一緒だといつもより安心する。うさぎさんじゃなく、お兄ちゃんに抱きついたまま寝てしまった。
翌朝、目を開けるとお兄ちゃんの麗しい寝顔が!!
顔がいいと寝顔ですら美しいなんて卑怯だ!
私自身はすっぽりお兄ちゃんの腕の中ですが、身動き取れません。これのおかげで、蹴飛ばさなくてすんだのか?
お兄ちゃんの寝顔も、ちゃんと焼きつけてから起こす。
「おにー様、おきて」
もぞもぞと体を動かすと、ぎゅーっと力を入れられた。シトラス系の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。
我が兄ながら、将来に不安を覚えた。きっとこの顔でたくさんの人をたらして、自分に有利に持っていく、そんな公爵様になりそうだ。
ってことは、お兄ちゃんが腹黒だったりするのか?いやいや、お兄ちゃんは天然王子様だ。それは変わらないでいてもらいたい。
なんてことを思っていたら、お兄ちゃんがやっと起きたみたいだ。
「おはよう、ネマ」
「おはようございます、おにー様」
お兄ちゃんに手伝ってもらいながらも準備を終えると、朝ご飯の時間に。
朝ご飯も大いに期待できそうだな。
ヴィの部屋に向かうと、すでにいい匂いが漂っている。
朝ご飯はシンプルだった。
キッシュのような卵のタルトと、焼き立てのパン。スープはコンソメっぽくて、根野菜がたっぷり入っていた。締めにはフルーツで、パイナップルみたいな酸味と甘みが絶妙なフーグ。見た目がイチジクだったけど。
全部をペロリと平らげて、紅茶を飲みながら今日の予定を聞く。映画に出てくるような、優雅な朝ご飯だなぁと思う。
ここから馬車で3時間くらいのところに、ダーシュレという街がある。この街には転移魔法陣が設置してあるので、それでフォーべという街に飛ぶらしい。
馬車の中ではお勉強で、ダーシュレを見学する暇もなくフォーべへ。
転移魔法のキラキラはやっぱり眩しすぎて目を開けていられなかった。
サングラスでもあれば、魔法が発動するところを見れるかもしれないな。
フォーべまで来ると、周りの風景が春らしくなっていた。
オスフェ領の南側にあるためか、アーセンタのような寒々しさはなかった。
そこまで雪も積もらない地域なのか、街中の建物も木造が多く見られた。
さて、私たちの次の目的地はレイティモ山の麓にある村、ジグだ。
ジグ村の周辺で、魔物の目撃情報が増えているとのことだったが、パパンはルノハークとは無関係だろうと言っていた。
目撃情報は海。いくらルノハークでも、海の魔物までは追い立てられないだろうとのこと。
しかも、目撃情報がバラバラなため、魔物が特定できていないらしい。
今回は様子見ということで、視察に組み込まれている。必要であれば、ミューガ領が持っている水上専門の討伐部隊の派遣を依頼するらしい。
この討伐部隊は騎士団とは関係なく、ミューガ領主が水上輸送の安全性を高めるために組織したものだ。
海や大河に棲む魔物のスペシャリスト集団である。
フォーべからジグ村まで、またもや馬車である。こういうときはしみじみ、車のありがたさを感じるな。
外の風景が賑やかで飽きはしなかった。
王都とは違った街並み、鮮やかな緑に色とりどりの花。動物たちも活発に動いており、鳥の群れやジャイアントボアの親子なんかもいた。
景色を楽しんでいると、海が見えてきた。
懐かしい潮の香りに、前世で生まれ育った町を思い出す。
毎年、兄弟や友人たちと泳ぎに行ったり、花火をしに行ったり、真冬なのに波打ち際で遊んだり、様々な思い出がある。
「おにー様、あれがうみでしょ!行ってみたい!」
こちらに来てからは、一度も見たことがないので知らないふりをする。
「そうだよ。時間が取れたら、連れていってあげるね」
ならば、無理矢理にでも時間を作ってやろうではないか!いや、それよりも、海に行く口実があればいいのではなかろうか?
だって、目撃情報は海なんでしょ?だったら、海を調べに行くと思うから、ついて行けばいいんじゃね?
海に興奮しながら、馬車の窓に齧りついていると、あっという間にジグ村に着いた。
村は見るからに漁村だった。いたるところに漁で使った網が干してあったり、干物らしきものまである。
昔の日本に通じる何かがあった。これが郷愁ってやつなのかもしれない。
この村でお世話になるのは村長さんのお家。村の中でも一際大きなお家で、家の裏にはすぐに漁に出られるように船着き場があった。
「ようこそお越しくださいました。村長をしております、マグラート・ジグと申します」
「父の代理で来ました、ラルフリード・オスフェです。妹のネフェルティマと友人のヴィルヘルト」
この紹介だと、王子ってことは黙っておくのかな?
王都以外だと、近衛騎士も王国騎士も見分けられる人が少ないから、全部お兄ちゃんの護衛だと言えばバレないと思うが。護衛、多すぎないか?
「おせわになります」
何はともあれ挨拶は大事だ。
「これはご丁寧にありがとうございます」
村長さんはゴーシュじーちゃん並みに厳つい海の男だった。
真っ黒に日焼けした肌に、深い皺。年いってもなお、衰えていないもりもりの筋肉。
見た目は老けているが、ひょっとしたらもう少し若いかもしれない。
「では、目撃されている魔物について、話を聞かせてもらっても?」
「もちろんです。こちらにどうぞ」
村長さんに案内されたのは居間っぽいところ。
背の低い大きなテーブルがあり、椅子はない。
そして、オープンキッチンとでも言えばいいのか、居間から調理場が見える。その調理場の一部が外に繋がっていた。そこには大きな石でできた台があった。
たぶん、魚を捌いたりする場所だと思われる。大きな魚になると、血や内臓の処理が大変だから、船の上でやったり、水場が整った作業場でやるのを見たことがある。もちろん、見たのは日本でだが、あれも似たようなものだろう。
さて、椅子がないので床に座るのだが、直ではなく絨毯があって、座布団みたいなクッションもあるのだが、座り方に困る。
正座か?それともお姉さん座りか?まさかの胡座とか??
困惑する私に、お兄ちゃんが正解を教えてくれた。
「レイティモ地方からミューガのジーダグ地方の文化でね、こういうふうに座るんだよ」
なるほど。地方独自の文化でしたか。
正解はお姉さん座り。横座りが正式名称だったはず。でもこれ、女性限定の座り方らしい。男性は片膝立てた胡座。こっちの方が楽そうでいいな。
出されたお茶は香草茶だった。一般的に飲まれているのが香草茶で、ハーブティーと言ってもいい。
葉っぱの種類によって、いろいろな効果がある。
「魔物が目撃されるようになったのは、土の季の初めごろでした。最初は大きな魚のようで、別の海域から紛れ込んだハグレだと思いました」
土の季とは冬のことだ。春は風の季、夏は水の季、秋は火の季、冬は土の季。これが一回巡ると一巡と言い、一年にあたる。
「しかし、次に目撃されたのは馬のようだったと。他にも、魚人のようだったり、メーデルのようだったなど、統一性がなく、目撃情報が増えていく中で、ついに被害が出ました。子供が攫われたのです」
残念ながら、その攫われた子供は未だ見つかっていないらしい。
「魔物が同じものなのか、それとも多数いるのかもわかりません。魔物がいるせいか、漁に出ても魚が取れない日が多くて、このままでは村は…」
村長さんの顔には、悲愴感が見て取れた。
子供のことも心配だろうし、このままでは村が立ちいかなくなる不安もあるのだろう。
「数日、僕たちが魔物の調査をします。正体さえわかれば、ミューガの討伐部隊の派遣も依頼できますので」
お兄ちゃんの発言に、村長さんは驚いたようだ。
「ありがたいお話ですが、領主様のご子息に何かあっては、我々は領主様に顔向けできません」
「大丈夫ですよ。僕も父には怒られたくないので、無茶はしません。ちゃんと護衛もつけていますから、心配無用です」
まぁ、半分以上はヴィの護衛だがな。
「しかし…」
そう簡単には納得してくれないよね。
なんと言っても、お兄ちゃんは次期公爵であり、領主だ。
いくら村が大事でも、お兄ちゃんに何かあったら、村の責任になって潰されるかもしれないと考えてもおかしくない。
パパンはそんなことしないと思うけどさ。
「でしたら、案内役をつけて頂けますか?ここ一帯の地理に詳しい者を。そうしたら、事前に危険な場所がわかりますし」
「…畏まりました」
「では、僕たちは少しこの村を見てきます」
「村の中では魔物は出ておりませんが、お気をつけください。お戻りになられるまでに、昼食と案内役を準備しておきますので」
話がまとまったようなので、一度村長さんのお家をあとにする。
まず向かったのが漁港。
漁港は入り江を利用していて、小さな砂浜とその両側の岸に大小様々な船が係留してある。
岸からはいくつか桟橋が伸びていて、そこから乗船するようだ。
ただ、入り江の出口が狭いので、大きい船だと一隻しか通れないんじゃないかな?
砂浜には、干物の台があり、空いた隙間に海藻が干してあった。
あれ、わかめかな?それとも昆布かな??昆布だったらいい出汁が取れそうなんだが。
干物の台では奥様方が作業をしているので、少し話を聞いてみることにした。
「お忙しい中すみません。ここら一帯に出現する魔物についてお聞きしたいのですが?」
突然話しかけられたせいか、奥様方はビックリしたのち、警戒した。
そりゃそうだ。話しかけたのはお兄ちゃんではなく班長さんだからね。
軽鎧の装備とはいえ、武装した厳つい兄ちゃんに声かけられたら誰でも怪しむだろう。
厳ついとはいっても、班長さんはナイスガイだ。いや、雰囲気イケメン?顔面偏差値は周りに及ばないものの、大人な頼れる男オーラはお兄ちゃんやヴィにはないものだ。もちろん、パパンにもない!
「あんたたちは誰だい?」
奥様方の代表なのだろうか?恰幅のいい、ザ・おばちゃん!が応えた。
「領主様のご命令により、魔物を調査しにきた者です」
班長さんは自分の長剣に刻まれた王国騎士団の紋章を見せた。
「あぁ、村長が言っていた人たちか」
奥様方は合点がいったというように頷いた。
「魔物のことと言ってもねぇ。あたしたちは海に出ないから」
「そうですか。海以外では魔物は出ていませんか?」
「どうだろうねぇ。レイティモ山で見たっていう人もいたけど…。元々あそこは禁足の地なんだよ」
「と、いうと?」
「村の伝承でね。海の恵みにあやかりたければ、山に立ち入らずって。だから、今でも男衆は山には入らないのさ。旅の者が言っていただけだから、確証はないよ」
うーん、なんで山に入っちゃいけないんだろう?
何か秘密でもあるのかな?
山の秘密といえば…財宝?海辺の村だから、海賊のお宝とか??
ちょっと冒険っぽくてワクワクする!!
「話し途中に失礼。どなたかご家族が魔物を目撃した方はいますか?」
およ。お兄ちゃん参戦。
美少年の登場に奥様方が動揺している。
これで、美青年のヴィが入ったらどうなるのか!?
同じ歳なのに、美少年と美青年ってどうよって感じだが、お兄ちゃんの成長期はこれからなのだ!
「…あ、あたしの旦那が見たよ」
「詳しく聞かせてください」
お兄ちゃんのにっこりスマイルに奥様方撃沈!
美しい顔はこうやって武器にするのか…。私には到底できないけどね。
「あの、ガールの近くで見たって」
奥様が示したのは、入り江の向こう。レイティモ山から伸びるように隆起した崖だ。
「なるほど。ガールね」
ガールとは、ラーシア語で飛び出たとか突出っていう感じで使う言葉なんだけど、名称みたいにも使うんだね。
まぁ、日本の地名と同じようなものかも。地形とか土地の特徴だったり。あ、神様に由来するものも多いか。
あれ?なんかこんがらがってきたぞ。
……もう、ガールでいいか。
「そういえば、トッカの旦那もそんなこと言ってなかったかい?」
「あぁ。ガールには魔物がいるって騒いでいたときがあったねぇ」
どこぞの旦那がああ言ってたとか、誰それがこう言ってたとか、出るわ出るわ奥様方の噂話。
つまり、目撃場所はガールの付近に集中してるってことか。
盛り上がっているところ悪いが、奥様方の後ろに謎の生物がいるのだが、どうしたらいいだろう?
謎の生物は大きな鳥で、体毛は青く、ハシビロコウのような分厚く大きな嘴と鋭い目つき。脚は長くないが、色は赤く水かきがついている。
大きさとしてはペリカンくらいだろうか?
「ヴィ、あれ…」
「…なんの鳥だろうな?」
「うん。お魚食べてるけど…」
「あー…」
ヴィもどうしたものかと苦笑している。
仕方ないので、班長さんにアレと指差して教える。
「すみません。干物が鳥の被害にあっているのですが…」
班長さんが言うと、奥様方は素晴らしい瞬発力で後ろを確認し、敵をロックオンしたら、魚を捌いていた包丁を持って突撃していった。
顔は見てはいけない。トラウマになる気がするから。
奥様方が放つ殺気に気づいた鳥は、バギャーバギャーと正に馬鹿にした鳴き声を残して飛び去ってしまった。
「馬鹿鳥!!次は絶対に焼いて食ってやるからねっ!!」
空に向かって包丁を振り回す奥様。…鬼嫁だ!!
さっきの鳥はなんだったんだろう?
我が家の庭にもたくさんの鳥たちが遊びにくるが、あの鳥は見たことがない。
鳥に詳しい庭師ならわかるかもしれないが、いないものはしょうがない。
「申し訳ない。私たちが話しかけてしまったばかりに」
「いいんだよ。あいつはいつかとっちめてやるから!!」
「あの鳥は?」
お兄ちゃんが私の代わりに質問してくれた。
「土の季に渡ってくる鳥でバンドゥフォルヴォステっていう種類だよ」
はい?ワンモアプリーズ!
「バンドゥ…?」
「はははっ!覚えづらいだろう?私たちはバンって呼んでいるさね」
バンね。バン。お家に帰ったら調べよう。
「あいつは怪我しちまって、群れから外されたのさ。村にいついてしまってね、ああやって悪さばっかりしているのさ」
うーん、春になっても飛び立たないってことは、まだどこか悪いのかもしれない。
野生ならなおさら、夏がくる前に北に向かうはずだ。いくら群れから外されたといっても、渡るのは習性だし、餌なども関係してくるし。
餌か…。ああやって、干物とかを狙うのも、海で獲るのがムリだからなのか?
ちょっと気にしておこう。仲良くなれれば、お兄ちゃんに頼んで、怪我を診てもらおう。
「ネマ、余計なことに気を取られるなよ?」
「うぅ…」
「お前が考えるべきことは、どうやってコボルトたちをレイティモ山へ入れるかだ。村の住人が近づかないとはいえ、絶対ではない。人に見つかったとき、今度こそ討伐されるぞ」
ごもっともです。はい。
他の生き物を心配している余裕なんてない。
でも、傷ついているかもしれない生き物をそのままにしておくことも、私にはできない。
「…はやくかいけつすれば、あの子とかかわってもいいでしょ?」
「はぁ…」
でっかい溜め息吐かれたよ。
なんか申し訳ない。でも、見捨てることはできないよ。
「魔物のこととコボルトのことが早く落ち着いたらね。大丈夫、僕もついていくから」
お兄ちゃんの優しさが身に染みる。
お兄ちゃんが大好きすぎて困るほど。妹でなかったらプロポーズしたいくらいだ。
「おにー様!!」
大好きを表すために、お兄ちゃんに抱きつく。
「お前が甘やかすから、ネマが増長するだろうが」
「そうかもしれないけれど、今だけだからね。こうして甘やかせるのは。カーナもネマもいずれは外の世界へ行ってしまうだろうし」
「外のせかい??」
お兄ちゃんの言っていることが、抽象的すぎてよくわからん。
「カーナは魔法の研究のために世界中を飛び回りそうだし、ネマはもっと手の届かないところに行ってしまいそうだね」
手の届かないところってどこだ?
もしかして、私はよその国に嫁に出されてしまうのだろうか?
ヴィはなんだか納得した顔しているし…。政略結婚決定か!?
「おにー様のそばにいる!」
政略結婚が逃れられないとしても、せめて国内にしてくれ!!
「ごめん、不安にしてしまったね。大丈夫、何があっても、ネマのことは離さないからね」
…なんかとてつもなく恥ずかしいんだが…。
プロポーズみたいじゃね?
人前じゃなかったら、悶えたい!!
つか、今のセリフを録音しておきたい!!
もう私は嫁に行かん!お兄ちゃんが結婚しても、立派な小姑になってやろうじゃないか!!
「そこの馬鹿兄妹。馬鹿やってないで戻るぞ」
ヴィめ。この麗しい兄妹愛がわからんのか?
羨ましいのか?羨ましいだろう!
「ヴィも好きだよー」
やべっ、悪ノリしすぎたか?
なんかヴィの鬼畜スイッチを押した気がする…。
「ほう。ならば結婚するか?」
その笑い方は面白がってる笑い方だな!!
「それはヤダ!!」
ヴィみたいな夫はいらない!
「…ネマ」
ヴィの手が伸びてきて、ほっぺたを抓られた。
「ひちゃいぃぃぃ!!」
「まぁ、ネマには俺の相手は務まらないだろうがな」
おうとも!誰が好き好んで変態陰険鬼畜王子の嫁になるか!!
…あ、物好きはいるか。
お兄ちゃんのターン!!
お兄ちゃんが嫁に欲しい今日この頃、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
サブタイトルの×××には好きな言葉を入れて下さいね。
さて、これが今年最後の更新となります。
今年一年、お付き合い下さいまして、ありがとうございましたm(_ _)m
引き続き、来年もネマ共々よろしくお願いいたします。
私はこれから10日間、スーパー繁忙期に突入しますので、栄養ドリンクを友に頑張ってきます( ̄^ ̄)ゞ




