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★9巻発売お礼小話 ラースの一日(ラース視点)

もふなで1巻購入特典のSSです。少し手直ししております。

くわぁ~と大きな欠伸を一つ。そして、前脚を伸ばし、筋肉をほぐしてからベッドを下りる。

一日の始まりは、主である坊を起こすことからだ。

いまだ夢の中にいる坊を、頭で揺すって起こす。基本、寝起きのよい坊は、それだけですぐに目を覚ました。



「おはよう、ラース。特に変わったことはないか?」


風の精霊の力を使い、王都だけでなく、大陸中の出来事を知ることができるが、自分は坊と愛し子以外には興味はない。精霊たちも何も言ってこないので、坊が知っておくべきことはないと判断した。

特にないと告げ、朝日が注ぐ露台へと向かう。


「そうか。すぐに準備するから、待っていろよ」


坊が朝の支度を終えるまで、露台で陽に当たっていよう。今の時期、暑くも寒くもなく、陽の光が気持ちいい。


『ラース様!』


聞きなれた声が聞こえてきた。とは言っても、我と坊以外には聞こえない声だ。


『どうやら、今日は愛し子が来るみたいですよ~!』


自分を慕ってくれている風の精霊が、早速仕入れてきた情報を伝える。


『ならば、坊には時間を作らせねばな』


主ではあるが、幼少の頃より側にいたため、青年に差しかかる歳になっても坊と呼んでいる。

寿命という概念がない自分にとって、十数年しか生きていない坊は赤子同然だ。


「ラース、行くぞ」


準備が終わった坊は、王族らしく上質な衣に身を包み、一振りの短剣を帯にさす。

坊とともに部屋をあとにし、朝食が用意されている部屋へと向かう。

部屋に入ってしばらくすると、坊の両親が揃ってやってきた。


「父上、母上、おはようございます」


「おはよう」


「ヴィル、ラース様、おはようございます」


坊の父親はさほどでもないが、母親の方は恭しい態度を取る。


『様など付けずともよいと言っておるのにな』


我がそう言うと、坊は苦笑した。

主以外の命令を聞くことはないが、坊の身内だ。愛し子のような、気さくな態度で構わないと言い続けているものの、改善される兆しはない。

そうしていると、自分の前には大きな肉の塊が置かれ、朝食の時間が始まった。

食べなければ生きていけないわけではないが、食い千切るときの食感が好きなのだ。

朝食を終えた坊に愛し子が来ることを伝えると、そうかと呟き、微かだが口元に笑みが浮かぶ。

何だかんだ言っても、坊は愛し子のことが可愛いのだろう。

今日の予定を坊が告げる。王立学院で学び、昼を過ぎてから王宮で体を鍛え、それから執務を行うようだ。我はただ付き添うだけで、何をするわけではない。

ともに馬車に乗り、学院に向かう間、精霊たちを呼び寄せる。


『いつも通り、坊に害なす者は排除せよ』


そう精霊に命令するだけで、どんな防御魔法よりも効果的な護衛となる。

力ある精霊が坊の身を守り、力弱き精霊は学院の周りに集まり、害意のある者を調べる。


『ラースさまぁ!今日も坊は大人気だよ~』


『若い女の子たちが、格好いいってほめてた~』


このように、関係のないことも報告してくるのはご愛嬌である。

風の精霊たちにとっても、誇らしく感じるのだろう。聖獣の主である坊が、人々に愛されていると。

嬉しそうにキャッキャッとはしゃぐ精霊を咎めることもせず、好きなようにさせておく。我とて、自分が選んだ主が褒められるのは嬉しいのだ。

学院に到着すると、学生たちは坊に対して礼を取る。そんな中、特に親しい者が代表して挨拶をした。


「おはようございます、殿下」


「あぁ、おはよう。皆も礼は崩してくれ」


学院に来るとお馴染みの光景だが、坊の親友である少年は愛し子の兄だ。そして、他にも仲のよい友人たちが集まりだし、たわいもない会話を楽しみながら、教室へと向かう。

坊が子供らしいと感じるのは、友人らに囲まれているときだけかもしれない。

授業のときは坊の邪魔をしないよう横でうたた寝をしつつ、精霊たちのおしゃべりに耳を傾ける。

時折、坊が撫でてきたり、精霊たちが(たわむ)れてきたりするが、気にせずに微睡(まどろ)む。

学院での授業が終わると、坊はすぐに王宮に戻った。そして、近衛師団の者たちに交じり、訓練をする。

このときばかりは自分も坊を守ることをしない。守られてばかりでは、強くなれないからだ。

精霊たちによる防御をなくし、自分専用の特等席で訓練を眺める。

剣術だけではなく魔法も使い、強者たちに立ち向かっていく。

四色(よんしき)ほど時間が過ぎると、勢いよく精霊が飛んできた。


『ラース様!愛し子がもう少しで来ますよ!』


『そうか』


もう少し、坊が戦っている姿を見ていたいとも思ったが、それはいつでも見られる。愛し子の方が優先である。


『坊、愛し子が着く』


坊以外には、グルルと低い唸り声にしか聞こえないだろう。

しかし、離れている坊には、精霊たちが声を届けているので聴こえているはずだ。その証拠に、坊は近衛師団の者たちに一声かけ、訓練を切り上げた。

額に汗が浮かび、少し砂で汚れているみたいだが、魔法ですぐさま綺麗にする。


「もう、近くまで来ているのか?」


愛し子の気配は王宮の前まで来ている。さほどかからずに、坊の部屋まで来るだろう。

坊の質問に肯定すると、坊は急いで部屋まで戻ろうとする。

こういうとき、人間は面倒臭いなと思う。いちいち着替えなければならないとは。


『ならば、我が迎えに行こう』


坊に付き合って、愛し子と過ごす時間が減るのは好かん。


「お前も本当にネマには甘いな」


坊は渋い顔をしながらも、行ってこいと言ったので、精霊たちに坊を託し、自分は(ちゅう)を翔る。

愛し子の気配を頼りに空中を行くと、馬車を停める場所で愛し子を見つけた。


「ガウッ」


迎えに来たぞと一鳴きすれば愛し子はすぐに気づき、満面の笑みを浮かべた。


「ラース君!!」


地に降りると、愛し子は飛びついてきた。

首にぶら下がるように抱きつき、顔をグリグリと押しつける。


「ふかふかだー!」


愛し子は自分の毛並みがお気に入りのようで、会うと必ず抱きついてくるのだ。

興奮している愛し子を落ち着かせ、背中に乗せると坊のもとへ向かう。

途中、花が咲いている庭に立ち寄ったりして、時間稼ぎもしておく。

坊の準備が整ったと精霊が知らせるまで、愛し子は会えなかった間のことを語ってくれた。

兄と庭で遊んだことや、姉と魔法の実験をしたこと。お転婆がすぎて、母親に怒られたことなど。たわいもない話だが、愛し子が健やかに日々を過ごしていることがわかる。

愛し子を背中に乗せたまま坊の部屋に入ると、お茶の芳香が漂っていた。


「ヴィ、あそぼー!」


「ネマ、その前にすることがあるだろう?」


そう言われた愛し子は、背中から降りると困惑しながらも坊に礼を取る。


「……ごきげんよう?」


「疑問系にするな。よく来たな、ネマ」


坊も二人きりか、身内だけならば気にしないだろうが、部屋付きの侍女がいては甘やかすことはできないか。

愛し子が坊に手を引かれ椅子に座ると、お茶とお菓子が用意された。

お菓子を頬張りながらも、坊にたくさん話しかける愛し子。そして、そんな愛し子をかいがいしくも世話をする坊。

坊、だから幼女趣味などと陰口を叩かれるのだぞ。

しばらくすると、しゃべり尽くしたのか、愛し子が手に何かを持って近づいてきた。


「ラース君のために、ヴィにおねがいしてつくってもらったの!」


愛し子が持っていたのは、木の板に毛が均一に付いているものだった。

人間が使う(くし)とやらに似ていないでもないが、それをどうするのだ?


「ブラシって言うの。からだをなでるときもちいいんだよ」


そのブラシとやらを毛並みにそって、撫でるように動かす。

ふむ。(くすぐ)ったいような、痒いところを掻いたときのような。何とも言えぬ感覚だった。

ブラシの硬い毛は肌を刺激し、柔らかい毛は人間の手で撫でられているように感じた。


「これで、けなみがさらっさらのツヤッツヤになるの」


愛し子は嬉しそうに、何度も何度もブラシを動かす。そして、満足すると、腹の部分に抱きつく。


「もふもふ……」


小さく呟いたかと思うと、体にかかる重みが増した。

この重さには覚えがある。愛し子が寝てしまったときの重みだ。


「まったく……。俺がいるのに寝るとは、いい度胸だ」


などと言いながらも、愛し子に毛布をかける坊。

愛し子に対して、どういった感情を抱いているのかはわからないが、柔らかく優しい笑みを浮かべる坊は好ましく思うぞ。

さて、愛し子が起きるまで、我も一寝入りするとしよう。



いつかは公開したいと思っていたSS。

9巻が1巻と同じ発売日だったので、このタイミングならと許可もらってきました!

皆様のおかげで、デビュー4周年を迎えることができました。ありがとうございますm(_ _)m

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