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獣舎と竜舎にご挨拶回り。

パパンと朝ご飯を食べながら、竜舎と獣舎に遊びにいきたいことを告げる。


「そうか。大丈夫だと思うが、怪我しないよう気をつけるんだよ?」


「はーい!」


こちらにいたときはしょっちゅう遊びにいっていたからか、パパンはすんなり許可をくれた。

しかし、ここでパウルが一言。


「竜舎や獣舎に、魔物たちを連れていくのは問題になりませんか?」


パパンはハッとした顔をしたのち、何やら考え始めた。

白は珍しい人懐っこいスライムとして、王宮でもそこそこ認知されている。

見かけたことがある竜騎士や獣騎士もいるだろう。

グラーティアは基本、お外にいくときは私の髪の中に隠れているので、知っている人はわずかじゃないかな?竜舎や獣舎でも、竜や動物たちの気配にビビってずっと私に隠れていたしね。


「セーゴとリクセーはシアナ計画で仲良くなったと言えばいいだろうが、イナホは……」


稲穂はまだ子供とはいえ、大人になればオーグル以上に恐れられているキュウビだからねぇ。

稲穂が呼ばれたと勘違いして、パパンの足元にやってきた。


――きゅう?


「今日も可愛いな。おいで、魔力をあげよう」


パパンは稲穂を膝に乗せて、稲穂の背中を優しく撫でる。

魔力をと言っていたので、パパンは手から火の魔力を放出しながら撫でているのだろう。

稲穂は気持ちよさそうに目がとろんとしている。いつぞやのときみたいに、魔力をあげすぎないでおくれよ?危ないから。


「……イナホ、今日は私と一緒に過ごすか?」


――きゅうん?


パパンっ!?急に何を言い出すの??


「旦那様、さすがにそれはいかがなものかと……」


パパンの突拍子もない発言に、あのパウルが困惑しているだと!?


「私の魔力で手懐けたことにすれば問題ないだろう?」


「旦那様はしばらく、ライナス帝国へ訪問されておりませんが?」


確かに。ママンはプシュー作戦の関係でライナス帝国に来てたけど、パパンはガシェ王国にお留守番だったもんね。


「それこそ、ネマが保護したと事実を言えばいいだろう。シアナ計画のおかげで、ネマが魔物に友好的だとある程度知られているしな」


そうなのか……。それは知らなかった。


「それなら、わたくしと一緒でもよろしいのではなくて?お父様のことですから、他に目的があるのでしょう?」


パパンはお姉ちゃんに正解とでも言うように笑う。

その笑い方が悪役みたいでちょっと格好いい!


「私がイナホを連れて回れば、ネマが戻ってきたときにイナホと一緒でも受け入れやすくなるだろう?」


なんと!ただ可愛い稲穂をみんなに見せびらかせたいだけじゃなかったのか!!


「さすがお父様ですわ!」


「おとう様、ありがとう!」


嬉しくてパパンに抱きついたら、たちまちいつものデレデレなパパンに……。さっきの格好いいパパンどこ行った!?

こうなってはパウルも反対することはできないようで、パパンに釘を刺す程度だった。


「急にキュウビが現れては、他の方にご迷惑をかけるおそれがございます。まずは、陛下より許可をいただくのがよろしいかと」


「それもそうだな。陛下に今から伺うと、使いをやってくれ」


私たちが朝ご飯を食べている時間に押しかけるの迷惑なのでは?

でも、パパンは王様のスケジュールを把握しているだろうし、もしかしたら隙間時間の可能性もある。

そしてパパンは、パパッと食事を終えると、すぐに戻ると言い残して出ていった。


「わたくしたちはゆっくりいただきましょう」


お姉ちゃんに朝ご飯の続きを促され、しっかりと味わって食べる。

最後に残しておいた好物のペシェを頬張る。

ペシェは桃に似た果物で、歯がすっと通る柔らかな果肉に、これでもかっていうくらい溢れる甘い果汁がとにかく美味しい!よくお菓子にも使われている。

朝からペシェが食べられるなんて、いい日だなぁ。


「こちらのペシェは、王妃様がお嬢様方のためにご用意してくださったものです」


パウルに言われて、次のペシェへ伸ばしていた手が止まった。

王妃様が用意してくれたということは、本来は王妃様に献上されたものなのでは?

どおりで美味しいわけだ。


「まぁ!王妃様はネマの好物を覚えていてくださったのね」


お姉ちゃんが一緒にお礼の手紙を書こうと言うので承諾する。

王妃様に献上されるくらい希少で美味しいペシェをじっくり味わう。うむ、美味!


食後は、パパンが戻ってくるのを待ちながら、お姉ちゃんとお礼の手紙を書く。

ほとんどの文面はお姉ちゃんが書いてくれたので、私は美味しかったことと、ありがとうございますしか書いてない。

それからパパンが戻ってきて、本当に王様から稲穂を連れ歩く許可をもらってきた。


「自由に動けるのは私の執務室だけだが、できるだけ王宮を散歩しよう」


――きゅっ!


パパン、仕事をせずに稲穂と遊ぶ気満々じゃん!

稲穂は新しい遊び場に行くと思っているようで、尻尾を元気よく振り回しながらパパンに抱っこされる。

稲穂を抱いて意気揚々とお仕事に向かうパパンを、私とお姉ちゃんで見送った。

本当に大丈夫かな?ちょっと心配……。

私の方はというと、いつまでいられるかわからないし、一日で竜舎と獣舎を巡った方がいいってことになった。

そんなわけで、午前中は獣舎、午後は竜舎にお邪魔する予定だ。

まずはパウルと相談しつつ、護衛にあたっている竜騎士と獣騎士の意見も取り入れながら、連れていくメンバーを決める。

白とグラーティアはいつも通り、私の髪や服の中に隠れてもらい、両方に同行させる。

森鬼も両方に同行してもらうが、動物に怯えられるので、獣舎では詰め所で獣騎士のお手伝いだな。

ノックスももちろん連れていく。ノックスにとっても里帰りだしね。

スピカは、(ろう)族の獣人ということで小動物系には怯えられるかもしれないけど、十分に訓練している子たちは大丈夫だろうって。

星伍と陸星は、獣舎に入る前にランドウルフと会わせてから判断した方がいいと言われた。

プルーマの反応を見る限り、訓練している子でも怯える可能性は高そう。

あと、獣騎士からの熱い要望で、プルーマも連れていく。

竜舎の方は、白、グラーティア、森鬼、ウルクのみになるので、竜舎までの道中、我が家の護衛係が同行することに決まった。

残念ながら、海と青、葡萄は一日中お留守番だ。

その代わり、お姉ちゃんが遊び相手になってくれるそうなので、退屈はしないと思う。

お姉ちゃん、青と葡萄に手品をするって張り切っているから。


獣舎に向かうと、出入り口の門のところで、獣騎士たちがずらりと待機していた。


「ネフェルティマ様!!お待ちしておりました!!」


お久しぶりな顔ばかりだが、ちらほら知らない獣騎士もいた。新人さんか、国境沿いの砦から異動になった人かな?

スノーウルフだった頃のディーを薄茶色にした大きなわんこ……もとい、ランドウルフが二匹、獣騎士の足元にお座りをしている。

さてさて、星伍と陸星を見てからの反応はいかに!

ドキドキしながら、うちの子とランドウルフの初顔合わせを見守る。

星伍と陸星が挨拶しようとランドウルフ二匹に近づくと……獣騎士の後ろに隠れ、耳はぺったんこ、尻尾を股に挟み、挨拶どころではなかった。


――くぅぅん……。

――わぅぅ……。


お尻で後退りするほどダメなのか。

スライムにはそこまで警戒したりしないんだけどなぁ。

ということは、大きさが問題なのかもしれない。


「おいおい、急にどうした?」


「ムシュフシュのにおいがするのかもな」


「そういえば、当番から戻ったらシルーに怯えられた……」


実は俺もと、もう一人、当番上がりに獣舎の動物に怯えられたと名乗り出す。

獣騎士たちの場合、ウルクのにおいだけでなく、他の魔物っ子たちのにおいもついていたから怯えられたんじゃ……。

魔物っ子たちのことは、シアナ計画で仲良くなったことにするらしい。聞かれたときだけそう答えるようにってパパンに言われた。

大ぴらに公表するわけではないので、ウルクには申し訳ないが、ここはウルクのせいってことで乗り切ろう!


「じゃあ、星伍と陸星は森鬼と一緒に獣騎士さんたちのお手伝いをしようか?」


魔法でにおいを飛ばせば大丈夫、なんてことを言われないうちにさっさと決めてしまう。


――ワンッ!

――ワンッ!


お返事が綺麗にハモって気持ちがいい。

星伍と陸星は森鬼にお願いして、レッツゴー!


意気揚々と獣舎に入ったはいいが、行く先々で獣騎士に呼ばれ、足止めされる。

私が……ではなく、プルーマが!!

バンなんちゃらが珍しいのか、それともプルーマの羽根が素晴らしいからか、獣騎士たちは興味津々な様子。

中には、プルーマに魚をあげようとする獣騎士までいて、アイルが必死に止めていたのがちょっと面白い。


「あ!レスティン!!」


「ネフェルティマ様、お久しぶりです。お元気そうですね」


レスティンはしっかりとした足取りで歩いてきた。

プシュー作戦に参加していた姿は見たけど、改めて怪我が完治しているのがわかってよかった!


「もうけがは平気?」


「えぇ。ネフェルティマ様のおかげで(・・・・)この通りですよ」


なんか含みのある言い方をされたんだが……?


「もしかして……薬が苦かった?」


思い当たるのは、レスティンの怪我を治すために作ってもらったエルフの秘薬くらいか?

それとも、獣騎隊でこういうのやるのはどう?って提案したアレがまずかった??


「とても薬とは思えないほど、くっそ不味いものを飲ませやがりくださいましたよ。ラルフリード様が!」


レスティンが壊れた!!そんなに薬が不味かったの?

アニレーとトマという魔生(ませい)植物と、ペェバンという虫を材料に作られたエルフの秘薬。

その材料集めには私も参加していた。

アニレーを私は見ることできなかったけど、フィリップおじさん曰く、月夜に咲く大ぶりの花弁が美しい花だって。その花の蜜なら甘いと思うじゃん?

トマも緑の綿毛……ケセランパサランみたいな見た目をしており、そんなに不味そうな感じはしなかったけどなぁ。


「しかも毎日ゼルナン将軍に見守られながらくそ不味い薬を飲まなければならなかった僕の気持ちがおわかりですか!」


お、おぅ……。一気に早口で捲し立てられた。そんなに恨めしく思っていたのか。なんかごめんよ。

まったりと獣舎内を散策していると、ワイルドベアーがお昼寝している姿が見えた。

丸く(うずくま)るのではなく、草の上に腹這いで四肢を投げ出す姿には、もはや野生味は残っていない。

なんなら、その子の背中で鳥が休憩しているくらい、長閑な風景の一部と化している。


「そういえば、ベイは砦に行っているんでしょう?けがはしてない?」


「よくご存じですね……。もしかして、砦の敷地に侵入したのはオスフェ家の者ですか?」


レスティンの眉間に皺が寄る。

森鬼たちが移動の際に、獣舎の子たちとやり合ったことは知らされてなかったみたい。これは藪蛇だったわ……。

えへへって笑って誤魔化すも、レスティンは流してくれなかった。


「宰相閣下に、次からは必ず、我々にご相談くださいとお伝えください」


「はーい」


次があるかわからないけど、パパンにはちゃんと伝えておこう。

それから、砦の子たちの様子を聞いた。

森鬼たちとやり合ったあと、しばらくは興奮していたようだが、特に怪我などはなかったらしい。

その子たちはまだ砦にいるので、お詫びを兼ねた差し入れを砦に送ろうかな。


最後に犬舎に立ち寄る。

ここには私の推しのオオカミ一家がいるのだ!

ウルフ種は出産時期以外は基本放し飼いエリアに放たれているが、今日は私が来ると聞いて、犬舎の庭に呼んでくれていた。


「セロ!セラ!」


庭で仲良く添い寝している二匹を見つけ、思わず名前を叫ぶ。

二匹はゆっくりと頭を持ち上げ、周囲を確認するように耳を動かし、においを嗅ぐ。


――わんっ!

――わわわわぅん!


セロとセラが私に気づく前に、他の子たちに気づかれた。


「みんな元気だった?」


大きな体にのしかかられながらも、集まってきた子たちをわしゃわしゃと撫でる。

大きな体に真っ白な毛並み、懐かしく感じるディーと同じ姿。

この子たちはスノーウルフで、長であるセロとセラの子供や兄弟たちだ。


「どこかで水浴びしてたの?」


群がってきた数匹は、毛が湿っている状態だった。

若い子たちは好奇心旺盛なので、すぐに別のものに興味を移す。


「わわわ……ネマ様!」


若い子たちに囲まれて、狼狽えるスピカ。


「スピカは(ろう)族だし、新しいお友達だと思っているのかもね」


「そういうことですか。私はスピカです。仲良くしてくださいね」


スピカは自分の匂いをスノーウルフたちに嗅がせ、スピカもスノーウルフたちに近づいて匂いを嗅ぐ。

一歩近づいて匂いを嗅ぐのが、狼族同士の挨拶らしい。

さすがに他の種族にはやらないみたいだけど。

祖を同じとする者同士、何か感じるものがあるのか、一匹のスノーウルフがスピカのスカートを引っ張って遊びに誘う。


「じゃあ、誰が速いか競争しましょう!」


そう言うやいなや、スピカは駆け出す。そのあとを追うスノーウルフたち。


「やはり、獣人は動物と仲良くなるのが上手いですね」


スピカがすぐに受け入れられたからか、レスティンがしみじみといった様子で呟いた。


「レスティン、ひょっとして獣人に生まれたかったとか思ってる?」


「えぇ、少しですが」


確かに、自前のもふもふがあるのは心惹かれるよね。

しかしだ!


「森鬼みたいに、種族によっては動物に怯えられることもあるよ?」


森鬼の怯えられっぷりを思い出したのか、レスティンは即行で人間でよかったと前言を撤回した。


――わぅ!


レスティンと話していたら、急に後ろから誰かに引っ張られた。


「セラ!ちょっと待ってね」


セロとセラが寝ていた場所から私のところにやってきて、先ほどのスピカと同じように私のスカートを引っ張ったようだ。


「セロはますます貫禄がついたね。セラは相変わらず美人さんだ」


セロは他の子たちと比べても体格ががっちりしており、一目で強い個体だとわかるし、ただ者ではないオーラが出ている。

セラは顔立ちが凛としていて美しい。

冬毛でないのに、この毛並みのボリュームはスノーウルフならでは!

セラの背中に顔を埋めると、草のにおいがした。


――くぅーん。


セロが自分も構えと頭を擦りつけてくる。

首元を強めに掻いてあげると気持ちがいいのか、鼻先が徐々に上がっていく。


スピカの方は、どこからか持ってきた棒で遊んでいた。投げたり、引っ張りあったり、大変楽しそうだ。


帰る時間になると、スピカを行かせまいとスノーウルフたちが足元にまとわりついたり、スカートを引っ張るのを見て、ちょっとジェラシー。

君たち、私のときはそんなことしてくれないじゃん!


◆◆◆


竜舎でも、ずらりと並ぶ竜騎士たちにお出迎えされた。

いちぶの乱れなく整列している光景は、なかなか見応えがある。


「ネフェルティマ様!」

『お待ちしておりました!!』


さすが騎士団。声が綺麗に揃っている。

大勢のお出迎えに驚きはしたものの、彼らの視線が一点に集中しているのを感じて笑いそうになったが。

竜騎士たちが今か今かと待っていたのは私じゃない。ウルクですよねー。


「ダンさん、久しぶりー!」


ダンさんもプシュー作戦で見かけたけど、こうして会話するのはオーグルを運んできたとき以来だ。


「ネフェルティマ様、元気そうで安心した」


ダンさんは勢いよくしゃがむと、私の顔を見てニカッと笑う。そして、頭をポンポンしてきた。


「ダンさんもね!」


「この前の任務のとき、ルンルを宥めてくれたと聞いた。ありがとな!」


ダンさんの隣にいた竜騎士も、お礼とともに頭を下げた。

あ!ルンルに吹き飛ばされていた竜騎士か!

あのあと、ルンルはちゃんと檻を運んで、ご褒美をもらったらしい。竜騎士もルンルから目を離していたことに関しては忠告を受けたが、処罰まではいかなかったようで凄く感謝された。

そんなやり取りをしている間も、ダンさんはウルクをチラチラ見ている。


「みなさん待ちきれないようなので紹介します!ムシュフシュのウルクです!」


ウルクは、熱心に見つめてくる竜騎士たちの様子に、若干引き気味だった。


――出会ったときのお前と同じ気配を感じるぞ?


ウルクにそんなことを言われたので、出会ったとき……つまり、ミルマ国でウルクと遭遇したときのことを思い返してみた。

珍しい竜種を目の当たりにして、私はめっちゃ興奮してたね。

ヴィの魔法で気を失ったウルクに、これ幸いと触りまくってたわぁ。

竜騎士を見る。

目を輝かせながら、ウルクをガン見している者が多い。

きっと、鱗の手触りはどんなんだろうとか、尻尾や後脚の付け根部分はどうなっているんだろうとか、前脚で踏まれてみたいと思っているに違いない!


「みんな、竜が好きないい人たちばかりだよ!」


そう伝えたのに、ウルクから不審そうな視線を向けられた。


「ウルクはぶしつけに触られるのを嫌います。牙には毒はないけど、尻尾の先は毒針なので注意してください。ムシュフシュの毒は、ワイバーンの毒よりも猛毒だそうです」


竜種のプロである竜騎士には不要かもしれないが、念のためウルクのことを説明しておく。

竜騎士たちは素直に聞き入れてくれたけど、問題は竜舎の子たちだ。

悪戯好きな子たちが多いので、ウルクが怒って攻撃しないか不安になってきた。


爽やかな風が吹き抜ける草原区域で、ウルクとギゼルが対峙した。

ギゼルからも、周りのリンドブルムやリンドドレイクたちからも、グォグォと今まで聞いたことのない鳴き声が発せられている。

仲間に警戒を促し、縄張りに入ってきたものに対して警告している鳴き方のようだ。

いくら私が連れてきたとはいえ、ここの長であるギゼルがウルクを警戒するのは当然だろう。

ウルクの方も、ギゼルに向かってシャーッと威嚇音を放つ。

思っていた以上に、一触即発な雰囲気が漂う。


「おーい、ギゼル!ウルクもちょっと落ち着こう!」


二頭に声をかけてみるも、すげなく無視された。

どうしたらいいのかわからず、ダンさんに聞こうと思ったそのとき――ガキィーンという金属音が響き渡った。

何事かと音がした方を見ると、ウルクとギゼルが顔をくっつけていた……。いや、頭か。

ウルクの角とギゼルの鱗がぶつかって、あんな金属のような音がしたのだろう。

先に離れたのはギゼルだったが、翼をはためかせ飛ぶ素ぶりを見せた。

しかし、ギゼルの片翼をウルクが尻尾で(はた)く。

体勢を崩しながらギゼルはウルクに噛みつこうとするが、すかさずウルクの猫パンチが!

ギゼルはそれを上手く(かわ)し、隙をついて上空に飛ぶ。後脚の鋭い爪がウルクを襲った!

ガチッと鈍い音とともに、ギゼルの爪がウルクの背中に食いこ……んでないね。

ウルクの鱗もなかなか頑丈みたい。

ということは、ウルクの鱗を割った森鬼のパンチって、ギゼルの攻撃より強いってこと?

ギゼルが羽ばたくたびに、ちぎれた草や土が飛んでくる。

竜種同士がやり合うと、まさに特撮映画の怪獣同士のバトル!

さすがに、日本を代表する怪獣までは大きくないけど、間近で見る迫力は映画以上だよ!

ソルと風竜がガチでやり合ったら、リアル特撮映画になりそうではあるが、そうするとラーシア大陸滅亡コースだからなぁ。


いい加減、ウルクとギゼルを止めないと、二頭はどんどん興奮して、やり合いがより激しさを増している。


「ふたりとも!そこまで!やめなさーいっ!!」


大きな声で叫んでも、精霊に声を届けてもらっても、二頭は止まらない。


「炎竜様なら止められるんじゃないか?」


どうしたものかと頭を抱えていたら、ダンさんがぽつりと呟いた。

……ダンさん、ソルに会いたいから言っているわけじゃないよね?

ダンさんはソルに、崇拝に近い感情を抱いているみたいだし。

確かにソルなら止められると思う。でも、ここに呼ぶのはなぁ。ソルはとにかく目立つから、王宮に呼んだらママンに怒られそう……。

とりあえず、ソルに聞くだけ聞いてみるか。


――ソルー!ウルクとギゼルの喧嘩の止め方教えてー!


ソルに念話を飛ばすと、すぐに繋がった。念話って、本当に便利だよね。


――何事かと思えば、ただ力を競っているだけではないか。


どちらかが大怪我をするまでやり合うことはないのは理解している。

まだ野生で暮らしていた感覚が残るウルクなら、生死に関わる怪我を負うことを嫌うだろうし。


――いや、まぁ、そうなんだけど。紫紺が可哀想で……。


私がそう告げると、気の抜けた声であぁと返された。

ウルクが攻撃したり、躱したりするたびに、紫紺の悲愴感たっぷりな鳴き声が聞こえてくるのだ。

今もほら……。


――むーっ……むぅぅぅ……むぅぅぅぅぅ!!


もし紫紺が限界になって吹き飛ばされでもしたら、ギゼルが毒針で刺される危険も出てくる。


――致し方ない。竜玉(オーブ)を奴らに向けて掲げよ。


ソルに言われるがまま、背負っていたうさぎさんリュックを下ろし、二頭に向ける。

ソルが何をしようとしているのか見当もつかないが……うさぎさんの目からビームが出るとかだったらどうしよう?

ドキドキしながら、何か起きるのを待つ。


『お主らやめぬか!』


うさぎさんがビリビリと震え、凄まじい咆哮が響き渡る。

それと同時にうさぎさんから何か発せられた。

その衝撃を受けて、私は尻餅をついた。

私はそれくらいですんだけど、ウルクとギゼルは吹き飛ばされたのか、草の上を滑っている。


「何が起きたの?」


周りを見ると、竜騎士たちは呆気に取られているようだし、他の竜たちはみんな地面に伏せている。


――これでよいだろう。


ソルの声がどこか満足げだった。

ソルは何をしたのか説明しないまま、念話を切ってしまう。

とりあえず、二頭のもとへ行って、怪我をしていないか確かめる。


「ウルク、どこか痛いところある?」


草の上を滑ったときにくっついたであろう草を払い落としながら、ウルクに尋ねる。


――なんともない。それより、炎竜様を呼ぶのは卑怯だろっ!


シャーッと口を大きく開けて怒るウルク。

うん。お口の中も怪我はなしっと。

ウルクの文句はスルーして、今度はギゼルの方を調べる。


「ギゼルも痛いところない?翼はちゃんと動く?」


翼を傷めて飛べなくなったら一大事だ。


――大丈夫だ。それより、こいつはなんだ?


ギゼルはまだ、ウルクを警戒しているみたい。

なので、私とウルクの出会いから話して聞かせた。


――炎竜殿の承諾を得ているのであれば仕方ない。あいつらにも、無闇に牙を出さないよう言い聞かせておく。


ウルクが護衛として私の側にいることを、ソルが認めたのならと、ギゼルが折れてくれた。


「ありがとう!」


ギゼルのゴツゴツした鼻梁(びりょう)を撫でる。

その後、ギゼルとウルクが和解すると、他の竜たちがウルクを囲んだ。


――どこから来たの?

――なんで尻尾の先にスライムつけてるの?

――好きな餌は何?ぼくはランドブルのお肉!


ウルクは質問攻めにあうが、意外にも丁寧に受け答えする。

周りにいるのが若い個体ばかりだから、つっけんどんな態度を取りにくいのかな?

ちなみに、年長組は森鬼の方に集まっていて、何かして遊ぼうと誘っていた。


「はいはーい。今日はウルクに竜舎を案内してあげる日だから、みんなのおすすめな場所を教えてね」


すると、それぞれがあそこがいい、ここがいいと口にし始める。

何が面白いって、おすすめしてくれる場所がみんなバラバラなんだよね。

竜舎の子たちは好みがうるさいとよく言われるが、本当にこだわりが強いんだな。


みんなのおすすめの場所を巡りながら、竜舎内を探索する。

草原区域に始まり、岩場や砂漠、森の区域と回って、湖でちょっと休憩。

竜たちは我先にと湖に飛び込み、気持ちよさそうに泳ぐ。


――ここは俺が住んでいた場所に似ている。


「南はもっと暖かいでしょう?」


ウルクが住んでいた場所は、南の方で雨が少なく、アリ型の極悪甲種がいて、ある程度の森があるって言っていたから、東南アジアをイメージしていたんだけど違うのかな?


――そうだな。ここは少し冷えるから、住処には適さない。もっと暖かければ住みやすいと思うぞ?


この湖がある森を暖かくしたら、熱帯雨林みたいになりそう。

そうすると、涼しむ場所がなくなってしまうな。


――ウルクも泳ごうよ!

――気持ちいいよー!


二頭のリンドドレイク、ライルとロイル兄弟がウルクを誘いにきた。


――シンキも泳いでいるし!

――ネマも一緒にいこう!


森鬼も泳いでいると言われて、森鬼の姿を探す。

あれは泳いでいるというより、リンドドレイクを押しているようにしか見えないのだが??


「あれは何しているの?」


――後ろに進む泳ぎ!

――面白いよ!


竜たちにとっては背泳ぎみたいなこと?いや、逆に進むってことは逆泳ぎ?

足の方に進む泳ぎ方、やったことないけど溺れそうだよね。


「そういえば、ウルクって泳げるの?」


――泳いだことないからわからん。


「泳いでみる?」


森鬼もいるし、もし溺れてもすぐに救出できる。

ウルクは少し考えたあと、水面に近づいていった。

本当に泳ぐのかと思いきや、水面を前脚でちょんちょん突いて戻ってくる。

お風呂の温度チェックする猫かな?


――冷たいから拒否する!


思っていたより水温が低かったようだ。

それなら!と、私は閃いた。


「今度、レイティモ山に行って、温泉に入ろう!温泉なら水が温かいし、広いから泳げるよ!」


本当は温泉で泳ぐのは御法度だけど、ウルクが泳げるかどうかは確認しておきたいし。


――オンセンは人が入るふろとやらとは違うのか?


「温泉はねー」


ウルクに温泉のよさを説明する。

説明しながら思ったけど、竜舎に大きなお風呂を作ってもらうのもありかもしれない。

お風呂に水を溜める人と、その水を温かくする人が必要だけど、他の部隊から水と火の上級を持っている人を派遣してもらえば……いける!

早速、ダンさんに相談だ!!




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