閑話 ドワーフ族の僥倖(ラグヴィズ視点)
それがいけないことだとわかってはいた。どうしても好奇心が抑えられず、その誘惑に負けた。
人がこんなものを作っていたなんて、想像もしていなかった。
奴らが警戒していたから、そろそろここを離れた方がいいと言われた。
地竜様を見つける方法もわからないし、一度、お気に入りの寝床の近くに行ってみようとも。
でも、そのときの僕は決断できなかった。
今は、早まらなくてよかったと、心の底から思う。
地虎様とお会いできる僥倖に恵まれるなんて!
挨拶を述べたあと、駄目元というか一縷の望みをかけて地竜様の居場所を尋ねてみた。
すると、地竜様に害をなす者だと思われたのか、聖獣様たちのまとう気配が変わった。聖獣様を怒らせてしまったと落ち込む僕を見かねたのか、男が代わりに答える。
この集団の中で一際偉そうな雰囲気を放つ男。
彼が放った言葉は、いつもエルフに言われているものとまったく同じだった。
興奮しすぎて挙動がおかしくならないよう取り繕うのでいっぱいいっぱいだったが、水の聖獣、青天馬様を見てあることに気がついた。
最初はエルフ族かと思ったが、本人が先祖返りだと否定する。
エルフの血を引き、聖獣様と契約しているとなれば、ライナス帝国の皇帝だろう。
人との関わりを絶っていようと、それくらいのことはわかる。
そして、皇帝がここに来た理由はサンテートを盗んだ者を捕まえるためと考えるべきだな。
皇帝自ら出てくるとは思わなかったが、被害を出さずに僕たちを見つける方法が聖獣様を同行させるしかなかったのか。
地虎様なら、道中のダムダとバジリスクどころか、他の魔物や猛獣だって近寄らせないようにすることも容易なはず。
それに、聖獣様が案内してきたのなら、僕たちも文句は言えない。
ドワーフ族と他の種族との問題であって、聖獣様や精霊には関係ないから。だから、精霊の声を聞ける者は隠れたドワーフ族の居場所を知ることができる。
それもあり、エルフ族には誓約をしてもらっているし、精霊術師から聞いてきた者は多少痛い目をみてもらってから追い払う。
だが、さすがに皇帝を追い払うわけにはいかないか……。
「で、なんの用だ?」
じっくり話を聞こうと、土魔法で座るための岩を出したときだった。
一瞬すらないような短い間に、皇帝に付き添っていた軍人たちが攻撃態勢に入り殺気を放つ。
ある者は剣を抜き、またある者は魔力を高め、いつでも無詠唱で発動できるようにしている。
そして、世話役の従者っぽい男が一番恐ろしい。軍人たちより強そうだけど何者なんだ?
ちょっと魔法を使っただけだろうととぼけても、誰も警戒を解かない。
それどころか、皇帝は盗みが起きていると直せつに言ってきた。
やはり僕たちを捕まえにきたのかと、内心を読まれないように続きを促すと、心当たりはないかと問いかけられた。
その回りくどい言い方が煩わしく、僕もはっきりと言う。僕たちを疑っているから、ここに来たんだろうってね。
皇帝は涼しげな顔で僕の言葉を聞き流し、軍人に何か指示を出す。
指示を受けた軍人が文様符を出して詠唱すると、地面が粘土質に変化し、椅子の形になっていく。
目の前で見せられた高度な魔法に、たちまち気持ちが高揚した。
土を変質させて粘土にし、椅子の形にすることはできる。だけど、その椅子に装飾をつけるとなると、とたんに難易度が上がるのだ。
いったいどんな魔法構造になっているのか気になり過ぎて、その文様符を見せてほしいと懇願してしまいそうになる。
文様符なら難しい魔法も短い詠唱で発動できるようになるが、ここまで精密に調整されたものは初めて見る。
これだけで、ライナス帝国の魔術師の腕のよさがわかった。土の魔法は形を作る自由度は高いが、魔術師の感覚に依存する部分も多い。そんな感覚までも明瞭化して魔法構造に起こし、それを文様魔法へと書き変え、誰でも再現できるようにしてあるのだろう。
ドワーフ族も土魔法に関しては卓越していると自負しているが、同じことができるかと言われると……。
緻密な作業が得意な陶製流ならできるはずだ。あそこは陶物でなんでも作るから。
人形用の小さな家具や食器を作ったと聞いたときは驚いたのを覚えている。行商エルフに見せてもらった人形用の家具一式は、細部まで本物と変わらないできは見事としか言えなかった。
試しにと、僕たちも木材で真似てみたけど、なかなか奥が深い世界だ。
この流でも小さいものを作るのが流行り、金属を最初から小さく作るのは難しかったため、削りに削って小さくするようになり、研磨の技術がとにかく向上した。なんてこともあったな。
僕が魔法に気を取られていると、皇帝は証拠がないからと言ったようだが定かでない。
それよりも、皇帝が見せてきた大剣のことですべてが吹っ飛んだ。
皇帝が持つにしては装飾のない簡素な拵だが、手に持つとわずかに魔力が大剣へと流れていく。
鞘には動物の皮が着せられているが、本体の素材はララテノの木で作られたものだろう。
鞘の素材は所有者の環境に合わせるべきものだ。
大剣なら軽くするために革が用いられることが多いが、軽くて丈夫なララテノの木で鞘を作る場合もあるとは聞いていた。
一昔前までは、このララテノの木が主流だったが、今はより軽くて強度のあるサンテートが取って代わっている。
ただ、このサンテートには一つ欠点があった。
彫金を施すことができないのだ。文様を彫ると、どうやっても微細なひびが入り、強度が著しく下がる。
そのため、鞘の表面に革を張るようになった。革に文様魔法の焼印を入れることで、簡単に魔法を付与することができるからだ。
文様魔法が破損すると直すことができずに張り替えとなるので、維持に多少お金がかかるけど。
魔力の流れを注意深く追っていくと、この鞘にはいくつもの文様魔法が施されていることがわかった。
おそらく、鞘全面に文様魔法が刻まれているのだろう。それを見ることができないのが残念でならない。
大剣を鞘から抜けば、その剣身の美しさに目を奪われる。ほのかに青みがかった刃、白銀の鎬地。惚れ惚れするその姿を隅から隅まで目に焼きつける。
根元の刃のない部分には、信じられないものが刻まれていた。
直線的で図形のような文字――これがドワーフ族の失った技術。
この文字一つ一つに魔法の要素があるということはわかっているけど、それがどんな魔法なのか、どのように構築するのか、もうそれを知る者はいない。
僕もじじいから思い出話のついでに聞かされたくらいしか知らないので、大剣を持つ手が震えそうになる。
最後の失った技術の後継者は陶製流の者だったはず。
陶製流で大剣を作れなくはないだろうが、柄に施してある飾りは武具流が好むものだ。
この大剣は鞘や柄の装飾から八十巡から一季ほど前のものだと思われる。作られたのが武具流なら、時代からしてあのお方しかいない。
詳しいことはわからないが、どうもこの皇帝に合わせて作ったものではないのは確かだ。
そう指摘すると、皇帝は大伯父のものだと言う。大剣の姿からも、元の持ち主が素晴らしい武人であっただろうということは想像がついた。
まずはドワーフ族の今を説明し、作ったのは武具流の名匠だと教える。
お礼を言いたかったと言う皇帝の言葉は、ドワーフ族としてはとても嬉しい。
皇帝ならば、自分用に誂えたものを使うこともできただろうに。それをせず、親族から譲り受けたものを大切にし、使いこなせるようになるまで苦労したであろうことを考えると好感が持てる。
死後もなお、大切に愛用してくれていると知れば、イル・スラーデンも報われる。僕も、こういう人になら武器を作ってもいいな。
「この剣は大切にしてくれ。今は失われた技術で作られていて、とても貴重なものだ」
そう言うと、皇帝が興味を示したので簡単に説明した。ドワーフ族ならみんなが知っているようなことだけだが、現所有者である皇帝はその魔法に心当たりがあるようだった。
しかし、大剣に刻まれた文字がその魔法に関係しているとは知らなかったらしい。
そもそも、文字とすら思われておらず、飾りの一つだと思っていたみたいだな。
技術の継承者がいなくなったことに対して、無念という言葉を選んだ皇帝。ライナス帝国の長い歴史の中で廃れていったものを知り、同じように感じたことがあるのかもしれない。
そんなんだから、つい愚痴めいたことを口にしてしまった。
突然、幼い女の子の声がした。
えっ……子供?子供なんていたか?
最初から一緒にいたのなら、子連れでこいつら森に来たと!?いくら聖獣様が一緒とはいえ、魔物に狙われたら死ぬぞ!
あまりのことに驚いていると、皇帝が妹だと言ってきた。
妹ってことはお姫さんでいいんだよな?人の身分ってやつはよくわからない。
「気持ちを動かす何かを探しにいったんじゃないの?」
そう尋ねられて、僕は自分の行動に納得した。
お姫さんの言う通り、僕は外に出る理由を探していた。そして、外の技術よりも、まだ僕たちドワーフ族の方が上だということを確かめたかった。
あの不思議な形をしたサンテートを見たときは、本当に興奮したんだ。まだまだ僕たちが身につけるべき技術はある。しかも、外の世界にって。
ただ、今さらながら、僕が取った手段は最悪だったと思う。
サンテートを盗めば、いずれ誰かが捕まえにくることはわかっていた。心のどこかで、捕まれば外の世界に行けると考えていたから、ここを離れる決断ができなかったのかもしれない。
でもそれは、同胞を危険にさらしたのと同じ。
もし、皇帝がドワーフ族の技術を奪おうと考えていたら?もし、姿を消した種族など、どうにでもできると思っていたら?
皇帝がいい奴で、こうして話していられるのはただ運がよかっただけ……。
こういうのを『精霊がささやいた』と言うのかもしれない。
しかし、幸運はそれだけでは終わらなかった。
お姫さんが不思議な形をしたサンテートを作るのに手を貸したと言い出したのには、少し笑った。
皇帝がこんなところまで連れてくるほど甘やかしているのだとすれば、大人の真似をしたくて会議に参加させてもらったのを大げさに言っている可能性もある。
さすがに、この幼さで国の仕事はさせないだろう。
大工組合の長に弟子にすると言われたと、立ち向かってくるのでからかいたくなる。
すると、突然皇帝が大きな声を出し、お姫さんは体が跳ねるほど驚いていた。
「この国の鍛冶師に弟子入りしてみないか?」
「皇帝さん、本気で言っているのか?」
皇帝の提案に、誰も注意をしない。お付きの人が諫めるべきだろ?
僕が呆気にとられている間、皇帝は皇帝で弟子入りした場合のことを説明し始めるし……。
「それ、罰にならないと思うのだが?」
「盗みという卑怯な方法を取った者には、盗んだものを作る苦労を知るべきだ。もちろん、ただ金目のものが欲しかったという者には、重労働が待っているけどね」
平民が盗みで捕まると、本来はある施設に入れられるらしい。そこで、農作業をしたり、料理の下ごしらえをしたり、盗んだものに応じて仕事が割り当てられるそうだ。
金や宝石、金のために盗んだ者は、もっと環境の悪い、普通の人がやりたがらない仕事に就かされると。
さすがに、娼館や男娼なんて言葉はお姫さんに聞かせられないようで、耳を塞がれている。
それでも盗みを繰り返すと、手がなければ盗みはできないという理由で利き手を落とされる。
捕まえにきたのが皇帝でなければ、利き手を落とされていたかもしれないのか!
無意識に大事な利き手を庇うと、皇帝は反省している者の手は落とさないよと笑った。
それから刑期の話になり、なぜか弟子入りすることが確定してた。
自分だけで決めることはできないと、皇帝たちを巣の山に招き入れて、同胞たちを招集する。
全員参加の合図の鐘を鳴らし、待つことしばし。
みんなが揃ったことを確認して、今までのことを説明する。
皇帝一行が来ていることを口にしたときは、全員が彼らを見つめてしまったため、お姫さんが怯えて隠れてしまった。
「金で解決できるなら、そっちの方がいいじゃろう。わざわざ外にいく必要はない」
「だが、得られるものも多い。皇帝さんと縁を繋いでおけば、地竜様の居場所も、得物流が何をしているのかもわかるかもしれないんだぞ?」
じじいどもが反対することは想定内だ。
「だが、外は危険じゃ。人さらいに遭って、手込めにされるんじゃぞ!俺の曾祖父さんの弟は人に捕まって帰ってこなかった……」
昔から、ドワーフ族の男はなぜかその手の類に狙われやすい。種族的特徴のせいらしいが、男にも欲情するとは……。まぁ、それだけ欲深いからこそ、あんなに繁殖しているのだろう。
「それなら、私もついていこう」
そう宣言したのは僕の嫁だった。
「エル、お前は盗みには関与していないだろう。巣の山で待っていてくれ」
「夫の手伝いをするのは嫁の役目だろ。私も外は経験あるから、任せて欲しい」
嫁のエルは僕に嫁ぐ前、姉が他の流に嫁ぐからと護衛として野鍛冶流から出たことがあった。
幼い頃から外の世界に憧れていて、捜索隊に参加したがっていたのを僕が止めたんだ。
それなのに、僕が外に出ることになり、我慢できなくなったのだろう。彼女の目が、切に訴えかけてくる。お前だけ狡いぞ、私も行きたいと。
「それなら、ぼくも行きたーい!」
僕の嫁に抱きつきながら主張してきたのは、サンテートを運ぶのを手伝ってくれた奴の嫁だ。
僕を手伝ってくれた同胞たちも一緒に弟子入りするわけだが、そもそも嫁同伴は許されるのか?
しかも、彼女だけに留まらず、多くの若い者たちが自分も行きたいと言い始めた。
これにはじじばばどもも驚いて、特にじじいたちは外の危険をこれでもかと叫ぶ。ばばあたちが何も言わないのは、自分たちは外に出たことがあるからだろう。自分は外に行ったことがあるのに、行くなとは言いづらい。
「これだけ外に興味を持っている者が多いんだ。ドワーフ族が安全に外へ行ける方法を探してくる。じじいたちだって、新しいものを見てみたいだろう?」
不思議な形のサンテートに、じじいどもだって興奮していたのを知っているんだからな。
みんな知りたいのだ。どうやってあの形にしたのか、どういう用途で使うのか、他にどんな型があるのかってね。
特に、まだ感性の鋭い若い者たちは、刺激を受けて気づいたのだろう。
刺激に飢えていること、このままでは自分の可能性が試せないことに。
「それなら、ぼくの姉さんに協力してもらえるようお願いしてみるよ!」
「……えっ!?生きているのか?」
誰かが叫び、勝手に殺さないでよーと言い返す彼女に、みんなの視線が集まる。
彼女の姉は、十巡ほど前に派手な親子喧嘩を繰り広げ、巣を半分吹き飛ばし、父親を罵りながら流を出ていった。
外に適応できるドワーフの女とはいえ、一人では生きていけないだろうと思われていた。
どんな手段かはわからないが、妹と連絡を取り合っていたようだ。
「今、冒険者やっているんだよ。この前の連絡では、ミルマ国に築造流がいたって教えてくれたし、ひょっとしたら地竜様に繋がる情報も持っているかも!」
築造流、ミルマ国にいるのか。
そういえば、最後に連絡が来たときにライナス帝国とミルマ国の境辺りにいたな。
「それにね、希少な鉱物を採取する依頼もそこそこあるらしくて。みんな冒険者になって、交代で依頼を受けるのってどうかな?」
彼女の提案に、若い者たちが目を輝かせて賛成だと拍手を送る。
「待て、先走るな。今、冒険者となって若い者が抜ければ、じじばばと子供たちを守る手合いが少なくなる」
いくら魔法が使えるとは言え、何か起きたときに対処ができないのは困る。
それこそ、襲撃者がまた来て、子供たちが売り払われる可能性だってあるのだ。
「じゃあ、いっそのこと皇帝に保護を求めるのは?流のみんなで行けば怖くない!」
確かに全員で行けれるのが一番いい。試しに、聞くだけ聞いてみるのもありか。
「それだと、俺たちが掟を破ることにならないか?」
一人が不安そうに言うと、じじいどもがそれに乗っかって、そうだそうだと騒ぎ出す。
「破らざるをえない理由があればいいだろう。たとえば『襲われて全滅を避けるために致し方なく』ってね」
前の襲撃者の正体もわからないし、それが嘘であると知るのはこの流だけ。他の流はまた襲われたと思うだろう。
「もし、嘘だと言ってくる流があれば、そこが襲撃者と繋がっているか、この中に内通者がいるということにもなる」
同胞を疑っているのかと声も上がるが、これはおまけにすぎない。
「僕たちの目標は、新たな生活様式の確立だ。外に出るにせよ、地竜様のもとへ行くにせよ、現状は僕たちだけの力で無理なのは理解しているだろう?外には可能性があり、運良く協力してくれるという者も現れた。この機会を逃せば、僕たちは目的もなくただ大陸をさまよう生活を続けることになるんだよ」
「ヴィズ、そう結論を急くのはよくない。まずは、皇帝さんとやらに、私たちの保護のことを話すべきだよ。あちらも、話し合わないと決められないことがあるはずだし」
そう嫁に言われて、自分が感情的になっていたことに気づく。
「悪い……。とりあえず、言ってくる」
「私も行こう。それと、サンテートを運ぶのを手伝った三人もついてくるように」
嫁の指示に三人は大人しくついてきたが、なぜかぼくもとあいつも加わっていた。
皇帝のもとへ行くまでに心を落ち着かせ、保護のことを頼む。すると、お姫さんからとんでもないことを提案された。
ガシェ王国に行かないかと。
なぜお姫さんがそんなに詳しいのかわからないが、シアナ特区という場所を管理している貴族にかけ合ってくれるそうだ。
聞く限りではいい話だが、僕たちは労役でライナス帝国にいなければならず、流がガシェ王国にいるとなると、問題が起きたときに手が出せない。
なので、図々しいことは承知で、転移魔法陣の設置をお願いする。
他国が絡むからと、この場で返事はもらえなかった。
ただ、即座に却下されなかったので、可能性はあるとみた。
「サンテートに関与した者は長殿と……」
「こちらの三人だ」
「では、君たちはこのまま私と一緒に来てもらう、でいいかな?」
もちろん僕たちは承諾した。
すると、僕の嫁と同胞の嫁が、自分たちも一緒についていきたいと申し出る。
皇帝は微笑みながら構わないよと言ってくれて、嫁の同行はあっさりと認められた。
「それから、仲間の安全を気にかけているようだから、念のために特命部隊にこの村を警備させようと思っているのだけれど、どうかな?」
「特命部隊?」
「任務内容を口外することができない、とても優秀な部隊だよ。君たちのことを知る者は少ない方がいいからね。それから、緊急時用の転移魔法陣を設置させてもらってもいいかな?」
「それは構わないけど……」
僕たちがいない間、流を守ってくれるのなら凄く助かる。
それに、一応ぼくたちは罪人のはずなのに、この上なく丁重に扱われているように感じた。
労役の期間を決める取り調べを表向きの理由にして、僕たちの希望を聞き、あちらがどこまでできるかの話し合いの場を設けてくれるそうだ。
もちろん、やってしまったことへの償いはちゃんとやるけど、逆に親切すぎて裏があるのかもと疑いたくなる。
巣の山の入口で帝国軍の紋章を見せた奴が、ここに残ることになった。
彼も特命部隊とやらの一員らしい。しかも、彼一人で転移魔法陣を設置することができるとかで、とても優秀な魔術師なんだそうだ。
こっちがついていけないほど、あっという間に話がまとまり、僕たちは巣の山を後にした。
そして、僕は知りたくなかった事実を知らされることとなる。
僥倖とつけたはいいものの、ラグヴィズが騙されている気がしなくもない。




