愛し子の秘密。
『ロスランの魂と他の愛し子の魂は異なる。言うなれば、異なる世界の魂を真似て創った模造品といったところかな?』
神様のとんでも発言に、あんぐりと口を開けて固まる。
真似て創った?模造品??んなことある!?
「どういうこと!?だって、ロスランの前世はアメリカで育った日本人だった記憶があるって言ってたよ?」
ヘリオス伯爵が言っていた、アメリカ育ちの日本人は設定だったってこと?
神様パワーで、そう思い込まされているとか??
私もそうだけど、当のヘリオス伯爵も理解できていないようで呆然としている。
『この世界を創ってしばらくすると、世界は停滞するようになった。もちろん、それは悪いことではない。安定しているということだからね。しかし、言い換えると変化がまったくないということ』
なぜか唐突に語り始める神様。
でも、天地開闢から話さなくてもよくない?
偉い人の話は短い方がいいのだが、私とヘリオス伯爵以外、神様本人から語られる創世神話に興味津々といった様子。
『この世界を創るとき、様々な世界を参考にしたし、他の神々からも話を聞いた。多くの神が、世界が停滞したときは刺激を与えるとよいと言っていた』
神様の発言に、またもや周囲がどよめく。
まぁ、他にも世界があって、神様ではない神様がたくさんいるとなれば、この世界の宗教観からして驚愕するのはわかる。
私やギィが日本出身だったことをみるに、日本の神々にも相談したんだろうなぁ。
ただ、地球がある世界を創った神様って誰なんだろうね?
神話ごとに創造神がいるわけで、神様単体で世界を創った話もあれば、きょうだい同士や夫婦の神様で創った話もある。
神様に聞いたら教えてくれるかな?
『世界に刺激を与える方法は様々あり、私はそのうちの一つを試すことにした。それが、まっさらな魂に異なる世界の魂の記憶を写すことだった。異なる世界の知識を持つ者なら、たくさんの変化を見せてくれるだろうと』
そうして選ばれたのは、地球ではない世界の誰かの記憶だったようだ。
しかし、その異世界はこの世界と似ていなかったにもかかわらず、記憶を写された人物は普通にこの世界に馴染んでしまったそうだ。そのため、神様が望んだような変化は得られなかった。
さらに違う異世界の記憶で試せば、今度は精霊が激減するという大きすぎる変化を与えたりと、上手くいかなかった。
困った神様は、異世界の神々に相談した。そこで、勧められたのが地球だったらしい。
宗教が根付いているので神の存在を疑わないし、ほどほどの知識を持っており、ある程度の倫理感が育っていて、まあまあ柔軟性がある。すべてが程よく、たまに大当たりがあると。
……異世界の神様たちから見た地球人って、そんな評価なの!?
つか、お勧めされたってことは、他の世界の神様たちも変化を起こすときに地球人を利用しているってことなんじゃ……。
神様の衝撃発言に頭が真っ白になりかけていたが、ようやくロスランの話になったので、なんとか気持ちを立て直す。
他の神々の勧めに従い、神様は地球のある人物の記憶を写した。
そうして生まれたのがロスランだ。
前の愛し子がやらかしたことが原因で、魔族がワジテ大陸に移住を始めていた時代。地球の記憶を持つロスランは、魔族がいなくなったことで荒んでいった他種族間の関係を、新たな国を造ることによって調整したのだ。
文明も、魔族がいたときとは違う方向に発展し、神様は調子づいた。
『その世界、地球の魂なら上手くいくと思い、ロスランの魂に写した人物の魂を管理している神に、魂をお貸しして欲しいと頼んだ』
ギィの前世の鈴木さんも私も、日本生まれ日本育ちだから、魂を管理している神様は閻魔大王様かな?
ロスランの前世の記憶の持ち主も日本人なら、仏教式でお葬式をしていたかもしれないしね。
そっかー。閻魔様から貸し出しされたのかー。
ん?貸し出し!?
『そのときの愛し子が、君たちも知っているギィだ。私の願いを叶えてくれたけど、あの子は頑固でね。聖獣や精霊たちとは距離を取ったままだった』
精霊王たちが神様の言葉に強く頷く。その顔はどこか怒っているように見えた。
ギィの手記に、聖獣や精霊に頼りすぎるな的なことが書かれてあったね。もしかして、精霊王たちはギィに構ってもらいたかったのかな?
『だから、ネフェルティマには少しばかり本能が強く出るようにした』
「あぁ、それでか」
「あ!愛し子の魂にあった細工はそれか!」
ヴィは納得がいったというふうに頷き、土の精霊王は疑問が解消してすっきりしたと満足げな顔をする。
「え?どういうこと??」
「ネマが異なる世界で大人の女性だったとしても、本能が強い……言い換えれば、理性が働かないのなら、魂は赤子同然というわけだ」
ヴィが教えてくれたけど、赤子同然ってちょっと言いすぎじゃないかい?
赤ちゃんの本能って、いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい遊んですくすく育つ……。
「わかったか?お前が普段やっていることは、赤子がやっていることだ」
確かに、すくすく育つ以外はやっているわ……。
私、精神年齢が赤ちゃんになっていたのか!?なんということだ!!
「神様!本人のしょうだくなしに、魂をいじるのはよくない!!」
『そうは言っても、ギィの種族は規律や作法を厳守するのだろう?こちらの規律や作法を守り、この子たちに近づかなかったのではないか?』
私が苦情を言うと、神様はラース君を撫でながらそう返してした。
「確かにギィは、いつでも慇懃であったわ」
「そう畏まらなくてもよいと言っても変えなかったな」
火の精霊王と水の精霊王が、懐かしむように告げる。
「そういえば、初代国王陛下は上下関係に厳しく、作法に対しても厳格であったと、オスフェ家の初代様の手記に書いてありました」
お兄ちゃんまでもが参加してきた。
まぁ、みんながみんなとは言わないけど、たいがいの日本人はそういった性質の民族だし、何よりギィの前世は軍人だ。規律や作法を厳守することを叩き込まれていたのだろう。
『君の望みを叶えるためにも、よい方法だっただろう?』
「でも、事前に説明は必要だと思うよ?」
ほんと、なんの説明もなくポイッてされたことは恨んでいるからな!
ギィのときは同意があったみたいだけど、私のときは説明も同意もなかったんだから。
でも、前世の私のままだったら、どうなっていたんだろう?
偉い人に会うのは畏れ多いと言って、王宮に近づかなかったかもしれない。
そうなると、ラース君にも会えないわけで……。
『愛し子に説明できない事情もあったのだ。許せ』
その事情とやらを聞いて、私は後悔した。
そもそも愛し子は、この世界の理の外にいる存在。
だから、愛し子が関わった事象は理にも修正できない。それが神様の言う『変化』だ。
世界の理をシステムとするなら、愛し子はチート。不正なプログラムみたいなものだ。
ただし、運営側が容認しているチート。
これを転生前に知ったら、悪用する転生者がいてもおかしくない。
周りがチートだと思っていたのに、私自身が正真正銘のチートだったとは!!
……私、何やらかした!?神様の話を聞いたら、どれもこれもアウトに思えてしょうがない。
まさか、魔物っ子たち……特に白やグラーティアの謎の能力は私が原因だったりする!?
「皆様、お話が逸れておりますよ。ネマのことについては気がかりではありますが、ヘリオス様の方が先決でございましょう?」
話題が私のことに変わっていることをママンが指摘する。
いや、でもママン!私がやっべぇ力があるのは大問題だよ!!
無意識に、悪い方向にチートな力を使っていたらどうするの!修正できないんだよ!!
「おかあ様、神様の力を私が悪いことに使ったかもしれないんだよ?」
「ネマなら大丈夫よ。心配いらないわ」
ママンがよしよしと頭を撫でてくれるが、そんなんじゃ誤魔化されないぞ!
神様にアウト判定なものがあったか聞こうと思ったのに、先を越される。
『そうだね。まずはその子のことから進めよう』
神様がそう告げてしまったので、話を戻しづらい雰囲気になった。
くそぅ……絶対あとで全部吐いてもらうからな!!
『ロスランの魂は真似て創ったものとはいえ、私が認めた愛し子に違いない。他の愛し子同様、すべての力を使うことができた』
そういえば、精霊宮に行ったときに、土の精霊王がそんなこと言っていたな。
……すべての力って言うけど、私、魔法は使えないんだが?それもチート能力でどうにかできたりするんだろうか?
だとしたら、私もついに魔法が使える!
ここでそれを口にすると、また話が逸れてママンに怒られそうなので黙っておく。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
私は黙ったのに、お兄ちゃんが神様に質問を投げかける。
「魔族の方に、昔は魔法ではなく、魔術を使っていたとお聞きしました。すべての力ということは、ロスランも魔術が使えたのでしょうか?」
まったく知らない話だった。
お兄ちゃん、いつの間に魔族と知り合いになったの?
そもそも、魔法と魔術って同じじゃないの??
『ロスランだけでなく、君たちも魔術は使えるものだ。以前、クレシオールを呼んだことがあっただろう?あれも魔術の一つ。そして、詠唱や文様で、魔力が少ない者でも魔術を使えるようにしたのを、魔法と呼んでいるようだ』
つまり、魔法も元を正せば魔術だよってこと?
魔術を使うには、魔族レベルの魔力が必要だけど、その魔力をどうにかできたら、誰でも魔術は使える??
「わたくしたちでも魔術が……!?」
お姉ちゃんの目がキラキラ……いや、ギラついている。
ママンも笑みを浮かべてはいるものの、あれは絶対、魔術について何か思案しているな。
『とはいえ、ロスランはエルフの性質の方が強かったから、魔術も魔法も好んではいなかったみたいだね』
ヘリオス伯爵の話では、ロスランは精霊の声を聞くことができなかったと言っていた。
それでも、エルフの性質の方が強かったのか。
ライナス帝国ではエルフ族と共存してはいるけど、帝都のエルフの森のように、独自のコミュニティを大事にしている。
元々、排他的な性質がエルフにはあるんじゃないかな?
だから、ロスランの父親もロスランを引き取ったのかも。人間の性質よりもエルフの性質の方が強いのであれば、他種族とは生きづらいだろうと思って。
「なるほど。ヘリオスが魔法を使わないのも、ロスランの記憶の影響だったのか」
テオさんの呟きを聞き取った信徒たちが、そういえば見たことないなと囁き出す。
「ヘリオスと親しくしていたエリザも、一度も見たことないそうだ。アイセはどうだ?」
「洗脳魔法のようなものを使っているのは見たことあるけど、ヘリオス……の属性も知らないよ」
アイセさんは伯爵をつけようとしたけど、テオさんに睨まれて、気まずそうに呼び捨てにした。
陛下から逮捕命令が出ている人物を、皇族が爵位をつけて呼ぶのはまずいのだろう。
さっき、ママンも爵位をつけないで言ってたし。
『それは、ロスランに授けた魅了の力だろう。ロスランのときよりは弱くなっているが……今の君には必要ない力だ』
神様がヘリオス伯爵の方に手を伸ばすと、ヘリオス伯爵はやめろと叫びながら暴れ出す。
ヘリオス伯爵の体からキラキラした小さな光がたくさん出てきたと思ったら、小さな光はすべて神様の手に吸い込まれていった。
『私が授けたものはすべて取り上げた』
とは言っても、ロスランの魂には違いないので、精霊を見ることはできるし、魔法も使えるそうだ。
まぁ、魔力を封じる魔道具をつけられているので、魔法は使えないけど。
「勝手なことしてんじゃねぇっクソがっ!結局はテメェの失敗をオレらに押しつけてるだけじゃねぇかっ!何が神様だ!テメェのケツも拭けねぇ×××がよ!!」
ヘリオス伯爵の麗しい顔から汚い言葉が出てくるの、やっぱり慣れないなぁ。
「だいたい、戦争をしない種族が欲しいなら、ロボットでも作っとけっ!自我がある種族を作るから、争いが起きんだろうが!!」
ごもっともである。人類、生き物としては同一なのに、人種や考え方が異なることで、地球では戦争が起きている。
地球に住む人類が一丸となるには、地球外生命体が侵略してくるとか、地球滅亡レベルの出来事じゃないと無理だと思う。
せめて、魔族だけ、エルフ族だけの世界だったら、この世界も平穏だったんじゃないかな?
さらにヘリオス伯爵は英語で何か捲し立てる。
聞き取れたものの大半がスラング的なよくないものだった。
ずっと腹に据えていたのだろう。
英語に日本語も混ぜながら、次々と出てくる罵詈雑言のレパートリーも凄い。
私もうっかり日本語が出るときはあるが……日本語混じりの英語って頭が混乱しないのかな?
私が感心している中、周囲は突然わけのわからない言語を言い出したヘリオス伯爵に対して怯えている人もいた。
だけど、神様だけはヘリオス伯爵が言っていることを理解しているみたい。
のっぺりした顔が、困っているような……悲しんでいるようにも見える。
「テメェはいつだって見ているだけで何もしねぇじゃねーかっ!!それとも神は、何もできねぇ無能がなるもんなのか?」
口が悪くとも、ヘリオス伯爵の指摘にハッとした。
神様は世界に干渉できないから見ているだけ。そんなこともあるのだろうとは思った。
でも、実際に神様から話を聞く限り、異世界人の記憶をコピーした魂を創ったり、愛し子を送ったり……普通に干渉してね?
つまり、神様が創った『世界の理』には、神様より強い権限はないということになる。
これはもしかして……私、騙されてた!?
それに、ヘリオス伯爵の拗らせ具合を見るに、神様の認識と私たち愛し子の見識に齟齬が起きているように感じる。
せっかく神様が降臨したのだから、その齟齬は解消しておくべきだと思う。
特にヘリオス伯爵は数千年もの間、拗らせていたわけだし。
そんなわけで、なんとしてでも神様から事の次第を聞き出さないといけないんだけど、まだ信徒もたくさんいるんだよね。
話の内容によっては、国家機密に匹敵するような、世界や神様の秘密が語られるかもしれない。
それを聞いてしまったがゆえに、女神様のもとへ行くはめになる可能性もなきにしもあらず……。
うん、今のうちに退場させよう!
「おとう様、私もヘリオス伯爵も、神様とじっくりお話しした方がいいと思うの。お話ができる状態にしたいんだけど……」
信徒たちをどうにかできないか、パパンに相談してみる。
「そうだね。創造神様がネマに何を求めているのか、はっきりさせた方がのちのためにもなるだろう」
パパンとしても、理由がわからないまま騒ぎに巻き込まれるのは不服なんだと思う。
それに、わかっていれば事前に対策も取れる、ということもあるし。
「創造神様、しばしお時間をいただきたく存じます」
パパンは神様に頭を下げて告げると、神様も信徒たちのことは気になっていたのか快諾してくれた。
神様のお許しが出ると、パパンはヴィに声をかける。
「殿下」
「あぁ。では、予定通りに行う」
パパンは殿下と呼んだだけだったが、事前に手順を決めていたようだ。
ヴィは軽く頷くと、テオさんのもとへ向かった。
そして、ヴィとテオさんが少し話したあと、騎士団と軍部双方の隊長クラスが呼ばれる。
ヴィもテオさんも装備を身につけ、戦う男感は出ているけど、本職と並ぶと差がはっきりわかるな。
体が薄い――。横を向いたときの厚みがまったく違うのだ。
とはいえ、筋肉モリモリだからといって、隊長たちがヴィやテオさんより強い、ということはない。
総合的な強さで言ったら、ヴィとテオさんの方が強いと思う。
隊長たちがいっせいに敬礼をし、自分の隊へと散っていく。
騎士団と軍部では敬礼の作法が異なっているのに、それでも迫力というか、凄く格好よかった。
隊長たちの指示のもと、信徒たちは次々と拘束されていくが、当然、抗う者もいた。
神様に、側に置いてくれと直に訴える者も……。
神様は微笑んだままスルーしていたけど。
そんな中、竜騎部隊、飛竜兵団といった単語が耳に入る。
捕まえた人たちを移送するために、檻を持ってやってきたのかな?
「機嫌がよくないので、速やかに終わらせたい」
「こちらは大丈夫だが……炎竜様もおられる場で、暴れることはないのでは?」
「それが、ネフェルティマ様の影響か、うちの子たちにとって炎竜様は、親戚のおじいさん程度の認識だ」
顔見知りの竜騎士と飛竜兵団の兵士の会話が聞こえてきた。
竜舎の子たちにとって、ソルがおじいちゃんだと!?なんでそんな面白いことに?私、何かしたっけ??
そういえば、ソルがここに来たときに、竜舎の子たちから何かお願いされたって言ってたっけ。
でも、竜舎の子たちがソルに会ったのは、ダグラードたちオーグルを運んできたときだけなはず。
いつの間に仲良くなったの?
めちゃくちゃ気になる内容だったけど、会話をしながら竜たちの様子を見に外へ行ってしまった。
人の出入りが多くなり、パパンとヴィは真剣にお話をしているし、ママンとお姉ちゃんも二人でコソコソ話している。
相手してくれる人がいないなら、聖獣でももふろうとしたが、みんな神様にべったりで離れる気配すらない。
精霊王たちは、うっかりやってきた土の精霊王にお説教中だし。
……いいもーん。私にはソルがいるし!




