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精霊王、それは知りたくなかったよ。

柔らかい感触を顔中で感じるが、そのぶん息ができない。


「火の精霊王、ネフェルティマ嬢を離してやってくれないか?」


「なんじゃ。セリューノスもおったのか」


ようやく解放されて、新鮮な空気を思いっきり吸い込む。

空気がめちゃくちゃ美味しい!

大自然の中の、何も汚されていない空気だよ!


窒息を回避したとこで、私に抱きついた存在を見て、苦しかったのも納得できた。

大きいんだよ!

巨人っていうほどではないけども、森鬼より大きいので2m以上は確実にある。

そして、豊満な胸元も見事なものであった。

火の精霊王と呼ばれた彼女は、その名の通り火を身にまとっている。

髪の毛は炎そのもので、服装には炎の揺らめきがある。布っぽいのに炎で作られているのか、不思議な衣装だった。


「えぇ。今、愛し子をお守りしているのは、我が帝国なのでね」


陛下がそう言うと、それが気に入らないという態度で火の精霊王が何かを言おうとした。


「ファーレム、何事にも順序というものがある。今は下がれ」


それを遮ったのが、水の精霊王だった。

水の精霊王も髪の毛は水だし、精霊王の動きに合わせて波紋が広がる不思議な服を着ているのですぐにわかった。


「レムは学習しないねぇ。そんなんだから、ディーンに怒られるんだよ」


「創造主様よりいただいた名を、そのように省略されるのは好かぬ!」


「えー、レムの方が可愛いのに」


火の精霊王を怒らせているのが風の精霊王だろう。

髪や衣装が風ではためいているのでわかりやすい。

となると、残っているのが土の精霊王なんだけど、どう見ても寝ている。

水の精霊王以外、王としての威厳とかが感じられないんだけど大丈夫なのか?


「精霊王たちよ。愛し子が困惑しているぞ」


「それはすまなんだ。愛し子自体、久しいゆえ、はしゃいでしまったようだ」


火の精霊王は威厳のある言葉遣いではあるけど、出だしのあれで台無しだよね。

それにしても、私の周りにいた精霊たちは、アドやヴェルに見せてもらった絵そのままで可愛いかった。

精霊王たちは見目麗しいって思うけど、目が宇宙人のグレイみたいだから、生き物が持つ美しさとは異なっている気がする。

神様や女神様も人外ならではの美しさだったけどね。


「愛し子よ、よくぞ参った。我は水の精霊王アクディーン」


「妾は火の精霊王ファーレム」


「風の精霊王ウィーゼだよ」


それぞれが名乗りをあげる中、いまだに土の精霊王は眠っている。

水の精霊王が冷たい眼差しを送ったあと、土の精霊王の上に水の玉が出現した。

予想はついたけど、その予想通りに水の玉は土の精霊王の頭に落ちた。


「……冷たい」


「愛し子が来ているのに、いつまで寝こけている」


パチパチとまん丸お目めを瞬かせると、愛し子!と身を乗り出さんばかりの勢いでこちらを見た。


「本当だ!愛し子だ!私はグノーアスという、土の精霊王だよ!!」


「ネフェルティマ・オスフェです。精霊王様方にお会いできて光栄です」


めったにすることのない、自分よりも身分が上の者にする礼を取る。


「妾たちに礼は不要ぞ」


「そうだ。愛し子は創造主様が我らに与えし至宝だからな」


火と水の精霊王が言う。

至宝とは、これまた大げさな。

精霊王たちを観察しつつ、周囲の光景にも目を奪われる。

木々と蔦が複雑に絡み合い、大きなドームを形成しているが、あの森の中とは思えないくらい広い。

背後には大きな滝があり、あの水はどこから来ているのだろうか?

滝の下には池があって、とても透明度が高い。底にある石は、水の中でも精霊の属性を表す四色に輝いていた。


「精霊王よ。愛し子とは、どういった存在なのだ?」


陛下が精霊王に問うと、火の精霊王が笑った。


「そなたが妾たちに問うとは、珍しいの」


「……わかっていると思ったのだが、ネフェルティマ嬢を知れば知るほどわからなくなってしまった」


「今日は素直よのう」


揶揄(からか)うような口調ではあるが、陛下を見つめる火の精霊王の眼差しは優しかった。


「我ら精霊も聖獣も、創造主様が創りしものは、おしなべて世界の理の内にいる。それは理解できるな?」


水の精霊王の言葉に、陛下は頷いた。

私も大人しく、精霊王たちの言葉を聞いていよう。


「愛し子はその理の外に存在し、創造主様の意思も及ばぬ。だからこそ、創造主様は愛おしみ、我らも惹かれてやまないのだ」


神様に愛しまれているというより、(もてあそ)ばれているんだけどね。

神様にとっては、世界の理に関係のない存在が必要だということか。


「精霊王様たちは、愛し子以外に力を貸したりはできないのですか?」


少し気になったので、私からも質問する。

精霊術師がいるように、他の精霊は契約をして力を貸すことがあるのだから、精霊王ができないことはないはず。


「探せば契約に耐えられる者もいるかもしれないが、精霊王すべては無理だ」


「私たちに与えられた力は大きい。それこそ、この世界を滅ぼすこともできるくらいに。それを受け止められるのは愛し子のみ」


水の精霊王の言葉を土の精霊王が引き継いだ。

でも、私には彼らの言うことが理解できない。

だって、愛し子だと言われていても、私自身、ソルの力を操ることすらできていない。


「愛し子はすべての精霊、すべての聖獣、そして創造主様のお力をも借りることができる」


……ちょっと待って!

神様の力を借りることができるって、それってつまり……人間を滅ぼすルート確定したときか!!


土の精霊王が語ったことは、とてつもなく衝撃的なことだった。

精霊や聖獣は、神様が創った神様の力の塊みたいなものだ。

ソルが分身だと言っていたのもこのことだろう。

つまり、それはこの世界を創った力と同質なもので、神様が持っている力とは創造と破壊。

精霊や聖獣は世界の理を壊すようなことはしないが、唯一の例外が愛し子というわけだ。


「それは今までの愛し子もそうだったと?」


陛下も信じられないと驚いた表情をしていた。

そりゃあそうだよね。愛し子とはいえ、人の身で神様の力が使えるなんて、信じられないよね!


「左様じゃ。愛し子は創造主様が悩まれているときに現れる。世界のあり方がこのままでよいのかとな。だが、愛し子が国の礎を築いた方がよいのではないか?」


火の精霊王が言わんとすることを、陛下は気づいたようだ。


「我が帝国の祖となるロスランもまた愛し子だったからですか?」


えっ!?陛下のご先祖様も愛し子だったの!!


「そうだよ。ロスランは人とエルフの混血だったけど、あの時代は人が弱くて生きにくかった。だから、弱き者が安心して暮らせる国を作るのだと目をキラキラさせていたっけ。その次はギィだったと思うけど、ギィは頑固でね。よっぽどのことがないと精霊も聖獣も使ってくれなかったんだ」


風の精霊王が懐かしいと顔を綻ばせた。

そこから話が逸れて、ギィはああだったとか、思い出話に花が咲いている。

ギィは、ガシェ王国の初代国王なので、なんでもかんでも精霊に頼るのはよくないと思っていたんじゃないかな。


「ほんに、あれは頑なであった。だが、いい男でもあったのう」


「というか、精霊王に性別はないだろう」


間髪入れずに、陛下が突っ込む。

精霊王たちに対して気さくな態度をしているけど、付き合いが長いからかな?

……ん??


「火の精霊王様、女性じゃないの!?」


じゃあ、私を窒息させるほどの豊満なお胸は偽物だったのか!!

あんな柔らかい偽物があってたまるか!


「精霊に性別はないが、好きなように変えられるぞ」


そう言うやいなや、火の精霊王はみるみる姿が変わっていき、たくましい男性の姿になった。

男らしく格好いいが、美しさは損なわれていない。とんでもなく美丈夫だ。

そして再び姿が変わり、今度は男とも女とも取れる中性的な顔立ちになる。

そして、最初の女性の姿に戻った。


「自分が美しいと思う姿こそ、真の姿。そうであろう?」


どれも美しかったけど、やはり女性の姿の方がしっくりくるのは、言葉遣いや仕草が女性らしいからなのか。

私が驚いているのが面白いのか、他の精霊王たちもそれぞれの姿を見せてくれた。

みんな絶世の美女だし、絶世の美丈夫で、どんな姿だろうと精霊王は美しいというのがよくわかった。


「それとも、()の子の姿で愛し子に侍ろうかえ?」


火の精霊王がどんどん小さくなっていき、私よりも少し大きいくらいの男の子になった。

お兄ちゃんに勝るとも劣らない美少年っぷりに、惚れ惚れしてしまう。

悪ノリした風の精霊王も加わり、両側を美少年に挟まれるという誰得な状態に。


「ふざけるのもそれくらいにしておけ」


水の精霊王が注意してくれたおかげで解放されたけど、あれは心臓に悪い。

イケメンよりも美少年の方がドギマギするのは、幼いゆえの背徳感が原因か?

でも、ダオやマーリエにドギマギしたことはないな。

どちらかと言えば、母性愛に近い気がする。


「話を戻すが、創造主様は愛し子に託し、愛し子が定めたのなら、私たち精霊も聖獣もそれに従うまで」


ちょっとまだ混乱しているんだけど、結局のところ、神様が転生者を使って博打を打っているってことじゃないの!?

今までの愛し子は、この世界をよくしたいと思ったから国を興したりしたんだろうけど、私がその努力を無にする選択をする可能性もあるってことでしょう?

待てよ……。

ロスラン以前の愛し子が一度何かを滅ぼしていたとしたら?

滅ぼすのは人間だけとは限らない。

その時代に繁栄した種族が、今の創聖教のような考えをしていた可能性だってある。

例えば、魔族が繁栄していて、今と同じようなことが起こって、愛し子が滅ぼした。だから、新たに生まれた魔族はワジテ大陸で暮らすようになったとか。

まぁ、憶測だし、証明することはできないだろうけど。


「愛し子よ、そなたは常に創造主様より試されている。それゆえに、愛し子の周りには大きな力が集うのだ。何かを創るにしろ、壊すにしろ、思うがままに力を振るえるようにな」


確かに、生まれた家は王族とも所縁(ゆかり)のある公爵家で、権力はある。

聖獣のラース君と仲良くなったおかげで、私自身も王族に可愛がってもらっているし、仮とはいえソルとも契約をした。

森鬼が愛し子の騎士になって、私の周りに魔物たちも集まっている。

そして、ライナス帝国の皇族とも付き合いができた。

これで私に両親に似た美貌があれば、世界征服も夢ではなかったかもしれない。

だが、神様は私に傾国の美貌は授けてくれなかった。

別に世界征服にも美貌にも興味はないけど、周りがチートばかりなのは神様のせいだったと。

……やっぱり諸悪の根源は神様なんじゃないの?


「じゃあ、私が名前を付けた子たちも、そのために集められたのですか?」


「いや、愛し子が選んだということで、特別な力を与えられたのだ」


やっぱり、この子たちが普通とは違う進化をしちゃったのは私のせいだったか。

正直、どのくらい強いのか、能力を把握しきれてはいないけど。


「それにしても、愛し子に侍る魔物たちは物怖じしないね」


風の精霊王がニコニコと、大きな目を細めて微笑んでいる。

彼らが見ている方に視線をやれば、いつの間にか大運動会が開かれていた。

星伍(せいご)陸星(りくせい)、稲穂は縦横無尽に駆け回り、海は人魚の姿で水浴びを楽しんでいる。

そしてなぜか、グラーティアは空中浮遊している。

グラーティアに空を飛ぶ能力はなかったはずだが?


「もしかして、あの子たちも精霊が見えているの?」


「この空間は妾たちの力が満ちておるから、弱きものも見えるようになるのじゃ」


ということは、グラーティアは精霊に遊んでもらっているのか?

私が見ていることに気づいた精霊が何かを言うと、ふよふよとグラーティアがこちらにやってきた。

光の加減で見えたものに、そういうことかと納得した。

グラーティアめ、お尻から出した糸を精霊に持ってもらっていたわ!

揺らされたり、高速移動だったりと、なかなか楽しそうだ。


稲穂たちも気づいて、私の側に駆け寄ってきた。

きゅんきゅんと鳴いているけど、なんて言っているのかわからないので、森鬼に通訳をお願いする。


「退屈していたら、ナノたちが遊ぼうと誘ってくれたそうだ」


魔物たちにとっては退屈な話だったかもしれないが、一応、君たちも関係あるんだよ?

でも、精霊たちが子守りを買って出てくれたおかげで、精霊王たちとしっかりお話ができたけど。


「精霊さんたち、ありがとう」


お礼を言うと、(はね)をパタパタさせて喜ぶ姿が可愛い。

稲穂がまだ遊び足りないと、精霊たちに飛びかかる。

そして再び追いかけっこが始まった。

星伍と陸星もつられて追いかけっこに参戦するようだ。

他の子はと見回せば、(かい)は池の中で元気に泳いでいた。

元気な海というのが珍しすぎる!


「海、どうしたの?」


「ここの水、美味しい!お腹が、いっぱいになった!」


海のご飯は生き物の欲のはずだが、ここの水が欲と同じように空腹を満たせると!?


「その水は死者の世界より流れ落ちてきている。クレシオール様の慈愛は、空腹すらも満たしてくれるのだろう」


水の精霊王が教えてくれたけど、ここは自分で試してみるべきだな!

手ですくって、一口飲んでみる。

ついでに(こく)に成分分析もお願いしておく。

むっ!これは!!

あまり美味しくない!!

普段飲んでいるお水は、前世と違和感がないので軟水に似たものだと思う。

そして、この池の水は硬水に似ているのかも。軟水に慣れた身としては、美味しくないと感じるのも仕方がないよね。

成分に関しては、前例があるので驚きはしないけど、神様の涙だけしか検出されなかった。

肝心の、私のお腹が満たされたかというと、空腹を感じていなかったからよくわからない。

ただ、黒が喜んでいるので、黒のお腹は満たされたみたいだ。

食欲旺盛なスライムたちにとっては、魅力的な水に違いない。

現に、(はく)が大量に水を飲んで、倍以上の大きさになってしまっている。


「白、ほどほどにね」


-みゅぅぅ〜


池の中を漂う白はクラゲにそっくりだった。

なんだか酔っ払っているみたいになっているけど大丈夫なの?

そういう成分はないはずだけど、海の様子もおかしいし、ちょっと不安だな。


海と白を気にしつつも、ノックスはどうしているのか探したら、森鬼の肩で寛いでいた。

背中に精霊たちが乗っていて、お馬さんごっこをしているのが見えた。

ノックスも精霊が見えているようだけど、遊ばれても気にすることなく、たまに毛繕いをしている。

ノックスの止まり木と化している森鬼は、精霊たちに絡まれているのに、ほぼほぼ無視している状態だ。

君たちは君たちで、マイペースすぎやしないかい?


精霊たちが私にも遊ぼうと誘ってくるが、もう少し待っておくれ。

あと一つ、確認しておかないといけないことがあるんだ。


「精霊が見えるようになりたいのですが、どうすればいいですか?」


「炎竜は何を考えているのか……」


私の質問に、水の精霊王が理解できないというふうに首を振る。


「幼い愛し子を思うなら契約はしない方がいい。でも、他の聖獣らに愛し子を取られるのは嫌だっていうことじゃないかなぁ」


気持ちはわかるよと、風の精霊王が笑う。

契約者が幼いと、いろいろと不都合が多いんだって。

だから、成長するまで愛称で契約をすることは、私以外にもあったらしい。

思い立って、陛下は何歳で契約したのか聞いてみると、八歳のときだと言われた。


「ヴィルも八歳のときにラース殿と契約をしている。私たちは教育を受けているから、他の契約者より早くても大丈夫だと思ったのだろう」


さらに、陛下のご両親、先帝様は十歳のころ、皇太后様は十三歳のときに契約したと教えてくれた。

皇太后様は当時、別の国の王太子と婚約していたそうで、そのため将来王妃となるべく厳しい教育を受けていたと。

帝王学なり、一般よりも水準の高い教育を受け、自分で考え判断する力があるとわかれば、契約をしているのかもしれない。


「簡単な方法は、炎竜に真名を教えもらうことじゃが、妾たちと契約してくれてもよいぞ」


火の精霊王も面白がっているな!

ここで、精霊が見えるようになりたいからと、精霊王と契約してしまうのもどうだろう。

ソルがまだだと判断したものを、相談もなくやっては怒られそうだし。


「私は炎竜と同じく、契約は慎重にした方がいいと思う。愛し子の魂に細工がしてある以上、何が起こるかわからないし……」


「たましいにさいく……?」


土の精霊王の言葉、なんか不穏な響きがあるよねぇ……。

魂に細工だよ!?

神様、私の魂に何してくれちゃってんのさ!!


「確かに何かしてあるようだが、魂そのものは綺麗だぞ?どこに問題がある?」


水の精霊王が、魂は綺麗だと褒めてくれたことは嬉しい。

以前、海にもふもふ欲の権化、みたいに言われたことがあったし。

自分でも煩悩まみれだって思うし。

それで魂が綺麗だとは思わないよね。


「精霊の私たちや聖獣にとっては問題にならないだけ。だけど、創造主様がなんの目的もなく、こんなことをするとは思えない」


いや、するぞ!

あやつは面白そうだったら、私に対してなんでもするぞ!!

精霊王も自分で言っていたじゃないか、愛し子が世界の理の外にあると。

神様がちょっかいかけられる唯一の存在が私だからな!

……自分で言ってて悲しくなってきた。


「今はまだ、精霊の力を使うときは、そこの愛し子の騎士か聖獣たちに頼んだ方がいい」


細工とやらが安全なものか確認できるまでは、精霊はお預けってことですね。

くそぅ!あの厨二病め!!

どんな細工をしたのか、絶対に聞き出してやるからな!


「ネフェルティマ嬢は歳のわりにしっかりしていると思うが、炎竜殿にとってはまだ不足なのか?」


前世の記憶があるぶん、知能的には子供らしくないかもしれないけど、大人とは言い切れない部分もたくさんあるよ。

子供の頃は、二十歳になれば大人なんだと思っていた。

社会的に見れば大人なのかもしれないけど、精神的にはまだまだ子供だった。

就職して、たくさんの人と関わって、神経すり減らして、それでも大人のふりをしていただけなのかもしれない。

あのまま生きていたとしても、パパンやママンのような、素敵な大人になれたとは思えない。

環境が違うので比べるだけ無駄かもしれないけど、もし自分が親になるなら、今の両親のようになりたいよね。


「創造主様が施したものが、どう影響するかわからないというだけ。愛し子自体に問題があるわけじゃない」


「そうか。ネフェルティマ嬢なら、すぐに精霊が見えるようになるだろう。炎竜殿が心配性なだけだ」


陛下が慰めるように頭を撫でてくれた。

陛下もいいお父さんだよねぇ。

私のパパンには負けるけど!


「精霊のことで何か起きたなら、私たちの名を呼べばいい。大陸のどこにいても力を貸す」


「愛し子だけでなく、その騎士にも我らの名を呼ぶことを許そう」


えーっと、精霊王たちの名前って、火がファーレムで、水がアクディーン、風がウィーゼ、土がグノーアスだったよね?

よし、覚えたぞ!

……あれ?

王様からもらったペンダントの発動詠唱と同じだ!!

使う場面がめっちゃ限られる魔法と精霊王のダブル攻撃になっちゃう?

私が精霊王の名前を呼ぶことができるようになるとは、王様も思わないよね。

そのことを精霊王たちに告げると、陛下の方がドン引きしていた。

込められている魔法がどれも上級魔法で、広範囲に及ぶものだからだろう。

土魔法の『絶対不可侵』だけは狭いけど。


「ネフェルティマ嬢の身の安全が第一だが、なるべくそれを使わずにいて欲しい」


そうお願いしてくる陛下の気持ち、よくわかるよ。

私だって、嵐やら大津波やらの魔法は使いたくないもん。

ペンダント自体は凄く可愛いんだけどね。


「じゃあ、その魔石に私たちの力を宿そう。強く念じることで声が届くようになる」


「魔法を使うときは詠唱して、私たちのときは念じれば、使いわけができるってことか!」


風の精霊王が、頭いいーと土の精霊王を褒める。

精霊王というくらいなので、何ができても驚きはしないが、現物を持ってきていないんだよなぁ。


「今あるのはこれだけで、他は宮殿においてきてしまいました」


普段は防御系の土魔法を装備して、ドレスなど、おめかしが必要なときは衣装の色に合わせて変えている。


「大丈夫、大丈夫」


風の精霊王が言うと、大丈夫には聞こえないのはなぜだ?軽いからか?


「先ほどもグノーアスが言ったが、この大陸内なら、我らの力が及ばぬ場所はない。ここからでも力を送ることはできる」


水の精霊王がそう言うと、彼の手から青い光が放たれた。

続いて、火の精霊王が赤い光を、風の精霊王が緑の光を放つ。

光はレーザーのように細く伸びると一瞬で消えてしまった。

残った土の精霊王も、私の方に手を(かざ)すと、黄色の光が向かってきた。

反射的に目をつぶったけど、ペンダントのある胸元が仄かに温かくなった。


「終わった」


土の精霊王の声で、目を開ける。

ペンダントがどうなったのか確認すると、黄色い魔石の中に動くものがあった。

魔石の色よりも濃い、黄色の(もや)みたいなもの。

ペンダントの動きに合わせて、靄も動く。

スノードームに似ている気もするが、この動く靄が精霊王の力ってこと?


「普通に名を呼ぶだけじゃ、聞こえても動かない。その魔石に念じるか、壊れたときも動いた方がいい?」


土の精霊王は、他の精霊王たちに確認も兼ねて話しかけた。

だけど、火の精霊王は受け入れられない部分もあるようで、少し不満そうにしている。


「名を呼ばれたら、様子くらいは(うかが)うかもしれんが……」


「そんなこと言って、会う前から小さいのを通して愛し子を見ていたくせに」


風の精霊王は、火の精霊王が何かを言ったら、茶々を入れずにおれない性分なのか?


「お主だって同じであろう!」


「そりゃあ、ぼくは風だからね。風はどこにでも吹いているし、ぼくはどこだって行けるさ」


風は自由だよね。

地球だと、風のメカニズムは科学の力によってほとんど解明されているが、こちらの世界ではほぼ精霊の仕業なのだ。

たまに、精霊が気分で天気を決めることもあるらしい。

晴れているのに雨が降る。日本で狐の嫁入りと呼ばれる現象は、水の精霊がご機嫌なときに降らせているんだって。

ご機嫌な雨は、少しだけ植物の成長を助ける作用があり、農家ではお天気雨があると吉兆として喜ばれている。

考えてみれば、神様を信仰していると言っても、人々の暮らしに根づいているのは女神様と精霊の方なのかもしれない。

女神様と違い、人々に関与できない神様は、信仰という神にとって重要な部分でも淋しかったのかな?


「愛し子が、我らに助けを求めることがないといいが。ここに来るのはいつでも歓迎いたすからな」


ソルが言った通り、個性的な精霊王たちだが、水の精霊王が一番理性的な感じがする。


「いつでも大歓迎だよ!ロスランなんて、王様になってからの方が頻繁に来てたくらいだしね」


「そうじゃったな。妾たちは人の機微(きび)とやらを理解できぬから、心内を吐露するのにうってつけだったのじゃ」


ようは、わざわざ愚痴を吐き出すために、精霊宮まで来てたってこと?

そして、精霊王たちに愚痴を言いまくったと??

なんか、ロスランのイメージが最初とは違うんだけど……。


「国を興すということは、継続するよりも難しい。私には想像するしかできないが、信用のおける臣下が揃うまでは大変だったと思う」


自分のご先祖様を思い、代弁する陛下の顔は無だった。

想像を絶する、もしくは想像もしたくはないくらい、陛下にとって最悪な状況なのか。

ということは、ロスランが経験したであろう苦労はとんでもないレベルだったってことだね。

だから、子供のうちから、自分の臣下を見つけるという習慣ができたのかもしれない。


「長くなればなるほど、続けるのだって大変だと思います」


陛下だって、苦労してないわけじゃない。

こちらの世界には寿命の長いエルフだっている。

あの皇帝の時代はよかった。今はダメだとか言われることだってあると思うし、ずっと同じ方法で国を治めることなんてできないだろう。

国を興すのも続けるのも、本当に大変そう。私には無理だな。絶対に向いていない!


「ありがとう。ネフェルティマ嬢が国を興すなら協力は惜しまないよ。いつでも言ってくれ」


「そんなことにはなりません!!」


どう考えても、私に一国の王が務まるとは思えない。

自分の性格は自分がよく知っている!

周りに全部丸投げして、引きこもる私が見える!!


楽しい時間は倍速で進むものなので、帰る時間になってしまった。

陛下もお忙しい身なのに、連れてきてくれたのは本当にありがたい。

帰り道は行きよりも時間がかかってしまったため、陛下に大丈夫かと聞いた。


「これを想定して、早めにお(いとま)をしたから大丈夫だよ」


精霊王がいる空間への入口がコモリザエの脚の間なら、もちろん出口も同じだ。

コモリザエが移動すれば、帰り道も変わり、距離が遠くなることだってある。

そういう想定だと思っていたら違ったんだ。

陛下が想定していたのは、私が動物たちに捕まる時間だ。

次から次へと出てくる珍しい動物を、私が観察したり、触ったりできる時間を作るためだった。

さすが陛下!

一度だけなのに、よく理解していらっしゃる。

魅力的なもふもふや、生き物の不思議を目の当たりにしたりと、帰り道も凄く楽しかった。


宮殿に戻り、陛下にお礼を言ってから別れた。

スピカとパウルがお出迎えしてくれたけど、なぜかスピカが疲れきっている。

パウルにこき使われたのか!?

ちゃんと休憩取らないとダメだよ!

パウルに説明を求めたら、ただの訓練疲れですと言われ察した。

パウルと訓練だなんて、鬼厳しいに決まっているもんね!


部屋にたどり着くと、それだけでなんか安心した。

雰囲気や匂い、そしてお姉ちゃんの姿があることが何よりも嬉しい。


「おねえ様!」


「お帰りなさい、ネマ」


お姉ちゃんに抱きつくと、懐かしい匂いがした。

ライナス帝国に来てから、お姉ちゃんは香水を変えた。

ママンが愛用している香水に。

それが、私のためだって知っている。

こうやって、外から帰ってきたときに、お家だと感じられるからだ。


「精霊宮は楽しかったようね」


楽しかったと肯定すれば、ネマの顔を見ればわかるわと微笑まれた。


「まずはお茶にしましょう。ゆっくりネマのお話を聞きたいもの」


お姉ちゃんの提案で、すぐにシェルがお茶を用意してくれた。

お菓子も一緒に出してくれたので、それを摘まみながら、精霊宮でのことを話す。

パウルから許可をもぎ取り、スピカも同席させることに成功したよ!

私が帰ってくるのに、疲れさせたパウルが悪い!


ペンダントの話題になり、他の魔石がどうなっているのかを確認してみることにした。

パウルに出してもらうと、やっぱり靄のようなものが内部にある。

それぞれの精霊色よりも濃い靄を光に(かざ)してみた。


「とても綺麗ね」


私と一緒に覗き込んだお姉ちゃんが、うっとりした声を出す。

お姉ちゃんも見惚れるくらい綺麗なの!

靄に光が入ると、淡い虹色の輝きを放つ。靄が動くことによって、赤が強くなったり、緑が強くなったりと、絶えず変化し続けている。

ふと思ったのだが、これは国宝級を越えた恐ろしいものなんじゃなかろうか?

一国の王が作らせたものだ。魔石も最上級の品質だと思うし、魔石のカッティングは名だたる職人だろうし、王国騎士団の特殊部隊魔術隊の特級魔術師がやったと教えてもらった。

この段階では、王様から贈られた我が家の家宝となるが、それでも価値はとんでもなく高いよね。

そこに、精霊王の力が込められたとなれば、国宝として献上せよと言われてもおかしくはないと思うし、これを巡って死人が出るかもしれない。


「パウル、厳重に保管しておいてね」


恭しく畏まりましたと魔石を受け取る。

衣装部屋に仕舞いにいくパウルの姿を見て思った。

おっそろしいものを手にしてしまっている。

身につけるときは、服の下に隠すことにしよう!


やったね、ネマ!世界征服も夢じゃない!!


次回は閑話で、お話している間の魔物たちの様子をお届けします(笑)

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