何に使うかが重要だ。
時に期待とは、無残にも打ち砕かれるものである。
案内役さんに連れていってもらった工房は確かに凄かった。
ただ、私にとっては前世で馴染みの深いものばかりだったんだ。
そもそも魔道具とは、私のように魔力がない者や、少なくて日常的に魔法を使うことができない者のために作られたことが始まりである。
つまり、必然的に料理や洗濯、掃除といった、生活に欠かせないものが多くなる。
前世ではそれを、白物家電と呼んでいた。
まぁ、王都の工房でも似たようなものを見たけどね。
ただ、こちらの方が全体的にレベルが高い。いろいろと多機能なのだ。
電子レンジもどきは温めるだけでなく、急速に冷やすことができる。
扇風機は空気清浄もできる。
そして食器には、温度維持機能がついていた。
食器は飲食店で重宝されているらしい。
逆に貴族では、職人が焼いた高いお皿を使い、温度を維持するところまでが料理人の技量とされていることから、使用する家は少ないんだって。
貴族は基本、見栄っ張りだからねぇ。
何かおもしろ家電……じゃなかった、おもしろ魔道具がないかと探していると、妙に既視感があるものを発見した。
真ん中が空洞で、後ろ側に魔石を組み込む部分がある。
天辺にあるボタンを押せば、何かが起きるんだろうけど、似たような形のものが前世にもあった。
これで、クルクルと回す部分があれば完璧なんだけどなぁ。
「それはマリナ・テアを作る魔道具です」
この工房の主は、水の精霊と仲良しな一族のエルフだった。
夏の青空のような水色の髪に、冷たく感じるほどの美貌。まさにエルフ!
見た目は若いお兄さんだけど、エルフは寿命が違うから年齢不詳だ。
「マリナ・テアを魔道具で作れるんですか!?」
私が真剣に見つめていたからか、声をかけてくれた。
彼の言うマリナ・テアとは、かき氷のことなんだよね。
あれは暑い夏の日だった。
お兄ちゃんと我が家の料理人たちとで作ったかき氷は美味しかった。
「マリナ・テアはガシェ王国が発祥でしたね」
そう。料理人のネットワークから王都に広まり、国中に広まり、ついには他国にまで広まったらしい。
広まり始めた頃に、私は眠っていたから知らなかったんだよ。
我が家では、お兄ちゃんとママンが作れるから、外で食べたことないし。
でも、水魔法で氷を作って、風魔法でふんわり削って、果物を煮込んで作った蜜をかけるのが一般的なんだけどなぁ。
ただ、かき氷が流行りだしたときに大事件が起きたという話を聞かされた。
オスフェ領では、夏でも雪が残っている地域がある。
その雪を使って、売り出した人たちがいた。
雪国の人ならば、誰でも知っていることだが、雪は食べられない。
美しい純白に惑わされがちだが、ああ見えて不衛生だもんね。
それで、お腹を壊した人が大量発生してしまったと。
雪を使えば、魔術師の人件費や魔力消費を抑えられると思ったのかもしれないけど、代償は大きかった。
結局、国に捕まり、罰金と飲食を提供する仕事を生涯禁止された。
このかき氷食中毒事件はマリナ・テアに絡めて、ダンナ・テア事件と呼ばれるようになった。
日本語的に言うなら、マリナ・テアが儚い雪で、ダンナ・テアが恐ろしい雪みたいな意味かな。
まぁ、雪も過ぎれば恐ろしいけど。
「あの雪の儚さを生み出すのに、とても苦労しました」
「そうでしょうね」
我が家では、美味しいかき氷を作るための会議を行ったことがあるんだが、ママンもコツを掴むまでに時間を要していたからね。
ママンは水魔法だけでふわふわ氷を作ろうとしていて、お兄ちゃんは水と風の二種類を使った二段階方式。ママンが言うには、お兄ちゃんのように二属性を使う方が簡単なんだって。
二属性をつかう方が凄いと思うのは私だけだろうか?
それだけ、高度な魔法を魔道具で作るのは、本当に大変だったと思う。
かき氷器の周辺は、冷たい関係の魔道具なのかな?
なんで枕があるのか謎だけど。
その隣にはランタンみたいなものも。
ランタンみたいなものを手に取ると、照明としての機能以外の用途もあるっぽい。
「こちらは冷温機能がついた照明器なんですよ」
「どうして、そのきのうが必要なんですか?」
ランタンのような小型の照明は、冒険者とかが外で使うものだよね?
外ならば、体感の魔道具でも十分だと思うんだけど。
「この枕もそうなのですが、職業によっては体感の魔法を使わない方もいるのです」
体感の魔法は、ある程度なら外気温を遮断できる。オスフェ領の寒さは無理だったけど。
「特に冒険者がそうだと聞いたことがあるよ」
ルイさんも興味深そうに、私の手元を覗いてくる。
「えぇ、冒険者は防御や付加系の魔道具を身につけていますし、気温の変化がわからないと危険なこともあるそうです」
なんでも、この魔道具があれば、寝るときだけテント内を快適な温度にすることができるらしい。
しっかり眠ることができれば、疲れも回復できるし、魔法を使わなくてすむから魔力も消費しない。
そして、明かりとしても使え、一石二鳥ってことだね。
ポータブルエアコンって考えたら、かなり便利な魔道具だと思う。
ただ、私には使い道がないなぁ。
ランタンもどきを置いて、再び物色を開始する。
すると、また既視感のあるものを発見した。
「こ、これは!!」
ウォータースライダーに似ているけどかなり小さい。上下にボウルみたいなものもついていて、何かを流すのは間違いない。
そして、流すものと言えば……そうめんだ!!
ただ、この世界にそうめんみたいに細い麺はないので、蕎麦に似た麺を流すんだと思う。
パスタはちょっと合わないしね。
「ワウマを流すためのものです。暑い日には、冷たいワウマが美味しいですよね」
うんうん。キンキンに冷たい、つゆもどきの濃い味のスープにちょんっとつけて、ちゅるって食べるのがいいんだよねぇ。
日本人として望郷を感じるよ。
「普通に盛って食べればよくない?」
「よくない!自分で取って食べるのがいいの!」
メルさんが身もふたもないことを言ってしまったが、私は全力で否定した。
流しそうめんは、あの上手く掴めない感覚を楽しみながら食べるから美味しいのであって、そのまま出されたらだたのそうめんじゃん!
「……そう?」
メルさんは少し困惑しているが、作った本人は感動していた。
「愛し子に流しワウマのよさを理解してもらえるとは!」
楽しいものだけど、ママンのお土産にするものではないかなぁ。
その後もいろいろ見たけど目ぼしいものはなく、次の工房に行くことにした。
次に案内してくれたのは、子供向けの魔道具を作っている工房だった。
つまり、おもちゃ屋さんだね。
私は普段、玩具で遊ぶことがないから、魔物っ子たちが遊べそうな玩具がないかを探していた。
すると、見つけてしまったんだ!
オタク心をくすぐってくるものを!!
すぐさまソレを手に取り、えいっと振ってみる。
シャラランと軽やかな音がなり、先端から光が放たれた。
「おぉぉぉ!」
魔女っ子ステッキだぁぁぁ!!
見た目も可愛らしいんだけど、一番のポイントは光が残ることだよ!
空中にステッキを振った軌跡が、光の帯となって漂っているって凄くない??
本当に魔法を放ったみたいで気持ちがいいぞ!
「気に入ったの?」
何度も振っていたからか、メルさんがクスクスと笑っていた。
優しい笑い方だったけど、ちょっと気恥ずかしい。
無意識にはしゃいでしまったようだ。
「ネマにも子供らしいところがあったんだねぇ」
ルイさんや、これは子供だとか大人だとかは関係ないんだよ!
オタクは魔法が使いたんじゃぁぁぁぁ!!!
「本当に魔法を使えたみたいでうれしくて。私、魔力ないから」
まずいことを聞いてしまったとでも思ったのか、ルイさんはそうだったねと頭を撫で始めた。
せっかくメルさんがやってくれたセットを崩さないで!
慌ててメルさんのもとへ駆け寄ると、すぐに気づいて、手櫛で髪を整えてくれた。
メルさんにお礼を言ったあと、視線の先に不思議なものを見つけた。
私のうさぎさんと同じくらいの大きさで、手に持てば意外と軽かった。
形は音符みたいに、楕円の球体に棒が刺さっている。
「なんだろう、これ」
どういった玩具なのかまったくわからずにいたら、製作者であるエルフが説明してくれた。
「これは音でこの球を操って遊ぶんですよ」
土と仲良しな一族の男性エルフは、体が小さいからか、玩具を持つ姿がとても可愛い。
音符みたいな玩具を持って、作った本人が実演してくれる。
棒の部分はビヨーンといった感じの、ギターやベースのような弦楽器の音に似ている。
球体の部分はポロロロロンと、マリンバを端から端まで一気に撫で鳴らしたような音がした。
それから、音だったものが確かなメロディーとなり、とてもリズミカルなので聞いているだけでも楽しくなる。
その音楽に合わせて、作り手さんが置いたボールがコロコロと動き出す。
ゆっくりコロコロしたかと思えば、その場でクルクルと回転したり、突然ポンポンと跳ねる。
「ふぉぉ!なんで?どうして??」
音とボールが連動しているのは間違いない。
しかし、仕組みがどうなっているのか不明だ。
「魔法を発動するとき、普通は詠唱しますよね」
腕のいい魔術師なら、詠唱を短くしたり無詠唱でも発動は可能だけどね。
「なぜ詠唱すると魔法が発動するのか。それは発する声にも魔力が宿っているからなんです。つまり、魔力を含んだ音ならば、詠唱の代わりになるということなんです」
「じゃあ、魔法で動いているんですね!」
ようは、魔法のリモコンってことだよね?
「私にもできますか?」
「もちろんですよ」
玩具なので、魔力が未発達な子供でも遊べるようにと、魔石が入っている。
その魔力を使ってもいいし、自分の魔力でもいいらしい。
音符みたいなのを渡されて、まずは球体の部分を触ってみる。
指を添えて、手首を回す。
ちょっと強すぎたのか、ポロロンではなく、ボロロンって変な音がした。
ボールの方は荒ぶって、すっごい飛び跳ねた。危うく天井にぶつかるところだったよ。
今度はゆっくり優しく、棒の部分を撫でた。
するとボールはコロコロと転がり始めた。
「ワンッ!」
そのボールに飛びつく星伍。
やめてくれ、これは売り物なんだ!
陸星も加わるんじゃない!
二匹からの攻撃を逃れるために、ボールをとにかく動かした。
それなのに、脇目もふらずに追いかけてくる二匹。
「ぬぉぉぉ!」
転がって、飛んで、また転がって。
しかし、ついには捕まってしまう。
「陸星、いい子だからはなして」
私がそう言うと、ボールを咥えたまま私のところに持ってきた。
穴は空いてないようだけど、よだれがついてしまっている。
「ごめんなさい……。これ、買いますね」
「いえ、お気になさらずとも大丈夫ですよ」
作り手さんはそう言ってくれたけど、この子たちも気に入ったようだし、この仕組みも興味深いから欲しいんだよね。
それに、ちょっと気になることもあるから、お姉ちゃんに見てもらいたい。
「これ、二つください!」
「二つ、ですか?」
「うん。友だちにあげるの」
高価なものかもしれないけど、正直にママンへのお土産だとは言えない。
今、母親はメルさんだからね。
「わかりました。では、一つは贈り物用にお包みいたしますね」
お代はルイさんが立て替えてくれることになっている。
あとで、パウルがルイさんに支払うんだって。
商品を受け取ると、すぐに隊長さんに取り上げられてしまった。
「落としたら大変だろう?」
「ありがとう!」
それから、もう一つの工房を見て、薬屋さんを見て、服屋さんも見た。
独特な染め物の生地を使っていて、かなり可愛かったなぁ。
「愛し子にこちらを渡すようにと」
帰り際、案内役さんからある物を渡された。
それは耳飾り。イヤーカフみたいに、耳の外側につけるタイプだった。
「これがあれば、いつでもこの森に入ることができます」
エルフの森へのフリーパスというよりは、エルフの身内として招いてくれるってことなのかな?
現に、この耳飾りと同じ物を案内役さんも身につけている。
「ありがとうございます。また、遊びにきますね」
それがいつになるかはわからないが、今度はお姉ちゃんと一緒に来るぞ!
案内役さんに見送られながら、最後にはいはいして帰る……。これさえなければなぁ。
外に出ると、自然にメルさんと手を繋げた。
「まだ時間はあるし、約束通りアッパを食べにいきましょ」
「やったー!」
というわけで、隊長さんがおすすめするアッパのお店に行くことになった。
そのお店は大通りから外れてはいるものの、人通りはあるし、他の隊員さんたちもよく立ち寄ることが知られているため治安がいいとか。
警衛隊は護衛がメインなので、襲ってきた者を除き逮捕したりはできないんだけど、腕っぷしはお墨付きだもんね。
たまに、タチの悪いお客を追い払うこともあるんだって。
お店の人からしたら、凄くありがたい常連さんだね。
そのおすすめのアッパのお店は意外と小さく、店内の席数も少ししかなかった。
ちょうど満席で、しかも買うのにも列ができていたため、買ってから馬車に戻ることになった。
食べ歩きしたかったんだけど、我慢するしかない。
大勢で並ぶと邪魔になるからと言って、ルイさんと隊長さんがさっさと列に並んでしまった。
星伍と陸星の紐を持ち、メルさんとエルフの森の感想を話し合っていたら、知らないおじさんたちが近寄ってきた。
「何か用ですか?」
私を守るために前に出たメルさんがそう問いかけると、一人のおじさんがにへらと笑いながら口を開く。
「お嬢ちゃんが持っているものを譲ってもらいたくてね」
不穏な気配を察知したのか、星伍と陸星は身を低くして警戒している。
「冒険者に譲るような物は持っていないわ!」
「いいや、その耳飾りは十分に価値がある。銀貨三枚で売っちゃくれないか?」
耳飾りって、案内役さんからもらった耳飾りのことだよね?
「嫌よ。なんで見ず知らずの人に売らなきゃならないのよ」
「エルフとの子供だろ?また作ってもらえばいいじゃないか。どうしても必要なんだ、頼むよ」
なんか、人にものを頼む態度じゃないんだけど……。
つか、私がエルフの子供だって、どんな勘違いしているんだ?
……ルイさんか!
ルイさんは先祖返りではないけれど、エルフ譲りの美貌の持ち主だったね。
メルさんがおじさんの相手をしている隙に、おじさんの仲間が私に近づいてきた。
「お嬢ちゃん、これで好きな物買っていいから、おじさんたちにソレくれないかな?」
やだー、典型的な変質者の声かけじゃないか。
銀貨を無理やり渡そうと手を伸ばしてくるおじさん。
「グルルルゥゥワンッ!」
陸星が唸り、星伍が飛びかかる。
腕に噛みつかれたおじさんは、罵声を叫びながら星伍を振りほどこうとしている。
「優しくしてりゃこのガキがっ!」
別のおじさんが私を捕まえようとしているのか、物凄い形相で襲いかかってきた。
しかし、メルさんの蹴りが炸裂して悶絶するはめに。
男の人は急所が丸わかりだから、狙われたらたまったもんじゃないよね。
ただ、メルさんがおじさんの急所を強襲している隙に、最初に声をかけてきたおじさんが急接近しているではないか!
しかも、おじさん増えているし!まだ仲間がいたのか!!
「白っ!」
白の名前を叫ぶと、すぐさま全身を覆ってガードしてくれたが、それでもおじさんは怯まない。
万事休すかとペンダントを握り、魔法を発動する呪文を唱えようとしたとき。
-きゅっ!!
ショルダーバッグから顔を出した稲穂が、口から火の玉を発射した。
おじさんに当たってしまい、いつぞやの光景が脳裏をよぎる。
怖くなり、体を縮めるようにしゃがみ込んだ。
「うぁぁぁぁ!火がっ!火がぁぁぁ!!」
地面に転がっているような音がしているので、必死に消そうとしているのだろう。
その音をかき消すように、大勢の足音も聞こえてきた。
ーきゅぅぅぅっ!!
これは稲穂の勝どきか?
私を守るためにしたのだから、褒めてあげたいんだけど、怖くて顔をあげられない。
また、黒い塊があったら……。
「ネマちゃん、大丈夫か!?」
うずくまっていたら、ルイさんに抱き上げられた。
それでも、周りを見ることはできない。
「……人、もえちゃった……」
「大丈夫、燃えていないよ。恐怖で失神はしているけど」
ん?燃えていない??
「ほんと?」
信じられなくて、ルイさんの胸に顔を埋める。
「本当。あれは本物の火ではなかったようだ。キュウビが作り出した幻影だよ」
「えっ!?」
驚いて顔を上げてしまった。
そうしたら、ルイさんのどアップが!
慌てて顔をそらすと、地面に転がったままのおじさんが視界に入る。
見たところ、服が燃えた形跡はない。
本当に燃えていなかったのか……。
でも、地面が濡れているのは……うん、考えるのはよそう。
私は見てない見てない。
「稲穂、あれは炎じゃなかったの?」
いまだにバッグから顔を出している状態の稲穂に問うた。
ーきゅう!
通訳がいないから、聞いてもわからない。
帰ってから、森鬼を通して聞くしかないか。
とりあえず、稲穂にお礼と言って頭を撫でていると落ち着いてきた。
やっぱり、もふもふの癒やし効果は抜群だ。
落ち着いたところで周りを見れば、たくさんの人がいて、何人かはおじさんたちを拘束していた。
「みんな警衛隊の者だから安心していい」
ルイさんに言われて、やっと理解した。
おじさんが増えたと思ったけど、仲間じゃなくて警衛隊の人だったんだ。
知らないうちに、メルさんに加勢していたんだね。
「あとは部下に任せて、お二人は馬車にお戻りを」
ルイさんに抱っこされたまま、隊長さんとメルさん、そして数人の警衛隊に守られながら馬車に戻った。
「ネマちゃん、宮殿に戻ったらアッパを食べようか」
アッパを買うことはできていたようだ。
確かに、安全な宮殿の方が落ち着いて食べることができるけど。
「……おねえ様がいっしょでもいいですか?」
「うん。ネマちゃんのお部屋に僕を招待してくれるならね」
招待って、ルイさんはいつも押しかけてきているでしょ!
◆◆◆
「ネマ、おかえりなさい!」
部屋に帰ると、お姉ちゃんが待ち構えていて、あっという間にぎゅーってされた。
でも、これがあるから安心するんだよね。
「ただいま!」
私もお姉ちゃんをぎゅーってする。
「何かあったようですわね。ルイ様、説明していただけるかしら?」
ゾワワァッてきたー!!
ママンのお説教モードが降臨している!!
つか、なんでわかったの?
やっぱりお姉ちゃんはエスパーなのかな?
「カーナ、その怖い笑顔はやめて欲しいなぁ。ちゃんと話すから、ね」
ルイさん、普通に怖いとか言っちゃうあたり、怖いって思っていないよね。
「パウル、これ温め直して出してくれる?」
紙袋をパウルに押しつけると、ルイさんは自分の部屋のようにソファーで寛ぎ始めた。
お姉ちゃんは呆れたようにため息を吐くと、ルイさんの向かいに座る。
シェルがお茶を出し終わると、お姉ちゃんが切り出した。
「さぁ、話してくださいな」
お姉ちゃんの圧を涼しげな顔で流し続けるルイさんは、何一つ偽ることなく起こったことを話す。
「そう。では、メルという女性にお礼を言わねばなりませんね。それと、セーゴ、リクセー、イナホ、ハク、よくやったわ。ご褒美を用意しましょう」
名前を呼ばれた魔物っ子たちは、お姉ちゃんに褒められたことを喜んでいるのか、それともご褒美に喜んでいるのかは不明だが、嬉しそうに尻尾を振っている。
私の肩でしょんぼりしてしまったグラーティアには、私からご褒美あげるからね。
「礼はいらないと思うけど。それが彼女の仕事なのだから」
「仕事だろうと、大切な妹を守ってもらったのですから、姉として礼を言うのは当然です」
そうそう。感謝と謝罪はちゃんと言わないとダメだもんね。
「お嬢様方のお望み通りにいたしましょう」
ルイさんがあっさり折れてくれたってことは、メルさんと場を設けてくれるのかな?
メルさん、ルイさんの警衛隊員だから、私たちが招くにしろ、ルイさんの許可が必要だし。
「まぁ、ネマちゃんにちょっかいをかけてきた男たちは、ルノハークとは関係がないという点は安心していい」
「では、なぜネマを襲ったのですか?」
「エルフの森の長からもらった耳飾りが狙いだった。この耳飾りは、エルフの風習でね。これをつけていれば、エルフは同郷の者がわかるんだ」
やっぱり、身内に贈るものだったんだ。
耳飾りの意匠によっては、どこの里の出身かもわかってしまうよね。
「奴らは問題を起こしていたから、組合から紹介状をもらえなかった。もちろん、エルフの知り合いもいない。そこで、エルフの森から出てきたネマちゃんに目をつけた。耳飾りをしていたし、僕の外見を見て、混血だと思ったようだ。エルフの子供から譲られたと言えば、森に入れると言っていたそうだよ」
なんともお粗末な作戦である。
ルイさんの外見がエルフっぽくても、私を見ればおかしいと思うだろ。
これぽっちも似ていないんだからさ!
で、あのおじさんたちは捕まり、冒険者の資格抹消の上、労役の刑だって。
まぁ、幼女を狙う変態には遠慮はいらないよね。
変態のことは忘れよう!
「そうだ、おねえ様に見てもらいたいものがあるの!」
買ってきた玩具を開けて、お姉ちゃんに渡す。
「音を使ったえいしょうなのよ、すごいでしょ!」
「詠唱を音で再現したというの!?」
お姉ちゃんの目が変わった。
物凄い目つきで、玩具をいじくり回している。
「風の魔法ね。でも、かなり複雑に組んであるわ。珍しい魔法構造だと思うけど、ネマの興味を引いたのはどの部分かしら?」
「この音を人に聞こえなくすることってできたりする?じゅうきしが持っている笛みたいに」
「人には聞こえないけど、動物には聞こえる音ってことね?」
お姉ちゃんはさらにいじくり回し、自分で音を出したり、ボールを手の上で転がしてみたりしていた。
「音域を指定している精霊文字を組み替えれば可能でしょう。音を聞こえなくできても、いろいろと調整をしないとこの球体は動かないわよ」
じゃあ、すぐにどうかなる心配はないかな?
でもなぁ……。
「気にしすぎかもしれないけど、この魔道具、とんでもない武器になるかもしれないと思って」
不安を払拭したくて、気になっていたことを告げる。
「どういうことだい?」
思った通り、ルイさんが食いついてきた。
まぁ、玩具が武器になるって言われたら、気になるか。
「音を使ってこの球が動くってことは、音が届くはんいならこうげき魔法も使えるんじゃないかなぁって」
音の高さを上げに上げれば超音波だし、下げに下げれば超低周波になる。
特に低周波は遠くまで届くので、遠隔操作にはうってつけではなかろうか。
動物の鳴き声を例にして、音の特性を説明すると、ルイさんは私が不安がっていた理由を察してくれた。
「低く遠くまで届く音域を使えば、この魔道具で人を殺せるほどの魔法を放つことができるというわけか」
「ただ、音はどこかにぶつかるとはね返えるので、確実ではないかも……」
離れているってことは、ちゃんと動いているのかを確かめることができないので、実用的ではない可能性もある。
「いや、方法はいくつかあるよ」
音を大きくする魔法や魔法具は存在しているから、それと組み合わせて使う。音の発生源を円状に複数配置する。
それに、魔道具の見た目を変えてしまえば、多少近くとも怪しまれないのでは?とも言われた。
「そうですわね。丸い形で中が空洞であれば、魔法構造にも影響はないかと思います」
丸くて空洞で誰が持っていてもおかしくないものって……なんだろう?
しばらく考えてみたけど、何も思い浮かばなかった。
「では、こちらで対策を打っておくよ。だから、ネマちゃんは心配しなくていいからね」
「ありがとうございます。……あの、これをおかあ様に送ってもいいですか?」
大量破壊兵器として転用できるかもしれない魔道具だから、そう簡単に他国へ送ることを許してくれないよねってことで聞いてみたんだけど。
「うーん、僕の一存では答えられないな。陛下に伺ってみるから、待っててくれる?」
まぁ、そうなるよね。
ただ、遠隔操作って技術があれば、魔道具はもっと便利になると思う。
どんな道具であれ、武器になるか、人を救うものになるか、生活を便利にするものになるかは、使う人次第なんだね。
誰かを殺すために使う人もいれば、誰かを守るために使う人もいる。
こういった二面性は、簡単に解決できるものではない。
でも、悪用されることを防ぐことはできるはずだ!
「おかあ様なら、もっと安全にすることができるんじゃないかなって。だから、へいかにお願いしますって伝えてください」
「必ず伝えよう」
話が一段落したところで、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「ルイベンス殿下からいただいたものですが、出すようにと言われましたので」
パウル的には、この時間にあまり食べさせたくないんだろうなぁ。
でも、匂いを嗅いだらお腹空いてきた。
夕食を残しそうだったら、黒にも手伝ってもらえばいいさ。
「わーい!美味しそう!」
「こちらはライナス帝国の料理ですか?」
ルイさんがアッパがどんな料理かを説明している横で、私は手に取り頬張る。
「んーまい!」
サーダの実のバンズはもっちもちで、揚げ物の油とか旨味を吸い込んでいて美味しい。
ガードラもしっかりと味がつけられていて、少し酸味のあるソースと相性がいい。
というか、このソースもサーダじゃないか!
「ネマお嬢様、お行儀が悪いですよ」
パウルに注意されたが、こういうのはお行儀悪くて正解なんだよ!
お上品に食べていたら、味なんかわからないでしょ。
「いいの。うたげとかで食べるような料理じゃないから!」
「まぁ、アッパは外で気軽に食べるものだからね。たくさんあるから、パウルたちも食べてみるといいよ」
そうそう。他国の味を知るのも大事だよ!
ルイさんが同席を許してくれたので、森鬼と海も一緒にアッパを頬張る。
「これを作法にそって食べるのは、ネマにはまだ無理よ。今日くらい目をつぶりなさいな」
「お言葉ですが、わたくしはかなりの頻度で目をつぶっていると思っておりますよ」
うっ……確かに。
でもでも、これは大きな口で頬張るしか、食べ方ないよ!
そう思っていたら、お姉ちゃんはナイフで綺麗に四等分に切ったあと、両手を添えて口元に運び、小さな一口をゆっくりと咀嚼していた。
あぅぅぅ。お姉ちゃんの言う通り、そんな食べ方はまったく頭になかったね。
このままでは、パウルに何か言われそうなので、話をそらすことにした。
「あ、そうだ!稲穂がもえない炎を出したんだけど、なんだったのかを聞きたかったんだ!」
アッパをほぼ二口くらいで食べきってしまった森鬼に、早速通訳をお願いする。
「偽火と言うらしい。熱くない火だが、燃えないから火ではないので偽物なんだと」
んんん?なぞなぞかな?
何かしらの物質が燃焼することで火になるのだが、物質が燃える温度はそれぞれ違うよね。
ただ、魔法の場合って燃やしているのは魔力なのか、それとも空気中の酸素なのか、よくわからない。
「まぁ!イナホはまだ幼いのに、もう炎の温度を変化させることができるのね。凄いわ」
-きゅんっ!
お姉ちゃんに褒められて、稲穂は四本の尻尾を揺らめかす。
「おねえ様もできるの?」
「もちろんよ。体温と同じくらいまでなら下げられるの。逆にとても熱くすることも可能よ」
ほうほう。
熱くない炎というか、ほどよい温度の炎で包んでもらえば、血行促進されて健康によさそうだ。
寝る前に、やってもらおうかなぁ。
「カーナができるのは驚かないけど、イナホは幼くてもキュウビなんだねぇ」
キュウビが持つ力がどんなものなのか、あまり知られていないらしい。
そうそう遭遇する魔物じゃないっていうのもあるし、遭遇して生きて帰れた人が少ないっていうのもある。
まぁ、なんにせよ、稲穂に助けられたのだ。
いっぱい褒めてあげないとね!
ルイさんは帰り際に爆弾を落としていった。
「そうそう、これネマちゃんにあげる」
そう言って渡されたのは、紙に包まれた細長いものだった。
開けてもいいとのことだったので、遠慮なく開けると出てきたものは……魔女っ子ステッキ!!
「これで遊んでいるネマちゃんが可愛かったから」
またねと去っていったルイさんに、何も言えずに佇む私。
背後には、目をキラキラさせているであろうお姉ちゃん。
家族の目の前で、魔女っ子ごっこをしなければならない運命が、すぐそこまで来ていた。
きっと、カーナはネマの魔女っ子ごっこを事細かく手紙に書き記して、家族に送ったことでしょう(笑)




