国境での戦い 前編(レスティン視点)
軽度の残酷描写がありますので、苦手な方は注意してください。
今日の勤務は終わっていますが、出産を控えた子がいたため、心配で隊長室に泊まることにしたのです。
当直には必ず治癒魔法が使える者がいるようにしているものの、出産が危険なことには変わりありませんからね。
それに、僕自身があの子の側にいてあげたいと思ったので。
「レス隊長!将軍より緊急指令!」
しかし、それは叶わなくなりました。
部下から渡された紙には、ディルタ領の国境で戦闘が行われているので、現場の騎士団の支援と情報収集をせよと書かれています。
国境沿いの状況がよくないことは知っていましたが、ついにですか。
「第一班から四班までを緊急召集。任務の概要を説明したら、すぐに出動します」
情報部隊にも同じ命令がされていることから、裏で何かが動いているのかもしれません。それを協力して突きとめろということですね。
転移魔法陣の使用許可もあることから、可及的速やかに任務を遂行しろと。
ならば、連れていく子たちは、伝達が得意な子たちの方がいいかもしれません。
さて、どの子を連れていきましょうか?
今回の任務に出動する者たちが集合すると、ゼルナン将軍からの指令を伝えます。
先代様の時代より、本格的な戦闘が行われていなかったこともあり、部下たちの顔には緊張が見られました。
「なんの前兆もなく、元は普通の民が武器を手にし、我が王国騎士団に奇襲をかける。おかしいと思いませんか?我々の任務は、現場の騎士たちを助けつつ、情報部隊と連携をして、今回の襲撃の真相を探ることです」
情報収集は専門に任せるとしても、彼らの手助けをするのは我々です。
「相棒の選別は任せますが、騎獣と伝達は必ず連れていくこと。あと、現場の周辺は見通しのいい岩山と緋熔の森が広がっています」
現場に適した相棒を選ぶことも重要です。
僕はワズとトーティルのエレナを連れていきましょう。
あと、情報部隊用にグライホークとナイトアウル、トルケグ、ランドウルフを連れていくことにします。
情報部隊の騎士にも、動物を扱う訓練を受けている者がいるので、彼らの力になってもらうのです。
連れていく動物たちを移動用の籠に移し、王宮の転移魔法陣の部屋まで運ばせます。
まず先に、僕と直属の部下がディルタ領の国境近くの街に転移し、次に動物たちを転移させました。
他の部下たちも転移し、全員が揃ったところで戦闘地域へと出発です。
夜道を魔法で照らしながら、砦に急ぎ到着すると、すでに情報部隊が先着していました。
「レス、こっちだ」
情報部隊の隊長、シーリオ・ユジィがそこにいました。
「シーリオ隊長、早いですね」
「まぁな。俺たちの部隊はこっちの方で展開していたからな」
確か、長期間に渡ってイクゥ国や小国家群に潜入していたんでしたっけ。
情報部隊はその特性上、どこで何をしているなどが秘匿されているので、こちらも与えられた情報から推測するしかないんですよね。
「隊長のご活躍、聞きましたよ」
「ダンの奴だな。どうせ、炎竜殿に会えて感動したって話のついでだろ?」
竜騎部隊隊長であるダンも含めて、隊長職は呑み仲間でもあります。
なので、ダンの性格をよく知っているシーリオにはお見通しってわけです。
「さすがに一晩中語られるとは思いませんでした」
竜が好きすぎるダンは、憧れである炎竜殿に会えたことで、より一層仕事に励むようになりました。
ただ、いまだに竜舎の長であるギゼルには軽くあしらわれているみたいですが。
「あいつは昔から変わらねぇな」
シーリオはそう笑いますが、僕も人のことは言えないという自覚はあるんですよ?
「さて、とっとと終わらせようや。王都に戻ったら、美味い飯でも食いにいくか」
僕がご馳走様ですと言うと、奢らねぇよと小突かれました。
砦の隊長から集合がかかったため、話を終わらせて、気持ちを切り替えました。
国境を越えるために、砦を襲撃したのは難民ではなく、軍人の成れの果てでした。
イクゥ国軍の装備をつけた者、小国家群の軍人や騎士たち。それらが組織的な動きをして襲ってきたようです。
「誰か、中心となる人物がいるはずだ。国が違えど、組織の中で地位が高い者がいたら従うだろうからな」
「やはり気になるのは物資の出どころですよね。食料や武器がなくては戦えないことは、軍人ならわかっていますから」
「そこら辺は俺たち情報部隊に任せておけ」
獣騎隊の仕事は、今のところ砦の騎士たちと戦線を押し下げることですかね。
相手が混乱すれば、情報部隊が入り込む隙もできるでしょう。
◆◆◆
情報部隊の騎士に伝達に使う動物たちを預けて、僕たちは戦場へと向かいます。
闇夜にエレナを放つと、彼女は静かに狩りを始めました。
他にも、数頭のトーティル、ヤーグルが駆けていきます。
「自分たちの身と相棒を守ることを念頭におくこと。無理はせず、危ないと思ったら下がりなさい」
初めて本物の戦闘を経験する者が多いので、無理は禁物だと念を押します。
部下も動物も失いたくはないですから。
僕はワズに乗って戦闘が一番激しい場所へ。
襲いかかってくる敵には容赦なく魔法を撃ち込みます。
ワズも戦場は初めてのはずですが、怯えることもなく、勇猛果敢に敵を蹴散らし踏みつけています。
ワズの脚力で蹴飛ばされたり、踏みつけられたら、ただではすみません。
しかし、味方がかなり消耗して危険ですね。
「ワズ、しばらく時間を稼いでください」
ワズの首筋をかるく叩いてから下ります。
土属性の大きな魔法を使うときの難点は、地に足をつけていないといけないことです。
魔法構造を組み上げながら、体中に魔力を循環させます。
『岩と土塊で六つの防壁と成す』
自分の後方に、身を隠せる程度の壁を発現させました。
一見、土魔法に見えますが、壁の強度を高めるために一工夫してあるのです。
それを教えてくれたのは、獣舎の動物たち。
獣舎にいる子たちの中には、巣を作る際に自らの唾液を混ぜるものがいます。
土などに唾液を混ぜることによって、巣の強度が増すのです。
僕は土の上級魔術師ではありますが、水も下級までなら使えます。
今まで、飲み水を作ることくらいにしか使用したことがないのですが、水の性質を少し変化させることによって、壁の強度を高めることに成功しました。
また、壁の内部に岩を網目状に入れることで、さらに崩れにくくなっています。
壊すには、特級の破壊系魔法でないと無理でしょう。
「負傷者は防壁まで下がりなさい!セロス、治療は任せましたよ」
自分の部下である治癒術師に、負傷者を押しつけます。
騎士団の治癒術師は騎士になる実力も兼ね備えているのです。
負傷の度合いによって、どこまで治療するのかを判断し、魔力が最小限ですむように治療していきます。
そうしなければ、すぐに魔力が枯渇してしまいますから。
「了解しました!」
「ワズ!」
ワズを呼び戻して、再び騎乗してから戦闘に戻ります。
すると、砦の方から投降を促す呼びかけが始まりました。
風魔法で大きくした声は、ここまではっきりと聞こえます。
『我々ガシェ王国騎士団は、貴殿らとの戦いを望んではいない。武器を捨て、投降するなら、身の安全は保証しよう』
「奴らの言うことを信じるな!獣人を庇護する奴らは、俺たちを皆殺しにするぞ!!」
誤解も甚だしいですね。
我が国は特定の種族を優遇したりすることはありませんよ。
王宮にいる部隊はその特性から獣人がいませんが、各領地に展開している部隊にはたくさんの獣人の騎士がいます。
それに、体力のある獣人の方が先に国境を越えられたというだけです。
難民として避難してきた獣人の中には、よくないことが起こる気がした、不安に駆られて逃げてきたと言っている者もいたそうです。
獣としての本能が働いたのでしょう。
種族としての能力なので、人である身が何を言っても逆恨みにしか聞こえませんね。
「よくまぁ、信憑性のない噂に振り回されていますね。軍人として恥ずかしくないのですか?」
徐々に戦線を押し上げながら、指揮官を探していきます。
特に守りが固い部分を探しているのですが、さすがに闇夜では見つかりそうにないです。
一色、二色と時間が経つにつれ、だいぶ周りがすっきりしました。
残る目の前の敵を無力化することに専念しようとしたとき、空が明るくなったのです。
どこの誰だかしりませんが、かなり強力な魔法を打ち上げましたね。
赤い不気味な色に変化して、三回瞬いたのを確認して驚きました。
発光信号代わりに魔法を打ち上げたようです。
赤が三回が示すものは目標地点。
つまり、あの辺りにこの軍の成れの果ての指揮官がいるということですか。
「あそこを押さえます!戦える者はついてきなさい」
エレナを指笛で呼び戻し、より奥へと行くよう指示を出しました。
ワイルドベアーに乗った獣騎士たちが、敵を薙ぎ倒しながら道を切り開きます。
そのあとを追いながら、討ち漏らした者をワズが嬉々として踏みつけているのを見て、複雑な心境です。
そんな子に育てた覚えはありませんよ。
「ワズ、急ぎます。小物に構っている暇はありません」
一層守りが固い一陣を見つけると、一斉攻撃を仕かけます。
僕は防壁を作りながら、周囲の状況を探りました。
「ワォン!」
聞き覚えのある鳴き声がすると、情報部隊に預けたランドウルフがいました。
首元には通信筒が取り付けてあります。
「ルーヤ、ありがとう」
通信筒を外し、急いで中身を確認しました。
『指揮官の身柄を確保』
その報告に笑みが出てしまいました。
さすが、シーリオ率いる情報部隊。仕事が早いですね。
「指揮官は確保したっ!投降するなら今のうちだぞ!!」
大きな声で叫ぶと、こちら側の士気が上がったのを感じました。
粗野な言葉を使うのは性に合いませんが、こういう場面では舐められずにすむのです。
指揮官が捕まったという情報に敵は混乱しています。
「カワウォ殿がいなくとも、我々のやることは変わらぬ!」
カワウォというのが指揮官の名前でしょうが、上が捕まったとなれば、下は不安になるものです。
「その指揮官にお前たちが命をかける価値はあるのか!女神様のもとへ行きたくば、かかってこい!」
国への忠義ではなく、自らが生き延びるために戦っている者たちです。
国なくば、我が身が惜しくなるのも仕方がないでしょう。
そう訴えれば、次第に投降する者が出てきました。
武器や魔道具を取り上げ、代わりに魔力を封印する魔道具を取りつけます。
封印の魔道具もすぐになくなってしまいましたが、我が騎士団に反抗しないと名に誓った者から解放していくしかありません。
「この野郎がぁぁぁ!!!」
前線でずっと指示を出していた上官風の軍人が、こちらに向かって剣を振り上げてきます。
ひょっとしたら、捕まえた指揮官の直属の部下だったのかもしれません。
自分だけでも上官についていくという心意気、嫌いではありませんよ。
「いいでしょう。受けて立ちます」
愛剣を抜き構えます。
僕の愛剣は、前の獣騎隊隊長から譲り受けたものです。
緩やかに曲がっていて、長剣より扱いに癖がありますが、柄の部分がサイの角でできています。
最初の隊長が亡くなったサイの角を使って作らせ、代々の隊長に引き継がれているのです。
相手の剣を受けると、魔法を放ってきました。
風属性ですか。少し厄介ですね。
僕も左腕に魔法を使い、小さな盾を作り出しました。
土の中にある金属を混ぜ合わせ作った盾は、そう簡単には壊れません。
風の刃すら通さないのですから。
剣を躱し、薙ぎ、こちらから斬り込みます。
致命傷は与えられていないものの、相手の動きが鈍ってきました。
「くっ……」
しかし、相手は決死の覚悟で挑んできているので、多少動きが鈍ったからといって油断はできません。
魔力が大きく動く気配がして、こちらも防御の魔法を用意しようとしたときでした。
相手が何かを飲み込むと、さらに魔力が増大したのです。
「……ぐぁぁぁぁぁ……」
膨れ上がった魔力は、体に収まりきらずに溢れ出しました。
吹き荒れる風は、鋭い刃となり、周りに少なくない被害を与えています。
魔力の暴走ですか。
飲んだのはおそらく魔石でしょう。
小さな魔石なら、多少の魔力回復が見込めますが、それ以上となると体が受け止めきれずに暴走してしまうのです。
まさに諸刃の剣。
僕も盾で防ぎますが、完全には防ぎきれません。
「いつっ……」
右太ももに熱が走ったと思ったら、温かいもので濡れていく感触が。
力が入らず、地面に手をつくと、素早く魔法を放ちます。
『堅き岩で穹窿と成す』
岩を半球状にして、相手を閉じ込めましたが、長く持ちそうにありません。
「全員退避!!急げ!!」
岩の壁にひびが入る音がしています。
上級の魔法ですが、暴走した魔力は特級に匹敵するということですか。
脚を引きずりながら後退しますが、間に合わないでしょう。
「ブルルルッ」
「ワズ!?逃げなさい!」
こちらに向かってこようとするワズを制止しますが、言うことを聞いてくれません。
「ワズ!」
僕のもとまで来ると、背中に乗れと言うように僕の腕を引っ張ったのです。
なんとか、のしかかるように乗るのが精一杯でしたが、ワズは落とさずに走り始めます。
岩が崩れる音が聞こえた瞬間、再び風が僕たちを襲います。
ワズの体に傷が増えていくのを見て、苦しくなりました。
あいつを殺して、暴走を止めなければ、ワズも危ない。
そう思って、僕はワズから飛び降りました。
落下の衝撃が怪我に響きましたが、ありったけの魔力を使って最後の一撃を準備します。
ワズが戻ってこようとする気配がありましたが、時間がありません。
『深き地の奥まで流れ落ちる流砂と成れ』
この魔法はかなりの広範囲を流砂で飲み込んでしまう魔法なので、できれば使いたくなかったのですが……。
体から魔力がなくなっていき、意識が朦朧としてきました。
あの男がどうなったのかも確認できません。
シーリオ、あとは頼みましたよ。
レスティィィン。゜(゜´Д`゜)゜。
久しぶりの出番がこんなんでごめんよ……。
そうそう、レスティンは詠唱の短縮が苦手なのです(笑)
あと、いつも誤字報告ありがとうございますm(_ _)m
めちゃくちゃ助かります!!




