見る大陸ツアー!
慌ただしかった次の日。
うっすらと予想はしていたけど、外出禁止令が出された。
まぁ、宮殿の前で暴動が起きるわ、宮殿に賊が現れるわで、致し方ないことだと割り切る。
お姉ちゃんも学術殿を休んでいるので、今日は姉妹水入らずでまったり過ごそう!
朝食を食べて、お姉ちゃんとおしゃべりをする。
学術殿で何をやっているのか、どんな人とお友達になったのか、今度はどんな魔道具を作るのかなど、話題は尽きない。
「主、ディー殿がこちらに来るそうだ」
ソファーで寝転がっていた森鬼が起き上がり、突然そんなことを口にした。
「えっ!?ディーが来るって、おにい様が来るってこと?」
「いや、ディー殿だけだと言っている」
精霊が教えてくれているようだ。
でも、なんでディーだけ??
お兄ちゃんが一緒じゃないって、もしかしてまたヴィにこき使われてる?
「パウル、ディーが食べられるものを用意してちょうだい。ネマ、一緒にディーをお出迎えしましょう?」
ディーが来ると聞いて、お姉ちゃんが張り切りだす。
魔物っ子たちもディーが来ると聞いて、尻尾をブンブン振り回している。
「あとどれくらいで着くの?」
「もうライナス帝国には入っているから、すぐじゃないか?」
森鬼のその返答に、お姉ちゃんは私の手を取り、ベランダへと直行する。
ぼーっと空を眺めて、どれくらい経ったかな?
「ネマ!あれじゃない?」
お姉ちゃんが、一番星のようにキラリと光るものを指差す。
それは徐々に大きくなると、肉眼でもディーだとわかるようになった。
「ディー!!」
大きく手を振れば、ディーが速度を上げてこちらに飛んでくる。
ベランダにふわりと着地した瞬間を見逃さず、私はディーに抱きついた。
ここに来るまで、お日様をいっぱい浴びたのだろう。天日干ししたお布団のような、懐かしい匂いに包まれる。
ディーはヴルルルルと重低音な喉鳴らしをして、頭を擦りつけてきた。
「心配したと。主の兄も来たがっていたが、やることがあるからごめんねと言っていたそうだ」
森鬼がディーの言葉を伝えてくれた。
昨日の件がお兄ちゃんの耳にも入ったのか。
パウルがパパンに報告しているだろうから、遅かれ早かれお兄ちゃんは知ることになるんだろうけど……お兄ちゃんの行動が早くてびっくりだよ。
それよりもだ!
お兄ちゃんのやることってもしかして……。
「ディー!おにい様、ヴィにこき使われてない?」
――がう。
短く鳴いたあと、グルルと長めに鳴いて、森鬼に何かを伝えている。
すっかり通訳役が板についてしまった森鬼。ディーの鳴き声を真剣に聞いていた。
でも、ディーの鳴き声を訳すのは精霊だよね?
「大丈夫。主の兄が夜更かししそうなときは引っ張って寝台まで連れていってると」
そういえば、ディーがまだスノーウルフだった頃に、私も裾を引っ張ってベッドまで連れていかれたことがあったなぁ。
お兄ちゃんも似たようなことをされているのか。
想像しただけでも可愛いんですけど!!
「ディー、偉いわ!ディーが側にいてくれたら、お兄様も安心ね」
お姉ちゃんがディーを偉い偉いと褒める。
そしてお姉ちゃんも、ディーにベッドまで強制連行されたことがあるらしい。
確かに、お兄ちゃんよりお姉ちゃんの方が夜更かしの頻度は多そうだもんね。
それから、私たちは室内に戻り、魔物っ子たちはディーの来訪を大歓迎で迎えた。
尻尾を振り回しすぎてちぎれないか心配だ。
「そうだわ!」
お姉ちゃんがいいこと思いついたと、両手を合わせる。パンッていい音したなぁ。
「お兄様が今何をしているのか、ディーの力でちょっと覗いてみない?」
お姉ちゃんの提案に、凄く興味を引かれた。
覗くという、いけないことをする高揚感みたいなものがある。
早速、寝室を真っ暗にするため、スピカとシェルが窓に暗幕を張る。
ディーの能力が判明してから、王都にいる家族とテレビ電話をするために、パウルにお願いして購入してもらったのだ!
ラース君がいないと音声のタイムラグが発生する問題は解消されていないけど……。
あれ、うがーって叫びたくなるくらいストレスになるから、どうにか改善したいんだよね。今のところ、精霊たちに頑張ってもらうしか方法はなくて。
「では、ディー。お兄様を映してくれる?」
――がうっ!
ディーは尻尾をゆっくりと左右に振り、おでこの透明な角が淡く輝き始めた。
寝室の壁が明るくなり、徐々に映像が鮮明になる。
お兄ちゃんは自室にいた。
てっきりヴィにこき使われてるかと思ったけど、ちゃんとお休みをもらえているようだ。
お兄ちゃんは机に向かっており、机の上には古びた本が山積みになっている。
何か勉強でもしているのかな?
「ディー、もっとお兄様に近づいて」
お姉ちゃんがそう言うと、映像はどんどんお兄ちゃんに近づく。
「何か読んでいるみたい……手紙のようね」
確かにお兄ちゃんは紙を手に持っている。残念ながら、内容までは読み取れない。
「恋文かしら?ついにお兄様にも気になる女性が!」
お姉ちゃんが興奮気味にまくし立てる。
ら、ラブレターだと!?
どこの誰だ!うちのお兄ちゃんは嫁にやらんぞ!!
お兄ちゃんは手紙をしまうと、机にある本を読み始めた。
すぐに返事を書かないってことは、お兄ちゃん的にどうでもいいご令嬢からだったのかな?
しばらくお兄ちゃんを眺めていたけど、ひたすら本を読むだけで何も代わり映えがしなくなった。
本を読む姿も格好いいけど……。
「お兄様を見るのに飽きたわ」
そう。変化がなさすぎて飽きる。
「ネマはどこか見たい場所はあって?」
「うーん……あっ!シアナ特区やレイティモ山のみんながどうしているか見たい!」
コボルトやゴブリン、スライムたちがどうしているか、魔物っ子たちも楽しめると思う。
「いい案ね!」
お姉ちゃんが同意してくれたので、まずはシアナ特区から見てみることにした。
映像がぶれて、再び焦点が合うと、町の光景に変わる。
武器や防具を身につけた人がたくさんいることから、シアナ特区の現在の光景なのだろう。
温泉がどうなっているか確かめたいけど、入浴している人もいるだろうし、今日は我慢する。
ロタ館の食堂も多くのお客さんで賑わっていて、私がお願いした呼び出しボタンもちゃんと設定してあった。
「ヒールランとベルおねえさんはどうしているかな?」
今度は事務所のような場所が映り、何やら会議中な様子。
上座の方にヒールランとベルお姉さんが座っていて、他は各組合の担当者とかかな?
ここで私は気づいた。精霊に声を届けてとお願いしていなかったことに!
「精霊さんに声を届けてもらうの忘れてた……」
「このままでもいいと思うわ。会話まで聞いたら、実際に会ったときに勘づかれてしまうもの。でも、ネマがちゃんと知らないふりができるなら、大丈夫かもしれないわよ?」
「うん、無理!」
絶対、うっかり口にするって断言できるね!
バレる危険は最小限にしようということで、精霊たちにも口止めをしておく。
精霊たちの反応がわからないので森鬼に聞いたら、嬉しがっていると言われた。
口止めされるのが嬉しいの?
何はともあれ、ヒールランもベルお姉さんも元気そうでよかった!
シアナ特区の運営も、この二人に任せておけば大丈夫だね。
「レイティモ山は?」
「みんな元気かな?」
星伍と陸星が待ちきれないようなので、レイティモ山を映してもらう。
レイティモ山の頂上付近にあるコボルトの集落は、相変わらず人間の村みたいだった。
畑を耕して農作業をするセントバーナードな緑の氏、木を切って木材加工を行うシュナウザーな匠の氏、みんなで集まって楽しそうにおしゃべりしながら作業をするコリーな織手の氏とボーダーコリーな編手の氏。
野外で作業をしているのはそこら辺だけだった。
まぁ、その作業に違和感なく混じってる人間がいるのは凄いけど。
「訓練場も見てみよう!」
最初は狩猟の氏たちが訓練する場所として作ったんだけど、人間の冒険者が混ざるようになったとか。
コボルトと訓練するの、フィリップおじさんだけだと思ってたわ。
訓練場では本当にコボルトと人間が混じって訓練をしていた。
それぞれ違う武器同士で試合のようなものをしたり、教え合ったりしているみたい。
ロットワイラーな力の氏長であるゴヴァ、サルーキな閃きの氏長トルフを始め、シベリアンハスキー、ボクサー、ドーベルマン、大型犬祭り……じゃなかった、狩猟の氏が集合している。
てか、ゴヴァと剣を交えている冒険者って、ベルガーじゃない?
もうそんなに剣を扱えるようになってんの!?凄い!
いやいや、感心している場合ではない。
ベルガーのことはフィリップおじさんにお願いしていたのに、なんでゴヴァが面倒みているのさ!
フィリップおじさんはどこに行った!
フィリップおじさんを探す前に、さっきから気になっているんだけど、なんでアフガンハウンドな賢者の氏は頭にスライム乗せてんの?
あれ、私が名付けた子たちじゃないんだけどなぁ。
あとで雫がいる洞窟も覗いてみよう。
フィリップおじさんを探してコボルトの集落をいろいろ見て回っていると、見知ったコボルトを発見!
「あ、フィカ兄だ!」
「隣にいるの十二番目?」
星伍と陸星の兄であるフィカ先生の足元に、星伍と陸星にそっくりな四足歩行の柴犬がいた。
フィカ先生はハイコボルトなので二足歩行だけど、うちの子たちは私が名付けた影響で四足歩行のままハイコボルトになったらしい。
なので、フィカ先生の足元にいる柴犬は普通のコボルトということになる。
「十二番目じゃないかな?」
「じゃあ、もう名前もらってるよね?」
先ほどから二匹が言っている十二番目は、たぶん兄弟の順番のことだろう。
ん?星伍と陸星の兄弟で十二番目って……おちびさんか!!
「あれ、おちびさんなの?大きくなったなぁ」
体の大きさは二匹と同じくらいまでになっていた。
でも、二足歩行していないってことは、四足歩行で犬のふりをする役になるのか、それともまだ筋力が足りていないのか?
大きくなってもおちびさんの愛らしさは健在で、フィカ先生をわざと邪魔するように足元にじゃれついている。
そんなとき、お姉さんのフィリアさんもやってきて、三匹……三人?は罠が設置してあるエリアに向かった。
これから、罠の点検をするみたいだ。
再び集落の中を探していると、シシリーお姉さんが映る。こちらも元気そうで安心した。
スピカがシシリーお姉さんの姿を見て、感極まって泣いてしまったけど。
よしよしとスピカの頭を撫でながら、集落の中にはいないようなので洞窟の中を調べるようお願いする。
洞窟の中では、雫は大人しく過ごしていたが、子供のスライムたちはまぁ元気。
それぞれが好む環境の場所へ行き、セイレーンのお姉様方に遊んでもらったり、コボルトたちに悪戯したり、ゴブリンを揶揄ったり、人間に食べ物をおねだりしたり……。めっちゃ自由だな!
「シズク、寝てた」
海がぽつりと呟く。
雫、動かないと思ったら、あれ寝てたのか。
ちなみに海は、セイレーンのお姉様方よりスライムたちの方に強く反応した。
海は種族的にはセイレーンだけど、群れから追い出された形なので、仲間意識がないのだろう。
一緒の洞窟で暮らしていた雫たちを家族だと思っているのかもしれない。
私が知らない洞窟のエリアを見ていたら……いたぁぁ!!フィリップおじさん、こんなところにいた!!
「……フィリップおじ様、何やっているの?」
「見ての通り、洞窟探検でしょう?」
狭い洞窟を探索中のフィリップおじさんとお仲間二人が映っている。
くぅぅぅ羨ましい!!楽しそうに匍匐前進なんかしちゃってさ!!
「私も仲間に入れて欲しい!」
「ネマはあと十巡……いや、二十巡経つまで我慢よ!」
二十年もお預けだと!?
お姉ちゃん曰く、私が洞窟探検の技術を身につけるのにそれくらいかかるって。
そんな危ない洞窟じゃなくていいよ!鍾乳洞的な、ちょっと散策できる初心者コースからやらせてよ!
とりあえず、洞窟探検はお姉ちゃんと一緒に行くことで決着がついた。
フィリップおじさんに、初心者向けの洞窟がないか聞こうっと。
山の麓近くに巣があるゴブリンたちは相変わらずだった。
木の実を採取しようとして木から落ちそうになるわ、小動物を狩ろうとして反撃を食らい逃げるわ、スライムと同様に冒険者から食べ物をもらう子もいた。
鈴子と闘鬼、それに年長組が狩りを成功させているので、群れが飢えることはないようだけど……。
一応、複数で行動しているので、単独で動いていたときよりもマシなはず。
森鬼もゴブリンたちの様子を見て、なんとも言えない顔になっているが。
「逃げるのも大事だからね」
弱い生き物の中には、逃げ足を特化させることで存続している種もある。
ああやって逃げることは、ゴブリンの中でも弱い個体の生存戦略なんだよきっと!
一通り、レイティモ山は見終わったかな?
「ガシェ王国に戻ったら、レイティモ山のみんなに会いにいこうね」
家族の姿を見て、しんみりしちゃったみんなに言う。
私やお姉ちゃんと違って、スピカや魔物っ子たちはライナス帝国に来てから一度も家族とは会えていない。
できたら帰省させてあげたいなぁ。なんとか交代で帰省できないかな?
それから、獣舎や竜舎を覗いたり、ソルの寝床を覗いたら気づかれたり、いろいろな場所を見て回った。
ガシェ王国だけでなく、他の国も見てみようってことになり、まずはイクゥ国を選んだ。
獣王様の国だからね。
獣王様の言葉通り、復興が進んでいるようで、イクゥ国の国都ではたくさんの人が行き交っている。
でも、獣人が多い国なのに獣人は少なく、行き交っている人々も痩せ細っていて、けっして健康的だとは言えない。
「まだ国民の食糧を賄えるほどには回復していないようね」
お姉ちゃんの言う通り、農業を行っている地域の復興が遅れているのかもしれない。
国都の建物も、新しい物と古い物がはっきりとわかるレベルで混在しているし。
日本の京都や奈良といった古都のように新旧が合わさった感じではなく、茅葺き屋根とデザイナーズハウスが同じ区間に並んでいる感じだ。
避難した人たちが国に戻らないと人手が足りないとか、賃金が払える状況じゃないとか、いろいろ問題が上がっているのだろう。
国都の街並みの中で一際目立つものがある。
高い建物が少ないし、国都内ならどこからでも見られるんじゃないかな?
それくらい立派なお城がドドーンと存在している。
お城の建物部分の大きさだけなら、ライナス帝国の宮殿より大きいかも?
ただ、華美な感じではなく無骨な印象を与える外観だ。
外観でいえば、ミルマ国の王城の方が似ている。
最初に建てられた目的が、防衛のための要塞とかだったんじゃないかな?
以降、時代ごとに拡張していったら、ここまで大きくなってしまった的な。
お城で働く人、迷子続出してそう……。
「獣王様はあのお城に住んでいるのかな?」
「どうかしら?別に住居を構えておいでかもしれないわ」
言われてみれば、先帝様たちは宮殿の近くにある別宮で生活されているわ。
帝都内にも皇族所有の屋敷があるそうだし、我が国でも各領地に王族用の離宮や屋敷がある。
お城の中がどうなっているのかめっちゃ気になるけど、さすがに他国のお城を覗くのはあれなので、近くまで寄ってもらった。
正門も凄く立派で、柱の上に鳥の飾りが鎮座している。
……すっごい既視感あるんだけど!
うーん、柱の上にある感じは狛犬っぽいんだけど、鳥で狛犬っぽい日本のもの……。
あ、平等院鳳凰堂の屋根の像!鳳凰像に似ているんだ!!あーすっきり、すっきり。
やっぱり、獣王様が鳥の獣人だから鳥の像を飾っているのかな?
でも、なんで二体あるんだろう?
こういう、唯一無二な権力の象徴!って感じのものは、一つだけを中央に設置する方がよくない??
鳳凰もどきの像が妙に引っかかりつつも、イクゥ国の他の場所も見て回る。
地方に行けば行くほど、災害の痕跡が多く残っていて痛々しかった。
小国家群も覗いてみたけど同じようなあり様だ。
だから余計に、パスディータ国の畑で野菜が育っているのを見たときはジーンときた。
それからライナス帝国に入り、ロスラン計画の進捗を確認したり、虹色の塩原を間近で見たり、ルルド山にいるアリさんの様子も見た。
アリさんは、仲間と一緒に狩りをしている真っ最中だった。
思わず手に汗握りながら応援しちゃったよ。
スライムたちみたいに、名付けの影響で変な能力が開花した様子もないようだし、このまま仲間と暮らしていた方がよさそうだね。
「お嬢様方、そろそろ休憩になさいませんか?」
パウルの提案に、お姉ちゃんは私の方を見る。
「そうね。ずっと同じ姿勢で、ネマも疲れたでしょう?」
「うん……」
パウルがいる手前、星伍たちと一緒に寝転がって見ていたから、そんなに疲れてないとは言えない。
お姉ちゃんも誤魔化そうとしてくれているので、それに乗っかる。
「お疲れなら、肩でも揉みましょうか?」
……あれ?これ、気づかれているのでは??




