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★コミカライズ5巻お礼小話 強さの秘密

コミカライズ5巻発売のお礼小話です!

「そういえば、パウルたちも相当強いみたいだけど、どんな訓練しているの?」


なぜか私の部屋に来てお仕事をサボっているルイさんが、興味津々といった様子でパウルに問いかけた。

言われてみれば、普段パウルたちがどんなふうにトレーニングしているのか見たことないな。スピカは、自分でもよくあれを乗り越えられたと思いますって、遠い目をしながら言っていた。


「いえ、普通に訓練しているだけですよ」


「見てみたいから、ちょっと軍のやつらと合同訓練してみない?」


「……カーナお嬢様のお許しが出ればお受けいたしましょう」


なんか、スピカが耳を伏せ、尻尾を体に巻きつけて、プルプルと震え始めてしまったけど、大丈夫かな?

その後、お姉ちゃんにルイさんの提案を話すと、あら、面白そうとあっさり許可が下りる。珍しくシェルも顔色を青くしているので、やはりパウルの訓練は恐ろしいのかもしれない。


数日後、お姉ちゃんも学術殿(がくじゅつでん)が休みの日なので合同訓練を一緒に見学する。


「お嬢のところの執事たちが相手だって?」


「遠慮はいりませんので、思いきりどうぞ」


パウルたちは普段の仕事着のままやるつもりらしい。

動きづらくないのかと聞いたが、私たちを守るときはこの服装なので問題ないと。

まぁ、動きやすさ重視で作ってあるので、大丈夫だとは思うけど。

ただし、相手をしてくれる軍人の皆さんの数がおかしい。人間が多めではあるけれど、武器あり魔法ありでその数二五名。

さすがに最強獣人のバルグさんは参加していないけど、(ゆう)族や大虎(だいこ)族といった強そうな獣人さんがいっぱい。


「シェル、スピカ。訓練とはいえ無様な姿をさらしたら……わかっていますね」


「「はいっ!!」」


始めという号令とともに、三人はすぐさま囲まれる。

強面な人が多いので、悪漢にいちゃもんつけられている可憐な少女たちと、それを守ろうとする騎士にも見えてきた。


パウルたちは武器を持たずに、拳だけで軍人さんたちに立ち向かっていく。

パウルは足技が多く、スピカは拳打が多い。シェルは魔法で牽制しながら、二人をフォローしているようだ。

それにしても、スピードが尋常じゃない。

パウル、人間やめてたんだなぁ。

剣を持った軍人さんがスピカに接近し、本当に容赦なく剣を振りかぶる。

スピカは腕で顔を庇う動作をしたので、腕が斬られると思った。

しかし、腕に何か仕込んでいたのか、腕は切り離されることなく剣を受け止める。


「ちっ。何を……」


「重りですっ!」


隙をついて横腹に思い切りつま先がめり込み、軍人さんが痛みで前屈みになったところを顔めがけて膝蹴り。そして、渾身の回し蹴りが決まる。

だが、相手は職業軍人。それだけでは意識を刈り取るには至らず、少しふらついてはいるものの、決して剣は離さなかった。

スピカが剣の軍人さんに気を取られている間にと、もう一人が襲いかかろうとするが、シェルの水の魔法が炸裂した。

二人にハラハラしていると、いつの間にかパウルと熊族の獣人さんがやり合っていて、心なしかパウルの方が優勢に見える。

戦いを見ていて気づいたのは、パウルはグーパンチをすることが少ない。グーでも裏拳のように手の甲を使っているように見える。


「さすがパウルね。こういうときでも執事であることを忘れていないのだから」


「どういうこと?」


「わたくしたちをお世話するために、手が使えることは重要でしょう?」


着替えを手伝ったり、お茶を淹れたり、食事のときは配膳もやることがある。

確かにお世話するときに突き指とかしていたら痛いよね。


「でも、ちゆ魔法で治してもらえるよ?」


「魔法をかけてもらうまで、わたくしたちを人任せにすると思って?そんな者は我がオスフェ家にはおりません」


……我が家のスーパーマルチな使用人たち、忠誠心高すぎない!?

戦ったあともお世話を続行できるように、みんな手を庇いながら戦うわけ?


「獣人は種族によって弱点が変わってくるが、人は誰しも同じ。そして、人の体には頑丈な部分があって、そこを使うと言っていたな」


森鬼がパウルの戦い方を解説してくれようとしているが、本人が人間ではないので、あまり理解できていないのかも。

前世の記憶で格闘マンガか何かで読んだので、伝えたいことはわかった気がする。

すでにパウルの周りに沈められた人たちが転がっているので、弱点を狙われて意識を失ったのか。

膝正面を狙っての蹴りが決まると、悶絶する熊族の獣人さん……あれは痛い……。

しかぁし!熊族の獣人さん、プロの意地を見せたぁぁ!パウルの足にしがみつき、動きを封じたぞ!このチャンスを逃さない軍人さん、二人がかりでの猛攻だぁぁぁ!!

……攻防のスピードが速すぎて、超高速アルプス一万尺をしているようにしか見えないね。

ぎゃぁぁぁーーー!!スピカが吹っ飛ばされたぁぁぁぁ!!!

ずざざざぁぁぁと土煙を上げて転がり滑るスピカ。もふもふ尻尾が砂まみれになってしまった!これは由々しき問題だぞ!!

スピカは痛がる様子もなく、跳ね起きると何かを投げた。


「あの子たち、衣装の下に秘器を仕込んでいるのよ」


なるほど。投げナイフを投げたのか。気が逸れたうちに、スピカは駆け相手の間合いへと攻め込む。その勢いのまま、腹に向かって頭突き。

おぉぉっと、強烈なボディーブロー!

そのまま軍人さんの肩を掴んで逆立ちかーらーの背面キーック!!

腹に背中にと攻撃を受けてしまった軍人さん、ダウンだぁぁぁー!


気がつけば、人間の軍人さんはみんなダウンしており、残っているのは獣人さんたちだけ。

すでにスピカとシェルは息が上がっていて、つらそうな表情が見える。


「二人とも、いらない重りは外してもいいですよ」


パウルがそう告げると、シェルは腕についていたものを、スピカは足首についていたものを外した。

パウルの言葉が正しいなら、あれが重りなのだろう。

その外した重りも手に取り、スピカが投げた!!

プロ野球選手も真っ青になるほどの剛速球が、大虎族を襲う。だが、猫系獣人は動体視力がいいのか、華麗に躱した!

ドゴンッという鈍い音がした方に視線をやれば、球代わりの重りが地面にめり込んでいた。

そっかー。地面って柔らかかったんだねー。

足首の重りを外したスピカは素早い動きの猫系獣人にも劣らない、いや、それ以上のスピードで攻撃を繰り出していく。


「せいやっ!」


高くジャンプし、一瞬で脚を首に絡め締め上げていく。

……今、あの獣人さん、スピカの生足の感触を味わっている……?

そんな破廉恥なこと、私は許しません!

あぁぁ!!耳元で大声なんか上げて……美少女の吐息とかいって、はぁはぁしたらどうするの!!

スピカのあられもない技に私があわあわしているうちに、他の獣人さんたちも地面に倒れていた。

それまでと終了の合図が出たところで、見学していた軍人さんたちが倒れた同僚を介抱し始める。


「パウル!スピカにあんな技を教えないでよ!!」


実際の戦闘のときにあれをやって、敵がスピカにもよおしたらどうするんだ!

パウルに対して激おこしていたら、配慮が足りませんでしたと頭を下げられた。


「スピカにはさらに鍛錬を足し、相手を瞬殺できるようにさせますので」


「えぇぇぇ……」


……ごめん、スピカ。私のせいで、朝晩のトレーニングメニューが三倍に、そして重りが二倍になってしまった。


「パウルのたんれんってどんなことやっているの?」


スピカに尋ねると、半泣き状態で教えてくれた。


「パウルさんにひたすら攻撃を打ち込むんです。パウルさんも攻撃してくるので、蹴りを受け止めても吹き飛ぶし、手のひらが当たるだけでもめちゃくちゃ痛いし、魔法を使われたら次の瞬間には意識がなくなります」


「手かげんすらない!」


しかも、ずっと重りをつけている状態でというからさらに過酷だ。

どれくらいの重さをつけているかと聞いたら、私の体重より少し軽いくらいだった。さすがに人間のシェルはスピカがつけている重さの半分くらいらしいが、パウルは私の体重以上の重りをつけているんだと。


「大丈夫ですよ。スピカは、体ができあがればもっと強くなれますから」


「でも、パウルもちゃんと休んでね。パウルが休まなかったら、スピカもシェルも心が安まらないよ」


私たちを守るために強くあろうとしてくれるのは本当にありがたいのだが、それで体を壊しては意味がない。それに、上司であるパウルがしっかりと休息を取っていることを二人に見せなければ、休めと言われても休みにくいよね。


「ネマお嬢様……」


「ネマは本当に優しい子ね。というわけで、今日はもうスピカとシェルは休んでいいわ。明日は丸一日、パウルが休みなさい」


お姉ちゃんが私をいい子いい子と頭を撫でながら、パウルに休みを告げた。


「しかし……」


休むことが不満なのかパウルが食い下がろうとするも、お姉ちゃんの命令ですの一言で引き下がった。


「お、執事さん、明日休みになるなら俺と一戦やろうぜ」


本当は自分も混ざりたかったのか、バルグさんがパウルを誘う。

それで戦っちゃったら、休みにならないでしょうが!


「ダメ!パウルは明日、二度寝して、本読んで、お昼寝して、お散歩するの!」


「そりゃ、お嬢の一日の過ごし方だろうが」


失礼な!二度寝はしないもん!


「スピカとシェルも、パウルがいなくとも仕事をまっとうできるわよね?」


「はい!」


「お任せください」


こうして、パウルは明日休むことになったのだが、それを知った魔物っ子たちがパウルに特攻した結果、二度寝はできずに起こされ、本を読むどころか遊んで攻撃に折れて相手をして、ついでにお散歩も一緒だった。結局、一人の時間は夜しかなかったようだ。

まぁ、私もちゃっかり遊んでもらったので、人のこと言えないんだけど。


パウルの鬼畜な鍛錬風景を書こうと思ったら、別の方向に行ってしまった……。


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