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ぎゅーっは愛情です!

ヴィたちが帰国すると、宮殿ではロスラン計画が本格的に動き出した。

つまり、ルイさんやテオさんは忙しくなり、利益に敏感な貴族たちも水面下での根回しなんかが盛んになっているらしい。

例のライナス帝国の名産品をブランド化しようぜ計画なんかは特に、貴族の食いつきがいいらしい。

なんで私が知っているのかと言うと、ルイさんが情報を流してくれているのもあるが、ほとんどは我が家のスーパーマルチな使用人たちが掴んできた情報だ。

まぁ、この計画によって、私に擦り寄ってくる貴族が増えるんじゃないかっていう懸念からなんだけどね。


それよりもだ、私の課題はダオとマーリエをどうやって呼び出すのかをまだクリアしていないのだ!

貴重な同世代の遊び友達なんだし、気兼ねなく遊びたいじゃないか!

毎回陛下の手を煩わせるのも申し訳ないし、何かいい方法がないものだろうか?

……そうだ!いいこと思いついた!

早速、パウルを呼んで、準備に取りかかる。


「ネマお嬢様、例のお返事が届いたようです」


「ほんと!?」


パウルから受け取った手紙には、初めて見る紋章が描かれていた。

いそいそと開けて手紙を読むと、狙い通りのことが書いてあった。

手紙の相手は、マーリエの父親。

パーティーのときくらいにしか見かけたことないけど、マーリエの母親よりは接触しやすかったのだ。

トゥーエン・タウ・ライナス。

陛下のお兄さんで、マーリエのお父さん。

ご挨拶したときの感じだと、存在感の濃い兄弟たちの手綱を握る保護者的な存在。

パウルの調べでも、ヤバそうな貴族との繋がりもなく、陛下を支持する筆頭なんだとか。

つまり、母親がダメなら父親で作戦だ!

ダオとマーリエと遊びたいけれど、ガードが固くて近寄れません。

お力をお貸しくださいとお願いしてみたの。

そうしたら、大人の都合に子供たちを巻き込んでいるのは、私としても不本意である。

貴女がダオルーグとマーリエと仲良くしてくださるのは、願ってもないことだ。

周りのことはこちらでどうにかするので、遠慮なく誘ってあげて欲しい。

とお返事が来たので、すぐにダオとマーリエに約束を取りつけた。


「ちょっと、ネマ!貴女、どんな手を使ったのよ!」


久しぶりに会ったというのに、肩を掴まれガクガクと揺さぶられる。

君もお嬢様なんだから、少しは落ち着こうぜ!


「どんなって、マーリエのおとう様にお願いしてみたの」


「…お父様が?わたくしでも、そんなにお会いしたことないのに…」


えっ!?

ちょっと、どういうこと!!

今度は私がマーリエの肩を掴む。


「マーリエ、おとう様といっしょに住んでないの?」


「えぇ。だって、お父様は皇族でしょう?わたくしはお母様と一緒に、お母様のお屋敷で暮らしているのよ」


今の皇帝陛下のご兄弟は皇族だけど、その配偶者や子供は違う扱いだっていうのは知っていたけど、まさかの一緒に住んでいないとは!!


「じゃあ、どういうときに会うの?」


「宴のときとか、お父様がお母様に会いにくるときとか…」


それじゃあ、ほとんど会えていないってことだよね。

そういう習慣なのかもしれないけど、第二次成長期が始まる前にちゃんと親子としての関係を確立していないと、お父様なんて嫌いよ事件が発生するかもしれないんだぞ!

洗濯物を一緒にしないで事件は発生しないのが、せめてもの救いか?

いや、別の事件が発生するかもしれないよね?


「マーリエはおとう様のこと好き?」


「…わからないわ。しゃべったことはあっても、社交的なものだったし」


さらに詳しく聞けば、抱っことかされた記憶もないらしい。

母親にもされたことがないから、今までなんとも思わなかったんだって。


「ネマは、ルイベンス殿下やテオヴァール殿下に抱っこされていたでしょう?無礼に当たらないのかって、驚いたのよね」


「……もしかして、ダオも?」


いつも一緒にいるマーリエが驚いたと言うのなら、ダオもそうなんじゃないかと思って聞いてみたら肯定された。

ダオも両親に抱っこされたことがないと言うのだ。


「クレイ兄上はぎゅーってしてくれるから好きだよ」


まぁ、クレイさんは弟たちのことを可愛がっているようだから、好かれているんだろうっていうのはわかる。

あのチャラ男もなんだかんだ言いつつも、クレイさんには気を許している感じがするしね。

あんまり他所様の家庭のことに口を出すべきじゃないとわかっていても、この状況はなぁと頭を抱えたくなる。


「そうだ!今、へいかもマーリエのおとう様もお仕事をしていると思うから、少しのぞきに行かない?」


「邪魔になるからだめだよ」


ダオが即座に止めに入るも、私は諦めないぞ!


「二人だって、親と仲良くなりたいでしょ?でも、いきなりだとどうしていいかわからないと思うから、まずはかんさつよ!」


見るだけだと、お仕事の邪魔はしないからと説得して、仕事風景を覗きに行くことに。


「本当に大丈夫なの?怒られても知らないわよ?」


二人は不安そうにしているが、自分の子供が淋しくて会いにきたというのに怒る親はいないだろう。

もし、怒ったら、私が説教してあげる!


「大丈夫!」


というわけで、星伍(せいご)陸星(りくせい)の出番だよ。

どこの部屋でお仕事しているかわからないので、二匹に探してもらうのだ。

二匹は陛下の匂いを覚えているということで、迷うことなく廊下を進んでいく。

そのあとをついて行くと、入ったことのない場所に来てしまっていた。

ダオやマーリエも来たことはないらしく、ダオはマーリエにくっついてビクビクしていた。

二匹がここだよと、扉の前でお座りしたので、そっと開けて中を覗いてみる。

うーん、よく見えないなぁ。

ちょっと場所を譲って、ダオとマーリエにも覗いてもらう。


「あ、お父様がいたわ」


マーリエはちゃんと姿が見えたらしい。

ダオの方はどうだろう?

私も隙間から覗いてはいるが、陛下の姿を捉えることができない。


「まずいわ。宰相様に見つかった…」


マーリエが慌てて扉から離れると、私とダオのことを引っ張った。

急なことだったので、扉から離れる前に尻もちをついてしまった。

ゆっくりと扉が開き、エルフの女性が出てきた。

すぐに扉は閉められたので、陛下やマーリエの父親にはバレていないと思う。


「こんなところでどうなされたのですか?」


あー、宰相さんのお名前なんだったっけ?

えーっと、確か……。


「ゼアチル様…」


そうそう。そんな感じだった。

水の精霊と仲がいい一族のエルフで、白髪に近い、薄い水色の髪が印象的だった。

土の精霊の一族は小さくて可愛かったけど、水の精霊の一族はこれぞエルフ!っていうくらい美人さんなんだよね。


「陛下方にご用でも?」


「ダオとマーリエが、おとう様のお仕事しているところを見たことがないって言ったので、のぞきにいこうって私がさそったのです」


宰相とか、国政を担っているような人には嘘は通じないことが多いので、こういうときは素直に白状した方がいい。


「そうでしたか。今はロスラン計画の各地での動きを確認しているところです。少しだけ、見ていかれますか?」


「いいのですか!?」


見てもいいと言ってもらえるとは思わなかったので、正直驚いた。


「父上の邪魔にならないかな?」


ダオは陛下の邪魔はしたくないと、ずっと気にしているようだ。

なんか、健気というかいじらしいというか。本当は甘えたいのを、我慢しているんだろう。


「ご心配なさらずとも、大丈夫です。ダオルーグ殿下のお勉強でもありますから」


「…僕のお勉強?」


「えぇ。殿下は皇族であらせられるのですから、いずれ、どのような形にしろ、国政に関わらなければなりません。きっと、学べることがあるはずです」


ダオは皇族として、どうすればいいのか決めかねているんだと思う。

自分が聖獣に選ばれるわけないと決めつけていても、兄弟の誰かが皇帝になったときにどうすればいいのかまではわからない。

クレイさん以外の兄弟は、あまりダオのことを気にかけていないというか、突き放しているところがあって、そういった話をできるような関係ではない。

まだ幼いのに、周りの大人を上手くあしらえって無理だよね。

宰相さんはそんなダオのことを気にかけてくれているのだろう。


「ダオ、行ってみましょう!」


勇気づけるように背中をポンッてすると、小さくだけど頷いてくれた。


「大丈夫よ、ダオ。私もネマも側にいるんだから!」


そうそう。一人じゃないんだから、怖いことはないよ。きっと!

私とマーリエでダオを挟むようにして、ゼアチル様のあとについて部屋の中に入る。

壁際に案内され、ゼアチル様は口元に指を当ててしーって合図をした。

美人なゼアチル様がしーってすると、なんだか色っぽいな。


「大工組合が大まかな設計図を早速作ってくれました」


机の上に広げられている大きな紙が設計図なんだと思う。


「設計図?初めて見る描き方だな」


「なんでも、ガシェ王国の大工組合が提唱した平面図という技法で描いたものだと言っておりました」


おっと。ライナス帝国の大工組合にも平面図が伝わっていたらしい。

職人さんって、新しい技術や知らない技術には貪欲だもんね。

組合で情報共有しててもおかしくないか。


「やはり、高くなればなるほど、強度が必要か。精霊石で外的要因を取り除けたとしても、建物そのものの重みが懸念されるか……」


そうだよね。セメントとか、地球の素材があればまだしも……。

あれ?鉄筋コンクリートって、真ん中に鉄骨が入っているんだよね?

それ、こっちでもできるんじゃないかな?

あとで聞いてみようかな。


「その他の施設は特に問題はないのですが、ロダンを予定よりももっと大きくしたいという要望も出ておりまして」


大きなお風呂は正義だよ!

小さいのは問題だけど、大きすぎて問題になることはないから、ぜひとも大きくして欲しい。

さすがにロダンが大きい方がいいというのは陛下もわかっているようで、好きにしていいと許可していた。

他には、資材の調達をどうするかとか、ロスラン計画の予算編成の話をしていた。

金額の桁が予想よりも多くてビックリしたけどな!


別の扉から男性が入ってきて、なぜかこちらを睨みつけてきた。


「なぜここにダオルーグ殿下がいらっしゃるのですか?」


男性がそう発言したことで、陛下たちが私たちの方を見た。

たぶん、部屋に入ったときから気づいていたんだとは思うけど、優先すべきは会議ってことであえて無視していたんじゃないかな?


「陛下方のお仕事をしているところを見学したいと仰られたので、私が入ってもいいと許可をしました」


ゼアチルさんが経緯を説明してくれた。

子供たちの方からアクションを起こすことが珍しいからか、陛下は優しい顔をしている。


「ダオが興味を持つなんて珍しいな」


そう話しかけられたのに、ダオは顔を下げてしまい返事をすることができなかった。


「おとう様のお仕事をしている姿はかっこいいから見た方がいいと思って」


「仕事をしている姿が格好いい?」


陛下がそう聞いてきたので、私は力いっぱい肯定する。


「私のおとう様はすごくかっこいいですよ!ふだんはちょっとざんねんなところもあるけど、お仕事しているときはキリッとしているの」


ほんと、子煩悩なパパンのときは残念なイケメンなのに、お仕事しているときはピリッと怖い感じがまた格好いいんだよ!


「ネフェルティマ嬢はお父上のことが好きなんだね」


「おとう様だけじゃなくて、おかあ様もおにい様もおねえ様も、家族はみんな大好きですよ」


皇族だと、家族のふれあいもままならないのはわかるけど、陛下はもっとお父さんした方がいいよ!


「ここは子供の遊び場ではないのですよ。いくら国賓とはいえ、立場はわきまえていただかないと」


うぐっ。正論なだけにごめんなさいとしか言えない。


「サリアス、よい」


陛下が間に入ってくれたけど、そもそも彼は何者なんだろうね。

宴で会った記憶はないと思うんだけど。


「サリアス様って、私たちやアイセント殿下にはとても厳しいのよ。テオヴァール殿下方にはそうでもないのに」


マーリエがこっそりと教えてくれた。

どうやら、陛下の側近の一人らしい。

子供が嫌いなのかな?

なんだか、家庭教師のアンリーと似た感じがする。

陛下がサリアスさんの相手をしてくれている間に、マーリエは父親に話しかけられていた。


「マーリエ、久しぶりだな。ダオルーグたちと遊んでいたのか?」


「お久しぶりです、お父様。お父様がお許しくださったので…」


絶対、親子の会話ではない。

めっちゃ距離があるよね?


「いや、マリエッタがネフェルティマ嬢との交友を邪魔していたことに気づかなくてすまない」


マリエッタというのが、マーリエの母親だ。

マーリエの父親のトゥーエンさんにお願いしたときに、いろいろと調べてくれたようだ。

そしたら、ダオに出したお誘いも、彼女が手を回して、ダオの耳に入る前に潰していたらしい。

だから、陛下経由でないと、ダオを誘い出せなかったんだな。


「お母様もわかってくださると思います。ネマがいい子だということを」


マーリエの方がいい子だよ!

というか、周りの大人が言っていたから、私のことを警戒していたらしい。

ダオやマーリエの周辺にいる大人に、私はどんな悪女だと思われてんのか、逆に問いただしたくなるよ!


「そうか……」


トゥーエンさん、そこは嘘でもいいから同意してあげて!

マーリエ母の性格上、私との交友を認めないだろうけど、それを悟らせてはダメだ!

よし、話を変えよう!


「トゥーエン様はどんなお仕事をされているのですか?」


当初の目的を思い出せ。

父親の働く姿を二人に見せたかったのだ。


「わたしはセリュー、陛下の補佐的なものが多い。今なら、ロスラン計画について情報を精査したり、根回しをしたりだな」


ふむふむ。

ルイさんよりも事務的なことを行なっているってことかな?

ルイさんも陛下のお手伝い的なことをしているけど、視察とか外に行くことが多いって言ってたし。

お二人の性格を見るに、適材適所ってやつなんだと思うけど。


「今度ヘリオス領に建てる塔の設計図を、お前たちも見るか?」


サリアスさんとの話がひと段落したのか、陛下がそう提案してくれたので、一も二もなくぜひともと即答した。


「陛下!部外者に重要機密を漏らしては……」


「ネフェルティマ嬢は部外者ではないし、ダオとマーリエは他言することはしない。そうだろう?」


問いかけられたダオとマーリエは、絶対に他の人にはしゃべらないとその場で誓った。


「子供の言うことを鵜呑みにされては」


「サリアス様にはお子様はいらっしゃらないのですか?」


失礼だが、それ以上は言わないよう、口を挟ませてもらうよ。

見た限りでは、サリアスさんは四十代くらいなので、子供がいてもおかしくない。


「…二人いますが、それが?」


「自分の子どもが言うことも、あなたは信じないのですか?」


陛下は自分の息子と姪だから、可能な範囲でロスラン計画を教えてくれようとしていた。

確かに、臣下としては注意をしなければいけないんだろうけど、貶めるような発言は二人が傷つくからやめて欲しい。


「信用に値するとでも?」


自分の子供でも信じないのか!?

父親失格では?


「では、言い方を変えますね。子どもの前で、いいところを見せたいという父親の気持ちもわからないのでしょうか?」


普段父親らしいことをしていなくても、子供の前だと見栄を張っちゃうお父さんは多いと思う。

まぁ、陛下たちは見栄を張らなくても、凄い人たちなんだけどさ。


「そもそも、子供といる時間が無駄です」


あ、これはダメだ。


「そうですか。でも、子どもたちもあなたのような方は好かないでしょうし、お互い近づかない方がいいのかもしれませんね」


きっぱり子供が嫌いだと言って、距離を取っているならば、子供も過剰な期待はしないだろう。


「子供が親を嫌うわけないでしょう」


私はてっきり、そうですねって言う肯定が返ってくるとばかり思っていたんだけど、この人なんて言った?


「いや、きらう子もいますよ?」


思春期の子供なんて特にそうだろう。

自分で決められることが増えていって、自分でできると思うようになると、いつまでも小さな子供扱いをする親をウザく感じたりする。

私自身は反抗期もなく、前世の親とは良好だったけど、それでも親が鬱陶しいと思うこともあった。

高校生になれば、父親と兄の洗濯物を一緒にされるのが嫌だと言った記憶もある。

世の中の父親はショックかもしれないが、あの時期の女の子はそういう生き物だと思って諦めよう。


「親を嫌う子供がいると?」


「親らしいことをせずに、親だからむじょうけんで好かれるって虫がよすぎるでしょう?」


私のお祖母ちゃんはママンが苦労しないようにって、ちょっと過干渉気味だったからママンに距離を取られちゃったけど、不干渉すぎてもよくないのは間違いない。


「血がつながっていても、いっしょにすごしてきずなができなければ、他人と同じなんですよ」


「ネフェルティマ嬢、私にも耳が痛い話なのだが…」


さすが陛下!ちゃんと気づいてくれたね!


「へいか方にも言っているんです!家族といっしょにいる時間を大切にしないと、おとう様きらいって言われちゃっても知らないですよ?」


ちなみに、我が家では『お父様嫌い』は封印されし言葉だ。

言ったら最後、致命傷となってパパンが死んでしまうのは目に見えている。


「…それは恐ろしいな」


「うちの王様も、よく王妃様とヴィとでお茶の時間をすごされてますよ」


さすがに毎日ではないが、三日に一度の割合で王様が顔を出すらしい。

私はなかなかタイミングが合わず、同席できたことは少ないけどね。


「なるほど、円満の秘けつってやつか」


「だから、へいか方もがんばって家族の時間を作ってください!サリアス様もですよ?」


下手したら、もう修復不可能かもしれないけれど、子供が大きくなればまた変わってくると思うから、頑張って。


「…そんな時間はありません」


子供に嫌われているかもしれないということが、少しは彼の意識を変えたのか、先ほどのような威勢は感じられなかった。


「ゆうしゅうな人ほど、時間のやりくりがうまいので、時間は作れます!ぜったいに!」


優秀って、頭がいいとかではなくて、自分の使い方を知っている人なんだよねぇ。

だから、効率がいいんじゃないかな。

本当に忙しくて休みがないとかだったら、落ち着いたときにたっぷり休みをもらって!有休申請して!!


「へいかもサリアス様が休み取りたいって言ったら、ゆるしてくれますよね?」


「もちろん。サリアスは働きすぎるから、たまには長期休暇を取ってみたらどうだ?」


「何かをしていないと落ち着かない性分でして…。でも、検討はしてみます」


子供との関係がこれで改善するといいね。


「でも、お父様はお忙しいのに…」


マーリエはまだ遠慮しているのか、どこか不安そうな顔をしていた。

父親に甘えたことがないせいかもしれない。


「マーリエ。ネフェルティマ嬢が言っていた通り、時間は作ろうと思えば作れるんだ。今までそれをしなかったのは、わたしがお前たちに甘えていたからなのだろう」


「皇族であるお父様を支えるのは当然のことです」


ひょっとしたら、ダオよりも父親に関してはマーリエの方が根が深いのかな?


「違うよ、マーリエ。家族は互いを支えるものなんだ。わたしは両親からそう教わったはずなのに、本質を理解できていなかったんだな」


兄弟仲がいいから、自分はできていると思っていた可能性もあるね。

家族と一括りにしても、親兄弟と妻子供はやっぱり違うし。


「抱っこをお願いしてみたら?」


甘え方がわからないマーリエに、そっと耳打ちする。

マーリエが遠慮していたら、トゥーエンさんもどこまで積極的にしていいのかわからないだろうし。

子供の特権は、利用できるうちに利用しておくべきだよ!


「……あ、お父様と一緒にいてもいいのでしょうか?」


「もちろんだ。おいで、マーリエ」


両手を広げて、マーリエを受けとめる体勢をするトゥーエンさん。

マーリエは戸惑っているというか、怖いのかな?

なかなか動き出さないので、私が思いっきり後ろから押してあげた。

私の力なんてたかが知れているけど、マーリエは一歩二歩と足を出した勢いで、トゥーエンさんへ近づいていった。

結局、半分すぎたらトゥーエンさんがお迎えに行ったけどね。

ぎゅーって抱きしめるトゥーエンさんは、マーリエのことが愛おしいって顔をしていた。

うんうん。マーリエはいい子だし、可愛いし、すぐお嫁さんにいっちゃいそうだから、独り占めするなら今のうちだよ。

マーリエは、どんな顔をしているかな?

こちらからは見えないけど、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているか、嬉しくて泣きそうになっているか…。

どっちでも可愛いな!見られないのが残念だ。

さて、ダオの方はどうだろう?


「ダオ?」


陛下の前で、どうしたらいいのかわからないと、固まってしまっていた。

私が声をかけると、泣きそうな顔がそこにあった。

私に気づいたダオは、急いで私の後ろに隠れる。


「無理…。なんて言えばいいのかわからない…」


観察だけの予定が、思わぬ方向に行ってしまったから、混乱しているのかも。

ごめんよ、ダオ。私の作戦ミスだ。

でも、チャンスは逃してはならない!


「大丈夫。ダオが思っていることを、へいかに伝えてみようよ」


「やだ。恥ずかしい」


即、拒否された。

だが、恥ずかしいなんてことはないぞ!

ダオに向き合い、彼の両手を取って説得する。


「ダオ。小さいとかわいいはぶきなのよ!星伍と陸星を見て!かわいいでしょ?つい、見てしまうでしょ?」


なぜ急に星伍と陸星の話をし出したのかと、ダオが首を傾げている。


「子どもの、しかも、小さくてかわいいって言ってもらえる時期なんて、あと二、三巡くらいしかないのよ?それをゆうこうに使わなくてどうするの!」


抱っこが許される時期は短い。

男の子ならなおさらだ。


「おさないからってゆるされるはんいは、意外と広いのよ。そして、大きくなるにつれて、どんどんせまくなっていくわ。だから、今、ゆるされることをやらないと損だと思わない?」


今しかできない、小さくて可愛いから、つい許しちゃうを最大限に利用するのだ!

子供に与えられた武器なのだから!!


「ネフェルティマ嬢、まるで戦に出陣する前の演説のようだよ…」


陛下が笑っているが、ある意味生死が関わっていると言っても過言ではないんだぞ!


「へいか、子どもは一人では生きられないんですよ?だから、同情でもなんでもいいので、情を大人からもらわないといけないんです」


たとえ、衣食住に恵まれていても、それは同じだと思う。

人と関わらないと、心が育たないからね。


「なるほど。子供にとっては生きるための戦術というわけか」


「それに、人に愛されたことのない人が人を愛することができるでしょうか?ダオが皇族として民を愛せるかは、へいか方にかかってますよ」


ダオが皇族として自覚が薄いのも、民とどういうふうに関わっていいかがわからないのもあるかも。


「そうだな。私はダオにも、この国と民を愛し、ともに治めてもらいたいと思っている」


「ほらね。へいかはダオのこと、じゃまだと思ったりしないし、ちゃんと愛してくれているよ。だから、甘えてもゆるしてくれるって」


父親の邪魔をしたくないという、不安に思っていたことは、何も心配しなくていいんだよ。

そう励まして、ダオを陛下の方に連れていく。

陛下の正面に来ると、陛下は膝を折り、ダオと視線を合わせた。

そして、力強く抱きしめて、ダオに言った。


「淋しい思いをさせてすまなかった。私も(きさき)も、ダオのことを愛しているよ」


固まっていたダオが、おずおずと両手を陛下の背中に伸ばすのを見て、達成感を得た。

ダオもマーリエも、今は絶対的安心感に包まれているだろう。

二組の親子を見ていたら、私も両親が恋しくなってきた。

私に何かを尋ねたあとに「ん?」って少しだけ首を傾げるパパンの仕草とか、優しく撫でてくれるママンの手とか。

普段の何気ないことでも、両親の愛情を感じられていたんだね。

今日はお姉ちゃんにいっぱいぎゅーってしてもらおう!

…骨が折れない程度にね。


ダオとマーリエの可愛さを、半分も表現できていない!!

人見知りな子供が、親の後ろに隠れながらもこっちを窺うの、めっちゃ可愛いですよね!!

もじもじして恥ずかしがっているのも可愛い!!

そんな可愛さを表現したかった……。


コミック2巻のお知らせを活動報告にあげております。

あと、9話も本日更新です!!

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