クエンバ渓谷の魔物たち 後編(森鬼視点)
「私が気を失っている間にいったい何が……」
スピカを叩き起こしたら、最初にギゼルのことで俺に怒り、エトカがいることに気づいて驚き、状況を説明すると見事に困惑している。
そんなスピカをエトカに任せて、俺は精霊に問いかけた。
「獣王の歌に操られているコボルトを助けるにはどうしたらいい?」
ここには博識な者も発想が奇抜な者もいない。頼るべきなのが精霊なのだが……。
『雌の獣王に歌ってもらえばいいよー』
「それ以外ではないのか?」
案の定、精霊は実行できないものを提案してきた。
『放っておくとか?』
『一日もしないでおさまるしねー』
雌の獣王が歌えばすぐに治るが、それ以外では歌の効果が切れるまで待つしかないということか。
「気絶させるか、毒で寝かせるのはどうだ?」
思いついたのは、強制的に意識を刈り取る方法だ。
気を失ったスピカは、大人しくて扱いやすかったからな。
『毒は効くんじゃない?』
『気絶はねー』
『歌で元気もりもりだからぁ』
精霊たちの抽象的な言葉をなんとか読み解くと、雄の獣王の歌で身体強化されているから、気絶させられたとしてもすぐに目を覚ますのではないかということだった。
ここにハクやグラーティアがいれば、簡単に対処できただろうな。
ハクの麻痺毒、グラーティアの様々な毒は、一般的な魔物が保有する毒より強いそうだ。
獣王の歌で強化されたコボルトにも効いた可能性はある。
だが、主もパウルも魔物たちもおらず、使える戦力は俺とスピカ、そしてコボルトたちだけとなると……力業で乗り切るしか方法ない。
「毒は効く可能性があるそうだ。眠らせたり、痺れさせる毒を持っているか?」
新しい住処へ移動するとき、エトカはにおい消しという、とにかく臭い煙が出るものを持っていた。
彼はそういったものを作るのが得意なようなので、何か持ち歩いているはずだ。
力業で乗り切るにしても、使えるものがあるなら使う。
「痺れるやつならあるが、数はない。住処から持ってこさせるか?」
「取りにいくのではなく?」
今から取りにいくのでは間に合わないかもしれないので、住処にいる者が届けられるならその方がいいが……。
「シンキが協力してくれればな」
牙を見せて笑うエトカ。
そして、鳴き声を風に乗せて、住処の方に流して欲しいと言われた。
「鳴き声?」
精霊を使えば、言葉も届けることができる。
精霊を見聞きできる者がいなければ、一方だけの連絡手段となるが。
「突然いない奴がしゃべりかけてきたら驚くだろう?だから、鳴き声の方がいいんだ」
セーゴとリクセーは、ラーシア語をしゃべっているときはそうでもないが、鳴き声は離れていても聞こえることがあったな。
つまり、遠くまで聞こえることがある鳴き声であれば、突然聞こえても驚かないと。
そういうことならと、精霊たちにエトカの鳴き声を新しい住処へ届けるように頼む。
「ウォーーン、オーーンウォン……」
鳴き声と言うから、セーゴやリクセーのような鳴き声だと思っていたが、遠吠えだったので少し驚いた。
昔聞いたコボルトの遠吠えと比べると少し声が高い気もするが、状況によって使い分けているのかもしれない。
「うぅぅ……がまん……」
エトカが遠吠えをしているさなか、スピカの落ち着きがなくなる。
理由を問おうとしたのだが、エトカに合わせるようにスピカも遠吠えを始め、すべてを察した。
軍部の訓練場で、狼族の獣人が遠吠えをすると、つられて何人もの狼族の獣人が遠吠えを始める場面に遭遇したことがある。
あのときは偉い奴にうるさいと怒られていたが……。
スピカもエトカの遠吠えを聞いて、狼族の習性に抗えなくなったのだろう。
「スピカ、遠吠えが上手くなったな!」
「でしょ!!」
エトカに褒められて、尻尾を振りながら自慢げに胸を張るスピカ。
スピカが言うには、主の側につくための訓練で、セーゴやリクセーとともに喉が潰れそうになるくらい特訓させられたそうだ。
今は基本、セーゴもリクセーも主の側にいるため、遠吠えを使うことはほとんどない。主もパウルもいない今なら……という気持ちもあったのだろう。
まぁ、遠吠えしたからといて怒るほどのことでもないしな。
「物が届いたら、俺とスピカでコボルトを捕らえる。エトカは届けにきた者とともに、捕らえたコボルトを痺れさせるなり、眠らせるなりしてくれ」
俺がそう告げると、俺はまだしもスピカでは危険だとエトカが反対した。
エトカの中では、スピカはまだ群れにいたときの、子供のままの印象なのか?
「スピカはもう幼体ではないぞ?」
成体にはまだ少し早いだろうか、あの頃のような何もできない子供ではない。
「そうかもしれないけど、相手は狩猟の氏の中でも腕が立つ奴らだぞ!?」
「エトカさん!私、強いんで大丈夫です!!」
オーグルを一人で倒すことはまだ無理だろうが、身体能力が上がっているコボルト相手でも十分に戦える。
まぁ、コボルトを無傷で無力化するまではできないだろうが。
「パウルさんいないし、重りは外してもいい?」
「あぁ、問題ない」
重りといっても、武器や防具の代わりになるようなものなので、つけたまま戦っても支障はないと思うが。その重りでとどめを刺しかねないのかもしれないな。
それに、今のような非常時であれば、パウルもとやかく言わないだろう。
エトカも、俺とスピカがそう言うならと、スピカが戦うことを了承した。
◆◆◆
新しい住処にいるコボルトが、頼んだものを持ってくるのに、さほど時間はかからなかった。
その速さににも驚いたが、届けにきたコボルトの数が多かったことにも驚いた。
皆、おかしくなった仲間を心配してとのことだが……。
「体は大丈夫なのか?一度やられたんだろう?」
「癒やしの氏に治癒魔法をかけてもらったから大丈夫だ。お前さんの邪魔はしないよ」
そう言ってきたので、俺も無理に止めることはしなかった。
コボルトたちを全員集め、これから行うことを説明する。
エトカが新しい住処から持ってこさせたものは、痺れの粉と眠りの塗り薬だった。
痺れの粉は食べると体が痺れて動けなくなる実の汁を乾燥させて粉にしたもので、眠りの塗り薬は鼻の下に少量塗るだけで快眠できる薬らしい。
新しい住処では何が起きるかわからないため、これらの毒や薬を備えとして、多めに用意したそうだ。
まず、俺とスピカでコボルトたちをオーグルの群れから引き離す。
コボルトたちは痺れの粉と眠りの塗り薬を使う一名と、コボルトを住処に運ぶ二名を一班とする。
俺たちが気絶させるなりしておかしくなったコボルトの動きを止め、その隙に薬を使う。あとは無力化したコボルトを運ぶだけだ。
薬を使う者たちでそのつど班を再編していけば、すべてのコボルトを運ぶことができる。
「精霊によると、おかしくなったコボルトたちはオーグルの群れと合流したそうだ。住処に運んだあとは、追加で痺れの粉を嗅がすなり、眠りの塗り薬を塗るなりしてくれ。あと、オーグルには絶対近づくなよ」
説明を終えると、二名で運ぶのは無理だという意見が上がる。
狩猟の氏のコボルトは体格がいい者が多いということで、何か乗せて運べるものが必要だと言われた。
匠の氏の者がいれば、オーグルがへし折った木の残骸でそういったものを作れるだろうが……。
魔法が使える賢者の氏もいないため、俺がなんとかするしかないようだ。
「ナノ、あの倒れている木を板にすることはできるか?」
そう問うと、すぐにできると返ってきた。
『どれくらいの大きさの板にする?』
『あの木より大きいのは無理!』
『板で何を作るの?ぼくたちも遊べるもの?』
何か遊び道具を作ると勘違いした精霊たちがわらわらと集まってきたが、今は遊んでいる暇はないぞ?
コボルトたちに聞いて、狩猟の氏を運ぶのに必要な板の大きさを決める。
板の長さと幅、厚み。そして、運びやすいように持ち手が欲しいと、みんなの意見をまとめたエトカが地面に絵を描いていく。
主がこんなのが欲しいと描いてみせる絵に似ているが、エトカの方が上手かった。
「ナノたちなら、この絵の通りに作れるな?」
『まっかせて!』
『私たちのやることないじゃない!』
『まぁまぁ。ここは風と土に任せようよ』
風の精霊がやる気になっているのは不安だ。板にするのではなく、粉々にしたりしないよな?
どうなるか見守っていると、倒れた木に風の精霊と土の精霊が群がり、強い風が吹くたびに、倒れた木が切り刻まれていった。
『どーよ!』
『これくらいあればいい?』
倒れた木から切り出された板は、エトカが描いた絵の通りだった。ただし、量が多いがな。
これだけの量があれば、コボルトだけでなく精霊にも運ばせることができるんじゃないか?
「ナノたちで、板に乗せたコボルトを運ぶことはできるか?」
『それは無理!』
『シンキを手伝うのはいいけど、コボルトはだめなのよ』
そんな気はしていたが、やはり精霊が関われる範囲はわかりづらい。仕方ないな。
「住処に運び込んだあとは丸一日、何があっても拘束は解くな。目を覚ましたら、眠りの塗り薬を追加して眠らせておくんだ」
そうして、俺とスピカはコボルトたちを引き連れ、オーグルの群れを追った。
精霊に聞くまでもなく、オーグルの痕跡はしっかりと残っているので、それをたどるだけだ。
「シンキお兄ちゃん、そろそろだよ」
何かしらのにおいを嗅ぎ取ったのか、スピカが教えてくれた。
走る速度を落とし、精霊にこちらのにおいがオーグルの群れに届かないようにしてもらう。
目視できる距離まで近づくと、エトカに視線で止まるよう合図する。
「スピカ、準備はいいか?」
「うん!」
スピカの足元には、外した重りが転がっている。
服を脱がなくても外せたのか……。
身軽になって嬉しいと、スピカは尻尾を激しく振り、今にも飛び出していきそうなほどだった。
「行くぞ!」
すべて言い終える前にスピカが飛び出す。
スピカは最初から狙っていたかのように、武の氏のコボルトに向かっていく。
仲間を心配していたスピカだが、強者とやり合うことにはしゃいでいるようだ。
足技を出すと見せかけて、コボルトの顎に手のひらを叩き込むスピカ。
……戦い方がパウルに似てきているな。
だが、一発では仕留められなかった。
ふらつきながらも、スピカを殴ろうとするコボルトに、スピカは笑いながらもう一度顎に叩き込む。
二度目は耐えられなかったようで、コボルトは叩き込めれた勢いで後ろに倒れた。
同じ群れだった者にも容赦ないな。
倒れたコボルトは、エトカたちが回収していく。
スピカの動きを注視しながら、周りのコボルトたちの反応も窺う。
獣王の歌を聞いておかしくなっているとしても、急に現れたスピカに対して反応しなかったことが気にかかった。
戦いの気配があれば嬉々として襲いかかってくるオーグルも、こちらに気づくことなく暴れながら真っ直ぐ砦の方へ進んでいる。
身体強化だけでなく、洗脳や暗示といったものが作用しているのだろうか?
なんであれ、複数を相手しなくていいこの状況はやりやすくていい。
一気に片付けられる数ではあるが、そうするとエトカたちが処理しきれなくなるので、調整しながら一体ずつ倒していった。
スピカは武器を使う相手には多少手こずっているので、ゆっくりやれと言わなくてよさそうだ。
手加減するのに手こずるなら、重りをしたままの方がよかったのかもな。
『シンキ!ソル様がオーグル燃やすってー』
突然精霊がそんなことを言ってきて、危うく一発食らうところだった。
「炎竜殿がなぜ?」
ラース殿ならともかく、炎竜殿はコボルトに関わったことなかったはずだが?
炎竜殿がコボルトのために動くとは思えない。
『リンドブルムたちがお願いしてた!』
『オーグルは臭いからいやだってー』
以前、ライナス帝国にオーグルを運んできたときにもそんなことを言っていた。
とはいえ、竜種にとっての原竜は王のような存在じゃないのか?
精霊の言い方もあるのかもしれないが、そんな気軽にお願いできるものなのかと疑問を覚える。
『だから、早く逃げた方がいいよー』
『ソル様、急いでいるんだって』
『愛し子がソル様呼んでたから』
主のことだから、炎竜殿の力が必要になった。もしくは、何か奇抜なことでも思いついて炎竜殿を呼び寄せたのだろう。
主の身に何かあったのであれば、精霊たちがもっと騒いでいるはずだ。
主が何かをするつもりなら、俺たちも早く向かうべきだな。
「スピカ、残りの奴らを今すぐ倒せ。エトカ、急いでここを離れないといけなくなった」
詳しく説明せずとも、スピカとエトカたちコボルトは動いてくれた。
炎竜殿が力を使うとしたら、森ごとオーグルを燃やすと思われる。その範囲がどこまでかわからないので、とにかくオーグルの群れから距離を取るしかない。
「ナノ、炎竜殿に俺たちの詳しい位置を知らせてくれ」
おかしくなったコボルトをすべて気絶させ、エトカの嫁らが眠りの塗り薬を塗っていく。
板を取りにいく暇もないので、二、三匹で一匹を抱えて運んでいった。
俺も気絶させたコボルトを三匹まとめて担ぎ、エトカに撤収を急がせる。
『伝えたら、早くしろって言われた!』
コボルトを担いでいると走りにくいな。うっかり落としそうだ。
スピカはコボルトを背負っているが、身長差もあってか、コボルトの足は引きずられていた。
『早く早く!』
『もうやるよー』
『私たちはソル様のところに行ってくるわね』
精霊たちにせかされながら走っていると、火の精霊たちは我慢できないとばかりに炎竜殿の方へ飛んでいく。
それを目で追うと、倒れた木々の隙間から見える空に赤い色があった。
距離はあるはずなのに、はっきりと炎竜殿だとわかる。
つい、足を止めて炎竜殿を見てしまう。
精霊は燃やすと言っていたが、魔法で燃やすのか気になったのだ。
炎竜殿が大きく口を開いた。
口から火の魔法ではなく、白い玉のようなものが放たれ、真っ直ぐ地上に落ちていく。
白い玉が木々で見えなくなった次の瞬間――見たこともない白い炎が吹き上がった。
白い炎が触れると木々は瞬く間に黒くなり、葉は粉々に散り、枝は砕けるように折れ、幹は内側から赤い炎に焼かれる。
直感で、魔法ではないと思った。
いや、魔法だったとしても、この地上に生きるものには使えないものだ。
白い炎に魅入っていると、とてつもない熱風を感じた。
熱風だけで、体が焼かれそうなほど熱い。
『愛し子の眷属らよ。まだそんなところにおったのか』
『早く去れ。この風だけでも弱きものたちは燃える』
水の精霊王と風の精霊王に似た空気をまとう精霊にそう告げられた。
「上位精霊か」
よく見れば、中位精霊も普段より多くいることに気づく。
『我らとて、聖獣様のお力を抑えるには限界がある』
『今はソル様が加減してくださったゆえ、我らでも対処できているだけ』
俺の知らないところで、この上位精霊たちはいろいろと動いていたらしい。
森の動物たちはオーグルに怯えてほとんどが逃げているが、巣穴に逃げ込んだ動物たちには精霊の知らせを使って逃がしたり、自分たちの補佐をさせるために中位精霊を呼び寄せたりと。
そして今は、炎竜殿が放った炎の影響を最小限に抑えてくれている。
そんなときに俺たちがここにいると気が散るので、さっさと移動して欲しいようだ。
「すまんな。すぐ移動する」
そう告げて、もう一度だけ白い炎を見やる。
オーグルたちももう生きてはいないだろう。
獣王の歌に操られ、戦わずして死んでしまった彼らを少しだけ憐れに思った。
猟なら過ち、戦いなら誉れ。力の氏のゴヴァが語っていた、コボルトの考え方だ。
だが、あのオーグルたちには過ちすらも与えられなかった。
闘争本能の強いオーグルが何もせずに死ぬのは、ただの無駄死にだ。
そう思えるのは、俺が主側にいるからだろう。
ホブゴブリンのままだったら、自分の群れが巻き込まれなくてよかったくらいにしか思っていないかもな。
なんとか全員を新しい住処まで運ぶ。
住処にいたコボルトやゴブリンたちがこちらに気づき、慌ただしく駆け寄ってきた。
そして、俺が担いでいたコボルトを受け取り、どこかに連れていく。
「おさ、ぶじでよかった」
身軽になり、強張っていた体をほぐすように腕を回していたら、シュキに声をかけられた。
「あぁ。お前たちもおかしなことはないな?」
シュキたちには、餌を探すときでも住処から離れすぎないよう言いつけていたので、大丈夫だと思うが……。
「コボルトだけが変だ。なにがあった?」
怪我して戻ってきたり、意識のない者を運んできたりと、コボルトが慌ただしくしていたので、何か問題が起きたことは理解しているようだ。
先に運ばれたコボルトの様子を見るため、運び込まれた先に向かいながら、シュキに何があったのかを話す。
「しばらく……三日ほどは住処から離れないようにしろ。食うものがなくなったら、コボルトの長かエトカに相談するんだ。いいな?」
「わかった。おさにしたがう」
話が終わっても、シュキは俺についてきた。
おかしくなったコボルトを隔離している場所は、オンセンの近くにある小屋だった。
中では、痺れの粉を嗅がせたり、手足を縛ったりと、意識が戻って暴れても大丈夫なよう、対策が行われていた。
「あー、毛がチリチリになってる!?」
その手伝いをしていたスピカが、突然叫ぶ。
運んでいたと思われるコボルトの尻尾を手に、慌てていた。
その尻尾の毛は不自然に縮れている。
「それくらい、切るか剃れば平気でしょ」
「どうせ、生え変わるんだし」
周りのコボルトたちは、毛ならどうにでもなると、慌てるスピカを笑う。
俺が運んだコボルトはどうなのかと調べてみると、そちらも同じように尻尾や足の毛が縮れていた。
『ソル様のでー』
『焼けちゃった?』
『尻尾ちりちり〜!』
あぁ、あの熱風を浴びたせいか。意外なところに被害があったな。
「俺やスピカはなんともないが?」
熱風のせいで毛が縮んだのであれば、俺の髪やスピカの尻尾も同じようになっていてもおかしくはないはずだ。
『シンキとスピカは!』
『ぼくたちが守った!!』
『えらいでしょ!』
なるほどな。俺とスピカは愛し子に連なる者だから精霊に守られたが、コボルトたちはそうではなかったと。
「このチリチリ、治癒魔法で治るのか?」
異様に毛に執着している主が、このことを知れば悲しむ。
『治るよー』
『頑張れば、カイみたいなサラサラになる』
なぜそこでカイの毛が出てくるのかわからない。
精霊たちもカイの毛を気に入っているのか?
治るならと、正気に戻ったら治癒魔法をかけるよう、新しい住処の長である緑の氏長に頼んだ。
「スピカ、そろそろ行くぞ」
「もう行くの?外が見えるオンセンに入ってからでも……」
スピカは名残惜しそうに窓の外を見やる。
「主が待っているぞ」
「シンキお兄ちゃん、早く行こう!」
主のことを口にすると、即座に態度を変えた。
主に会いにいくには、リンドブルムに乗って砦に戻らなければならないのを忘れているな。
スピカに促されて、住処をあとにする。




