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囚われの身になりました!

イクゥ国に帰ってしまう獣王様とのお別れの宴のさなか、なぜかアイセさんとヘリオス伯爵に誘拐された私。

転移魔法陣特有のキラキラが発生していたことから、あの会場に最初から転移魔法陣を仕込んでいたと思われる。

そうして転移した先は薄暗く、申し訳程度の灯りの魔道具が足元を照らしているだけだった。

はっきりとは見えないけど、石造りの建物っぽい。そして、ちょっと空気が(よど)んでいる気がする。


「お待ちいたしておりました。準備はできております」


ローブを着た人たちが、床に額がつくくらい深く頭を下げた。

……というかこれは、土下座では??

ガシェ王国にもライナス帝国にも、私が知る限りでは土下座のような礼儀作法はない。


「すぐに飛ぶ」


ヘリオス伯爵がそう告げると、ローブを着た人たちが立ち上がり、どこからともなく大きな魔石を運び込む。

その間、ヘリオス伯爵と私を抱えたままのアイセさんは一度、高座から離れる。

ローブを着た人たちが、床に敷かれた布を取り除くと、転移魔法陣が現れた。

……もしかして、会場の絨毯の下に転移魔法陣を隠していて、転移するときに絨毯も一緒に運ばれた?

転移魔法陣から少しでもはみ出たら、体も同じように切断されたりするのかな?

もし、アイセさんの着地がずれていたら、私が真っ二つになる可能性があったってことだよね!?

思わず想像して、ゾワワッと全身に鳥肌が立った。

恐ろしい想像をしている間に、大きな魔石は転移魔法陣にセットされ、準備が整ったようだ。

ヘリオス伯爵と私を抱えたアイセさんは、再び高座……転移魔法陣の上に乗る。


「イオトゥー宮」


二度目の転移。

今度はどこに連れていかれるのか……。

薄暗い空間での転移魔法は、キラキラがやたら眩しい。

情報を集めるためにも、できるだけ目を開けていたかったのだが無理だった。やっぱりサングラスもどきを常に持っていないとダメだな。


「おかえりなさいませ」


キラキラの残像がまだ残っている中、ぴったりと揃ったおかえりコールに驚いて目を開ける。

先ほどとは違い、ちゃんとした明るい部屋に白いローブを着た集団が土下座でヘリオス伯爵を迎えるという……。なんかこう、カルト臭がプンプン漂っているような?


「アイセント、愛し子を例の部屋へ」


アイセさんは返事の代わりに肩を(すく)め、ここでようやく私をまともに抱き直した。

ずーっと小脇に抱えられていたせいで、お腹は苦しいし、頭に血が上らないようにしていたから首が痛い。


「アイセ様、ここどこ?」


「まだ内緒」


まだってことは、一応場所を教える気はあるということか?

それならば、建物の特徴でも覚えるかーと思った矢先、視界が奪われた。


「何っ!?」


顔に布の感触があるので、目隠しをされたようだ。

目隠しに手をやろうとすると、その手を誰かに掴まれる。


「すぐに着くから我慢して」


声からアイセさんだとわかった。

我慢してと言うが、アイセさんの抱っこはパパンや森鬼と比べて安定感が足りないし、その状態で目隠しは結構怖いんだぞ!


「ネフェルティマ嬢はずいぶんと落ち着いているな。アイセントを信用しているからなのか?」


ヘリオス伯爵の声なんだけど、なんだか今は別人のように感じる。

違和感を覚えつつも、私は正直に言った。


「さらわれるのは三回目なので……」


「三回目?」


ヘリオス伯爵は不思議そうに呟く。

パパンの領地視察についていって、ゴブリンにさらわれた一回目。創聖教の教会に行ってさらわれた二回目。そして今回の三回目……。


「なるほど……。ネフェルティマ嬢の周りがあれだけ過保護なのも頷ける」


なんか、お前さらわれ過ぎじゃね?っていう含みを感じるけど、気のせいかな?

つか、みんなが過保護になったのはルノハークのせいだから!!

これ以降、会話という会話はなく、アイセさんが立ち止まったと思ったら、ゴゴゴッという不気味な音が聞こえてきた。

再びアイセさんが動くと、それに合わせて私の体が上下に揺れる。

……この感覚は、階段か!しかも下り!!

すぐさまアイセさんの服を強く握りしめた。

私を抱えて階段を下りるとか、本当に大丈夫なの!?

足を踏み外さない?私を落っことしたりしない?

大人に比べてまだ体格が小さいアイセさんだけに、めっちゃ不安だし、めっちゃ怖いんですけど??

階段が終わり、平坦な場所での歩き方になると、私はようやく体の力を抜いた。

あー、マジで怖かった!

ガチャガチャと金属音がしたら、ギギギーッと錆びついた鉄扉を押し開けるような音も……。

いまだ目隠しをされたままなので、周囲を見ることができない。

階段を下りた先にある金属製の扉といえば――牢屋!!

え……私を牢屋に閉じ込める気!?


「お待たせ」


そう言って、アイセさんは目隠しを外して、私を地面に降ろした。

全面石壁に囲まれた狭い個室。ベッドと小さなテーブル、衝立(ついたて)しかない。……どう見ても牢屋です。はい。


「とりあえず、これと……やっぱりあった。これも没収で」


うさぎさんリュックを奪われ、ラース君の風玉(ふうぎょく)の腕輪も引き抜かれた。


「あぁぁ……うさぎさん!」


うさぎさんリュックは、もはや私の体の一部と言っても過言ではない。


「それと、念のためにこれも外しておくね」


王様からもらった魔石のペンダントも没収されてしまった……。なんということだ!

取り返そうと手を伸ばすも、アイセさんは楽しげな様子で私から遠ざける。


「返して欲しかったら、大人しくしておくことだね」


そのとき、アイセさんが胸のブローチを見た気がした。

これも聖獣の(ぎょく)だと気づかれたかと思ったが、アイセさんは何もせず私から離れ、ヘリオス伯爵と一緒に牢屋から出ていく。

ガチャリと扉の鍵がかけられた音がして、二人の足音が小さくなっていった。


「つかれたぁぁぁ……」


ベッドにボスッと寝転がると、ふんわりいい匂いがシーツからした。

ベッドが綺麗でよかったと思いながら、寝転がったまま天井を眺める。

窓がない代わりに、灯りの魔道具が部屋全体を照らしているので、壁のいたるところにある模様をはっきり見ることができた。

何度か見たことがあるこの模様。おそらく、精霊が立ち入れないようするやつだろう。

まぁ、これは想定の範囲内だ。

私が囮になると決めた時点で、いろいろなことを想定して対応を練ってきた。

ルシュさんがさらわれた事件でも、精霊が立ち入れないようにされた場所に監禁されていたし、私が愛し子だと知っているなら精霊と切り離すに違いないと。


「ディー、ちゃんと見つけてくれるかな?」


腰帯に隠しておいた陽玉(ようぎょく)を取り出し、見つめた。

精霊がいなくても、ディーの力を使えば私を探すことはできる。

パウルが、灯りもない真っ暗な場所に閉じ込められたらどうするのかと難色を示したが、そのときは真っ暗は怖いと、盛大に駄々をこねる予定だった。

いやぁ、この部屋に灯りの魔道具があってよかった!さすがに駄々をこねるのは恥ずかしいからね。


それにしても、竜玉(オーブ)と風玉とペンダントを取られたのは、めちゃくちゃ痛手である。

唯一の救いは、魔石が土魔法のやつということくらいだろう。ミラクルが起きて魔法が発動しても、『絶対不可侵』なら発動範囲が狭いし、天災級の大惨事が起きることもない。

アイセさんが、あの魔石に精霊王の加護が付与されていることを知っていたのか、気になるところではあるが……。

今考えたところで仕方がない。


「よっと!」


起き上がってベッドから下り、まずはあの模様が精霊を立ち入れないようにするやつなのか確かめてみよう。


「精霊さん、いるの?いるなら風で教えてくれる?」


精霊がいるときは、たまにふわりと風が吹いたりするのだが、今は隙間風すら感じない。


「おーい!なんでもいいから、いるなら反応して欲しいなぁ……」


ありえないことだけど、風の精霊がいない場合を想定して、他の属性の精霊たちにもなんでもいいから現象を起こして欲しいとお願いしてみた。

それでもうんともすんとも答えはない。

やはり、精霊たちはこの牢屋に立ち入れないようだ。


精霊がダメとなると、頼れるのはソルしかいない!

ソルとの念話を(こころ)みるも、いつもの繋がった感じが一向にしない。

おーい、ソルさんやーい……。

……返事がないただのし……じゃない。ソルは生きてるわ。

んー、竜玉がないせいかなぁ? でも、ヴィやお兄ちゃんは玉がなくても念話していたんだよなぁ。

何回か試してみたけど、やっぱり繋がらなかったので、竜玉がないせいか、ソルが寝ているからという結論にいたった。

じゃあ、次やることと言えば……この部屋の探索!


「白、グラーティア、出ておいで」


衣装の中に隠れていた白と、髪の中に隠れていたグラーティアがいそいそと出てきた。

この子たちが見つからなくて本当によかった!

行事のときはいつも姿を見せないよう言い聞かせていたから、アイセさんはこの子たちが隠れていたことを知らなかったのだろう。


――みゅっ!みゅっ!みゅぅぅ!!


転がり出てきた白が興奮気味に鳴く。私のことを心配しているみたい。


「しーっ」


見つかると何をされるかわからない。心配してくれるのは嬉しいが、今は鳴き声を出さないようにお願いする。


「絶対に見つからないようにね。誰か来たらすぐに隠れるのよ?」


二匹はそれぞれ体を伸ばしたり、前脚を上げたりして、了解の意思を伝えてくれた。


「それで、今からこの部屋を調べるから、白とグラーティアも手伝って欲しいの。隠し通路とか、抜け穴とか、逃げるのに役立ちそうなものがあったらすぐに教えて」


この二匹なら狭い隙間にも入っていけるし、遊びでいろいろな技術を身につけているので、探索には打ってつけである。

白とグラーティアは分かれて探索をすることにしたみたい。

白は床に体を張りつけながら移動し、グラーティアは天井を歩き回る。

床に張りついている白が、スライムじゃなくて地球外生命体のようになってしまっているが……。


さて、私は衝立の向こうから見てみるか。

大人の身長より高い衝立の向こう側は、思った通り、トイレの魔道具が設置してあった。

いわゆる、完全水洗式の、貴族が使うようないいやつだ。多少は私に配慮してくれているのか?

次はテーブルの下を覗いてみたけど、何もなかった。

映画やドラマでは、こういうところにメッセージが残されていたりするんだけどなぁ。

同じようにベッドの下も覗いてみる。

埃が溜まっているかと思いきや、普通に綺麗だった。

わざわざベッドをどかして掃除したの?

私ってば、どういう扱いされているんだろう?

こんな、いかにも牢屋ですって部屋に閉じ込めてぞんざいに扱う割には、トイレが貴族仕様な上に、部屋もベッドも綺麗だ。

秘密組織が使う牢屋って、水漏れしてたり、苔が生えてたりするものだと思ってた。

鉄の扉は……開くわけないか。

監視窓はあるけど、食事の投入口みたいなのはなかった。

白なら、監視窓や扉の下の隙間から外に出られるはず。扉の鍵を白に壊してもらうのも手だな。

一回試しに白を外に出してみるかと思案していたら、その白が私の目の前で踊り始める。

喜びの舞……じゃなくて、何かを発見したのを知らせてくれていた。


「どこで何を見つけたの?」


私の問いかけに答え、コロコロと転がって壁の方を示す白。

壁と床の境付近にグラーティアもいた。


「そこに何かあるの?」


床に這いつくばって、壁に顔を近づける。

グラーティアがいる部分と周りの色が違う気がする。

触って確かめてみると、感触も違っていた。

壁は石材なので比較的ツルツルしている。色が違う部分はザラザラで、触ると指に粉っぽいものがつく。


「ここだけ土で補修してあるのかな?」


土魔法を使えば、土じゃなくて石にもできるのに、なんで土のままなんだろ?


「白、この部分を壊すことできる?」


なんでも食べられる白ならどうにかできないかなと思って聞いてみたら、衝撃的な光景を目にすることとなった。

体の一部を伸ばして、腕……というよりは触手を何本も出したかと思ったら、目で捉えられない速さで土の部分を殴り始めたのだ。

スライムなので打力があるようには見えないが、塵も積もればなんとやら。パラパラと剥がれた土が床に溜まっていく。

筋肉ムキムキなマッチョがやっていたら、昔懐かしアニメの主人公にそっくりだったかもしれないが、白である。触手を生やした状態はイソギンチャク……。


土がボロボロになって、向こう側に貫通すると、白はやり切ったというように一本の触手でおでこを拭く仕草をした。

お前おでこないやん、という野暮なツッコミはしない。たぶん、私の真似だろうから。


貫通した部分から隙間を広げていき、ほとんどの土を取り除くことができた。

床に溜まった土は何かに使えるかもしれないので、ベッドの下に隠しておこう。

さてさて、隣はなんの部屋かなぁ。

再び床に這いつくばるも、細かい土が残っていて、両手も頬もザラザラして不快に感じる。

ちょっとの辛抱なので、そのまま穴を覗いた。


私がいる部屋と同じ石材でできた床。床にも模様があることから、用途も同じなのだと思われる。

視線を動かしてすぐ、私は自分の目が信じられなくて、声が出そうになった口を手で塞いでからガバリと起き上がった。

口から心臓が出そうなほどバクバクしている。

深く息を吸い、落ち着こうと思ったところで自分の手が土臭いことに気がついた。

なんなら若干口の中がジャリッとするような……。

だけど、そのおかげで冷静になれた気がする。

手や顔についた土汚れを(はた)いて落とし、帽子のベールを敷いてから、もう一度覗く。

私が見たものが、本当に存在しているものなのか確かめるために。


灯りの魔道具を眺めるように、ぼーっと上を向いて座る人物がいた。

問題は、その人物の背中にある翼。

少し色味が薄いものの、精霊の力を表す四つの色の羽根を持つ獣人なんて、私は獣王様しか知らない。

しかし、その人物は獣王様と違い、雑に切られた髪に心配になるくらい細い手足、ボロボロの服を着ていることからも、大切にされていないことがわかる。


「……もしもーし?」


おそるおそる声をかけてみた。

だが、反応は返ってこない。聞こえなかったのかな?


「あのー!お隣の者ですけどー!」


ご近所さんを訪ねるような言い方になってしまったが、こんな状況での正しい声のかけ方なんて教わっていないのだから許して欲しい。

聞こえるようにと大きな声で言ったにもかかわらず、やはり反応は返ってこなかった。

精霊がいないからといって、自然の現象をなくすことはできない。だから、この声は間違いなく届いている。

もしかしたら、暴力を受けて鼓膜が破れたとか、閉じ込められているストレスで難聴になったとか、聴力に問題があるのかもしれない。


「獣王様の(つがい)さんですよね?」


精霊が立ち入れない部屋にいて、獣王様と同じ色の翼を持つ獣人。

陛下が言っていた獣王様の本当の(・・・)番の条件にぴったり当てはまる。


「白、あの人のところに行ってみてくれる?」


声が無理なら、物理的な刺激で気づいてもらおう作戦だ。

白はピッと一度体を縦に伸ばしたあと、穴の中ににゅるんと入っていき、あとは堂々と飛び跳ねながら獣王様の番と思しき人物に近づく。

しかし……。

目の前で白が飛び跳ねても、周りで踊っても、しまいには頭の上に乗っても、まったく反応してくれなかった。

ぼーっと灯りの魔道具を見つめる番さんのおでこで、魔道具の光に照らされた白が輝いている光景はなんとも言えない物悲しさを感じる。


ひとまず白を呼び戻し、状況を整理してみる。

番さんが刺激という刺激に反応しなかったことから、すでに心が限界を迎えている。もしくは、聖主お得意の洗脳であんな状態になっている、のどちらかだと思われる。

どちらにしろ、早く助けないといけないわけだが、私も囚われの身。

パパンたちが助けにきてくれたときのことを考えて、アイセさんから情報を得るようにした方がいいのかも?

あとは、あの穴の存在は隠しておこう。

土は元に戻せないから、帽子のベールを土で汚してそれっぽく……なってないな。まだ白さが目立つか。

食事のときにお水も出るだろうから、泥水で染めればなんとかなるはず!


食事が届けられるのを待つ間、私はベッドで眠ることにした。

いざというときに動けなくなったら困るからね。休んで英気を養うのだ!



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