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特命部隊の一日(森狼族の班長視点)

閑話っぽいタイトルですが、本編です(笑)

ダオルーグ殿下の交遊会にて毒が盛られる事件が起きてから、我々の部隊にも緊張が強くなった。

特命部隊に命が下りてくることはなかったが、いつ呼ばれてもいいようにと情報を集めることは(おこた)らない。

しかし、思いもよらぬ任務を任されることになった。


「ドワーフですか?」


皇帝陛下がドワーフを探しにいくから、転移魔法陣を設置できる隊員を同行させると言ってきたらしい。

我々、特命部隊の命令権は皇帝陛下と帝国軍総帥しか持たない。そして、特命部隊の隊員はその命令に否を唱えることは許されないのだ。

たとえ、皇帝陛下が皇帝として相応しくない行為におよぼうと、他の貴族や国民から非難される行為だろうと、命じられれば従うまで。

ただ、正直なところ、ドワーフって本当にいるのかと疑問に思ってしまうのは仕方ない。


「なぜ私が呼ばれたのでしょうか?」


私は森狼(しんろう)族の獣人で、同じ狼族が集められた班の班長をしているが、正直言って我々は戦闘以外の任務は向いていない。ドワーフと戦うと言うのなら理解できるのだが。


「ドワーフは人を嫌うそうだ。ドワーフが見つかり、その集落に転移魔法陣を設置したら、監視役に獣人かエルフをつけるようにと言われている」


理由を説明されても、私はまだ釈然(しゃくぜん)としない。

それならば、獣人とエルフでその場限りの班を編制するべきだ。通常は種族関係なく、能力によって編成されている班と均衡をとって編成されている班が組まれている。しかし、任務ごとに特別編成が組まれるのは珍しくもないし、種族の特性で組まれた班もある。

私が指揮する班も特性で集められた班の一つだ。

だからこそ、我々が選ばれた理由が別にあると思ったのだが。


「この任務にはアルマとお前の班であたってもらう。明日までに割り振りを決めておくように」


「了解いたしました」


部隊長の部屋をあとにし、ともに任務にあたるアルマを探す。

班長だけが使用する共同の休憩室にはおらず、他の班長に聞くも、今日は姿を見ていないと言われた。

となると、いつもの場所で(なま)けているに違いない。


イェリード要塞をそのまま使用している軍本部には、様々な訓練施設が作られている。

そのうちの一つ、水中での活動訓練用の大きな池。今日は、どこも訓練を予定していないのか、静かな水面(みなも)が広がっていた。

そんな水面に、私は思いきり拳を叩き込んだ。大きな水音とともに激しく波打つ水面。

それらが収まると、この池にいるであろう人物に語りかける。


「アルマ、時間が惜しい。早く出てこい」


すると、池の真ん中が大きく盛り上がり、中から人が出てきた。

ゆっくりと水面を歩き、池のほとりまで来ると私を()めつける。


「せっかくお昼寝をしていたのに……」


恨めしそうに言ってくるが、今は昼時にもなっていない。まだ、朝と昼の間ではあるが、昼寝ではないことは確かだ。


「今度の任務のことで、決めなければならないことがある。会議室を押さえてあるから、お前の班を召集してくれ」


「……わかったよ」


アルマは、水の精霊と親和性のあるジュビ族のエルフだが、人との混血だという噂がある。

さらに、宰相であるゼアチル様の孫ではないかと噂が流れているのも知っているが、アルマもゼアチル様も何も言わないので真偽は不明だ。

仮に、本当に孫だったとしたら、建国時からある名家のお坊ちゃんが特命部隊にいるのはどうなのかと思う。

かったるそうに歩いているアルマを見ると、日頃の態度を思い出され、あいつがお坊ちゃんとかありえないな。


先にアルマとの打ち合わせをすませ、班員たちとの会議へ向かう。

途中、私がいればいいだろうと、会議への出席を拒むアルマを引きずっていくのは大変だった。

アルマとともにようやく会議室に入ると、すでに両班の班員が揃っていた。


「遅くなってすまない」


「いえ、うちの班長がすみません」


アルマ班の副班長が謝罪するも、私はいつものことだからと笑って返す。こいつの怠け癖は、特命部隊でも有名だしな。


「では、新たな任務を説明する」


先ほど部隊長から説明されたことを漏らすことなく班員たちに伝える。

特命部隊では基本、紙による記録を残すことが許されない。どんな任務を受けたのかを部隊長が記録しているものか、陛下や総帥に報告書を求められたときくらいだ。

そして、ドワーフという言葉に私の班員たちが驚きの声を上げる。


「本当にドワーフっているんだ……」


班員の呟きに、他の班員も深く頷いていた。


「任務中の行動は組で行い、陛下が行幸(ぎょうこう)されている間は常に待機だ。そして、転移魔法陣が設置されたらすぐに交代するように。アルマ班とルーヴァ班、二人一組で割り振りを決めるぞ」


私の班員は皆、(ろう)族の獣人で戦闘だけでなく、匂いや音で状況を把握するのも得意だ。そして、エルフは精霊の力を借りることができることと、精霊を通して伝達が行える強みを持つ。

ドワーフを発見したら、精霊が知らせてくれることになっており、転移魔法陣が開けば待機している班員がすぐに飛ぶ。

そして、ドワーフの集落を監視または警護し、有事の際はアルマ班員がすぐに知らせ、その間アルマ班員を守りながら動くのが私の班員となる。


「準待機は四組、残り二組は休みとなるが、陛下が還幸(かんこう)されるまで本部から出ることを禁ずる。それ以降は変更がなければ、イェリードの城下町なら外出が許可される」


状況によっては休み組も駆けつけなければならないことも予想されるので、すぐに動けるよう全員が本部に詰めているようにする。

過去には季節が変わるまで詰めている任務もあったので、数日なら短い方だ。


「では、相勤員(あいきんいん)を発表するぞ」


アルマ班とは何度か合同任務をこなしているので、誰が相方になるのか予想がつく者もおり、互いに目配せし合っていた。

班員たちの表情を確認し、頭の中で少し組み合わせを変える。

相方となる相勤員を告げ終えると、次は当番についてだ。

転移魔法陣の側での待機は一日三交代制で順にこなしてもらうが、設置以降はドワーフの集落で当務(とうむ)となる。

一組で当務を行い、準待機組が有事の際の応援のための待機組へと変わる。


「ドワーフの集落では気を抜くことはできないだろう。仮眠は相勤員と相談の上、各自の判断に任せる」


せめてもう一人いれば仮眠も取りやすくなるのだが、人数が多いとドワーフに警戒されるだろうとアルマに止められた。

なので、二人一組のややきつい体制を取るしかなかったのだ。


「それと、エルフ族は誓約(せいやく)に反することはやらなくていいが、必ず口頭で説明すること。我々には精霊が見えないし、声も聞こえないので、齟齬(そご)をきたす恐れがある」


その他の注意事項もしっかりと伝え、班員からの質問にも答える。


「陛下が行幸される日までは休みとなるが、羽目を外しすぎるなよ。任務に支障をきたす行為を行った者は懲罰(ちょうばつ)対象だぞ」


エルフ族は危ないことをする印象はないが、私の班員にはやんちゃな者もいるので少し心配だ。

お前のことだぞ、と若い班員に視線で訴えれば、当人は気づく様子もなく締まりのない笑みを浮かべた。


班員たちが退室し、私とアルマ、アルマ班の副班長の三人だけになると、アルマは机に上半身を投げ出してだらけ始めた。


「どこの奴らか知らないけど、なんで見つかるようなことしちゃったかなぁ~。本当に面倒臭い。わたしの当番もパルハがやっておいてくれない?」


自分の仕事を副班長のパルハに押しつけようと、甘える声でお願いするアルマ。


「嫌です。それに、そんなこと言っていいんですか?陛下の行幸に、あのお方もご同行されるそうですよ」


「えっ!?それ、本当?」


班員たちにも説明した通り、エルフ族はドワーフ族と誓約を交わしているそうなので、私がいる前では曖昧なことしか言わない。

それでも、アルマが喜ぶ何か……いや、誰かが関わっていることは察せられた。


「ひょっとしたら、お会いできるかもしれませんので、班長にはぜひとも頑張っていただかねば」


副班長も期待しているのか、いつもならアルマを甘やかすのに今日は発破をかけている。

二人がこんな姿を見せるのは珍しいので、誰なのかわからないが、私も少し会ってみたいなと思ったのは内緒だ。


陛下が行幸に向かわれる日。

待機当番組、準待機組でお見送りに参加した。

エルフたちが見たこともない満面な笑顔で、陛下ご一行を見つめていて少し気持ち悪い。


「本当に可愛らしい……」


「精霊様のあんなお姿を拝見できるとは!」


精霊様であんなに興奮しているって、エルフは精霊様が関わるとおかしくなるとは聞いていたけどこれか。

珍しい姿が見られたなと思っていると、陛下ご一行が出発された。


「聖獣様がいらっしゃるからなぁ」


「すぐ見つかっちゃうでしょうね」


エルフたちがそんな話をしていたが、聖獣様がいると何か違うのだろうか?

情報を共有すべきとアルマが判断すれば、報告してくれるはず。

しかし、その前に陛下がドワーフの集落を発見したとの一報で、エルフたちの言葉の意味を理解した。

私自身、ドワーフのことは半信半疑だったので驚いた。エルフたちからすると、聖獣様の導きがあれば見つかるのは必然だと思っていたらしい。


それから少しして転移魔法陣が設置され、こちらの本部と繋がった。

すぐに側で待機していた組が転移し、入れ違いに陛下に同行していた隊員が戻ってきたので、ドワーフの集落の様子を聞き、陛下からの追加の命令を受け取る。

警護をしつつ、情報を集めるようにと。


「そういえば、ドワーフの集落にはバジリスクとダムダがたくさんいるらしい」


戻ってきた隊員はついでのように話すが、それを早く言ってくれ。

急いで石化防止の魔道具を用意させ、当務にあたっている組に送ったのは言うまでもない。


班員をドワーフの集落に送り込んで真っ先にしたことは、集落の警備体制の確認だ。

陛下が警護しろと(おっしゃ)るからには、外から襲われる可能性があるということだ。

当務を終えて戻ってきた班員の報告を聞いて、我々には考えもつかない方法が取られていたことにまず驚いた。

そして、私が無知なこともあるが、触れただけで生き物を石化させる石の存在も初めて知る。

それが塀の上に敷き詰められており、侵入者がそれと知らずに登ろうとするところを想像し、あまりのえげつなさに(うな)る。

たくさんいると言われたバジリスクとダムダも、ドワーフたちがあえて放しているそうだ。

バジリスクはまぁいいとして、ダムダはさすがに引く。

夜行性のダムダは昼間はただの石ころにしか見えず、気づかずに石を拾った者が石化の被害に遭うなんて事故が毎巡そこそこ起きている。

ダムダの魔力は魔法にしなくても石化の効力を持っていて、目を通して体内に入り込む。頭や心の臓に達するまでにその魔力の流れを断たないと女神様のもとへ旅立つことになる。

処置が早ければ治癒魔法を継続することで回復するが、多くの者は眼球が石化してしまい両目を失う。

小さいくせに本当に厄介な魔物なのだ。


「あと、動物用だと言っていましたが、周囲の森にかなりの数の罠が仕掛けられています」


その罠は、対人にも使えるということか。

気をつけないと、引っかかる馬鹿が出そうだな。


「今の報告内容もしっかりと引き継いできたな?」


「あっ!一つだけ伝え忘れたことがあります」


内容によっては、エルフ同士で伝達してもらおうと班員に続きを促す。


「ドワーフの集落には癒やしがいません!」


「……癒やし?」


治癒術師がいないということなのかと質問しようとしたら、班員は耳も尻尾も下げて悲しげに呟いた。


「女がいないんです……」


「はぁぁ?」


「女はいるんですけど、男にしか見えないんです。逆に男は子供の姿なのに可愛げがなくて……」


「そんなに女が欲しいなら、女ばかりの部署に異動させてやろうか?」


しょうもない報告に怒り半分で提案すると、班員はきっぱりと嫌ですと答える。

女に囲まれたいのではなく、美女を(なが)めたいのだと。

気持ちはわからなくもないが、それは言わなければならないことだったのか?

ドワーフの男が子供の姿をしているというのは驚きではあるが、エルフの土のジュド族だって子供みたいな小さい姿なんだし見慣れているだろうに。


「オレはいい匂いがしてたおやかな女を(つがい)にするんです」


それは狼族の男なら誰もが理想とする番像だ。私だってそんな女性を番に迎えられたらどんなにいいか。


「班長ももういい歳なんですから、早く番を見つけないと……」


「お前がしっかりしてくれれば、私も安心して異動願いを出せるんだが?」


特命部隊では、特定の異性を作ってはならないという決まりがある。番がいると守るために強くなれるが、それが弱点にもなる。恋人や妻子が人質に取られても、任務を一番に優先しなければならない。

恋人や妻子を犠牲にしないためにも作られた決まりだ。そのため、恋人を理由に異動願いを出すとすぐに受理される。

特命部隊でも人はすぐに入れ替わるが、獣人は番にこだわる傾向があるため、人と比べると結婚は遅いように思う。男女ともに特定の異性を作らず、その場限りなんて種族もいるにはいるが。基本、番ってしまえばそのあとはとにかく早い。

逆にエルフたちは寿命が長いため、働くことに飽きたら番を探すと言って、長く所属している者ばかりだ。


「いやー、無理っすね」


あっけらかんと言い放ったこいつに説教をするのは当然の流れだった。


◆◆◆


私が当務の日になり、これでようやく一周が終わる。

転移魔法陣で相勤員のエルフとともに飛び、交代の引き継ぎを受けた。


「ここの長代理に挨拶してくる」


「ルーヴァ班長、魔道具をつけるの忘れていますよ」


相勤員の風のジュダ族のエクトが私に石化防止の魔道具を渡してくれた。


「あぁ……忘れていた」


他の班員たちからいろいろと衝撃的な報告が多かったので、昼間はバジリスクが放し飼いされていることを失念していた。

透明な素材で作られている魔道具で目を覆い、発動させる。発動したからといって視界が悪くなることもなく、少し邪魔くさいくらいだ。


転移魔法陣が設置してある建物からでると、不思議な光景が広がっていた。

話には聞いていたが、山盛りの土の中が家だというのは本当のようだ。

そして、先ほどからチラチラと住民からの視線を感じる。

軽くお辞儀をしながら住民とすれ違うも、ドワーフの女性が青年にしか見えないことに内心で驚いている。女性というからには、男っぽくてもどこか女性らしい部分はあるだろうと思っていたのだ。

獣人も種族によっては男性的な女性の方が好まれることがあるが、ドワーフとは種族の根本から違うのだと感じる。


班員から聞いていた、長代理がいるという建物の扉を叩く。

山盛りの土ではなく、独特な形をした小屋にいつもいるらしい。


「どうした?」


住民の誰かだと思ったのだろう。

扉を開けたら知らない獣人がいて、しばしの間固まっていた。


「お忙しいところ失礼します。私は皇帝陛下よりこちらの警護を命じられた隊の班長をしている者で、ご挨拶にと参りました」


「あぁ!わざわざどうも。よければ中にどうぞ」


小屋の中に入り中を見回すと、どうも作業場のようだ。桶や大きな金槌、何かの石の山、奥に見えるのが炉か。

長代理は丸太の椅子を出してきて、私にすすめてくれた。


「改めて、班長のルーヴァと申します」


「長のラグヴィズが帰ってくるまで代わりの長をやることになったルディヴァンだ」


ルディヴァン殿は私たちを歓待してくれた。

来てくれたのがあんたたちでよかったと言われたときは、少々意外に思ったほどだ。

詳しく話を聞くと、やはり人は信用できないから集落に入れたくなかったのだと言う。

隠れ住んでいてもエルフ族とは交流があり、エルフが一緒ならばドワーフに難癖をつけることはないだろうと思って受け入れてくれたそうだ。

そして、エルフを間に挟み、私の班員たちが親しげに接したことが功を奏したらしい。

たまに重い荷物を運んだり、罠にかかった獲物を回収するのを手伝ったりしていたとの報告は受けていたので、住民との関係は良好だとわかってはいたが。


「そう言ってもらえると助かる」


簡単な挨拶を終えると、長代理が住民に紹介してくれるというので言葉に甘えた。

そして、夕食の時間になると近隣の住民がおかずを持ち、代わる代わる詰め所にしている小屋に顔を出してくれた。

ただ、一つだけ困ったことがある。寝室が地下に作られていることだ。

これでは仮眠中に何かあったときに音で判断できなくなるし、呼びにいくのにも時間がかかってしまう。

たまたま団子を差し入れにきてくれた老ドワーフが困ったことはないかと聞いてくれたので、私は正直に伝えた。

すると、老ドワーフはその場で空気を取り入れる通気口を大きくし、一階から声が届けられるようにと伝声管(でんせいかん)まで取りつけてしまったではないか。


「……ご老人、この金属はどこに隠してあったのですか?」


ドワーフは土魔法を使えるとのことだったので、地下から地上に穴を空けてあるだけの通気口を大きくできるのはわかる。

しかし、素材になりそうなものを何も持っていなかったのに、伝声管を作った金属はどこから現れたのか?


「それは……商業機密というものじゃよ」


と、笑って教えてはくれなかった。

ドワーフ独自の魔法でもあるのかもしれない。


こうしてドワーフの集落では、長閑(のどか)な時間を過ごすことができた。班員たちも、当務の日がくるのを待ちきれない様子だ。

宮殿ではドワーフのことはまだ極秘扱いなので、一部の者しか知られていない。

それに、交遊会の事件で動きがあったらしく、他の班が複数駆り出されていた。そちらの方は我々の情報が流れてこないので、どうなっているかはわからないけどな。

陛下を筆頭にいろいろと動いているようだが、我々はドワーフの集落での生活を思いのほか満喫している。



特命部隊はドワーフ族の集落で、のびのびしていました(笑)

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