監視生活の始まり始まりー!
ヘリオス伯爵の話を聞き、私は彼女の要求をのむことにした。
彼女の協力者?になったおかげか、待遇改善も行われた。牢屋から普通の部屋に移してくれると言う。
ただし、牢屋から出る際に『ここで見聞きしたことは外部には伝えない』って、名に誓わされたけどね。
その誓いがあるから、精霊にも伝言は頼めない。
まぁ、元気だよーくらいは伝えられるかも?
牢屋を出る際、また目隠しをされた。ヘリオス伯爵の抱っこはアイセさんより安定感があったけど、そんなに牢屋の場所を知られたくないのか。
あ、やっべぇ!あの穴とベール、そのままだ……。
牢屋の場所がわからない以上、こっそり戻ることもできないし、あの穴の存在がバレたら、私が獣王様の番に気づいたこともバレるんじゃ……。
いや、協力者になったんだし、獣王様の番を知ったからとて問題ないよね?
ヘリオス伯爵に聞くべきか思案していたら、一階の小さな部屋に連れてこられた。
どうやらここが、私に宛てがわられた部屋みたい。
「ネフェルティマ嬢のお世話はこの者に任せるが、自分でできることは自分で行うようにしてくれ」
ヘリオス伯爵がこの者と言った先を見ると、部屋の中で土下座している人がいた。
頭までローブをかぶっているので、性別も年齢もわからない。
というか、ここでの礼儀作法は土下座が主流なのだろうか?
いくら前世が日本人の私でも、土下座はやったことないんだけどなぁ。
「それから、この建物は古い上に壊れかかっている場所も多い。部屋から出る際は、必ずその者を連れていくように……死にたくないならな」
えっ!?ここってそんなにデンジャラスなの!!
いや、それよりも……。
「部屋から出てもいいの!?」
ってことは、ワンチャン牢屋に行く方法を探せるかも!
「構わない。どこにいようと、私の手の者の目がある。この建物から出ることはできない」
それってようは監視?監視されると牢屋の出入口は探せないなぁ。
でも、ワンチャンあるかもしれない。ここで駄々こねたら監禁ってことになりかねないし、監視を受け入れて、警戒心を薄める方がいいよね。
「それでもいいから、今から探検しにいきたい!」
「……身なりを整える方が優先だ。着替えも用意してある」
ヘリオス伯爵はそう言い残して去っていった。
彼女が口に出さずにはいられないほど、今の私はヤバいということ……。
二日近くお風呂に入ってないし、衣装も宴のときのまま。さらには牢屋の部屋を調べて汚れている。
「お風呂に入りたいです!!」
気づいてしまえば我慢などできない。
いまだに土下座をしている世話役の人に近づき、そうお願いする。
「は、はい。すぐご用意いたします!」
世話役の人が上半身を上げて答えたので、ようやく顔を見ることができた。
若い女性だった。成人前後っぽいから、お兄ちゃんと同じ年代だと思われる。
「あ、その前に、おねえさんのお名前を教えてくれる?私はネフェルティマ!」
「わ、わたしはミーレと申します」
お互いに名乗り合ったあと、私はミーレの後ろをついていく。
ミーレは私に気づくと、不思議そうに首を傾げた。
「お風呂の準備をするので、ネフェルティマ様はお部屋でお待ちいただいて大丈夫ですよ?」
「ヘリオス伯爵が言っていたでしょう?自分でできることは自分でやるようにって。だから、お風呂の入れ方を見て覚えたいの」
というのは建前で、監視の目がない場所を確保するのが目的だ。
このミーレも監視要員のはずだけど、さすがにお風呂やトイレまでは覗かないだろう。……覗かないよね?
「そういうことでしたら……」
浴室に向かい、簡単に魔道具の使い方を教わる。
部屋の構造は、ちょっと広めのワンルーム、バス・トイレ別といった感じ。
浴室も程よく狭く、残念なところは浴槽が小さい点くらいかな。
浴室にある魔道具は二つだけで、一つは浴槽に水を入れる魔道具。こちらは浴室の壁に埋め込まれていて、スイッチ一つで水は出るが、止めるのもスイッチを押さなければならない。そして、出てくるのは常温の水のみ。
もう一つは、水を沸騰させる魔道具。こちらは呪文を唱えると数秒で水を沸騰させることができる。沸騰したら自動で止まるけど、温度調整は不可。
「浴槽の半分以下で一度水を止めて、熱湯の魔道具で水を温めます」
ミーレが『沸かす』と唱えると、二、三秒で湯気が立ち始め、さらに数秒後には熱気と湿気が襲いかかってくる。
これに水を足して、好みの温度まで下げるそうだ。
オスフェの屋敷とも、宮殿の部屋とも異なる方法だった。
オスフェの屋敷では浴室係がいて、彼らが魔法を使ってお湯を張る。完全に人力だ。地球で言う薪風呂?
対する宮殿の部屋の浴室は、魔道具が全部やってくれる。
浴槽の掃除からお湯張りまで、ボタン一つですむ。日本でよく見る、自動お湯張り器そのものと言ってもいい。
ということは、イクゥのお風呂は二つの中間。バランス釜とか、ボイラー式のお風呂に当たるのかな?
ちなみに、シャワー的な魔道具はないので、手桶で浴槽の湯を掬わなければならない。
手桶なだけマシか?取っ手のない風呂桶だったら、頭を洗うのにも苦労しそうだし。
「浴槽のお湯は、使い終わったあとに洗濯場へと回されますので、なるべく綺麗に使うようにしてください」
「……洗濯場?」
なんとなく聞き返したが、浴槽に残った水を別のことに使用するのは珍しくない。
ガシェ王国の王宮では、使用人たちの寮や騎士団の寮のお風呂の水が、騎士たちの訓練着の予洗いに使われていたりするし。
ちなみに、訓練着は汚れが酷いから、予洗いの水が真っ黒になるらしいよ。
「イクゥでは元々水が不足しがちなので、お風呂の残りも大切に使っているんです」
数年前の干ばつの被害が酷かったのは、乾燥地帯だったり、雨量が少ないっていう地理的要因もあったのかもしれない。
「わかった!私もお水を大事に使うね」
「ありがとうございます。体を洗う石鹸は黄色い方で、髪は緑の石鹸となります。こちらに入っているのは栄養液です」
浴室にある備品を説明してくれるが、栄養液があることに驚いた。
入浴時に使われる栄養液と言えば、前世で言うところのトリートメント的なやつだ。
一般的には贅沢品にあたるので、貴族や庶民でも富裕層くらいしか使われていないはず。
部屋は質素なのに消耗品は高価って……なんか違和感あるなぁ。
そうこうしているうちに、浴槽のお湯は程よい温度になり、お風呂の準備が終わる。
ミーレは入浴の介助も申し出てくれたが、一人でできると押し切った。
屋敷や宮殿のお風呂だと、広いし溺れる心配もあるからと、誰かしらがついてくれるが、私には秘密兵器がある!
ミーレが浴室から出ていったあと、私は隠していた陽玉と服についている水玉を白に預けた。
「食べちゃダメだからね?」
玉を体内に取り込んだ白はうにうに動いていたけど、私が一言釘を刺すとピタリと止まった。
白とグラーティアを連れて、浴室に入る。
私がかけ湯をしている間に、白とグラーティアは湯船に浮かんでいた。
体内に空気を溜めて、浮き輪のように浮かぶ白。その白の上に乗っているグラーティア。
水面は浴槽のお湯を掬うたびに波立ち、それによって揺れ動く状態を楽しんでいるようだった。
そんな二匹の姿が段々とアレに見えてくる。
湯船に浮かぶ黄色いアレ……アヒルさんに!
アヒルさんみたいな白とグラーティアを眺めながら、髪と体を洗った。
体用の石鹸もいいもののようで、洗ったあとの肌触りがよい。
香りも爽やかで強くなく、もしかしたらアイセさんかヘリオス伯爵の私物だったのかもと思った。
全身綺麗になったところで、ようやく浴槽に浸かる。
肩まで浸かるために腰を落とすが……意外と深い!
底にお尻がつくと、鼻まで浸かってしまった。
縁に腕をかけて沈まないようにすることはできるが、それでは肩が冷える。
私は閃いてしまった!ちょうどここにいいものがあるじゃないかと!
「白、青い方を出してくれる?」
――みゅっ!
白から受け取った水玉。これがあれば、水の中でも息ができると陛下は言っていた。
いきなり実践本番で使うよりも、ここで試しておいた方がいいよねってことで、水玉をしっかりと握る。
深い呼吸を繰り返し、気持ちが整ったところでいざっ!!
浴槽の底にお尻をつけた。目の下くらいまでお湯が来たことに驚いて、立ち上がりそうになる。
もう一度腰を落とし、気合いを入れて、ゆっくりと鼻から息を吸った。
………………おぉぉっ!!ちゃんと息ができる!!
鼻から吸った息を、これまたゆっくりと口から吐いてみた。
ポコポコと気泡が発生するのを期待していたのに、何も出ない……。
勢いよく吐いてみても、目に見える変化はなかった。
そういえば、サチェとユーシェと一緒に海に潜ったときも、気泡が出なかったような?
水の聖獣の力だとすれば、あのときと同じ現象が起きているのだろう。どんな原理なのか、まったくわからないけどね!
次は、口から吸うとどうなるか試してみる。
おそるおそる口を開けると……なんと!お湯が口に入ってこない!!
もちろん、息を吸っても平気だ。なんなら調子に乗って声も出してみる。
『あいうえおー』
普段と同じような気もするし、ちょっとだけ美声に聞こえるような気もする。
それにしても、凄いものを手に入れてしまったなぁ。
これがあれば、水遊びももっと楽しくなるし、水没した洞窟探検もなんのその!
それに、いざというときは、川や池に飛び込んで逃げることも可能だ。
最悪、自力で脱出しなければならなくなったときに備えて、この建物の構造と周囲の環境を調べておいた方がいいね。
近くに川があれば言うことなし!
だが、調べるのは容易ではないだろう。
監視の目がある以上、ディーの力を使ったテレビ電話もどきも使用できないし、探索が得意な星伍と陸星もいない。
「白、グラーティア、それと黒も。みんなでがんばろうね!」
黒は状況を把握できていないからか、何を頑張るのかわからないと困惑しているのが伝わってきた。
白とグラーティアは、その場のノリ的な感じで触手と前脚を伸ばしてフリフリしている。
……大丈夫かなぁ?
◆◆◆
湯船から上がって浴室を出ると、いつの間にか新しい服が用意されていた。
下着も一応、新品みたいだけど……この感触は綿!?お前、綿パンなのか!!
服の方も同じ生地っぽい。
こちらの世界に化成繊維なんてものはないから、生地といえば植物性繊維から作られたものか、動物の毛皮で作られたものとなる。
使用される動植物によって、生地の柔らかさや耐久性、光沢など、差は当然ある。
肌触りや見た目がよいものは王侯貴族が好み、耐久性や機能性が高いものは冒険者たちが好み、安価で手入れしやすいものは庶民が好む。
今まで私がこの生地に出会わなかったということは、この綿っぽい生地は庶民寄りのものだと思われる。
履き心地は……可もなく不可もなく。わがまま言うのであれば、紐じゃなくてゴムがよかったなぁ。
服はすとーんとしたAラインのワンピース。頭からかぶるとあら不思議。ワンピースじゃなくて、ちょっと大きなスモックに早変わり……。
ベルトはどこだ?ベルトがあれば少しはマシになるはずだ!
服が置いてあった周辺をくまなく探すも、ベルトは見当たらなかった。
紐でもいいんだ!帯でも構わない!
腰に何かを巻くのは、ガシェ王国民のアイデンティティなんだよー!!
ないものは仕方ないと、服の中に白とグラーティアを隠して部屋に戻る。
「ネフェルティマ様、髪を乾かしましょう」
櫛を持ったミーレに促されてドレッサーの椅子に座ると、一瞬で髪が乾いた。
そして、優しく髪をブラッシングされる。
私のパパン譲りのくせっ毛はいつもよりボリューム増し増しで、ブラシだけでは大人しくしてくれないと思うな。
「ミーレは火の魔法が使えるの?」
鏡越しにミーレと視線を合わせて問う。
「はい。下級ですが」
どの属性でも、下級魔法の方が日常生活において使いやすい。
ガシェ王国では、下級魔法が使える人は仕事に困らないと言われているほどだ。
下級の方が威力の加減が楽なので、繊細な仕事に向いているかららしい。
「私は魔力がないから魔法は使えないけど、その代わり、おねえ様が面白い魔道具をいっぱい作ってくれるの」
やっぱり一番は光る剣だろう。あれは効果音も相まって、ただ振り回すだけで楽しい!
ハンレイ先生の等身大ぬいぐるみも、魔道具ではないが、お姉ちゃんの発明には違いない。
「素敵なお姉様ですね」
お姉ちゃんを褒められてホクホクしていたら、ミーレからこれからどうするかを聞かれた。
私は即、腰帯が欲しいとお願いする。
この幼稚園児スタイルで外を出歩くのはちょっとね。
それに、歩いているときに白がコロンと服から落ちちゃうかもしれないし。
「……お持ちしますので、この部屋からまだ出ないでくださいね。本当にここは危険ですので!」
なぜか部屋の外がめちゃくちゃ危険であることを強調された。
もしかして、コボルトの集落みたいに侵入者用の罠があちらこちらに設置してあるとか?
ここがルノハークの本拠地だったとしたら……罠が仕掛けられていてもおかしくはない。
私は我が身が可愛いので、ミーレに絶対部屋から出ないと約束をする。
ただボーッと待っているだけはつまらない。暇つぶしに部屋の中を観察してみる。
ベッドは牢屋にあったものより大きいので、セミダブルくらいかな?丈夫そうで、装飾はいっさいなし。
その代わりなのか、ドレッサーは派手なんだよなぁ。
鏡はそこそこの大きさだけど、鏡の周りには花をモチーフにした彫刻が施されているし、引き出しの取っ手には大きな宝石が使われている。
曇った窓の近くにソファーとテーブルが置かれているが、こちらもちぐはぐだった。
職人が丹精込めて作ったであろう木製のソファーの前には、昔テレビで見たちゃぶ台にそっくりなローテーブルがある。アンティークというよりは、日常的に使い込まれた感じの古臭さがあるね。
床に敷いてある絨毯は所々擦り切れているのに、カーテンは真新しい。
なんか、先輩や友人からお古をもらって家具を揃えた、初めての一人暮らしの部屋に思えてきた。
これがバス・トイレ別じゃなくて、ユニットバスだったら完璧にそうだったのに……。
「お待たせしました」
そんなことを考えていたら、ミーレが戻ってきた。
ミーレの手にはなぜか白い紐が……。
ガシェ王国の南、ディルタ領では紐をベルト代わりにすることもあるけどね。あるんだけども!
その紐の先についてるの、タッセルだよね!?どう見ても、カーテンを留める紐じゃね??
私の困惑を他所に、ミーレは私を立たせると、腰にその紐を巻いて結び始めた。
「きつくありませんか?」
「……すごーい!お花ができてる!!」
結び目が花のような形になっていて、水引や中国結びみたいな飾りができていた。
「せっかくなので、髪も同じように結んでみませんか?」
ブラッシングだけではこのくせっ毛をまとめるのは無理だと思ったのか、ミーレがそんなことを提案してきた。
リボンを編み込むみたいに、この紐を編み込むのかな?
ちょっと興味を惹かれたので、ミーレの提案に頷いた。
鏡を見ても、ミーレの手元がどうなっているのかわからない。
完成を今か今かと待っていたら、ようやくミーレの手が私の髪から離れる。
そして、ドレッサーの引き出しから手鏡を出すと、合わせ鏡をして後ろ側を見せてくれた。
「いかがですか?」
紐で編み込むことによって、くせっ毛のボリュームが抑えられている上に、中央部には白い花が形作られていて可愛い。
「おぉぉ、かわいい!ありがとう、ミーレ!」
ミーレの器用さをべた褒めすると、ミーレは照れながらも紐の飾り結びについて説明してくれた。
なんでも、イクゥ国の女性はおしゃれアイテムとして紐を使っているから、小さな頃から母親や女きょうだいに結び方を習うんだって。
「じゃあ、ミーレは生まれも育ちもイクゥ国なの?」
「はい。生まれも育ちも城下町で、よく友達と早く結べるかを競争していたんですよ」
ミーレは楽しそうに幼い頃の思い出を語る。
新しい結び方を覚えたら、友達同士で教え合い、競ったり、アクセサリーにしてプレゼントし合ったりしていたらしい。
イクゥ国はおしゃれな遊びをしているんだなぁって思ったら、紐で装飾品を作る文化は獣人から発生して定着したものなんだって。
「尻尾を持つ獣人が、仕事の邪魔にならないよう、尻尾を紐で体に縛ったのが始まりだと言われています」
野良仕事なら尻尾が邪魔になることはないが、狭い店舗での仕事は、尻尾がお客様や商品に当たったりすることが多々あるそうだ。
確かに、狼族などの犬系の獣人は、尻尾が正直で元気だもんね。
スピカも嬉しいときや楽しいときは、ちぎれそうなほど尻尾を振り回しているし。
それで、尻尾の可動域を小さくするために、紐を使うようになったと。
そこから、紐の色がカラフルになったり、飾りになる結び方が考案されたりして、今のような文化に発展した。
ミーレの話を聞きながら、自分の身嗜みをチェックする。
ウエストができたことで、ちゃんとワンピースに見えるようになった……はず!
髪もバッチリだし、これで恥ずかしい思いはしないだろう。
「じゃあ、ミーレ。行きましょう!」
ミーレの手を引っ張って、意気揚々と部屋を出た。
窓がない廊下を歩く。
灯りの魔道具が煌々と廊下を照らしているので、窓がなくても明るい。
廊下を抜けると、エントランスホールに出た。
「うわぁ……」
本来なら広々としているであろうエントランスホールには、木箱と大きな袋がいくつも積み上げられており、物置と化している。
ホールの両端に二階へと続く階段があるのだが、どちらも劣化が激しく、所々に踏み抜いたような穴まであった。
「どうやって二階に行くの?」
他に階段があると思うけど、この手入れのされていなさ加減を見るに、二階は使用されていないのかもしれない。
「厨房横に階段があるので、二階に上がるときはそこを使っているのですが……。二階は危険なので行かない方がいいです」
「でも、ちょっと気になる!」
私はあの朽ちた階段を見てピンときた。
ミーレの話から、ここがイクゥ国なのは間違いないと思う。
今いるのがルノハークの本拠地なら、廃墟を利用しているんじゃないかと。
前も遺跡とかに集まっていたし、この建物が廃墟なら、あの部屋のちぐはぐさも説明がつく。
前世でも、廃墟や廃倉庫が不良やギャングのたまり場になっている話がいっぱいあったし、アウトローのお約束だよねぇ。
そして、廃墟と言えば、廃墟探索!
幽霊が出そうなおどろおどろしいものから、時間が止まったかのように当時のままのものまで、廃墟には洞窟探検と同じ、ロマンが詰まっているのだ!!
渋るミーレを説得して、二階を見せてもらうことに。
階段があるという場所は、厨房や洗濯場など裏側的なところだった。
そこで働いているであろう人たちからは、不思議そうな目で見られた。
彼らはミーレのようなローブは着用しておらず、支給品なのか、みんな同じ服を着ている。
そんな彼らを横目に、私は階段を見上げた。
「これをのぼるの……?」
「怖いようでしたら、やめておきませんか?」
石壁から石板が突き出ているだけの階段。手摺りもなければ、石板と石板の間から落ちそうっていう……。
「行く!」
ちょっとビビったけど、四つん這いで登れば大丈夫だと思う。
四つん這いで登った先は踊り場的な場所で、目の前には古びたドアがある。
ミーレが上がってくるのを待ち、彼女の先導でドアの向こうへ。
ギギギィーッという耳障りな音を立ててドアが開くと、なんとも言えないにおいが漂ってきた。
すえたにおいというか、干すのを忘れて一日放置した洗濯物のにおいというか……。いい匂いでないのは確かだ。
ドアの向こうは廊下だったけど、薄暗くて、空気がじっとりしていて、これぞ廃墟!って感じがした。
ボロボロの絨毯の上を歩く。床は石材なので、床が抜ける心配がないのはよき。
しばらく進むと、風を感じるようになった。
廃墟だし、割れたままの窓でもあるのかな?
ドキドキしながらミーレについていくと、そこには想像以上の光景が広がっていた。
立ち入れないように張られたロープ、その先に転がっているたくさんの瓦礫、絨毯から生える草や苔に天井の穴から見える青空。
割れた窓なんてものじゃなかった……天井、崩落してんじゃん!!
「どうしてこうなった!?」
思わずそう叫んでしまう。
「嵐が来たときに、雷が落ちたんです」
「なんで直さなかったの?」
階段は、他に使える階段があれば直さなくてもいいやってなってもおかしくはないけど、さすがに天井に穴は放置しちゃダメでしょ。
「直したいのですが、土魔法を使える人がみんな国に徴用されていて、直せないんです」
ミーレ曰く、土属性を持つ者は上級下級、身分すら関係なく、イクゥ国の復興のために招集されているそうだ。
なので、今ここにいる人たちは、土属性以外の人たちで、建物の修繕は最低限しかできないとのこと。
「先ほどの階段も、別の国に住む同志がやってきたときに作ってくれたものなんです」
なるほど。他国のルノハークメンバーにお願いしていたのか。
でも、ガシェ王国やライナス帝国で活動していたルノハークのほとんどが捕らえられた今、直せる人がいないと。
「まだ時折、天井から破片が降ってくることがあるので、絶対にこれより先に入らないでください」
雨風が吹き込んで、劣化も進んでいそうだもんなぁ。瓦礫が降ってくるのも頷ける。
他の部屋も見せてもらったけど、木の板を打ちつけた窓にカビ臭い室内、壊れた家具とか廃墟感を堪能することができた。
ただ、長くいるのはね……。風魔法で新鮮な空気のバリアがないと、病気になりそう。
また四つん這いでゆっくり階段を下りて、今度はミーレの言う同志が使う部屋を見せてもらう。
最初は転移魔法陣がある部屋。元はなんの部屋かわからないけど、そこそこ広い。
次は謎の祭壇がある部屋。めっちゃカルト臭プンプンな怪しい空間だった。
ローブを着た人が数人、祭壇に飾ってある像に向かって熱心にお祈りしている。
つか、あの像、女神様っぽいけど壊れてない?
顔の部分や胸元が削られているというか、摩耗したみたいに凹凸がなめらかになっているように見えた。
「ネフェルティマ様もお祈りされてみますか?」
「いやー、いいかなぁ……」
女神様に祈るのは問題ないんだけど、ミルマ国でのように神様や女神様からリアクションがあったらめっちゃ困る。
ルノハークに御輿だわっしょいされて、お家に帰れないパターンに突入とか絶対避けなければ!
次は食堂。
同志……ルノハークの面々やここで働いている人は、みんなここで食べるんだって。
王国騎士団の食堂と同じく、流れ作業でおかずやパンとかをトレーで受け取る仕組みみたい。
食堂の長テーブルは年季が入っているものと、素人が手作りしました的なものとあって、ここでもルノハークたちの創意工夫が見られた。
夕食の準備中なのか、配膳カウンターの向こうで料理人たちが忙しなく動き回っている。そして、美味しそうないい匂いも!
「私もここで食べるの?」
「いえ、お部屋に用意するよう言われております」
なーんだ、ちょっと残念。
人が集まるところなら、何か情報をゲットできると思ったのに。
次は庭らしき場所に行ってみた。
庭があればお外で遊べるかなぁって期待していたのに、目の前には大草原……じゃなかった、一面草ボーボーの空間があるだけっていう。
「植物はたくましいねぇ……」
「以前は食べられるものを植えていたのですが、気がつけばこうなっていました」
野菜か果物でも植えていたのかな?
食べられるものがあるということは、鳥や動物も寄ってきやすい。
彼らがこの雑草たちの種子を運んできて、あっという間に繁殖してしまったのだろう。
まぁ、草ボーボーでも遊べなくはない。
…………どうしよう。草相撲くらいしか、遊びが思いつかないわ。
いっそのこと、草むしりをして遊ぶ場所を確保するか?
うーん、保留で!
この服には魔法が付与されていないし、それで草むしりしたら虫に刺されそうだし。
そういえば、ここに治癒術師は常駐しているのかな?
毒を持つ虫に刺されて瀕死……なんてことにはならないよね??
自分に宛てがわれた部屋に戻りながら、気になったことをミーレに質問しまくる。
食事は美味しいか、こちらの子供はどんな遊びをするのか、治癒術師はいるのかと。
ミーレは嫌な顔一つせず、質問に答えてくれた。
「食事は泥の味がしないので、美味しい方だと思います。子供の遊びは……球蹴りとかですかね?治癒術師は一応いるにはいるんですけど、おじいちゃんなので頼りにならないというか……」
答えの内容がちょっと予想外だった。
泥の味しないから美味しいって、普通の食事は泥の味しないよ?
ボール遊びは楽しいよね!ここにボールがあるのか知らないけど。
あと、経験豊富なおじいちゃん先生が頼りにならないって、もしかしてボケが始まってるとか?治療法間違えて余計に悪化しちゃったりする??
質問に答えてもらったのに、さらに疑問が増えたのはなぜだ?
部屋に戻り、ドキドキしながら食事の時間を迎えた。
ここに来てから食べたものは、普通に美味しかったので、今日も大丈夫なはず。
運ばれてきたご飯は、昨日のメニューからお肉を抜いた感じのものだった。
野菜を煮込んだものと、豆のおかずと雑穀。
お肉がないのは残念だが、食べられるだけありがたいということで、いただきます!




