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作戦の後始末。 前編(ヴィルヘルト視点)

会議室には国の主たる面々が揃っていた。

国王夫妻、宰相夫妻、大臣たちに将軍。それだけでなく、彼らの補佐官や騎士団の隊長たちも参加している。


「それでは始めよう。ヴィル、頼んだよ」


「はい」


父上に言われ、今日までの成果の説明を始めた。


「捕らえたルノハークの証言を基に、時系列をまとめてみた。まずそもそも、ルノハークはいつ作られたものなのかというところからだが……」


我々がルノハークと呼んでいる組織だが、当の本人たちはプラティム派だと言っていた。

プラティムとは、創聖教の至上派が台頭し始めた頃、実力行使を行ってでも人が他種族の上に立つべきだと唱えていた主祭の名前だ。

その人物はあまりにも過激だからと主祭の座から下ろされたのだが、水面下で自らの教えを広めていたらしい。

その信者らと、獣人への暴力行為も行っていたそうだが、当時の創聖教がもみ消し、すべてただの事件として処理されたようだ。

創聖教の悩みの種のような存在だったプラティム派の行動が変わり始めたのがおよそ二十巡前。

プラティムは神託を受けたと言い出し、おかしな言動が酷くなった。そして、十五巡前に女神のもとへ旅立った。

そんな変な奴が来て、クレシオール様も困っただろうな。

プラティムの跡を継いだのが、自らをカルム・アスディロンと名乗る人物。

奴は最初姿を見せず、すべて書面で指示を出していた。プラティムが指名した後継だからと、信者も最初は従っていたようだが、姿を見せない指導者に不信を募らせていく。

それを察したのか、ようやくカルムが姿を見せたが、奴は仮面をしていて風貌は誰も見たことがないと言っていた。

古参の信者は、当時の聖主は歳若く、プラティムの隠し子なのではと疑っていたらしい。声が子供のようだったと。


「これが真実であれば、聖主は三十歳前後と考えられます」


まぁ、種族が人だったらな。


「プラティム派を引き継いだ聖主は布教に力を注ぐとともに、ミルマ国のソヌ族に接触したと思われます」


ミルマ国のソヌ族は、約束を反故(ほご)にしたオム族を恨んでいた。これに関しては我が国も関与しているのでなんとも言えないのだが……。

聖主が接触してきたことは、ソヌ族にとっても都合がよかったのだろう。

オム族がミルマ国の王たらしめる所以(ゆえん)は、大聖女の末裔であることが大きいからな。オム族が大聖女の血族ではないと捏造するにしても、創聖教の口添えがあれば信憑性を増すことができる。


「プラティム派とソヌ族が手を組み、互いの活動を支援したようです」


プラティム派はソヌ族から洗脳魔法と隠れ家を提供してもらい、ソヌ族に創聖教との繋がりと資金を提供していた。

カーリデュベルがソヌ族の青年と会っていたのもこの関係からだ。


「洗脳魔法を手に入れた聖主は、洗脳で信者を増やし、我々の知らないところで行動を起こしていました」


まずは創聖教内に洗脳した信者たちを送り込む。

一気にやると怪しまれるので、至上派を中心にゆっくり行っていた。

洗脳した神官を他国へ派遣し、ファーシアとミルマ国以外にも活動拠点を作る。

そうして、我が国だけでなく、ライナス帝国やイクゥ国にも活動基盤を作り上げた。

ある程度の人員が揃うと、ある日突然、遺跡の調査を命じられたと古参の信者たちは証言している。

しかも、明確に場所を指定していたということだったので、あの大昔の地図を手に入れたのがこの頃なのかもしれない。

いくつか遺跡を調べたのち、今度はドワーフ探しが始まる。

その過程で、邪魔な魔物を追い払ったりもしていたようだ。


「では、オスフェ領に魔物が集まったのは偶然だと?」


「このときはまだ、意図したものではなかったようだ」


オスフェ公を宥め、話を続ける。


「聖主は警戒心が強いのか、これらの行動は世間に露呈しないよう、かなり時間をかけて行われていた。そんな聖主が、およそ八巡前から方向性を変えた」


この場にいる半数ほどは、今から八巡前に何があったか察しがついただろう。

聖主は、ネマが……愛し子が生まれたことを知り、そして壮大な野望を抱いた。


◆◆◆


カーリデュベルの身柄引き渡しに指定された場所は、遺跡からほど近い川だった。

魔力を封じる魔道具と縄で厳重に拘束されているカーリデュベルは気を失ったままだ。

川の水が突然盛り上がると、その中からセリューノス陛下の聖獣ユーシェが姿を現した。

感情のない、氷のような目でカーリデュベルを見つめる。


『これ?って聞いてるよ?』


精霊がユーシェの言葉を伝えてくれた。


「あぁ。これを陛下のもとに届けて欲しい」


そう頼むやいなや、川の水がうねり、生き物のように動いたと思ったら、カーリデュベルにまとわりついて川に引きずり込んでしまう。


「……生かしたまま届けて欲しいんだが?」


『大丈夫だってー。ばびゅーんって着くよ!』


ネマ語を使うのやめろ。

聖獣が大丈夫だと言うなら、ちゃんと生きた状態でいると信じよう。


「では、陛下によろしくな。あと、ネマにも」


俺がそう言うと、ユーシェは荒々しく鳴いて、川の中に消えた。


『ヴィルに言われなくても愛し子とは仲良しだって言ってたよ!』


自分の方がネマと仲良しだと主張したかったのか?


『なに、水のは坊に悋気(りんき)しているだけのこと』


嫉妬するならラースの方だろう。ラースが怖いから俺の方に言ったのかもしれないが。

俺は遺跡へ戻り、本隊と護送班の撤収と見張り班へ新たな指示を出す。

見張り班はこのまま残り、調査班と明日やってくる研究員たちの護衛も兼ねることになる。

俺も捕まえたルノハークの尋問と捜査の指揮を執るために戻るので、ここの指揮をストハン総帥に移行した。


「騎士団の取りまとめはルーシャスとレスティンに任せる」


「御意」


特殊部隊の副隊長であるルーシャスに、現場経験の多いレスティンがいれば、ストハン総帥の指揮下でも柔軟に対応してくれるだろう。

ライナス帝国側からは二名のエルフが王宮まで同行することになった。

これは捕まえたルノハークの中に帝国民がいることもあり、俺がお願いしたのだ。


「捜査班のエルフもそちらに派遣しよう。彼らはそういったことが専門だからな!」


ストハン総帥の厚意は嬉しいが、セリューノス陛下に承諾をもらわずに決めていいのだろうか?

だが、うちの将軍もガハハと笑いながら同じことをしそうだと、目の前の総帥を見て思った。

戦闘集団の頂点に立つと、皆、このように豪胆な性格になってしまうのかと考えたとき、少しだけ自分を(かえり)みる。……気をつけよう。


王宮に戻れば、即座に大臣たちに捕まった。

もう夜更けなのに、わざわざ待ち構えていたのか!?


「殿下、捕虜の人数が想定より大幅に超過しております。それらに伴う費用はいかがなさるおつもりで?」


サンラスは本当に金銭面のことになるとうるさい。

この作戦のための臨時予算にはまだ余裕があるはずだ。


「臨時予算に余裕があるとお考えではないでしょうね?そもそも臨時予算自体、通常の予算を切り詰めて捻出した……」


「わかった。俺の予算から補填する」


また日頃の経費削減がどうのという話までされてはたまらないと、自分に割り当てられた予算を使うことを承諾する。


「それでしたら、すぐに試算をお持ちいたします」


俺自身はあまり買い物などしないので、王太子に割り当てられた予算のうち、自由に使える分を烈騎隊の方に回していた。遠征費用に上乗せしているだけなので、それを回収すればいいか。


「次は僕から。ライナス帝国の軍人を連れてくるなら、事前連絡が欲しかったです。急に転移魔法陣から来て驚いたので。あと、頭のスライムはヒスイですか?」


「これはヒスイだが、無視しろ。それと、本当にもうエルフが到着したのか?」


ユージンは俺の問いに是と答えた。

確かに、ストハン総帥はエルフを派遣してくれると言ったが、それから半日も経ってないぞ?

遺跡で人員を送るために使用した転移魔法陣は一方通行なので、作戦に参加した騎士たちは歩きでワイズ領の転移魔法陣が設置してある砦に向かっている。

俺はラースに乗って早々に戻ってきたわけだが。


「ストハン総帥がそんなに早く動くとは思わなかった。エルフが好みそうな離宮はあったか?」


派遣された人数にもよるが、さすがにエルフを騎士団の寮に詰め込むことはできない。

彼らは自然に近く、親和性のある精霊がいる環境でないと精神を病むこともあるからだ。


「それに関しては問題ないみたいです。ラース様とディーのおかげで、精霊がいっぱいいるって言ってたので」


そういえば、ディーに日参してくっついている精霊がそこそこいたな。


「私からは領主としての報告です。国境沿いに虫がいっぱい発生しているのは問題ですので、警備強化をお願いし、陛下から承認をいただきました。ですので、実際に現地をご覧になった殿下の助言もいただければと思います」


オリヴィエの言う虫とはルノハークのことだろうが、ソヌ族の件もある。

悪党は悪党を呼ぶので、治安が悪くならないよう警備の強化は当然か。


「ゼルナンとも協議をして、東部統括本部へ通達する」


今回の作戦にワイズ領を受け持つ第三部隊も参加したので、彼らの意見も取り入れた方がいいだろう。


「ありがとうございます。それで殿下は明日の予定はどうなされるのですか?」


「先にエルフの責任者に会って話を詰める。明日の昼過ぎには、騎士たちも帰ってくるだろう」


騎士たちは夜間に移動しているため、二日は休ませてやりたい。

捕まえたルノハークの戸籍を調べることから始めれば、王宮に詰めている人員でやれる。それに、帝国民と判明した者は早々にライナス帝国へ送り返せば、こちらの負担も減る。


「畏まりました。我々は執務室に詰めておりますので、何かありましたら早急に!お知らせください」


「あぁ……って、お前たちはいいとして、デールラントも屋敷に帰っていないのか?」


「わたしたちは、と言うのは聞き捨てなりませんが、デールもセルリア夫人が戻るまで帰らないつもりですよ、あれは」


「ひとりぼっちだし」


サンラスとオリヴィエの説明でいろいろ察した。

俺がラルフとセルリア夫人に協力を願ったせいで、デールラントはずっと独りだったのだと。


「奴に屋敷へ帰って、作戦の功労者を(ねぎら)えと、俺が命じていたと伝えろ」


「ラルフのためですね。お任せください」


オリヴィエは目を細めて俺を見つめた。俺を揶揄(からか)いたくてしょうがないという目だ。

幼い頃から親交があるため、姉のような存在ではあるが……その顔はやめろ。

このままでは、オリヴィエに揶揄われ、サンラスに小言を言われ、ユージンにヒスイのことを聞かれそうなので、早々に退散する。


翌朝――いつものように、精霊たちに叩き起こされて目が覚めた。

身支度と朝食を終えてから、シーリオへ精霊を飛ばす。


『エルフはだめだってー』

『精霊術師のこと嫌ってるってシーリオが言ってた!』


エルフ族は、精霊を便利な道具のように使い潰す精霊術師をそれはもう親の敵のごとく憎んでいる。

それもあってシーリオはエルフに会えないと言っているのだろうが、ちゃんと精霊を敬う精霊術師であれば友好的に接してくれるはずだ。


「契約している精霊を見せれば問題ない。仕事だから文句言わずに来い!」


奴が契約している土の精霊を見れば、信頼関係が築かれているとエルフもわかるだろう。


『セラフィの方がやる気!』

『セラフィが連れていくってー』


あぁ、契約している精霊のことか。

土の精霊にしては珍しい性格をしていると思ったが、まさかエルフを()る気じゃないよな?

そこはかとない不安を残し、俺はエルフたちが滞在している離宮へと向かった。


「ストハン総帥の命にて、ライナス帝国軍中央方面隊情報作戦団諜報部指揮官のレイリウス・ジュダ・エグラルゼンと部下十五名が参りました」


ライナス帝国軍は縦割り組織なので、どうしても所属を名乗るときに長ったらしくなる。


「ストハン総帥のご厚意に感謝する。本題に入る前に、彼の紹介をさせて欲しい」


シーリオを彼らの前に出すと、ざわりと空気が揺れた。


「王国騎士団情報部隊の隊長、シーリオ・ユジィだ。彼は見ての通り精霊術師でもある」


エルフたちはシーリオよりも、彼と契約している精霊の方を見つめる。


『シーリオ、私のことは紹介してくれないって酷いと思わない?あら、ジュド族がいるわ。うちのシーリオをよろしくね!』


「俺と契約している土の中位精霊、セラフィだ。ここでは精霊と交流を持てる者が少ないので、エルフの皆さんに仲良くしてもらえると嬉しい」


エルフの反応を気にしてか、シーリオにしてはぎこちない挨拶だった。

それを周りにいる精霊たちが揶揄う。

それにもいちいち返事をするシーリオを見て、エルフたちのまとう空気が変わった。


「精霊様に好かれている方を我々が受け入れない理由はございません。短い間ですが、セラフィ様、シーリオ殿、よろしくお願いいたします」


エルフは精霊至上主義だからな。

シーリオへの精霊の態度を見せれば、すぐに受け入れると思っていた。


「では、本題に入ろうか」


まず、捕まえたルノハークの数が多いため、ライナス帝国の戸籍を持つ者を選別し、その者たちの処遇は帝国に一任することにした。


「もちろん、そちらで聞き出した証言はすべて報告してもらうのが条件だ」


レイリウスは即答せず、部下の一人が彼に耳打ちをしてから承諾した。

精霊を使って軍の上層部と連絡を取り合っているようだ。


「尋問も我らの方法で構わないということで問題ありませんか?」


「もちろんだが、何かあるのか?」


「ある尋問方法を試したいと志願する者が多いので……」


そう答えたレイリウスの視線が、今日も俺にくっついているヒスイへと向けられる。

ヒスイはその気配を感じ取ったのか、のーんと気の抜ける鳴き声を発した。それに答えるように、エルフたちが連れているスライムたちも鳴き始める。


――のーん!


威張るかのように体を膨らませるヒスイだが、とりあえず鬱陶(うっとう)しいので指で弾いて黙らせる。

どうやら、自分が一番強いと主張していたらしい。


それから、ガシェ王国とライナス帝国以外の戸籍を持つ者、また戸籍制度がない国の者など、どういうふうに調べ、どこが受け持つかを話し合う。

とはいえ、エルフが多く所属しているライナス帝国軍にほとんどお願いすることになったが。

そして、騎士団が行う尋問にもエルフが立ち会ってくれるので、真偽を精査する時間がかなり(はぶ)ける。


臨時の収容所は、ガシェ王国の者と出身地不明の者だけになり、だいぶ静かになった。

こんなに狩り残していたとは、とデールラントとラルフは悔しがっていたが、時間が経って増えただけのことだろう。

他国にいたルノハークはほぼ野放しだったからな。

これから本格的にルノハークの内情を聞き出そうとしていたとき、セリューノス陛下からようやくお誘いが来た。

陛下からはいろいろ条件を出されたが、要は誰にも知られずに来いと。

こっそり王宮から抜け出したら、俺が怒られるのだが?

その怒りそうな面々の顔が思い浮かび、ため息が出る。

仕方ない……精霊たちにも協力してもらうか。


ラースに命じてもらい、俺とラースの行き先を誰にも教えないよう、精霊たちに口止めする。

精霊相手には、契約者がお願いするより、聖獣が命令する方が効力が高いからだ。

陽が昇る前の早朝。ラースを王宮の森に先に行かせ、俺は静かに自室を出る。

部屋には、調べ物をしてくると書き置きしたので、すぐに捜索されることはないはずだ。

まずはラルフやシーリオが精霊に聞いて居場所を確認しようとし、精霊たちもなんやかんやとはぐらかす。それである程度察するだろう。

人目を忍んで王宮内を歩くのはいつぶりだ?

幼い頃はよく、ラルフと王宮を抜け出そうとしていたのにな。

精霊に人がいない道を先導してもらい、隠し通路も使いながら、王宮の端にある森を目指す。

ラースと合流し、一気に雲の上まで飛ぶ。

目的地は、ライナス帝国の宮殿ではなく、ワイバーンの竜舎。

そんなところに、精霊が入れない場所があるとは思えないが、行けばわかるだろう。



今年一年、応援していただきありがとうございました。

三が日も連続更新いたしますので、来年もよろしくお願いします。

それでは、よいお年をお迎えください。

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