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ネマからの手紙(ラルフリード視点)

カーナとネマがライナス帝国へ行ってしまうと、屋敷の中がとても静かだった。

やっぱり、可愛い妹たちがいないと淋しい。

そんな僕の気持ちを察してくれているのか、ネマは毎日手紙を書いて送ってくれている。

あちらの皇族の皆様はかなり癖者のようで、あのネマが困惑している様子が(うかが)えた。

それからしばらくすると、末の皇子と皇族に所縁(ゆかり)のあるご令嬢と仲良くなり、何をして遊んだかを書いてくれる量が増えた。

同年代の友達が限られているネマにとって、新しい出会いが本当に嬉しかったのだろう。


一番驚いたのは、精霊王方にお会いしたという手紙だったな。

ネマは炎竜様と契約しているので、精霊宮に入る資格はあるんだ。

ヴィルもそうだったから知ってはいたけど、いざそうなると、そんなに簡単に会えるものなのかって驚くよね。


このまま何事もなく、二人が健やかに過ごせればいいと思っていたけど、敵はそんなに優しくなかった。

ライナス帝国内で、ルノハークが確認された。

鉱深(こうしん)の森でオーグルを襲ったらしい。

さすがに我が家で詳細を把握する前に、パウルが報告してきた。

なんでもライナス帝国の皇帝陛下が契約したオーグルの群れが襲われたと。

正直、信じられない内容だった。

まず、皇帝陛下が魔物に名付けていいのかと思ったし、オーグルの群れと戦うなんて正気とは思えなかったからだ。


ライナス帝国内の動きも慎重に調べていたのだけど、敵は同時に動いてきた。

ガシェ王国の国境が襲われたのだ。

最初は、状況が悪化しているイクゥ国の難民が暴徒化したものだと思われていた。

だが、砦からの報告で、相手が武装した軍人らであることが判明。

我が国も急いで騎士団を送り込み、本格的に戦となった。

すぐに鎮圧したものの、やはり負傷者は多く出た。

王国騎士団将軍として、ゴーシュじい様から正式に治癒の依頼が来た。

特殊部隊獣騎隊の隊長であるレスティン・オグマの足の怪我を治して欲しいと。

レスティンはネマとも仲良くしてくれていた隊長だ。

あのネマが、自分以上の動物好きと言っていたくらいだから、相当だと思う。

ネマがお世話になっている方だからと、快く承諾したが、問題は彼にあった。


「お久しぶりですね、レスティン隊長」


「ラルフリード様!?……ネフェルティマ様でしょうか?それともゼルナン将軍でしょうか?」


獣舎の側にある獣騎隊の寮の一室で、レスティンは寝たきりとなっていた。

苦笑しながらも問いかけてくる彼は、余計なことをと言っているようにも聞こえる。


「ゼルナン将軍です。優秀な部下を失いたくないと、気落ちされていたので」


「そうですか。ですが、右足が動かないだけで、他は元気なんですよ」


悲愴感もなく笑って言ってのけた、彼の精神力の強さに驚かされる。

動物に騎乗する獣騎隊の騎士にとって、足が動かないのは致命的なはず。


「妹がお世話になっているので、少しでも恩を返させて欲しいのです」


そう言って、やや強引に治癒魔法を施す。

しかし、何か違和感があった。

右太ももの怪我は、綺麗に治してある。

ただ、小さな損傷が内部に残っていたので、それを治したものの手応えがない。

つまり、動かない原因は足ではないということか?

他に怪我をしているところがないか、全身をくまなく診るも、違和感の正体は掴めなかった。


「すみません、僕の力では及ばないようです」


「……だろうと思いました。騎士団の治癒術師たちでも無理だったのですから」


「シアナ特区で養生してはいかがですか?ネマと仲のよいコボルトに、腕のいい治癒術師がいますし、オンセンには創造神様の奇跡が起きる可能性もあるのです」


あのオンセンには、女神様のお力の他にも、傷や病気に効く成分が含まれている。

飲むだけでも、治癒の効果が現れるのは実証済みなので、レスティンも治るかもしれない。


「いえ。できるだけ早く獣騎隊に戻りたいので」


「ですが、動かない足で任務が務まりますか?」


「……ワズ、愛馬には乗れるので、おそらく」


彼の決意は固いようだが……。

今の状態では、他の獣騎士たちも持て余してしまうのではないだろうか?


「厳しいことを言いますが、その状態では貴方の部下たちも気に病んで集中できなくなりますよ?自分のせいで、部下に負担をかけるのですか?」


「そんな(やわ)には育てていません。部下も動物たちも」


「……そうですか。ネマが知ったら、悲しみます」


ただ悲しんで、彼を哀れむだけならいいが、ネマはそれだけでは終わらせないと思う。


「ネフェルティマ様のことですから、治る方法があるはずと、何かしでかしそうですね」


「わかっているなら、そうならないよう協力していただきたいですね」


「オスフェ家の皆様は、ネフェルティマ様がどう動くのか楽しみにしていらっしゃるのでは?」


さすが、我が国の隊長を務めるだけのことはある。

なかなかに食えない人物だね。


「それ以上に心配もしているんですよ。あの子がまた大切な何かを失わないかとね。貴方も経験があるでしょう?」


彼はたくさんの死を見送ってきたはずだ。

人と動物の寿命は違うから。

寿命をまっとうした死なら、覚悟を決める時間もあるだろう。

しかし、彼ら獣騎隊が世話をしている動物は戦いのために存在している。

不測の事態が起きれば、一瞬で奪われる命もある。


「……はい。たくさんの子たちが女神様のもとへ旅立つのを見送りました。でも、今やらなければ、ルノハークの侵蝕(しんしょく)が進むと思うのです」


「貴方のお気持ちはわかりました。しかし、ネマが治す方法を見つけてきたら、治療を受けてくれませんか?」


騎士たる精神を、僕が曲げさせるわけにはいかない。

だから、最後の判断は彼に任せる。


「ネフェルティマ様次第、でしょうね」


ネマが何をするのかはわからないが、ネマの行動によっては治療を受けると。

まぁ、受けない可能性の方が高いとは思うけど。


「あの子は粘り強いから、レスティン隊長も覚悟しておいた方がいいですよ」


「わかりました」


彼の笑顔はネマに向けたものか、とても優しいものだった。



◆◆◆

レスティンの現状をネマに伝えると、やはりあちらで何かを調べているようだ。

パウルの報告によれば、毎日宮殿の図書館で何かを調べていると。

その何かを見つけたのか、父上宛てに手紙が届いた。


「まぁ、予想通りではあるんだが、少しは大人しくしていてもらいたいね」


父上から渡されたネマの手紙には、エヴィバンという薬なら、動かなくなった体を治せると書いてあった。

知らない薬だが、なんでもエルフ族の秘薬らしい。

また、凄いものを見つけてきたものだ。

手紙を読んで母上に渡すと、手紙に書いてあった植物の名前に反応する。


「これはまた……アニレーとトマって、ずいぶんと難しいものを」


「そんなに珍しいものなんだ」


「えぇ。魔生(ませい)植物なのだけれど、ある地域で、ある条件下にならないと花が咲かないらしいわ」


母上でも詳しいことを知らないのか。入手するのはかなり大変そうだ。

だけど、苦労して手に入れても、レスティンが望んでいなければ意味がない。


「レスティン隊長は脚が動かないまま、部隊に復帰するつもりです」


「つまり、レスティンは治療を必要ないと思っているということか?」


「必要ないというよりは、諦めているのだと思う。現に、ネマが見つけてきた治療方法も実現する可能性は低いし……」


父上は考え込み、そのままネマへ返事を書き始めた。

おそらく、ネマをたしなめる内容だと思う。

パウルが側についているとはいえ、カーナが甘やかすからなぁ。


父上が手紙を送ると、すぐに返事が送られてきた。


「頑張って説得するそうだ。あと費用をどうにかして欲しいと」


「あの子が、簡単に諦めるわけないですもの。費用は、どうするのかしら?」


僕たち家族はみんな、ネマの答えがわかっていた。

だから、母上もレスティンが治療をする方向で考えていたに違いない。


「我が家が負担するのもおかしい話だよね?」


「そうだな。いくらネマと交流がある騎士とは言え、本来なら国がどうにか手助けをするべきことだ」


しかし、見つかるかもわからない、費用もどれだけかかるのかもわからない方法を、国が認めることはないはず。

通常、治癒術師でも治せない怪我を負った場合、裏方に回るか、一定額の補償金を受け取って市井で暮らすかを選ぶことになるらしい。

なので、ある程度なら国から資金を提供することはできると父上は言うけど、どう考えても足りないよね。


「ネマが独断でやるというなら、あの子に支払わせてもいいと思うのだけど、どうかしら?」


「そう言えば、カーナが申請したミュガエの繭の特殊技術は、ネマとの連名になっていたな」


ハンレイ先生のぬいぐるみを作るときに発明したあれか。

カーナも抜かりないなぁ。


「シアナ計画の発案者として、対価が支払われているし、まぁ、なんとかなるんじゃないかな」


これは僕が父上にお願いしたんだ。

ネマが貴族向けのオンセンも作りたいって言っていたから、資金があった方がいいなって。

父上に任せると、どうしても領主としていろいろ考慮しなければならないから、ネマ個人のお金なら自由にできると思って。


「あの子が嫁ぐまでに、また貯めればいいことですし」


「……嫁ぐ……?」


あ、母上。それを言ってしまうと父上が……。


「えぇ。ネマは嫁いだとしても大人しくしていないでしょうし、何をやるにしても先立つものが必要だわ」


母上の言葉はもっともだけど、ネマはまだ幼いのだから、婚約や結婚はまだ考えなくていいと思うんだ。


「……ちょっと、デール。泣いているの?」


まさかそんな、父上に限って……って、本当に泣いている!


「父上、泣きながら手紙を書かなくても……」


「うぅ……ネマがお返事を待ち構えているかもしれないだろっ!」


そうだとしても、ネマが嫁ぐのを想像して泣きながら書いているって知ったら、ネマも困惑するよ。


「まだ十巡以上は先のことですのよ?今からそれでどうするのですか」


母上も泣き顔の父上に呆れながらも、容赦なく言葉を重ねてきた。


「だって、聖獣の契約者同士だと結婚しやすいって……」


どこからの情報かはわからないけど、ライナス帝国の先帝様は聖獣の契約者同士でご結婚されていたね。


「ヴィルヘルト殿下もそうだが、あちらの皇子たちだって、いつ水の聖獣と契約するかわからないんだぞ!」


愛し子として、聖獣様たちにも好かれているネマだから、妃にと言われる可能性はあるけど。


「陛下はそんなことなさらないと思いたいが、外交特権と引き換えにネマを寄越せと言われたら……」


止まりかけていた涙がまた溢れてしまった。

ネマがいないことで、かなり精神的に参っているのかもしれない。


「じゃあ、ヴィルヘルト殿下なら王都にいるわけだし、わたくしたちならいつでも会えるじゃない」


「殿下は絶対に駄目!!」


父上はいつもヴィルを目の敵にしているけど……あ、父上だけじゃなく、カーナもそうだ。

僕としても、ネマが嫁ぐのは嫌だけど、ヴィルになら任せてもいいかな。

もう少し、土台を盤石にできたらね。


「本当に、仕方ない人ね。わたくしだって、ネマが望まない婚姻はさせたくありませんわ。ネマの意思が尊重されるべきでしょう」


つまり、ネマが嫁ぎたくないと言えば、母上も手元に置き続ける気なのか。


「それよりも、アニレーとトマの方はどうするおつもり?」


「……ジーンに調べてもらう」


ユージン兄さん、国内にいるのかな?

でも、ディルタ領にはエルフ族の集落があるから、知っていてもおかしくはない。


「ディルタはエルフ族からの信頼を得ている一族だからな」


初代ディルタ公爵は、領内の農作物が不作のときに、エルフを口説き落として、いろいろ教えを乞うたらしい。

その後、そのエルフの一族がディルタ領に移住してきたのが集落の始まりだという。


それらのことを手紙に書いてネマに送ると、またもやすぐ返事が返ってきた。

それを読んだ父上が再び泣き始めたので、何が書かれてあるのかと怖くなる。


「あら、ネマったら」


くすりと笑う母上から手紙を受け取ると、父上と母上の反応の理由がわかった。


『私は嫁がないから、その分領民のためにお金を使って欲しい』


今のところ、ネマも嫁ぐ気はないらしい。

貴族の娘としての役割を果たさないから、ネマのお金を領民たちの生活が少しでもよくなることに使いたいってことなんだね。

その頃には、僕が継いでいるだろうから、ネマの望むようにしてあげたいな。


父上が嬉し泣きをしながら返事を書いている間に、僕宛ての手紙が送られてきた。


『おにい様へ

最近、忙しいみたいだけど、ちゃんとお休みしてね。息ぬきも大事だよ!

レスティンが治すことに前向きになるよう、説得するのを手伝って欲しいの。

レスティンはそれでいいのかもしれないけど、レスティンをしたう獣騎隊のみんなや動物たちは悲しんでいると思うから。

あと、おにい様もアニレーとトマの情報があったら教えてね』


いつも僕の体調を気遣ってくれる可愛いネマ。

カーナなんて、わたくしは元気ですわ、から始まって、兄を気遣う一文が書かれたためしがない。


早速、僕も返事を書こうとすると、母上がふてくされた声を出した。


「貴方たちばかり狡いわ」


家族しかいない場だからこそ、母上は素直に感情を表している。

こちらの方が、僕は好きだ。

まぁ、怒っているときは本当に恐ろしいのだけれど。


「ネマのことだから、書いているんじゃないかな?」


「そうかしら?あの子、夢中になると忘れちゃうことがあるでしょう?」


あぁ、確かに。

それで何度か怒られているのに、直らないんだよねぇ。そこも可愛いんだけど。


しばらくすると、母上にも手紙が届いた。

母上の方には、魔物たちが隠れんぼして遊んだと書いてあった。

ハクが薄く伸びて壁にくっついていたらしい。

魔物の生態を知りたがっていた母上に、ネマはよく魔物たちの変わった行動を教えてくれるらしい。

ライナス帝国に行ってからも、キュウビを仲間にしたと聞いたときは、母上の目が輝いていた。

ネマが戻ってきたら、また実験するつもりなのかもしれない。

キュウビは強い上に珍しいから、そう表には出せないと思うんだけど、ネマはどうしているんだろう?

セーゴやリクセーなら、まだ誤魔化せるけどね。

そして、母上の手紙には、最後にある言葉が書かれていた。


『おかあ様、大好き!』


母親という存在が、子供にとって凄く特別なのはわかる。わかるけども、僕にも大好きって書いて欲しかったなぁ。


みんなでネマへ返事を送ったけれど、その日はもう手紙が届くことはなかった。

次の日になり、帝都のエルフの森に行けることになったと報告が来た。

エルフの森も本でしか読んだことないけど、内部は迷宮のように入り組んでいて、魔法、魔道具、情報、知識と、様々なものをエルフが与えてくれるらしい。

ただし、エルフに気に入られなければ取引は成立しない。

求める者の人柄を見て、与えたものを正しく使える者でないと断られる。

ネマなら断られることはないと思うけど、冒険者組合の長のようなこともある。

エルフは、愛し子だからと無条件では与えてくれないだろう。


僕は無茶をしないようにと忠告を書いたが、母上は面白い魔道具があったら買ってきてと返事したと言っていた。

父上と結婚する前に、一度だけエルフの森に行ったことがあると話してくれた。

そして、絶対一度は行った方がいいと、力説する。

エルフ独自の感性から構築された魔法は、人が作るものよりも優美だとか。

聞いているだけでも楽しくて、ネマが羨ましくなった。

もし、ネマが魔道具を買ったら、僕も見せてもらおう。


母上やカーナほどではないが、魔道具の構造を知るために解体するときは気分が高揚する。

僕はそのまま元通りにするけど、カーナは改造してしまう場合が多い。

そして、失敗したときは凄いことになる。

でも、そういった騒ぎも、なければないで淋しいと思うのは、僕のわがままかな?


妹たちが早く帰ってこれるように、僕も頑張らないと。


ただ、兄馬鹿が炸裂しているだけの話になってしまった……(;^_^A

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