表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/345

雪山から洞窟へ (フィリップ視点)

滑り落ちた先には大きな氷の裂け目があり、自分の体を止めることができずに落ちていった。


「……フィリップ。起きて、フィリップ」


エリジーナの声がして目を開けると、薄暗くて埃っぽかった。

体を起こして周囲を見回せば、みんなに囲まれていた。


「すまん、状況を教えてくれ」


体に怪我がないことから、エリジーナが治してくれたようだ。


「斜面からの滑落後、氷の下に落ちたところまでは覚えているのですが」


コールナンに言われて、ここが氷の中でないことに気がついた。

目が覚めたばかりで、頭が上手く働いていないらしい。

空気は冷たいが、手袋から伝わる感触は氷でなく岩だ。

みんなに囲まれていると思ったが、それくらい密着しないといけないほど狭い空間だった。


「氷の下に洞窟があり、運よくその穴に落ちたのでしょうか?」


洞窟に落ちたのがよかったかはわからないが、落ちたと思われる穴ははるか上にかろうじて見えた。


「登るのは無理そうだな。別の出口を探そう」


高いところから落ちても、持ってきていた装備は無事だった。

これくらいで駄目になるような装備を身につけていちゃ、一流の冒険者とは言えない。

洞窟で使用する装備は山でも使えるものが多いからと、いろいろと持ってきていたのも正解だったな。

それに、俺たちはレイティモ山の洞窟で散々遊んできた。なんとかなるだろう。


「よかった。アニレーの蜜は無事ですよ」


自分の装備を確認していたコールナンが、蜜の入った魔道具を見せてきた。

また極悪甲種とやり合わずにすむと安堵する。


「ここはどんな洞窟かなぁ」


「魔物の巣窟だったりして」


エリドとショウは軽口を叩きながら準備をし、エリジーナとコールナンは動きやすいようにと、服の袖や裾を結び、今度は動きづらくないかを確認している。

邪魔になるなら脱げばいいということではなく、それらの服にも文様魔法で様々な効果を持たせているから、こういった状況でも脱ぐわけにはいかないのだ。


「じゃあ、進路を確保してくるね」


必要な装備を厳選し、身軽になったエリドが人が一人通れるくらいの隙間に入っていく。


「コールナン、大丈夫だよ!」


コールナンを連れていくのは、彼が土魔法を使えるからだ。

洞窟の壁の強度の確認や難所では多少地形をいじることもする。

そうやって、少しずつ道を作っていき進むのだ。

全員が一休みできそうな中継点を見つけ、エリドたちが戻ってくると、道順を簡単に説明し、俺たちも中に入る。

狭い隙間を装備を引きずりながら進むと、少しだけ広くなった場所で今度は上だと指示される。


「ここからは鉤爪つけた方がいいよー」


そう言うエリドは両壁に両手両足を張りつけて、するすると登っていく。

器用だと思うが、なんか動物みたいだな。

彼の助言に従い、エリド以外は鉤爪をつける。

ショウ、コールナンは危なげなく登っていくが、念のためエリジーナには命綱をつけて俺の前を進ませることにした。


登りきると、俺たちが登っていたのが巨大な岩の裂け目だということに気づいた。

こっち、こっちとエリドについていくと、同じような岩がいくつもある。

岩と岩の間は広く空いていて、跳ぶくらいじゃ到底届かない。

下は見えず、真っ暗な空間があるだけのここを渡らないといけないのか。

伸縮自在の梯子をかけて、巨大な岩を渡っていく。

足を滑らせて落ちたら一巻の終わりなので、ここは全員に命綱をつける。

巨大な岩が終わったと思ったら、今度は縄を使って上の隙間に入らなければならなかった。

下見をしたエリドがつけてくれた縄があるとはいえ、腕だけでよじ登るのは無理。というか、腕が死ぬ。

こういうときは、魔道具の登高器を使う。

一番最初にエリドが登り、先にみんなの荷物を上げる。

そして、登高器を使い回して順番に登ると、泥臭い水の匂いがした。


「今度はここねー」


泥臭いはずだ。

窪みに水が溜まっていて、進路を半分ほど浸している。

雨水か雪解け水か、どっちでも構わないがこれを進むのかと思うと……ワクワクするよな!


「岩肌が尖っているから気をつけて」


水に削られたにしては、かなり鋭角な突起があちらこちらに出ている。


「フィリップ、さすがにここは防水の魔道具を使いましょう」


エリジーナの気持ちもわかるが、この先がどうなっているのかわからない以上、使用制限のある魔道具は温存しておきたい。


「使う判断は各々に任せるが、本当に使いたい場面で使えなくても文句言うなよ」


そう忠告すれば、エリジーナとコールナンだけが魔道具を使用して、泥水へと入っていった。

俺たちに比べると体力のない二人だから使うとわかっていたし、いざとなれば俺たちの分を回してやることも可能だ。

自分のできることは自分でやる。

それが冒険者の鉄則ではあるが、仲間でやっているのだから、補える部分は補い合えばいい。


頭以外はすべて泥水に浸かりながらも抜けた先は、まさに絶景と呼べる光景が待っていた。

青い輝きが揺らめき、壁一面を照らす青一色の世界。

氷の洞窟で似たような光景を見たことがあったので、ここも氷だと思った。


畔石(あぜいし)の池ですね。しかし、これは……魔石?」


洞窟の中に池や湖があるのは珍しくない。

それらはすべて自然が作り出すものだから、ここのように美しいものもあれば、汚くおどろおどろしいものも。

コールナンが慎重に近づき、池の中を覗く。


「フィリップ、この畔石、すべて魔石です!」


氷だと思っていたものは硬質な輝きを放つ魔石で、一つ一つの大きさが尋常じゃない。

しかも、見たことのない謎の石もある。


「こんなに高濃度の魔力を蓄えているなんて、初めて見るわ」


エリジーナの言う通り、貴族でいたときですら、ここまで質のいいものは見たことがない。

視界に入る青い色すべてが、宝の山というわけだ。

いくらか持ち帰ることができれば、セルリアとカーナが大喜びしそうだな。


「この白いやつも魔石なのか?」


ショウの問いかけに、コールナンが険しい顔をした。

おそらく、コールナンにもわからないのだろう。


「白をまとう魔石は存在しません。もし、これが本当に魔石なら、魔法のあり方が大きく変わりますよ」


本当にそうだったらと考えたのか、コールナンの声がやや興奮している。

魔術師ってやつはこの手の探究心が強いよな。


「それよりも、まずはここから出る方法を考えましょう。出られなければ、魔石だってただの石ころなんだから」


女は現実的というか、歴史に名を残せる大発見かもしれないのに、冷静でいられるんだから凄い。


「そうだな。まずは体を温めてから、先に進もう」


魔石を氷だと勘違いしてしまうくらい、俺の体は冷えきっていた。

泥水に濡れたままにしていたら、そうなるわな。


コールナンに服を乾かしてもらい、そのあとに浄化の魔法をかける。

さっぱりしたところで、エリジーナがお茶を淹れてくれた。

はぁ、生き返る。

温かいお茶が体の中から温めてくれるのがわかるほど、体温が下がっていた。

もう一杯おかわりをして、せっかくなので携帯食で腹も満たしながら、この美しい光景を満喫する。


十分に休憩を取ったら、再びエリドが進路を探す。

今いる場所を基点にして、まずは他に通路があるのかを調べる。

一方は行き止まりで、一方は二つに枝分かれしており、右と左、どちらに行くか聞かれた。


「俺の直感は右だな!」


右の方がやや暗く、幅も狭い。

一見、安全そうなのは左だが、俺の直感は右の方が奥行きがあると告げている。


「こういうときのフィリップの直感は当たるよなぁ」


「凄く変な場所に行くことも多いわよ」


洞窟は危険もあるが、純粋な冒険心を満たしてくれる場所だ。

男なら、誰しも一度は洞窟を探検したいと憧れるだろう?

幾度となく洞窟を制覇したが、何かを発見したことなど片手で足りるくらいしかない。

割に合わなくても、この状況が楽しいのだからやめられない。


早速、右の通路へと入る。

今までの洞窟らしい洞窟というよりは、人の手が入ったような綺麗な道だ。

こういう、特徴がない道の方が迷子になりやすいので、目印としてレイティモ山で採ったバールライトを置いていく。

この石はほのかに発光する性質があり、洞窟探検以外にも重宝している。

しばらく一本道が続いたが、わずかに下っているような感じがするな。

開けた場所に出ると通路が三つに分かれており、一つだけ離れたところにあった。


「こちらから風が吹いています」


その離れた道をコールナンが示すが、俺は首を横に振った。

外を目指すなら、風が吹いている方に向かうのもありだが、俺の直感は並んだ右側を行けと言っている。


「こっちだな」


俺が選んだ道は、エリドが屈まないといけないほど低く、幅も狭い。

エリドが槍をショウに預け、中に入っていく。完全に見えなくなると、少しして四つん這いで戻ってきた。


「狭い。けど行ける!」


エリドも調子が上がってきたようだ。

声が弾んでいるエリドを、エリジーナが呆れた様子で見ていたが諦めてくれ。


「また途中で分かれていたから引き返したけど、水の音がしたよ」


水があるとなると少し悩むな。

水没している可能性もあるし、先ほどのような冷たい泥水なら魔道具を使うしかない。


「ちょっと俺も見てくる」


四つん這いで中に入っていくと、確かに水の匂いがする。

どんどん狭くなり、腹這いで進むと水の流れる音も聞こえてきた。

途中でまた道が分かれていたが、ここは水の音がする方へ。

進むにつれて大きくなる水の音は、かなりの水量であることがわかる。

手を前に出すと道がなくて、少し驚いた。

道がない先をそっと窺えば、なかなか見事な滝があった。

となると、戻ってもう一つの方に進むべきか。ちょっと覗いてみるかと、分岐点まで戻る。

腹這いのまま後ろに下がるのは一苦労だが、もう一つの方に進む。

こちらは徐々に広くなっていく。しかも、また下っている。

傾斜が急になり始めたので、俺は一度みんなのところへ戻ることにした。


「お帰り、どうだった?」


「先に分岐路があったが、右側は滝があって進めなかった。左は斜面で下の状況がわからない」


「フィリップはその左の斜面の方に行きたいの?」


エリジーナの問いに、俺は素直に答える。


「できれば、滝の下に行きたい」


あの下には何かある。

それをどうしても確認したい。


「山の中に滝があるって面白いよな!」


「ショウは足滑らせるから、近寄らない方がいいって」


「もうそんなヘマしねーよ!」


エリドとショウはじゃれ合いながらも、滝へ行く気満々のようだ。

こういうときいつもならコールナンが小言を言ってくるのに、今回は大人しいなと彼を見やれば、真剣な顔をして魔石を睨みつけていた。

俺を待っている間が暇だからと調べ始めたら、周りの声が聞こえないほど集中してしまったんだな。

まぁ、よくあることだ。


「まったく、うちの男たちときたら……」


そうは言っても、エリジーナも俺たちと同じで、この状況を楽しんでいると知っている。

生まれ育った街で恋愛をして家庭を築くことだってできた。治癒術師として、食うに困らない穏やかな生活を送ることだってできた。

それなのに、冒険者として俺たちと一緒にいるってことは、結局同類なんだよな。


「まぁまぁ、もっと凄い魔石があるかもしれないだろ?」


「それで喜ぶのはコールナンだけよ。そうね……ライナス帝国の最高級お肉の食べ放題で手を打つわ」


こいつ、ちゃっかり宮殿で情報を仕入れてやがったな!

エリジーナの大好物はとにかく肉だ。肉ならなんでもいいらしい。

依頼で様々な場所に行くが、必ず肉料理を食っている。

時には、俺たちでも躊躇するような生き物の肉だって平気だ。

エリジーナ曰く、肉は美容にいいらしい。

彼女がいい女なのは間違いない。それに肉が関係しているのかは……わからないって言ったら怒られそうだ。


「もうお店の目星をつけているんだろ?」


「ふふっ。楽しくなってきたわね」


「最高級ってことは高いお店だよな?いいサンペグリムも置いてあるよな?」


エリドの言葉にショウがマジかとため息をこぼす。

前日の賭けの賞品でもあるサンペグリムは、いいものになると金貨の値がつくこともある。

いったい、何枚の金貨が飛んでいくことになるやら……。


「そうと決まれば、早く行きましょう。カーナディア様とネフェルティマ様に心配かけてしまうわ」


「ベルガーたちも長く放っておくわけにはいかないしな。せっかく、難しい依頼で鍛えてやろうと思っていたのに」


ネマに鍛えてくれと頼まれた子供たちは、すぐに音を上げると思ったら、厳しくしても食らいついてきた。

根性があると、ショウはベルガーを気に入って可愛がっている。

ベルガー以外の子供たちは、コールナンに魔法を教わったり、エリジーナから冒険者に必要な知識を教えてもらっている。

二人も子供たちに素質があると言っているので、将来が楽しみだ。


たわいもないことをしゃべりながらも、装備を整える手は止めない。

この先、水場があることが予想されるので、縄や浮き袋の魔道具など、すぐに取り出せるようにしておくのも大事だ。

斜面を考慮して、先頭のエリドに命綱をつけ、足に装着した鉤爪で傷つけないよう十分に距離を保ちながら狭い道を這いずる。

分岐点で命綱を固定する金具を打ち込み、エリドが斜面下の様子を見にいく。

少し時間がかかったが、斜面を降り切った先は地底湖だと告げた。


「コールナン、この場合も地底湖でいいのか?」


頂上近くから滑り落ちたとしても、山腹付近だと思う。

山の内部に湖があったとして、地上よりも高い位置にあるのに地底湖と言っていいのか。


「何を今さら。レイティモ山の洞窟にも同じような湖はたくさんあったでしょう。まぁ、地表に面していないので、地底湖と呼んでも通じますが、普通に湖と言えばいいのではないですか」


自分から聞いておいてなんだが、地底湖の方が聞いただけでも高揚感高まるよな!


「向こう岸はあるみたいだから、コールナンに水質を調べてもらったら泳げるよ」


というわけで、コールナンに順番を譲り、人に害がある水かどうかを調べてもらうことにした。

不安定な体勢でやらなければならないので、時間がかかるだろう。


「浮き袋、準備しておけよ」


「泳ぐのだるいなぁー」


ショウは完全に寝っ転がって休んでいる。

地底湖がどれくらいの大きさかわからないが、装備をつけたまま泳ぐのは浮き袋があったとしてもきついのは確かだ。

……浮き袋がなければ、装備の重さで沈むだけだがな。


「ショウは泳ぐの得意でしょう?」


「綺麗な海だったら大歓迎だけどさ」


「また海に行きたいわね」


あれはもう五巡くらい前のこと。

大きな依頼を無事に終わらせたこともあり、休暇と称してラカルパという小さな国に遊びにいった。

ラカルパは気候は穏やかで、国民は温厚で親切な者が多く、海がとても綺麗な国だった。

大陸の南、小国家群の一国なので、今はもう、あの美しい国は荒廃しているかもしれない。


ショウとエリジーナの思い出話を何とはなしに聞いていると、エリドから合図が送られてきた。

カコンカコンと乾いた音は下に降りてこいという意味で、音の正体は縄につけている仕掛けだ。

レイティモ山に張り巡らされてある結界に、魔物たちが触れないようにと設置した柵にあった仕掛けを、コボルトにお願いして改良してもらったのだ。


「お待ちかねの泳ぐ時間が来たな」


縄を伝いながら慎重に降りていくと、水面が夜空のように輝いていた。


「凄く綺麗!」


エリジーナは手を止めてこの光景に見入っているが、コールナンが水面に浮かんで待っているぞ!


「この光っているのルケンス(ちゅう)か」


綺麗な水にしか生息できない、繊細で微細な水棲虫で、特徴もただ淡く光るくらいしかない。

しかし、これだけ多量にいると圧巻だな。


「おっ!水が冷たくない!俺の日頃の行いを女神様が見ていてくれてるってことだ」


ショウが何かほざいているが、この中で女神様が見ているとしたらエリジーナだけだと思うぞ。

先ほどまであんなに泳ぎたくないって言っていたにもかかわらず、ショウは水飛沫を上げて飛び込んだ。

俺も手を水につけてみたが、冷たくはないが温かくもない。

雪解け水じゃないとしたらオンセンか?

レイティモ山で散々オンセンに浸かっていた身としては、この地底湖がオンセンだったとしても認めないけどな。

やっぱりオンセンは熱いくらいの温度でないと。


浮き袋の魔道具を作動させて、全員が地底湖へ入った。


『サンモーラ・クレシオール』


突然、エリジーナが治癒魔法を使ったので何事かと思ったら、彼女の周りにルケンス虫が群がり始めた。


「ハンレイに教えてもらったこと、試してみたかったのよね」


エリジーナによると、治癒魔法を身にまとえば、生き物が近寄ってくるらしい。

レイティモ山では常に何かしらの魔物が側にいるので動物は近寄ってこないし、逆にネマがいると群がってきて効果のほどがわからない。

小さなルケンス虫なら群がられても邪魔にならず、虫だけど嫌悪感はないので試すのにちょうどよかったと。


「今度はネフェルティマ様のように、毛並みのいい生き物に囲まれてみたいわ」


コボルトのちびどもにお願いすれば、治癒魔法を使わなくてもできるだろうとはさすがに言えなかった。


泳いで渡りきると、水から上がれる場所が物凄く狭かった。

大人一人が立てるくらいの出っ張りしかない。

なので、鉤爪を使ってよじ登る。


「次の順路はあっちだね」


エリドが示した先は頭の上。

跳び上がれば手が届くかという、絶妙な位置にある。

そのエリドは軽々と手をかけて、穴の中に入っていった。

そして、ひょっこと顔を出す。


「奥に空間があるよ。そこで服を乾かそう」


すぐにショウも跳んだので、無理そうなエリジーナとコールナンのために俺が足場となる。

穴の真下で壁を背にし、背中をつけたまま腰を落とす。水に落ちないよう腹筋に力を込めて、太ももに足を置くよう言った。

上ではショウが引っ張りあげようと待機しているので、一瞬堪えればいい。


「ありがとう、フィリップ」


「お先に失礼します」


エリジーナ、コールナンの順で上がったが、あいつら容赦なく俺の足に体重かけていきやがった!

俺は平衡を崩して、派手に水へ落ちた。


「あーあ。大丈夫か?」


んなわけあるか!

かろうじて耳が捉えたショウの声に、心の中で毒づく。

装備の重みでどんどん沈んでいくが、無闇に動かず、手探りで先ほどしまった浮き袋の魔道具を取り出した。

魔道具を作動させて、水面を目指す。


「ぷはぁっ!」


水面に顔が出ると、思いっきり空気を吸い込む。

あぁ、空気が美味い!


「お、上がってきた!」


ショウだけは俺を心配して下りてきてくれていた。

彼の手を借りて水から上がり、みんながいるところまで進む。


「遅かったですね」


「お前らのせいで、もう一回泳いでいたんだよ」


笑いながらすみませんと謝るコールナンに、服を乾かしてもらう。

それにしても、セイレーンたちとあの恩人に感謝しないとだな。

俺たちが湖で遊んでいると、彼女たちはよく水中に引きずり込んでくる。

最初は驚いて水を飲んだり、気絶したりなんてこともあった。

彼女たちは遊び半分なのだろうが、命の危険を感じるほど危ない遊びだ。

だからセイレーンの対処方法を考えることにした。

水中では彼女たちの方が断然有利。

身動きの取れない水中でどう立ち回るかを試したが、すぐに息が苦しくなる。

そもそも、水遊びをするための薄着でそれなのだから、装備をつけてとなるとどう足掻いても無理だ。

行き詰まり、解決策がないまま、依頼でミューガ領に行くことになった。

たまたま入った飲み屋で、たまたまミューガ領主直属の魔物討伐部隊の奴と席が隣り合いになり、水に棲む魔物との戦い方を教えてもらうことができた。

魔物討伐部隊では、水中でも呼吸できる魔道具を使用して、水に潜って戦うこともあるらしい。

そのときに気をつけることが無駄な動きをしないことと言われた。

動けば動くほど呼吸が荒く苦しくなるし、陸上よりも酷く体力を消耗するからだ。

とにかく、隙をついての一斉攻撃が一番有効なのだとか。

セイレーンに水に引きずり込まれて困っていると言えば、討伐部隊の訓練場で装備を身につけたままの泳法まで伝授してくれた。

その泳法を使ってセイレーンたちの遊びにも対処できるようになり、水中の魔物退治も成功率が上がった。

その経験がなければ、洞窟探検もこんなに楽しむことはできなかっただろう。


服が乾き、少しだけ休憩して先に進む。

難所という難所はなく、順調に洞窟の奥まで着けば、目の前に滝が現れた。


「すっげー!あ、滝の裏に空洞があるぜ!」


ショウが我先にと、滝へと向かっていく。

滝壺の水にもルケンス虫がいて、滝が落ちる波紋に合わせて揺らめいているのが美しい。


足元に気をつけながら、滝の裏にある空洞に入る。まっすぐ進んだ先は大きな空間で、花が咲き乱れている。


「この花は……」


「まさかでしょ?」


コールナンとエリジーナは信じられないと目を見開き、俺も正直驚いている。

この花の正体を知らないエリドとショウは、別のものに気を取られているようだった。


「フィリップ……あれ……」


エリドが示した先には、水の聖獣の姿があった。

この山が聖獣の住処だなんて、誰も言ってなかったぞ!





今日はにゃんにゃんにゃんの日だったー(>_<)

それなのに、まったくもふもふ描写がないなんて……すまん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ