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神様の分身、できるかな?

森鬼のおかげでチート機能の使い方も一部だけだけど判明したことだし、早速、神様に分裂してもらおう。


「いい、神様。ほとんどの権限は本体に置いてきてね。分身に与えていいのは、種族が持つ最大値までだからね」


例えば、パパンやママンが人間で一番強い魔法を使えるのであれば、パパンの火の魔法が最大値になるし、水の魔法だとママンが最大値になる。

物理的な力の強さだと、獣人で一番力が強い人が最大値となる。

つまり、ステータスがカンストするまではいいけど、権限を使って上限値を超えるのはダメってこと。

人智を超えた力があると、悪い人に狙われやすくなるから。

こっちの世界を満喫するなら、利用価値はないものだと思わせないと、守る方も大変だからね。


『あぁ、わかった。では、分身ができたら、クレシオールを通じて知らせよう』


神様は私を女神様に預けると帰っていった。

一瞬で像が砂になり、ザーッと音を立てて落ちたかと思うと、下の方から岩へと変化していく。

気がつけば、最初にあったご神体のような大岩が鎮座していた。

この岩、再利用可能だったのか……。


『して、父神様の名はもう決めたのか?』


女神様に聞かれて、私は頭を抱えた。

だって、私ネーミングセンスないんだよぉぉぉ……。

神様に、魔物っ子たちみたいな安直な名前をつけるわけにはいかないし、今すっごく困ってる!


「親しみやすいのがいいなぁとは思ってマス……」


できれば、様付けが違和感ないようにしたいんだよね。アリさんやナハル卿が飼っているお姫さまみたいに、敬称までが名前なやつ。

日本だと、神様の名前にはなんちゃらのみことって言うよね?

いや、なんちゃらのみことは敬称か。みこと様だと敬称+敬称になっちゃうな。

別の意味のみことにしたとしても、みことさんやみことちゃんはまだ可愛いけど、みこと様はちょっと怪異や都市伝説感が出る気がする。

和名はいろいろ危なそうだから、別のにしよう。


もう一度、ポテのぬいぐるみをしっかりと観察する。

色味は本物のポテより薄い茶色で、垂れ耳もしっかりと再現されている。

見た目は垂れ耳なリスなんだよなぁ。んで、リスと言えば、あの有名な二匹が連想させるわけで……。

パパンの愛称、その二匹の片割れと同じなことに今気づいたわ。

じゃあ、もう片方にしたら……今度はポテトチップスが頭に浮かぶな。ポテトなら語感的に可愛いけど、ポテチはダメだ!食べたくなるから!!

ん?食べ物の名前、ありじゃない?

よくペットに食べ物の名前をつけている飼い主さんいるけど、その食べ物!?って驚くようなやつでも、なんか妙に可愛く感じたりするよね。

ナッツじゃ安直すぎるしなぁ。クルミって感じでもないし、マロンだとちょっと可愛すぎるような……。

あれ?今のところ、ポテチが一番マシでは??

もはやポテチ以外の候補が浮かばなくなってきた。


「ネマ、決まったのなら言ってみろ。変な名だったら却下するからな」


どうやらヴィも私のネーミングセンスには懐疑的な様子。

まぁ、最初のスライムたちや(かい)、アリさんの名付けに立ち会っていれば、疑ってもしょうがない。ネーミングセンスがないのは、私も自覚しているわけだし。


「……ポテチ様はどうかなって……」


口にしたとたん、なんとも言えない微妙な空気になる。

ただ『ポテ』という種類の名前に『チ』を足しただけじゃないかとでも言いたいのだろう。

しかし、この空気を打ち破る人がいた。

そう、ヘリオス伯爵である。


「スナックを名前にするとか、正気か?」


明らかに呆れているとわかる声。

だよねー。でも、他にいいのが浮かばないんだよぉ。


「ポテチとはどういう意味だ?」


テオさんがいつもの無表情で尋ねる。


「じゃがいもを……コロバスの小さいものを薄く切って揚げたお菓子だ」


コロバスは見た目はかぼちゃに似ているけど、味はじゃがいもという野菜だ。

ガシェ王国では、新年のお祝いの飾りとして用いられることがある。

ヘリオス伯爵が説明してくれたものの、みんなは上手くポテチをイメージできずにいるようだ。

今度、うちの料理長にお願いして作ってみるか。


「菓子の名前とは……創造神様に失礼ではないか?」


やっぱりかとでも言いたげなヴィ。

まぁ、失礼か失礼じゃないかって言ったら、確実に失礼だと思う。


「んんんん……じゃあ、ロップ様!」


「垂れ耳を垂れ耳って名付けてどうするんだ?」


くそぅ……ヘリオス伯爵のツッコミがまともすぎて反論できん!


「じゃあじゃあ、だいず様でどうだ!大豆は日本人の命だぞ!!」


和名は避けようって思ってたけど、じゃがいものポテチがダメなら大豆しかないだろう。

日本人の食の根幹を米とともに支えている大豆様。醤油や味噌といった調味料から、豆腐に納豆といったおかず、枝豆やもやしも手軽にできるおつまみになる。


私が熱を入れて大豆のよさを説明しているのに、視界の隅ではテオさんとヘリオス伯爵がコソコソしゃべっていた。

大豆について聞き出しているのかもしれない。


「食べ物の名前から離れたらどうだ?」


ヴィからもっともな提案を受けたが、食べ物から離れると、余計に思い浮かばなくなる。

神代語を勉強していれば、まともな名前の候補を出せたかもしれないが……。


「頭の中がポテチと大豆に支配されていて無理」


「……仕方ない。では、意味合いから決めるのはどうだ?俺は少しなら神代語がわかるし、ヘリオスならマカルタ語もわかるだろう」


「オレを巻き込むんじゃねぇ――!」


最後のスラングは聞いたことあるな。いい意味でないのは確かだ。

意味……意味ねぇ。

神様に合う意味だと、やっぱり光とかが無難か?

英語のライト?ラテン語がルクスだっけ?ルーメンだっけ??

でも、ラテン語ならノックスの夜と対になっていいかも!

鳥のノックスとリス(ぬいぐるみ)のルクス様……対なようで対極でもある感じがいい。

ポテチと大豆は、また名付けするようなことがあれば使おう。


「ヴィのおかげで閃いた!ルクス様ならどうだ!」


「念のため、意味を聞いておこうか」


「あっちの日本じゃない国の言葉で光って意味だよ」


ノックスとの対になっている云々は黙っていよう。


「本当か?」


なぜかヴィに疑われた。しかも、ヘリオス伯爵に真偽を聞いているではないか!

ヘリオス伯爵がラテン語知らなかったらどうしよう……。


fiat lux(フィーアト・ルクス)。オレが育った国で多くの人に信仰されている宗教の、創世記に書かれている言葉だ」


ヘリオス伯爵が流暢(りゅうちょう)な発音で何かを言ったが、内容的にあれだろう。

神は光あれと言われた――。

キリスト教徒ではない私も知っているくらい、有名な一文だ。


「なるほど。世界に光があること自体が創造神様による奇跡というわけか」


なんかヴィが興味を持ったみたい。異なる文化の神話って面白いもんね。

その地域に生息している身近な生き物が神格化されたり、地域の環境――雨が多いとか、乾燥しているとかで神様が人々に与える加護も変わってくるしさ。


『よいのではないか?ネフェルティマが必死に考えた名だ。父神様も気に入るだろう』


女神様からのお許しも出たので、神様の分身の名前はルクス様に決まった。

あとは神様の合図を待つだけだが、念のためにドワーフの子供たちや獣王様とその番さんを、建物のすぐ近くに移動させようってことになった。


「あれ?魔族さんはいいの?」


「もう伝えてある」


ヴィが指示した中に、話題になった魔族の人がいなかったので聞いてみたら、すげなく返された。

いつの間に!?そんな気配なかったのに!


「私も魔族の方に会いたいなぁ」


「秘匿されている。セリューノス陛下の許可なしには、ネマにも教えられない」


ほう、陛下からお許しがあればいいのか。帰ったら聞いてみよっと。


◆◆◆


なかなか神様からの合図が来なくて、あちらこちらで雑談が盛り上がっている。

ヴィはヘリオス伯爵にいろいろと質問をしているようで、時々ヘリオス伯爵のスラング混じりの悪態が聞こえてきた。

あと意外なのが、アイセさんが借りてきた猫みたいに大人しいの。

尊敬しているヴィと兄のテオさんがいるからかな?

アイセさんの普段の態度だと、クレイさんやエリザさんのときみたく、素っ気なくしてそうだけどね。

実はテオさん、怒るとめっちゃ怖いんだけど、アイセさんもそれでビビってたりして。


「神様、遅いねー」


『あちらとこちらでは時の流れが違う。もうしばらくの辛抱だ』


神様が住んでいるところは、時間の流れも違うのか。

まさか、あちらの一秒がこちらの一時間とかじゃないよね?もしそうなら、何時間も待たなきゃいけないじゃん!


『父神様の準備ができたようだ。皆のもの、父神様をお迎えするのだ!』


ヴィがいろいろと指示を出して、広間の四隅に人員を配置する。

たぶん、各属性持ちでそこそこ魔力が高い人たちなのだろう。

ヘリオス伯爵が持ってきた魔石は、前の降臨で魔力が少なくなっているみたいだし。

まぁ、足りなければ、火と水に関してはパパンとママンがいるので心配はないけど。

今さらながら、本当に降臨の条件が合っているのか心配になってきた。

不安で胃がきゅーっとするのを感じつつ、ヴィたちの準備を見守る。

さて、次は聖獣たちだが……。


『お主が言った方がよいだろう。特に土のの機嫌が悪いようだしな』


またソルが言うのかなぁって思ったら、私に振ってきた。

確かに、神様が一度帰ったせいか、カイディーテのご機嫌が斜めだけどね。

あと、影に潜っていたカルヴァも呼び戻す。

聖獣がみんな揃ったところで、こほんと軽く咳払いをしてから、聖獣たちにお願いした。


「神様をお迎えしたいので、聖獣たちの力を分けてください!」


私のお願いを承知したというように、聖獣たちは一鳴きすると力を放ち始めた。

最初のときのように、炎も水も風も、聖獣の力に反応する。

目で見えるほど力が大きくなると、オーロラのような現象が出現した。

そして、そのオーロラのゆらめきに合わせるように、冷たい風や熱風が襲いかかってくる。

二度目でもつらい!

本能的な恐怖で、女神様にしがみつく。

他のみんなも立っていられなくなり、膝をついたり、(うずくま)っているのが見えた。


聖獣の力が満ちると、精霊王たちも力を放つ。

女神様のときほどではないが、精霊王たちの周りにキラキラが舞っていた。

力はどんどん大きくなって一点を越えると、今度はぎゅーっと圧縮するような圧力に変わり……弾ける――。

この空間にあるすべての力が、私に向かって……いや、私が持っているポテのぬいぐるみ目がけて押し寄せてきた。

私じゃないってわかってても怖いよー!!


少しでも距離を取るために、ぬいぐるみを片手で掴んで、これでもかっていうくらい腕を伸ばす。

もう片方の手は絶対女神様から離さないぞ!


すべての力がぬいぐるみに吸い込まれると、ぬいぐるみの尻尾が動いたような気がした。

強い風だったし、そのせいかなと思っていたら、急にぬいぐるみを握っていた手を何かに触られた。


「うぇっ!?……あ、やべっ!」


無意識にぬいぐるみを投げていて、気づいたらときにはもう……。

ポーンッと飛んでいくぬいぐるみを風の精霊王が力を使ってキャッチしたのを見て、全員が胸を撫で下ろした。


「愛し子、気をつけてね。創造主様の分身なんだから」


風の精霊王によって無事に戻ってきたぬいぐるみをしっかりと抱きしめる。


「ちゃんと神様の分身が入れたの?」


ぬいぐるみには特に変化がないよう……その瞬間、ぬいぐるみの頭が動いた!頷くように、コクコクって!!


「……神様、動けるの?」


おそるおそる尋ねてみると、先ほどと同じようにコクコクと頭が動いた。


『ふむ。どうやら我にも意思を伝えることができぬようだ。早く名付けてみよ』


女神様にも神様が何を伝えたいのかわからないらしい。

早くとせっつかれたので、神様の分身に名付けするか。


「えーっと、神様の分身さん。私はネフェルティマ・オスフェです。そして、あなたの名前はルクス様です!これからよろしくね」


改めて私の名前を名乗ってから、神様の分身の名前を告げる。

いつもなら、おでこに紋章が現れるんだけど……。

ぬいぐるみのおでこを凝視していたら、急に強い光が発生して、あまりの眩しさに目がぁぁぁって状態になった。

そして謎の倦怠感。体の中からごっそりエネルギーを吸い取られた感じがする。

ぐったりと全身を女神様に預ける。


『大丈夫かい?』


神様の声……にしては高いな?誰だ??

まだ光の残像で目がチカチカするけど、声の主が気になって、目を細く開けてみた。

私の手にはぬいぐるみがあって、ぬいぐるみのおでこがほのかに光っている。

紋章が現れたということは、名付けが成功したのだろう。

だけどこの紋章、魔物っ子たちのおでこにあるものとは違っているような?


「本当に神様?」


『そうだと言いたいが、私は神であり、ルクス様だ』


……やべぇ。様まで名前にしちゃったから、分身が自分で名乗るときも様付けになってるわ。

自分を様付けで呼んじゃう神様に衝撃を受けてスルーしたが、今なんて言った?


「神様とは別物になったってこと?」


『本体である神と意識を共有していると言った方が正しいか』


「本体の神様は普段いるところにいて、あなた……ルクス様を通してこの光景を見ているの?」


ルクス様は私の言葉を肯定し、さらには神様の気持ちもわかると(のたま)う。

感覚の共有もできてるっぽい。


『だが、思わぬ事態にはなったな、ルクス様(・・・・)よ』


どこか揶揄(からか)っているような女神様。

明らかに面白がっている表情でルクス様を見て、そして広間を見た。

私も釣られるように視線をやると……声が出なくなるほど衝撃的な光景が広がっているではないか!!




実は神様の分身の名前、ガチでポテチ様になりそうだった(笑)

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