犯人は……お前だ!ってやりたかった。
「ブロウンって奴が捕まったそうだ」
森鬼が突然言い放った言葉に、みんなすぐには反応できなかった。
真っ先に復活したのはパウルだ。
「捜査班がブロウン男爵を逮捕した、で間違いないですか?」
「あぁ。なんか、名の誓いがあるから免責取引するからどうのって」
パウルが、ブロウン商会に今日、立ち入り捜査が行われるとかなんとか言っていたけど、それで証拠が見つかって、言い逃れできないって諦めたのかな?
というか、免責取引って何?
「免責取引ですか……。それを持ち出すということは、何かしら名に誓ったことがあるのでしょう」
私はダオに免責取引の意味を知っているかと聞いてみたけど、ダオもまだ習っていないそうだ。
「わたくしもこちらの法律は勉強中ですので、大まかにしか説明できません。隊長殿がご存じでしたら、お教えくださいますか?」
「わかった。免責取引とは、真名を用いた誓い又は誓約において、意図せずに犯罪行為に巻き込まれた者が真勇を奮い告発を行えば、皇帝の名のもとに保護するというものだ」
ごめんなさい、よくわかりません。保護って何をどうするの?
「我が国の誓約法の一部と似ていますね。我が国では、犯罪行為に関する発言を不当に真名で禁じられた場合、国が然るべき手段を用いて、その命を保護するとあります」
「……名の誓いを破ると死んじゃうんでしょう?どうやって守るの?」
一般的に知られていないけど、名の誓いにはいくつか抜け道のようなものがあるらしい。
特に貴族がよく使う場面として、知り得たことを他言しないと誓うことが多いそうで、この場合、周知の事実になるほど広く知られてしまうと無効化されるんだと。
でも、それは国が告示するとかしないと無理だから、今は質問に頷くだけの方法を取っているんだって。
「うなずくだけでいいの?」
「えぇ。会話の相手がその誓った内容について知っていて、相づちで頷いているという体裁ですので」
神様、そんな抜け穴アリですか?
というか、それがわかるまでに、何人犠牲になったんだ?たまたま発見したわけじゃないでしょ!?
「帝国でも同じようなものだが、誓いに関する事実確認は軍部の捜査班が行い、彼らでは手に負えない場合に陛下へ奏上される。それ以降は秘匿されているため、陛下がどのように名に誓った者からその内容を聞き出しているのかは知らない」
聖獣は契約者に関わることでないと聞き出せないから、陛下が関わるようにしているのかな?
でもそれだと、聖獣の契約者がいない国では頷く方法しか取れないってことで、犯罪者の罪を立証できない場合も出てくると思うんだけど……。
まさか、契約者が話しかけたら関わったと認定されて、精霊が教えてくれるとか?
それだったら、他国の聖獣の契約者に協力をお願いすることもできるんじゃないかな?
頭を悩ませていたら、正解を森鬼が教えてくれた。ただし、私にしか聞こえないようにしてだけど。
「聖獣の契約者は、一定の範囲なら精霊を排除することができる。精霊がいなければ、名の誓いに反したと判断しないと、神が黙過してくれるそうだ」
……神様、お気に入りがやるなら見逃すよーって、一番上司がやってはいけないことだと思うな!!
不可抗力、例えば人質を取られたとか、殺すと目の前で武器をチラつかされた状態で名に誓った被害者たちが可哀想だから、死なずに伝える方法はないのかとお気に入りたちにお願いされたのか?
「ちなみに、主にはまだ許されていないから、お願いされてもできないと言っている」
誰の許可がいるの!?あ、神様か。
聖獣の契約者のことならヴィに聞く方がいいのだろうけど、素直に教えてくれるとも限らないしなぁ。
よし!
――へい!ソルさん!ネマだよ!!
――……お主は普通に話しかけられぬのか?
念話だと、気持ちのテンションがそのまま現れちゃうんだよね。一応は直そうと試みたけど、どうやっても気持ちのまま伝わってしまうから諦めて欲しい。
――まぁまぁ。こっちでは大変なことが起こっていてね……。
――精霊から話は聞いておる。で、何が聞きたいのだ?
私が悪いわけじゃないのに、私の言動がすべてソルに筒抜けだと思うと、なんかいたたまれない。精霊さん、なんでもかんでも伝えなくていいんだよ?
――聖獣の契約者が精霊を排除できるって本当なの?なんでそんなことできるようになったの?
――排除と言うよりは、精霊のみに効く結界のようなものだ。契約者の周囲のみの狭い範囲で、継続時間もさほどないが、創造主が必要だと思ったから与えたのだろう。
――契約者だけ?エルフや精霊術師は使えないの?
――契約者だけだ。エルフでは願うことはできても命令はできぬ。精霊術師は少数の精霊を従えることはできても、そこら中を漂う精霊すべてには命令できぬ。精霊に命令できるのは、聖獣と契約者のみ。まぁ、愛し子の騎士なれば、精霊王にも命令はできるがな。
――私はまだって言われたのにぃ。
最後の愛し子の騎士のくだりは引っかかる物言いだったけど、森鬼が特別なチートであることは理解した。
――真名を交えてできるようになったとしても、我が許しはせぬがな。
――えっ?なんで??
――半身たる契約者を面倒なことに巻き込むことを是とするわけがなかろう。お主が首を突っ込むと、余計にややこしくなるだろうしな。
神様以前に、ソルのお許しがないとダメだったか。
まぁ、まだ仮契約ですし、精霊の姿も見ることができないからいいんだけどさ。
――水や土のが半身に甘いから、そやつらに任せておけばよい。
あー、確かにユーシェは陛下に甘いと思う。というか甘えん坊だから、陛下がたっぷり可愛がったらなんでも言うこと聞いてしまいそうな感じがあるよね。
カイディーテは甘いって感じはしないんだけど、皇太后様にはデレデレに甘えたりするのかなぁ?それはそれで見てみたい気もする。
――お主は大人しく遊んでおれ。水の契約者がどうにかするだろう。
――はーい!
ちょっと残念だけど、できないんじゃしょうがない。
ソルとの念話を終えて、パウルたちとの会話に加わると、ディケンズ伯爵が捕まるのも時間の問題だろうってことになった。
「でも、気になるのは、洗濯係の女の子だよね?ディケンズ伯爵に頼まれたのかな?」
ダオが言うように、彼女さんはなぜ偽装した通知を掲示板に貼ったのか、誰からの指示だったのかはわかっていない。
例の二股隊員を再度呼び出して、彼女のことを粗方聞き出しはしたのだが、いたって普通の女の子としかわからなかったんだよねぇ。
森鬼にお願いして、捜査班の人たちに彼女を調べるよう伝えたのだけど。
「なんかこう……スッキリしないね」
サスペンスドラマだったら、今頃真犯人を追い込んでいるシーンくらいだろうに、犯人が見つかったという臨場感がない。
まぁ、現実はそんなものなのかもしれないけど。
このままダオの部屋でダラダラしているのも迷惑だろうから、私たちは自室に戻ることにした。
ダオは、森鬼に書いてもらった隊員たちのメモを見ながら、隊長さんといろいろ相談するそうだ。
誰を残して、誰を外すのか。外したとして、新たな人員をどうするのか。ダオが決めなければならないことは多い。
「ただいまー!みんないい子でお留守番してた?」
部屋に帰ると、元気よく稲穂がお出迎えしてくれた。
四本の尻尾をブンブン振って、足下に絡みついてくる。
「何して遊んだの?」
稲穂のご機嫌具合から、海たちがたくさん遊んでくれたのだろうと思ったのだが、星伍と陸星は先ほどから一言も話そうとはせず、どことなく距離を取っていた。
そして、パウルを目で追っている。君たち、わかりやすいよ!
「星伍、陸星、いさぎよく覚悟を決めようか」
「パウル……ごめんなさい」
「じゅうたん燃えてびしょびしょになっちゃった……」
パウルに怒られるようなことしちゃったのはわかったけど、絨毯燃えてびしょびしょって何をして遊んだらそうなったの!?
「……あぁ、あそこですか。何かやるだろうとは思っていましたし、想像より被害は少ないので大丈夫ですよ」
ぱ、パウルが優しいだと!!
どうしよう、明日は槍が降るかもしれない!!
怒らないパウルに、星伍と陸星も安心するどころかさらに怯えて、森鬼の後ろに隠れてしまった。
「しかし、イナホに魔法でも使わせたのですか?」
「僕たち、魔法使えないから、見てみたいってお願いしたの」
「火にびっくりしたら、イナホもびっくりして火を落としちゃった」
魔法の火はすぐに消えたものの、絨毯に燃え移ってしまい、海が水をかけて消火したそうだ。
――きゅーぅ……。
稲穂も申し訳なく思っているのか、うるうるお目めでパウルを見上げている。
「イナホに不自由を強いているのはこちらですから、小さな失敗くらいでは怒ったりしませんよ。ただし、今度から部屋の中で魔法を使うのはやめましょう」
――きゅっ!!
他の魔物っ子たちとは違い、稲穂は人に見られるとまずいのでなかなかお部屋から出すことができない。
パウルはそれを気にかけていたのだろう。
部屋の中でも稲穂が思いっきり遊べる方法を考えないといけないなぁ。
低い段差をいっぱいつけたキャットタワーみたいにするか、高さを利用するならやっぱり滑り台か?
「絨毯だけ替えるのも手間ですので、いっそのこと模様替えでもしますか?」
「模様替えって、このお部屋自体借りているものなのにやっていいの?」
「えぇ。購入したものを持ち込んでもいいですし、他の部屋のものと入れ替えてもよいと、最初に許可をいただいておりますので」
「じゃあ、長椅子をもっと大きいのにしよう!森鬼がお昼寝するとき、足がはみ出てつらそうだし」
長い脚を肘掛けに乗せて寝る姿も格好いいけど、熟睡はできなさそうだった。
「今より大きいものですと部屋に合わないと思いますので、揺り椅子を置いてはどうでしょうか?シンキなら、自分で好きな場所に移動させられるでしょうし」
揺り椅子!それいい!私もお昼寝のときに使わせてもらおうっと。
パウルは海に水を消すように言い、その後、焦げ跡を目立たないようにするための補修をし始めた。
パウルがしゃがんで作業している様が珍しいのか、魔物っ子たちは興味津々といった様子でパウルの手元を覗き込んでいる。
私も気になる!
魔物っ子たちに混ざって、私もパウルの作業を覗き見る。
小さなナイフを手にしたパウルは、焦げた部分を綺麗に削ぎ落とし、ゴミと化した焦げを白に食べさせた。
なんでも消化するとはいえ、お焦げを食べさせるのはどうかと思う。もし、有害物質とかあったら危ないし。
あ、でも、前に丸焦げになったお肉も普通に食べていたような……?いや、ああいった有害物質は蓄積して、後々に悪影響が表面化することが多いから、やっぱりお焦げを与えるのはやめさせよう!
白が平然と焦げた絨毯の一部を消化しているのを見ながら決心していると、パウルは補修に必要なものを取りにいったようだ。
すぐに戻ってきたが、その手には絨毯と同じ色の毛玉と小さな小瓶があった。
削ったために凹んだ部分に小瓶の中の液体を垂らし、絨毯の下地に馴染むよう均等に木べらで広げる。そこに、毛玉を千切りながら置いていき、あっという間に周囲と同じようにしてしまった。
触ると質感が違うので、補修されたのだとわかるが、見ているだけならまったくわからない。
「そんなものまで用意されていたとは……」
お部屋を快適に保つのは使用人の務めではあるけど、用意がよすぎないか?私が何かやらかすとでも思っていたのだろうか?
「イナホが来てからすぐに用意しましたよ。キュウビですからね」
あ、私ではなく稲穂だったか。
「模様替えついでに、すべてに耐火魔法を施した方が安心かもしれませんね」
魔物っ子たちがうっかり傷つけないように、高価なものには保存魔法や耐物理などをかけてあるそうだが、カーテンや絨毯、クッションとか布製のものは季節で替えたりするし、消耗品的な扱いだから何もしていなかったようだ。
お姉ちゃんが帰ってきて、パウルが模様替えについて提案すると、お姉ちゃんも賛成してくれた。
どんなお部屋にするかで盛り上がっていたら、すぐに寝る時間になってしまった。
「ネマは明日何をする予定かしら?」
稲穂の尻尾をむぎゅむぎゅしていると、寝る準備を終えたお姉ちゃんがベッドに入ってきた。
そういえば、明日は特に約束をしているわけではなかったな。
ダオのところに連日押しかけるのもどうかと思うが、やっぱり捜査がどうなっているのかは気になる。
「まだ決まってないよ。でも、犯人わかりそうだから、ダオのところに行くかも?」
「早く捕まってくれないかしら?ネマとエルフの森に行くの、楽しみにしているのに」
ゼアチルさんの紹介状があれば、ヴィだけでもエルフの森に行けるのだが、陛下がそれをよしとはしなかった。
まぁ、言葉巧みにお姉ちゃんによって言いくるめられたとも言うが。
たぶん、陛下にとっても耳に痛い言葉だったんじゃないかなぁ。周りにいた側近さんたちが深く頷いていたし。
王太子であるヴィが臣下のために薬を届けるのは美談になり、民の心証もよくなるだろうけど、臣下であるオスフェ家が依頼したものを取りにいくのは違う。たとえ他国であろうと、私たちはガシェ王国に忠信を捧げる臣下であり、王太子がどんなに強かろうと支え守る務めがあるのだと説いた。
陛下方の前で熱弁をふるうお姉ちゃんはとても格好よかった!
ヴィは、デールラントに似よってと小さく舌打ちしていたので、同じようにパパンに言いくるめられたことがあるのだろう。
ヴィを言い負かすパパン……見たい!!絶対、悪どい顔しているよ!!
「お忍びの服はもう用意してあるのよ!お兄様に見せてあげられないのが残念だわ」
もうすでに用意してあるのか!ちゃんとお忍びできる服なのか不安だ。
「じゃあ、お家に帰ったら、おにい様も一緒におしのびしよう!」
「どこがいいかしら?戻ったら新しいお店もたくさんできているでしょうし、お兄様に調べておくようお願いしましょう」
お姉ちゃんとおしゃべりしているうちに、私は寝落ちしていた。夜更かしできないこの体が恨めしい。
学校に行くお姉ちゃんをみんなでお見送りして、午前中はのんびりすることにした。
稲穂の遊び道具をどうしようかと悩んでいると、部屋の中を魔物っ子たちが駆け回り始めた。
星伍と陸星は障害物と化したクッションや椅子を華麗に跳び越えている。なんか、ドッグ・アジリティみたいに疾走感が凄い。
稲穂も一生懸命二匹のあとを追いかけているが、跳ぶ前に躊躇してしまうのが可愛い。
だが、助走もなしに椅子を軽々と跳び越えるのを見ると、やっぱりキツネなんだね。
ふむ……じゃあ、トランポリンとかどうかな?もっと高くピョンピョンできるから、楽しいとは思うんだけど。
と考えたところで、そもそもトランポリンを作る素材があるのかが問題だ。頑丈な布に、強靱なゴム、強固な土台。
いろいろと大変そうだと上に向けてため息を一つ。……あっ!天井!!
トランポリン自体に高さがいるし、それで跳んだら天井にぶつかってしまうのではなかろうか……。
前世で住んでいた部屋よりは天井は高いけど、キツネの跳躍力を考えると不安である。
作り方次第なんだろうけど、競技のトランポリンはめっちゃ高く跳ぶし、アクロバットな動きしていたしなぁ。
競技か……。ハードル走みたいにピョンピョンできればいいんだけど、高さを調節できる棒を置く?
リンボーダンスじゃなくて、背面跳びの……走り高跳び!!
それなら、キャットタワーもどきに取りつけるだけでいいかも!
稲穂の様子を見るに、木登りはできそうだからいいとして、星伍と陸星も遊ぶなら、低い位置に滑り台をつけるのもありだ。トンネルも欲しいな。あ、天辺にノックス用の寝床を置くのもいいな。止まり木も追加しちゃえ。
アイディアを忘れないようにと、キャットタワーもどきの構想を絵に描いてみる。
ついでにトランポリンも描いてみたけど、これじゃない感が半端ない。
くっ、絵心が欲しい!
「お絵かきですか。……枯れ果てた木と何かの器でしょうか?」
「稲穂たちの遊び道具!」
トランポリンが何かの器に見えてしまうのは仕方ないとしても、枯れ果てた木ってどういうことだ!!
枯れ果てた木にトンネルはないし、滑り台もハンモックもない……。トンネルが木の洞に見えたとか、滑り台やハンモックが蔦に見えたとかじゃないよね?
パウルの目がおかしいだけだと思いたくて、森鬼にも見せてみたら木の魔物かって言われた。断じて違う!
しょうがないので、キャットタワーもどきがどんなものなのかを懇切丁寧に説明してあげた。
そうしたら、パウルがこんな感じでしょうかと、サラサラと絵を描いていって、それがまた上手いもんだからなんか悔しい!
悔しさを誤魔化すように、ここをこうしたいとか、ああしたいと、いっぱい注文つけてみた。
「では、これを大工組合に持っていって頼みましょう」
「いいの!?やったー!!」
小さなアスレチックと化したキャットタワーもどきだけど、部屋に合わないって却下されると思っていたから、作ってもらえるのは凄く嬉しい。
どこにキャットタワーもどきを置くか、パウルと相談をしていたら、誰か来た。
もうすぐお昼だし、ダオからのお誘いかと思いきや、陛下からのお呼び出しだった。お昼ご飯……。
パウルと森鬼も一緒にってことだったので、稲穂に火の魔法は使わないように言って、スピカにお任せして、慌ただしくお使いの侍従さんについていく。
連れていかれた先は、陛下の執務室……の隣にある小さめの部屋だった。
こちらは日頃から小規模の会議とかに使われているのか、格式張った感じはないものの、テーブルや椅子の配置が会議室っぽい。
部屋にはすでに数名が着席しており、ゼアチルさんや陛下の側近といった中枢のメンバーばかりだ。
「急にお呼び立てして申し訳ございません」
ゼアチルさんからそう言われ、いえいえお気になさらさずにっていうやり取りをパウルがしたあと、席に案内してもらった。
私たちが到着するのを待っていたのか、その後すぐに陛下とヴィが入ってきた。
ラース君とユーシェもいるんだけど、ユーシェはなんか不機嫌そう。
「皆に集まってもらったのは、先日のダオルーグの交遊会で起きた事件についてだ」
事件の詳細については、みんな知っているものと省略され、ブロウン男爵が捕まった経緯を教えてくれた。
毒物が含まれていた茶葉とお菓子がブロウン商会のものだったので、捜査班が立ち入り調査をしたところ、ブロウン男爵はすぐに免責取引のことを口にしたらしい。
なんでも、誰かに襲われたそうで、ディケンズ伯爵の方が先に裏切ったと言っているそうだ。
その免責取引に応じて陛下が話を聞き、今朝方、ディケンズ伯爵と関与した貴族二名の身柄を確保した。
ディケンズ伯爵は一部容疑を認めてはいるものの、自分は騙されはめられたのだと訴えていて、その騙した人物が何者か不明ということもあり、捜査は続行させることに。
とりあえず、ブロウン男爵の容疑は確定したので、彼は刻印を施し、真名を取り上げたあと、労役が課せられる。
刻印は、免責取引をしたのだとわかるようにするためのもので、罪を犯した者は隠しにくい場所、顔のどこかに施され、罪を犯していない者は隠れる場所に施される。
そして、戸籍から真名が消され、国が用意した新たな名前を与えられる。
戸籍から消されたとしても、真名であることは変わらない。それなのに新たな名前を付けるのは、罪を犯した者は更生の一環として、罪を犯していない者は再び犯罪に巻き込まれないようにするための配慮なのだとか。
確かに、あいつが俺たちを売ったとか、逆恨みで狙われたら怖いよね。
ディケンズ伯爵は捜査が終わるまで、牢獄に入れられ、容疑が固まれば極刑になるだろうと陛下は言う。
貴族として毒杯になるのか、それとも平民として人知れず処分されてしまうのかはわからないが、かなり重い処分だ。
貴族の二人も爵位を取り上げられるそうなので、その騙した人物が気になるけど、犯人は逮捕され、事件は解決したとみてよいのだろうか?
「噂に触発されて動いていた者たちも、ディケンズの逮捕を受けて馬鹿な真似はしないと思うが、ネフェルティマ嬢の周辺の警備を増員してある。まぁ、優秀な執事も策を取っているようだが念のためな」
「お気づきでしたか」
どんな策なのかは知らないけど、安全になった?
「じゃあ、おねえ様とエルフの森に行っても大丈夫ですか?」
「あぁ。その際は私の警衛隊を動かすので安心して欲しい」
やったー!お出かけのお許しが出たぞー!
ルイさんのときとは違い、陛下の警衛隊はこっそり護衛するから、エルフの森の周辺にあるお店を、少しなら見て回ってもいいって。
「ヴィルのお忍びの衣装も用意しているから、日取りが決まったら教えてくれ」
「陛下、遊びではないと何度も申し上げたはずですが?」
「可愛い甥っ子よ。少しくらい羽目を外しても、誰も叱ったりしないさ」
か、可愛い甥っ子……。笑っちゃダメだけど、ヴィには似合わない言葉だ!可愛い要素がほぼないもの!!
「ネマ、笑うの我慢できていないぞ」
「だって、可愛いヴィっていうのが……」
「ネフェルティマ嬢。ヴィルは幼いときはリリーナにそっくりで、それはそれは可愛かったんだよ」
王妃様にそっくりな美少年だっただと!?
そこに天使なお兄ちゃんがついてくるとなれば、まさに天国じゃん!!
見たかった……。神様、私は天使なお兄ちゃんと美少女なヴィのツーショットが見たかったよ!
「国に帰ったら、幼少期のヴィの絵姿見せてもらいます!」
王宮なら、家族の肖像画とか絶対ありそうだよね。
見つけたら、お姉ちゃんにも教えてあげよーっと。
ヴィがぽつりと隠すかって言っていたけど、王様と王妃様にお願いするから無駄だと思うよ!
その日の夜。
パウルから、洗濯係の女の子が亡くなっていたと報告を受けた。
洗濯係の女の子は、事件が起きた夜に宮殿を逃げ出したそうだ。ただ、逃げ出す際に男の姿が側にあったことから、駆け落ちしたのではと噂になっていたらしい。
マーリエ母との繋がりがあると見て、また何かあったときのために、彼女をこちらで保護したかったパウルは、帝都に潜り込んでいる我が家の使用人を使い、彼女の行方を捜していた。
帝都の治安のよくない地域の路地裏にうち捨てられた彼女は、外傷もなく、毒を飲まされた痕跡もないという。
急病で亡くなった可能性もなきにしもあらずだが、パウルは邪魔になるから消したと思っている。
「相手の意図が読めないのが気になりますね。ルノハークであれば、ネマお嬢様への執着を感じられるので、別の誰かが裏で動いているのでしょう」
ルノハークに執着されているっていうのも、まったく嬉しくないけど。
本当の目的は私じゃなくて、皇族の誰かかもしれないというのは凄く不安だ。
ネマは探偵には向いてないね(笑)




