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帰る前にも一騒ぎ。

女神様がお戻りになられるということで、全員でお見送りする。


「クレシオール様、ありがとうございます!」


『ルクス様とネフェルティマが何を成すか、楽しみにしておるぞ』


女神様はそう言い残してサクッと帰っていった。

なんか、前もこんなんだったような?

女神様がいなくなって、ただの石像となった女神像。これ、どうするんだろう?


「では、妾たちも精霊宮に戻るとするか」

「女神様の像、壊さないように」

「ルクス様、精霊宮にも遊びにきてくださいねー」

「それでは、ルクス様。御前を失礼いたします。愛し子、また会おう」


精霊王たちもそれぞれ言いたいことを言って帰っていく。

あ、帰るときもそれぞれの属性のものから帰るのね。

火の精霊王が炎に入っていく姿は、わかっていてもひやっとした。


――ヒヒィーン!


サチェが甲高く鳴き、帰ることを知らせてくれた。


「サチェ、先帝様によろしくね。先帝様、すごくおどろくだろうから、説明もしてあげてね」


任せておけと鼻を鳴らすサチェ。

そして、プールの水に溶けるように消えていった。


「カイディーテは……」


『あの子ならクレシオールのあとに帰ったよ』


ルクス様の言葉に驚くも、カイディーテならさもありなんと思い直す。

ほんと、早く帰りたかったんだろうなぁ。皇太后様のもとに。

皇太后様、小さくなったカイディーテを見てどう思うかな?

皇太后様なら、小さくなった姿を喜んでくれそうだけど……。


『では、我も住処に戻るとしよう』


「えー、ソルも帰っちゃうの?」


女神様たちが帰り、広間にガランとした空気が漂う中、ソルまで帰ってしまってはすっからかんになってしまうではないか。


『ルノハークとやらの件が解決したのであれば、お主は国に戻るのであろう?さすればいつでも会えるではないか』


確かに、一応ルノハークからの避難ということで、ライナス帝国にお世話になっていた。

原因がなくなったのであれば、避難を続ける理由はない。

我が家に戻りさえすれば、また夜中に抜け出して遊べると。

それに、今の大きさのソルなら、竜舎の子たちとも一緒に遊べるのでは?

竜舎の子たちもソルを慕っているみたいだし、そして何より、おじいちゃん扱いされているソルが見たい!

となると、ここに出動している子たちに捕まって、あの子たちを相手にするのは疲れるといった、マイナスな印象を持たれるのはよくない。

うん。住処に帰ってゆっくり休んで、そのときに備えてもらおう。


「わかった。戻ったらいっぱい遊ぶからね」


こうして、ソルも帰っていき、聖獣はディーとラース君だけになった。

淋しい……。


「ネマ、俺たちも一度、宮殿に戻るぞ」


ヴィに促され、私たちは外に出た。

信徒らの目があるので、ルクス様には念のため、ぬいぐるみのふりをしてもらうことに……。見た目は本物のぬいぐるみだけどさ。

建物の中には騎士や軍人たちが残り、これからいろいろ調べるそうだ。

建物の外は慌ただしく、拘束具をつけられた人たちが檻に押し込まれているところだった。

この光景、プシュー作戦でも見たな。


そのとき、少し離れた場所で大きな咆哮(ほうこう)が上がった。

鳴き声からしてワイバーンのようだが?


「何があった?」


「殿下!申し訳ございません。うちの竜があちらのワイバーンを怒らせてしまい……」


こちらに駆け寄ってきた竜騎士に事情を聞くと、そこそこ緊迫した雰囲気なのがわかった。


「ネマ、頼めるか?」


「いいよー。お礼はラース君の半日貸切権で」


わかった、わかったと軽く流されたが、言質は取ったからね!

うさぎさんリュックも戻ったし、仲介くらいすぐ終わるだろうと余裕こいてたら、想像以上に緊迫してたー!!

深く息を吸ってぇ……。


「全員動くなーっ!!」


大きな声を出して、こちらに意識を向けさせる。


「まずはワイバーンの……ガルン!その子から口を離しなさい!」


名前がわからなくて詰まったら、飛竜兵団の兵士がこっそり教えてくれた。助かります。

名前を呼ばれたからか、ガルンは警戒しながらもゆっくりと口を開き、そのまま後退る。


「ガルン、いい子ね。じゃあ、どうして噛んだか教えてくれる?」


ワイバーンのガルンは、竜騎部隊のリンドブルムの首に噛みついていた。

急所を狙うということは、仕留めるつもりで襲ったはずだ。

しかし、ガルンもしっかりと訓練がされた飛竜兵団のワイバーンなので、理由もなく襲うとは考えられない。


――こいつが我らのせいにしてきたからだ。


ふむ。何か罪をなすりつけたと。


「何をワイバーンのせいにされたの?」


――炎竜様が帰ってしまわれたのは、我らワイバーンがいるせいだと!!


言っているうちに怒りがぶり返し、再び咆哮を上げるガルン。


――だって、炎竜様は竜の娘がいるのにすぐ帰ったじゃないか!


リンドブルムも納得がいかないのか、負けじと咆哮する。

これは……あちゃーな事案だな。

竜種たちがソルに挨拶する時間を設ければよかったと、今さら後悔した。


「ロイグはどうしてワイバーンのせいだと思ったの?」


ガルンに噛まれていたリンドブルムは、竜舎の子たちの中ではまだ若手の方なロイグ。

若い個体の中では特に飛翔能力に優れており、相棒である竜騎士とも関係は良好。

このまま育てば、ギゼルの次くらいには強くなるのではと期待されている子だ。


――炎竜様はぼくたちには優しいから。何も言わずに帰るなんて、ワイバーンが嫌いだからだよ!


うむー。同じ飛竜同士でも、リンドブルムとワイバーンは相性が悪いのだろうか?

そういえば、ルンルもワイバーンに対抗意識を持っていたな。

ソルたち原竜からしたら、自分たちよりも小さいから無下にはできないって感じだったけどなー。


「ソルはどの竜種も嫌うことなんてないよ。今日は力をいっぱい使って疲れたから、休んでもらうために早く帰したの」


ソルがなぜ帰ったのかを説明しても、ロイグは不満を表したままだった。

尻尾をビッタンビッタンと地面に叩きつけている。


「ロイグの勘違いだったのはわかるね?」


ロイグはプイッと顔を背ける。

ふて腐れているときの仕草も可愛いんだよなぁってほっこりしそうになったけど、今は我慢!


「今度、ソルといっしょに竜舎へ行こうと思っていたのになぁ。ロイグがそんな態度じゃ、ソルに会わせるの不安だなぁ」


本当だったらじっくり話し合うべきなんだけど、ヴィからの早くしろというプレッシャーがかけられているので、ここはソルで釣ることにした。


――炎竜様が来るの!?


「でも、こんなふうに誤解……勘違いされるなら、行かないって言うかもね」


――えぇぇ……。


ロイグは葛藤している。

ワイバーンがソルに嫌われていないと認めたくない。でも認めないとソルに会えない。

人間で言うところの頭を抱えている状態なのか、グゥグゥと珍しい鳴き声も漏れている。


――竜の娘御よ。そちらばかりが恵まれているのは不公平というものだ。


今度はワイバーンの方から不満が出た。

ここは平等にどちらの竜舎にも遊びにいくと言えればいいんだけどなぁ……。

ライナス帝国はサチェとユーシェがいるから、ソルは気を使って行きたがらないと思う。


「ライナス帝国にはサチェとユーシェがいるでしょう?特にユーシェはソルと仲良くないから……」


ワイバーンには聖獣がどこの国にいようと関係ないが、聖獣同士の縄張りが関わってくるとなれば引き下がるしかない。


「もしユーシェが許してくれたら、風竜さんを呼ぶのはどうかな?」


火と水という属性もあって相性が悪いのであれば、他の属性なら問題ないはず。

水竜ならもっとよかったんだけど、今はワジテ大陸にいるらしいので、私が接触することができない。

さすがに、初めましての原竜を呼びつけるわけにもいかないしさ。


――おぉ!風竜様ともお知り合いか!ぜひ頼む。我らが長もお喜びになる。


飛竜兵団のワイバーンの長といえば、ダノンか。


「ダノンは元気している?また竜舎に遊びにいってもいい?」


飛竜兵団の竜舎は気軽に遊びにいけるような場所にないので、責任者の許可と転移魔法陣の使用許可と私の保護者という名の命綱係が必要になのだ。


――いつでも来るがいい。もう少ししたら、幼子たちが飛ぶ練習をしている光景が見られるだろう。


大型の飛竜は、卵から孵っても約二年ほどは飛ぶことができない。大きな体を飛ばすには、骨格と筋肉が十分に育たないといけないからだ。

なので、幼子と言ってももうそこそこ大きい子たちなのだが、巣立ち前の雛のように翼をバサバサしている姿はきっと可愛らしいだろう。


「絶対行く!」


ガルンと約束をすると、ロイグが風竜にも会いたいとごね始めた。

ソルで我慢しなさいと言うわけにもいかず、ソルか風竜のどちらかしか呼べないとはっきりと告げる。


――炎竜様がいい。


そうでしょう?

ソルか風竜のどちらかなら、まだ交流のあるソルを選ぶことはわかっていた。


「じゃあ、ロイグがやらないといけないことはわかるかしら?」


――ぼくあやまらない!


はぁ、思っていたより頑固だった。

次はどの手を打つか悩んでいたら、ドッドッと鈍い足音を立てて、別のリンドブルムがやってきた。

どの子だろう?と特徴を探していたら、いきなりバヂンッという嫌な音が響く。

やってきたリンドブルムが容赦なく、尻尾をロイグに叩きつけたのだ。


――いたい……。


ロイグが痛みを感じているということは、かなり力の入った一撃だったみたい。


――キィナ姉さんがロイグ叩いてこいって。


新たにやってきたリンドブルムは竜舎の年中さんにあたるリュノスで、リュノスが言っていたキィナはギゼルより年上の年長さんだ。

キィナは野生で過ごしていた時間が長かったこともあり、喧嘩の仲裁とかはしないのに珍しいな。

だが、キィナが怒っているであろうことは、ロイグも身をもって理解した様子。


――……ワイバーンのせいにしてごめんなさい。


――よい。我も幼子にふざけがすぎた。


幼子と言われて、ロイグはムッとして尻尾をビタンビタンしたが、リュノスがそれを揶揄(からか)ってしまい……。


――幼子じゃない!


ロイグはリュノスに威嚇し、リュノスはロイグの尻尾を避けながら逃げる。


――逃げるなー!


ドタドタ、バッサバッサと激しい音を立てながら追いかけっこが始まった。

誰もがこの展開にどうしたものかと頭を悩ませていると、一際大きな咆哮が響き渡る。


「あー、あれはキィナの声ですね」


結局、ロイグだけでなく、リュノスも一緒にキィナに怒られたみたい。


「ガルンさん、うちのロイグが申し訳ない」


竜騎士がガルンに謝る。

この竜騎士はロイグの相棒ではないが、竜騎部隊の者として、ガルンと飛竜兵団の兵士たちに誠意を見せた。


「大丈夫ですよ。うちのガルンも大人げなかったんですから」


――こやつに言われるのは、なんだか気に食わん!


ガルンの不満を他所に、竜騎士と兵士は互いに謝罪合戦を始めた。

うちのロイグが、うちのガルンがと言っているうちに、会話の内容がおかしな方向に……。


「それにしても、ワイバーンは強いですね」


「賢い分、扱いが大変で……。リンドブルムは素直な子が多くて羨ましいですよ」


お前のところのちゃんと訓練してんのか?お前のところよりは賢いわ。そっちこそ、リンドブルムに舐められてんじゃねーの?

という副音声が聞こえた気がする。

ちょこちょこ嫌味を匂わせながら、竜の自慢をし合う二人。

……もしかして、竜騎部隊と飛竜兵団も仲が悪いの?


「あれ?竜たちが喧嘩しているって聞いたんだけど……」


軍人さんが心配して駆けつけたようだが、竜がガルンしかいないので、誤報かと困惑している。

そして、彼の後ろには、全身を苔色のような濁った緑色のローブで覆った怪しい人物がいた。


「あ、竜医長さん?」


ローブの色は違えど、あの背中がこんもりローブは竜医長さんしかいない!

だが、竜医長さんからの返事はない。


「精霊たち、竜医長の声を聞こえるようにしてくれ」


ヴィがそうお願いしているのを聞いて、そうだったと思い出す。

竜医長さん、めっちゃシャイで、声が小さかったわ。


「陛下の命で来た」


どうやら、竜医長さんと一緒に来た軍人さんも竜医さんのようだ。

二国の竜が同じ任務に当たるということで、トラブルが起きないよう、陛下が竜医長まで派遣してくれたみたい。

とりあえず、ガルンがロイグを噛んだときに口を傷めたりしていないか診てもらうことに。

結果は異常なし。


「喧嘩したリンドブルムも見せてもらいたい」


竜騎士は返答に詰まる。

他国の人を自国の竜に近づけていいものなのかと。


「構わない」


竜騎士ではなく、ヴィが返答してしまった。

自国の王太子が承諾したのであれば、一応それに従わなければならない。


「竜騎部隊の副隊長に聞かなくていいの?」


「出血も酷いようには見えなかったし、部隊の治癒術師でも対応できると思うが、せっかくの機会だ。竜騎士たちも学べることがあるだろう」


技術協力的なやつかな?

確かに、同じ飛竜を扱っている者同士、得られるものはあると思うけど……本当に副隊長に一言もなく決めて大丈夫?あとで怒られても知らないよ?


竜医長さんたちと別れ、帰る準備が整うまで休憩することにした。

ヴィは騎士たちに指示を出さないといけないからと別行動になったが、去り際に釘を刺される。


「うろちょろするなよ。ここで大人しくしておけ」


「はーい」


ちゃんと返事をしたのに、ヴィは信用ならんと森鬼にまで念押しする。


「シンキ、絶対に目を離すなよ?」


「わかった」


森鬼がいれば精霊ともおしゃべりできるし、退屈はしないだろう。

そういえば、獣王様とその番さんもいるんだよね?

獣王様の姿を探すと、何やらテオさんともめている様子。


ヴィに動くなって言われたばかりだしなぁ。近くではあるけど、すぐ戻ればバレないかな?

いや、バレたときが面倒だな。

あのお二人が私に気づいて、こっちに来てくれないだろうか?

呼んでもいいが、それはそれで礼儀知らずになってしまいそうだ。あちらは獣王様と大国の皇子様だし。

やっぱり、あちら側に気づいてもらうしかない!

おーい!こっち見てー!と、お二人に念を送る。

数分ほど念を送り続けると、獣王様がこっちを見た。

にっこり笑って小さく手を振ると、獣王様がこちらに向かってやってくる。

早足な上に、なんだか顔が怖い……。


「ネマ嬢、無事であったか!」


「はい、みなさんのおかげで無事です」


獣王様は以前と変わらない、麗しい笑顔を見せてくれた。


「獣王様の番さんが見つかったって聞いたんですけど……」


番さんらしき獣人は見当たらない。

あの派手な翼ならすぐに目に入るはずなんだが。


「わたしの番は治癒魔法を受けて眠っている。ネマ嬢がつらい思いをしたのにすまないが、君のおかげでわたしの番を取り戻せた。感謝する」


獣王様は番さんと再会できたことが心から嬉しいのだろう。

今も感極まって泣きそうになっている。


「急に連れていかれてびっくりしたけど、ヘリオス伯爵もアイセ様も紳士的だったから、怖い目にはあっていません。だから、獣王様は私のことは気にせず、番さんが戻ったことを喜んでいいんですよ」


牢屋に閉じ込められて退屈だった時間を除けば、比較的楽しく過ごせていた。

ご飯も美味しかったし、さらわれた割にはいい待遇だった。


「そうか。ネマ嬢は強いな」


「私が強いんじゃなくて、周りに恵まれているんです」


その点に関してだけは、愛し子でよかったと思う。

愛し子でなかったら聖獣たちと仲良くなれなかったし、その契約者である陛下たちとも深く関わるようなことはなかっただろう。

そうしたら、ダオとマーリエと、あれほど仲良くなれたかわからない。


「それもネマ嬢の強さだと、わたしは思うぞ」


獣王様に褒められて嬉しい反面、気恥ずかしくもある。

話題を変えようと、テオさんと何を話していたのか聞いてみた。


「テオヴァール殿下に番とともにライナス帝国で保護すると言われてね。しかし、それではイクゥに住む獣人たちに余計な不安と疑念を植えかねない」


なるほど。

テオさんはお二人を心配しての提案なんだろうけど、獣王様の言うことも理解できる。

使節団が帰ってきたのに、獣王様だけ帰ってこないとなれば、ライナス帝国に囚われたのだと言い出す人も出てくるだろう。

でも、お二人の身の安全を考えるなら、ライナス帝国にお世話になる方が断然いい。

ユーシェは不審者に容赦ないから。


「今、イクゥ国に戻るのは危険だと思います。ヘリオス伯爵に加担していた者もたくさんいるだろうし、ヘリオス伯爵が捕まったことで獣王様を恨む人もいるでしょう。そんな敵だらけのところでは、番さんも安らげないのでは?」


「それはそうだが、何か事が起きれば、ライナス帝国の迷惑となってしまう」


他国に迷惑をかけたくないし、状況によっては獣人同士で争うことになるから、それは避けたいと……。

うーん、今のイクゥ国の様子がわからないしなぁ。

確か、ユーシェに氷漬けにされた使節団の人たちの件で、ルイさんが直接出向いたとかだったよね?

じゃあ、ガシェ王国に来る?って言いたいところだが、王宮の敷地内には竜舎がある。

いくら獣王様とはいえ、竜種の気配が近くにあっては落ち着かないだろうし、番さんの体調にもよくないと思う。

どうしたものかと悩んでいたら、ぬいぐるみのふりをしたルクス様が、獣王様にはバレないよう、クイクイと私の服を引っ張った。


「獣王様、ちょっと待っててください。いなくならないでくださいね!」


獣王様にそう告げて、私は森鬼を引っ張って距離を取る。


「森鬼、精霊さんにお願いして、ルクス様の声を他の人には聞こえないようにできる?」


「そうすると、主以外聞こえなくなるがいいのか?」


あー、事情を知っている人だけのときでも、私が間を取り持つ必要があるのか。


「ルクス様、念話はできないの?」


『神託の権限は置いてきたから無理だ』


神様クラスになると、念話は神託扱いになるのか!

まぁ、無理ならしょうがない。


「あ!じゃあ、私と森鬼だけに聞こえるようにはどう?」


「それなら可能らしいが……俺もなのか?」


「うん。状況によっては、ルクス様の言葉とするよりも、精霊から聞いたことにした方がいいこともあるかもしれないし」


神様の分身が言ってますよ、なんて堂々と言えるわけがないので、精霊を隠れ蓑にさせてもらおう作戦だ。


「なるほど。お前たちはそれで構わないのか?」


隠れ蓑にされることを精霊たちに問う森鬼。

少しの間があり、精霊たちが承諾してくれたと教えてくれた。


「では、ナノ。ルクス様の声を、主と俺だけが聞こえるようにしてくれ」


精霊にお願いしたあと、森鬼が軽く頷いたので、ルクス様に何かあったのか聞く。


『神託があったことにすればよい。約束事のこともあるしね』


「えぇ!そんなことしたら、創聖教が怒ると思うよ?」


神託を偽るのは創聖教もやっていることかもしれないが、だからこそ許さないと思う。


『それこそ、ネフェルティマが言っていたことだろう?愛し子や契約者の出番ではないか?』


本当だ!

ルクス様から言い出した以上、ある意味神託でも間違いじゃない。そして、ここで神託を受けたという実績を作っておけば、のちの発言も信憑性が高まる。

よし、それでいこう!


そういえば、約束事のことって獣王様に言っていいのかな?

どう公表するのかわからないし、ここはヴィかテオさんに確認してからの方がよさそう。


「精霊さん、ヴィをここに呼んで欲しいんだけど……」


「任せてと飛んでいったぞ」


もう!?早いな……。

獣王様のところに戻り、これからヴィが来ることを伝える。


「ライナス帝国にいても大丈夫な案を考えたんですが、ガシェ王国も関係することなので、王太子に判断をお願いしたいと思います」


「わかった」


ヴィが到着するまで、イクゥ国の食事が美味しかったことや、紐で作るアクセサリーが可愛かったことなど、雑談を楽しむ。


「ネマ、何があった?」


ようやくヴィが戻ってきて、獣王様と番さんをライナス帝国で保護すること、その理由に例の約束事を使いたいことを軽く説明する。


「約束事のことを獣王様に話していいのかわからなくて……」


「そういうことか。獣王の保護には俺も賛成だ」


ヴィは獣王様に、聖主……ヘリオス伯爵がやったこと、国境での争い、イクゥ国の状況などを伝えた。


「イクゥ国の獣人たちが納得のいく理由があれば、貴殿は保護を受け入れるか?」


「わたしが納得すればな」


そして、ヴィは神様と交わした約束の内容を告げた。

それをラーシア大陸中に公表する準備を行うために、獣人の代表として同席すればいいと。

実際に、各種族の代表者を選出し、話し合いを行うつもりみたい。


「あの中でそのようなことが……。協和による平穏か。それは我ら獣人も望むこと。それに、獣王であるわたしが創造の神との繋がりを無下にするわけにはいかない」


こうして、獣王様はライナス帝国での保護を受け入れてくれた。

はぁ……。ラグヴィズたちに続いて、獣王様までもライナス帝国に……。羨ましい!


◆◆◆


捕らえられた人たちが全員運ばれ、ようやく帰る準備が整ったらしい。

ちなみに、ヘリオス伯爵だけは特別な檻に入れられて、一人だけの特別便で運ばれたとか。


「騎士や軍人たちは歩いて帰るの!?」


私たちオスフェ家には馬車が用意されていたが、ほとんどの人が徒歩だと聞いて驚いた。


「途中に人員輸送用の馬車を用意しているから大丈夫だよ」


そうは言っても、ここから一番近いガシェ王国の砦まで、丸二日はかかる。

いっぱい歩かされたあと、馬車にすし詰め二日はつらくない?

エルフの秘薬の材料を探しにいったときみたいに、人を運ぶ用の籠で一気に運べばいいのに。

そう提案したら、ヴィにダメ出しされた。


「騎士団では人員輸送を目的とした高所訓練は行っていないし、帝国軍には獣人も多いから、竜では運べないだろう」


そっかー。獣人だけ徒歩で帰ってこいっていうのは無理だね。

体力的には問題ないかもしれないけど、獣人だけ歩かされるのも、恐怖を我慢してワイバーンで運ばれるのも、軍人さんとしては不満が溜まるよね。

プシュー作戦でも使った、持ち運びができる転移魔法陣は往路のみで、戻るのには使えないし……。

何かいい方法がないものかと思案していたら、なぜか妙に既視感を覚えた。


「あ、なんか、レニスに向かっていたときと同じ状況だね」


あのときも、お兄ちゃんとヴィと一緒に馬車に乗り、シアナ計画の名前を決めていた。


「懐かしいな。ラルフがまぬけな名前を提案していたよな」


「まぬけって……。誰にでも意図が伝わる名前だっただろう」


こんなふうに昔の話をしたり、私がヘリオス伯爵に囚われている間、お兄ちゃんやヴィが何をしていたか聞いたりしていたら、意外とあっという間だった。

二人ともいろいろ大変だったんだねぇ。


「おにい様、ヴィ、助けてくれてありがとう!」



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