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あの獣人の正体は……。

懇親会の会場の中に足を踏み入れると、色の洪水に襲われた。

壁や柱は鮮やかな色で塗装されており、天井や柱からはカラフルな布を垂らし、空間自体に色を塗ったようにも見える。

発色がよく、多彩な色の染料と生地や糸を染める染色技術。なんでミルマ国の名産になってないの?

城下町を見た限りでは、服飾系のお店もいっぱいあったし、産業として成り立っているはず。

なのに、ミルマ国産の生地で作ったドレスとか、ガシェ王国にいたときも、ライナス帝国でも聞いたことがないよ?私がそういった方面に興味がなくても、使用人たちやマーリエがお洒落の流行とか教えてくれるので、そこそこ知っている。


「美味しそうな料理がいっぱいあるっ!」


会場は二つのゾーンに分けられていて、一つは王城見学のときに見せてもらった応接間のように、絨毯の上に座って語らえるゾーン。もう一つはたくさんの料理とテーブルブルセットが並んでいるビュッフェゾーン。

晩餐会の畏まった食事より、こういう雰囲気の方が断然好きだ!


ウキウキ気分で会場内を進むと、自然と道ができる。

そんなに怯えなくてもいいのにね。ウルクのよさを理解してもらえないのはちょっと悲しい。

私の周りにはぽっかり穴あき状態だが、お兄ちゃんとヴィの方には人だかりができていた。まあ、聖獣の契約者ですし、伝説の獅子光(ししこう)ですし、あと一応王太子だし。お近づきになりたいって群がられるのは仕方ないね。


しばらくして、先ほどの進行役が懇親会の開始を宣言した。

本当に王族は顔を出さないようだ。

両親にくっついてても挨拶回りの邪魔になるので、まずは腹ごしらえじゃー!

森鬼、スピカ、ウルクを引き連れて、ビュッフェゾーンに突撃する。

すると、ビュッフェゾーンにはすでに数名、先客の姿があった。

挨拶回りをせずに食事を優先する人が、私以外にもこんなにいたとは……。

しかも、そのさり気ないお耳と慎ましやかな尻尾は、あの超日本人顔の獣人たちでは?

気になったので、獣人たちの様子を観察することにする。


楽しそうに料理を選ぶ獣人たち。どれも美味しそうだもんね。

それぞれが選んだ料理を大皿ごと(・・・・)テーブルに運ぶ。お、おぅ……。

大皿がテーブルに載りきれなくなると、隣のテーブルを動かしてくっつけるという。なんか、給食の時間に見た光景だな……。

マナーとしては悪いけど、ミルマ国ではよしとされているのかも?

でも……料理の独り占めはよくない!!

あのかに玉みたいなやつ食べたかったのに!

心の中で涙を流しながら、自分も何か食べようと料理コーナーを見てびっくり!

さっき獣人たちが持っていった大皿が、もう復活しているだと!?

あと、獣人さん、もう大皿の料理を食べ切ったの!?

彼らの食べる速度は異常だった。

ここは早食い選手権の会場と錯覚するくらい、どんどん食べ物が消えていく。


私はハッと我に返って、目の前に迫る森鬼の手を躱した。

ふぃー、危ない危ない。

森鬼は何事もなかったかのように腕を戻す。


「言ってくれれば、自分で口を閉じるから!」


森鬼はそうかと返事をしたものの、これはまたやる気がする。


「お口を開けているネマ様も可愛いです!」


微妙な褒め言葉だと思ったけど、スピカの気持ちが嬉しかったのでお礼は言っておく。


「私たちも何か食べようか」


とは言っても、森鬼とスピカは一緒の席に座れないので、毒味と称してちょこちょこつまむだけだけど。


「ネマ様、何をお召し上がりになりますか?」


復活したんだったら、やっぱりあのかに玉もどきを食べたい!

料理コーナーでかに玉もどきを取り分けてもらおうとした矢先、かに玉もどきの大皿が浮いた。


「あっ……」


「ん?」


再びかに玉もどきが獣人の手に!


「悪い、これが食いたかったのか?」


料理を取りにきたお兄さんは、族長さんのメタボ腹にはおよばないものの、なかなかのぽっちゃりさんだ。

まぁ、あれだけ早食い・大食い選手権やっていたら、脂肪もついちゃうよね。


「はい」


「お嬢さん用にちょっと分けてやってくれ」


獣人のお兄さんは大皿を元に戻して、給仕係に指示を出してくれた。

取り分けてもらった料理はスピカが持ってくれるので、私は獣人のお兄さんにお礼を言った。


「いやいや、おれたちもいつもの調子で取っちまってすまん。給仕に言えば、すぐ持ってきてくれるから、遠慮せず言えよ。王城の飯は本当に美味いから、たくさん食べないと損だぞ」


めちゃくちゃいい人だ!

だけど、日本人顔のせいか、近所に住む兄ちゃんに作り過ぎた夕食のお裾分けをしてもらった感が凄い!

いや、前世でそんな出来事が起きたことないけどさ。


それはさておき、かに玉もどきを食べるぞー!

スピカがセッティングしてくれたテーブルには、私が食べたいと言ったもの以外の料理も用意されていた。

森鬼とスピカが一口ずつ毒味という名のつまみ食いをしたものが、私の前に運ばれる。


「これ、とても美味しいですよ!ふわふわしてて……」


スピカもかに玉もどきを気に入ったようだ。

私も一口食べてみる。

ん?思ったよりも甘い。でも、卵がふわとろで美味しい!


「こっちは主には辛いかもしれない」


森鬼がつまみ食いしたのは骨付き肉だった。

辛いと聞いて、昨日の極悪トウガラシもどきの悪夢が蘇る。

おそるおそる、小さく齧ってみると……ピリリときたーー!ヤンニョムチキンの辛口って感じだな。

食べられなくはないけど、食べたら他の料理の味がわからなくなりそう。


「これはやめておく。森鬼が食べていいよ」


お皿を横にずらして、森鬼が取りやすいところに置く。

食べてもいいよって言っても、毒味を装わないといけないけど。


「そこのお嬢さん、よかったらこちらで一緒に食べないかい?」


この世界で、よかったら一杯どうだい?的なナンパを受けるとは思わなかった。

びっくりして声がした方を見れば、あの超日本人顔の族長さんではないか!


「族長が急に話しかけるから驚いているじゃないですか」


「ごめん、ごめん。でも、こんな小さい子が一人で食事しているのを見てたらついね」


仲良くなりたいと思っていたので、お誘いは願ってもないことだけど……。


「ウルク……ムシュフシュがいるから」


怖がらせるのも申し訳ないので断ろうとしたら、あっさりと大丈夫だと返された。


「私たちリィ族は、ガシェ王国の竜騎部隊の竜種を見慣れているからね」


「竜騎部隊を知っているんですか!」


ミルマ国との境は、ワイズ領とディルタ領に接している。ワイズ領側はファーシアを挟む場所もあるけど。

リィ族が住んでいるのはミルマ国の西側、ディルタ領との境に近い高地なんだって。

高地に住んでいるから、晴れた日にはディルタ領を巡回するリンドブルムたちが見えるらしい。

確かに、ダンさんが国境付近の道には野盗が住み着きやすいから、重点的に見るって言ってたな。


「それに、よくディルタ領にも行くから」


仕事関係でディルタ領に行っているのかと思いきや、ディルタ領の美味しい食材を買いにいっていた。

ディルタ領には火山があるし、精霊宮を守る森から流れる綺麗な川もある。

そんな肥沃な大地を持つディルタ領は、農業・畜産業に優れた、ガシェ王国の食糧庫だ。

美味しい食材がいっぱいある!


ウルクのことが気にならないのであればと、リィ族のみなさんと一緒に食べることにした。


「リィ族の祖となる動物ってなんですか?」


ずっと気になっていたことをようやく聞けた!


「ウユという、ミルマ国にしかいない動物なんだが、見たことあるかな?」


「図書館で借りたご本にのってました。でも、絵がなかったので……」


ウユの特徴は書かれていたけど、50センチくらいの犬っぽい動物で、顔に模様がある。くらいしかわからなかった。


「そうか、そうか。ウユはね、これだよ」


そういって、隣の人から鞄を受け取り、出してきたものは黄色い何か。


「これ?」


耳と尻尾があるのが見えて、剥製かと身構えたとき。


――うゅん?


剥製が鳴いた!


「まだ子供のウユなんだけど、こちらに来る途中で保護してね」


生きてるウユだった!!

族長さんの膝の上で、大人しく撫でられるウユ。

本で読んだ通り、顔に独特な模様があるね。

おでこから鼻筋にかけて白く、目の周りや頬は濃いオレンジ色。

なんか……物凄く見たことある顔つきをしている!

背中や尻尾は黄色で、四肢が顔と同じ濃いオレンジ色。お腹は……真っ白だね。

この顔、体のフォルム。やっぱり覚えがあるぞ。

地球の動物で似た種類……思い出した!!たぬきだ!!

某アライグマのキャラクターにそっくりなんだ!

ただ、尻尾に縞模様がないので、アライグマではなくたぬきと判断した。

そういえば、たぬきもアジア圏にしかいない生き物だったわ。

つまり、ここにいるみんなはたぬきの獣人。

チラリと族長さんを見る。たぬきだとわかってしまうと、もうアレにしか見えない。

信楽焼のたぬき――。

ぜひとも、笠をかぶって徳利(とっくり)を持って欲しい!


「その子をなでてもいいですか?」


「もちろんだ」


まずは仲良くしようという意味も込めて、ウユに私の匂いを嗅いでもらう。

フンフンと手の匂いを嗅いだら、ウユがペロペロと指先を舐めてくれた。まだ子供だから、舌も小さくて可愛い!

慣れたところで、頭をなでなで。

高地に生息している生き物だから、全体的にしっかりとした毛質をしているね。

背中と尻尾の部分のトップコートは硬めにも感じるけど、じっくり触ればコシがあるのがわかった。

そしてふわっふわのアンダーコート。このもふっと指が埋まる感覚が堪らん!あと、肌触りがいいな。猫吸いのように顔をうりうりしたくなるねぇ。


「ふわふわだぁ!」


「毛皮目的で冒険者たちに狙われたりして、今ではだいぶ数が減ってしまったんだ」


日本では都会でもたぬきが目撃されたりして身近なイメージだけど、昔は筆の材料や防寒用の毛皮として重宝されて、乱獲が問題になっていた時代もあったな。

大人しく撫でられていたウユは飽きたのか、しきりにテーブルの上を気にしている。

鼻をひくつかせて、食べ物があることを確信しているみたい。


「お腹が空いたのか?」


族長さんは果物が盛りつけられた大皿を、ウユの前に持ってきた。

そして、一つ一つ匂いを嗅がせて、ウユに食べたいものを選ばせる。


「匂いで食べられるものを判別しているんだ。それと、この子がどこまで生き残る知識を得ているのかを知れる」


族長さんは、食べられるものをいっぱい教えて、体力がついたら野生に戻すつもりのようだ。

リィ族の町にはウユの保護施設もあるそうで、怪我をして野生には戻せない子たちが暮らしているらしい。


「ウユがいっぱい!なんてすてきな!」


「ぜひ遊びにくるといい!私たちは大歓迎だよ」


ルノハークの件が片付いて、お家に帰れたらパパンにお願いしよう!


ウユと戯れつつ、デザートまでしっかり堪能し終わった頃、ようやくパパンたちの挨拶回りも終わったみたいだ。


「娘の相手をしていただき、ありがとうございます」


おそらく、リィ族への挨拶が最後なのだろう。

族長さんは、将来が楽しみなお子様で……と、日本でよく聞くフレーズを口にした。そういうやり取りまで日本人っぽいな!

それから、別の部族の人がリィ族の若い人を誘いに来たり、姉御さんが合流したりと、人が増えたり減ったり。

若い人たちは若い人たちで盛り上がっているなぁと思ったら、集団の真ん中にアイセさんがいた。また胡散臭い笑顔してるなー。


「お嬢、ちょっといいか?」


姉御さんが声をかけてきた。

パパンたちもまだ族長さんたちと話しているので、問題ないと答える。


「ルシュがどこにいるか知らないか?」


「ルシュさん?来てないの?」


会議のあと、泊まっている部屋に戻ったところまでは知っているが、それ以降、姿が見えないのだと言う。

部屋を覗いてもいないし、この会場にも来ていないそうだ。


「……森鬼、ルシュさんがどこにいるか、精霊に聞いてくれる?」


仲間のエルフに聞こうにも、姉御さんとルシュさん以外は離れた場所に泊まっているので、私を頼ったみたい。


「……どういうことだ?」


精霊たちの声を聞いているであろう森鬼が、怪訝(けげん)な様子を見せる。


「ルシュが眠って、誰かが来て、ルシュが消えたと言っている」


「どういうこと??」


精霊の曖昧な表現はいつものことだけど、さすがにこれはちょっと意味がわからないぞ。


「眠らされた?それで、ルシュはどこにいる?」


眠らされたという言葉に不安がよぎる。


「どうやら、薬で眠らされたようだが、そのあとが要領をえない。ルシュの姿がパッと消えたと言っている」


姿が消えた!?


「ウルクみたいに、姿を消せる魔法があるの!?」


そんな面白い魔法があったら、真っ先にかけてもらうんだけど!


「魔法かどうかもわからない。でも、嫌な感じがしたらしい」


「それで、誰かがルシュさんの部屋に入ってきたのは確かなのね?」


森鬼はあぁと短く肯定した。

つまり、その何者かが、何らかの方法を使ってルシュさんの姿を消したと思っていいだろう。


「ディー殿の力を借りた方がいいと思うぞ」


森鬼が言うならと、早速ディーを呼んで事情を説明する。

精霊を経由すればディーの言葉もわかるので、お兄ちゃんには声をかけなかった。

しかし、事態はそう簡単には終わらないようだ。

ディーは光の聖獣なので、光がある場所ならすべてを見通せる、千里眼のような能力を持っているらしい。

今は夜なので、灯りの魔道具など光源がある場所に限られるが。

そのディーの力をもってしても、ルシュさんがどこにいるのかわからない。


「とりあえず、風と土のナノどもでくまなく探せ」


森鬼は光のない場所というヒントだけで、総当たりに探すつもりだ。

地上は風の精霊たちが、地下は土の精霊たちが、隅から隅まで調べてくれるらしい。

光のない場所って相当あると思うんだが、精霊たちは大丈夫だろうか?

とりあえず、パパンに報告だな。

族長さんとの話が盛り上がっている中、私は耳打ちで伝えた。


「よければ、私が他の部族に聞いてきましょうか?」


獣人は耳がいい種族が多い。耳打ちしても聞こえてた。

ルシュさんの安否の確認は急いで行うべきと判断したパパンは、族長さんに各部族への聞き込みをお願いした。


「何があった?」


ディーが呼んだのか、お兄ちゃんとヴィが来て、ちょっと遅れてジーン兄ちゃんも。

パパンが説明したら、ヴィは本当かと精霊の方に聞く。

ヴィの眉が段々と眉間に寄っていくのを見つめ、私の視線に気づいたヴィは何かを呟いた。

しばらくヴィを観察していたんだけど、ヴィめ!声が聞こえないようにしやがりましたよ!!

森鬼に内容を聞いてみたけど教えてくれなかった。

精霊と何を話しているのか凄く気になる。


そうこうしているうちに、私はママンに逃げられないよう抱っこで離宮へと戻された。

私の相手をしている暇はないってことだろうけども、何がどうなっているのか説明してくれてもいいじゃん!


信楽焼のたぬき、可愛いよね!

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