とんでもないものが届いた!
帰りの道すがら、思いついたことを陛下にしゃべった。
もし実現できれば、絶対に面白いと思うんだ!
ヘリオス伯爵の屋敷に戻って、休む間もなく話し合いとなった。
「ネフェルティマ嬢が面白い案を出してくれた」
あの絋深の森周辺でロスラン計画の一部をやるとしても、何もなさすぎだった。
そこで、ないのなら作ってしまえばいいんだよ!ってことで、あの円柱の崖の上に塔を作ったらどうだろう。
ただの塔ではない。絋深の森の樹々よりも高い塔だ!
そして、天辺には展望室を設ける。
精霊宮が見えたら、感動するよ。ラーシア大陸の真ん中だよ!愛を叫ぶしかないよね!きっと恋愛成就のご利益もあると思うよ!
「とうの中に、ぼうけん者組合の受付作って、くんれん場も上に行けば行くほどむずかしいの」
「訓練場を色別に分けるってことかな?」
ルイさんが質問してくれたが、そうではない。
ファンタジー設定によくあるアレだ。
階層が増えるにつれて、モンスターが強くなっていって、もらえる経験値も違うみたいなやつ。
「色にこだわらなくても、その強さに自信があるならいいと思うの」
自分の強さがどれくらいなのか、知りたいよね?
冒険者の色は、依頼をこなした経験も加味されるから、上に行くには時間がかかる。
でも、強さだけなら自信があるっていう人もいると思うし、強くなっていくのが見てわかるのも嬉しいよね。
「しかし、あの森よりも高い塔というのは難しいのでは?」
そこなんだよねぇ。
王宮や宮殿も大きくて高い建物ではあるけれど、塔単体で高い建物というのがない。
あっても十階未満の塔で、あの木の高さはもっと高い。おそらく、三十階くらいの高層ビルと同じくらいはありそう。
そこで、どうやったら高い塔を建てることができるのか。
建築系はまるで門外漢だけど、これでも地震大国に生きていたのだ。
大事なのは基礎工事。あの円形の崖を利用すればいい。
柱や梁は魔法で強度の強いものを使用して、他の部分は木材にすれば、重さの負担が減る。
あと、やっておいた方がいいかなぁって思っているのが、制振制御装置をつけること。
高い建物は風でも揺れたりするからね。
確か、振り子の原理がどうのこうのって……。
あ、無理だわ。振り子の原理ってことは物理学でしょ?わけのわからない数式が出てくるやつでしょ?
1ミリもわからないよ!
風が原因なんだから、風が抜ける穴を……。
それはそれで怖いな。穴を作った階層の強度が不安だ。そこからポキッと折れたらどうしよう…。
うーん、困ったぞ!
そうか!防御と考えればいいのか!!
外壁に文様魔法を施せば、建物自体の強化はできる。
でも、風は自然現象だから防げないか。もっと特殊な……。
「あ、精霊石!」
あれは確か、自然現象もある程度防げるとママンが言っていたはず。
ただ、あれは精霊王から直接もらうしか入手方法がないため、我が国でも王立魔術研究所の実験塔にしか使われていない。
実験塔自体を守る魔法は別に施されていて、精霊石は影響を実験塔の敷地内に押し留めるもの。
外に影響が出てしまっては一大事だからね。
だけど、使い方がそれだけとは限らない。
「精霊石で、風のえいきょうを受けにくくすることってできませんか?」
精霊に詳しいのはもちろん陛下だし、陛下も精霊王から精霊石をもらったこともあるだろう。
「できるよ。精霊石には、精霊が起こした現象を弱めることと、魔法の効果を弾くことができる」
ほうほう。やはり、外に影響が出ないようにっていうのは、内側の魔法を精霊石が弾いているからなんだな。
内側からは内側に弾き、外側からは外側に弾く。
ということは、あの実験塔って外側からの攻撃も無効なのか!
「精霊石で風のえいきょうをへらせれば、高いとうもたてられるかと」
魔法と建築材料と精霊石を駆使して、大陸一高い塔ができれば観光名所ともなる。
そしてもう一つ!
「木の上にひみつきちを作りたい!」
そう。草地の奥の森で、木登りに適した木を見て閃いたのだ。
秘密基地みたいなツリーハウスを作ったら楽しいに違いないと!!
子供の頃、一度は誰しも作ろうと試みたことがある、あの秘密基地だ!
「…秘密基地?」
…みんなのリアクションがいまいち薄い。
なんで?秘密基地だよ!?女性陣はともかく、男性陣はわかるでしょ!
誰か、理解してくれる人はいないのかと室内を見回せば、警衛隊の一人と目があった。
「ひみつきちと言えば!」
そう問いかければ、彼は目を白黒させながら、少し間を置いて答えてくれた。
「えーっと、子供のときの憧れですか?」
「そう!わくわくしたでしょ?」
と、こちらがテンション高く言っても、はぁまぁと煮えきらない答え。
何人か相槌を打つように頷く者たちはいたので、その人たちは幼い頃にやったのかもしれない。
しかし、そんな遊びをしらない皇族や貴族育ちの面々は、それがどういったことなのかを理解できていないようだ。
「ひみちきちは大人にはないしょなんです。友だち同士で合言葉を決めたり、宝物を持ちこんだり。楽しそうでしょ!」
この大人に内緒というのがポイントだ。
悪いことをしているような背徳感、秘密を共有する合言葉が特別感を演出してくれる。
これが、わくわくせずにいられようか!
「へぇ。市井の子供はそんなことをして遊んでいるんだ」
「ネマ、よく知っているな」
ルイさんとテオさんが感心したように言う。
一応、前世の記憶ということもあるが、ちゃんとこちらでも同じような遊びがあることは判明している。
子供向けの本に書いてあったから。
「本でよんで、ずっとやってみたいと思ってたの!」
というか、やろうといまだにチャンスを窺っている。
お家の庭が白たちのアスレチックになってしまったが、合体させてしまえば問題ない!
「つまり、宿泊施設をその秘密基地みたいに木の上に作るということか?」
「ちゃんとした宿も作りますよ」
やっぱり、お風呂は大事だからね。
お風呂がないと、魅力半減だし。
お風呂もしっかりとこだわらせてもらうつもりだ。
「まぁ、塔については大工組合に打診してみよう」
シアナ特区の建物を見る限り、建築技術はしっかりしているから、できると思うんだよなぁ。
「可能という答えが返ってきたら、塔専属の特別組織を作る」
塔はシアナ計画で言うところの温泉に当たるからな。
重要な部分なだけに、特別チームを組んで挑むのか。
「それと、明日は再び絋深の森に向かう。ガシェ王国が素晴らしい贈り物を用意してくれたそうだ」
「おくりもの?」
陛下はにっこりと笑ってまた誤魔化す。
これは、実際に目にするまで教えてくれないつもりだな。
お部屋に戻って、お姉ちゃんやパウルに聞いてみても、知らないと言っていた。
お手紙でパパンに聞いてみても、答えは書かれていなかった。
むぅ。明日になればわかるといっても、凄く気になるんですけど!!
気になりつつも、夜はぐっすりと眠れた。
いやー、稲穂の尻尾の安眠効果、マジで凄いわ!
稲穂の尻尾、温かいんだよ。でも、暑く感じたりしないし、ほかほかで体が弛緩するというか、なんかの能力なんじゃないかって疑っている。
再び絋深の森にやってくると、なぜか武装した人たちが大勢いた。
雰囲気からして、ライナス帝国の軍人たちと思われる。
「…何があるのですか?」
「もうすぐだ。楽しみにしているといい。ネフェルティマ嬢もきっと喜ぶものだから」
けして教えてくれないので、大人しくユーシェの上で待つ。
この物々しい雰囲気に落ち着かないのか、稲穂たちがそわそわしているのが見て取れた。
しばらくすると、空の向こうに赤い点が現れた。
徐々に大きくなっていき、赤い点の他にもいくつもの点が見えた。
「まさか……」
まさかだろうと思って念話を飛ばすも返答がない。
繋がった感触はあったので、無視されているらしい。
ということは、あの赤い点はソルだ!
住処を変えるのが面倒臭いと言って、ついてきてくれなかったくせに!!
本当は水の聖獣がいる国に来たくなかったんじゃないかなって思っている。
ユーシェやサチェも、ソルの話題を出すと不機嫌になるので、相性が悪いのだろう。
まぁ、火と水だしね。仕方がない。
「ソルッ!」
私が名前を呼ぶと、ブルルルとユーシェが前脚で地面を掻く仕草をした。
ソルの気配が気に食わないんだな。
「ユーシェ、客人だ。喧嘩だけはしてくれるなよ」
ポンポンとユーシェの首を叩き宥める陛下。
ユーシェは強く鼻息を吐くと、なんとか大人しくなった。
ようやくしっかりと姿が見えるようになると、他の点が何かが判明した。
リンドブルムたちだ!
その大きな体には、檻のようなものが吊り下げられていて、全部で七つあった。
ひょっとして、あれが贈り物なんだろうか?
リンドブルムたちの先頭は、いつものようにギゼルが誰も乗せずに飛んでいる。
その後ろを編隊を組んだ七頭が続き、その七頭を護衛するかのように両外側に四頭。
少し離れて、殿に二頭と、太陽の光に煌めくあれは……。
堪らずユーシェから降りようとするも、危ないと陛下に捕まえられた。
ソルが草地に降りたのを皮切りに、次々とリンドブルムたちも降り始める。
檻を吊り下げていた子たちは、檻を吊るすための装具から解放されて嬉しそうに鳴いている。
-重たかったー
-もう帰ろうよ…
-こいつらきらーい
相変わらず、マイペースな子たちだ。
それにしても、ライナス帝国の軍人たちが固まっているけど大丈夫か?
ざわめきとともに、ちらほら原竜という言葉も聞こえてきた。
さすがに、常に聖獣を有する国でも、原竜には驚くか。
原竜はすべての竜種のトップであり、すべての原竜が聖獣という、特別な存在だもんね。
それより、もう行かせておくれと陛下を見上げると、苦笑しつつもやっと離してくれた。
ユーシェから降ろしてもらい、軍人たちを掻き分けながら走る。
「ソルッ!」
私が取る行動なんて、ソルにはお見通しだった。
ゆっくりと頭を下げ、私が飛びつきやすいようにしてくれた。
はぁ、スベスベ!ひんやり、気持ちいい!
『相変わらずだの』
「ソルもね!あんなに来るのいやがってたのに、どうしたの?」
『何、借りを返しただけだ』
借り?誰に借りを作ったんだ??
疑問に思っていると、追いついた陛下がこちらにやってきた。
もちろん、ユーシェも一緒だけど、なんか冷気がだだ漏れしている。
「炎竜殿、初めてお目にかかる。セリューノス・ラウ・ライナスと申す」
皇帝という地位にいても、他の聖獣には敬意をもって接する陛下。
『知っておる。ユーシェの契約者よ』
「光栄です。よろしければ、ネフェルティマ嬢がガシェ王国に戻られるまで、我が帝国にいてくださると嬉しいのですが」
陛下がそう言うと、ユーシェが陛下の服を引っ張った。
そして、頭をドスドスと陛下の背中に押しつける。
不服を一生懸命訴えているみたい。
『安心しろ、水の。お主らの縄張りを侵すことはせぬ』
聖獣にも縄張り意識とかあるの?
ユーシェにしたら、国にちょっかいをかけられる=陛下にちょっかいをかけられると感じるのか?
-グルルル
ソルの後方から聞こえた、聞き慣れた声。
「ラース君!!」
久しぶりだと感じる、白と黒のコントラストに思いっきり突進した。
どんなに勢いがあろうと、軽々と受け止めてくれるもふもふ。
カイディーテとは違う肌触り。
凄く恋しかったよぉぉ!!
ラース君の首回りの、一段ともふもふしている鬣の部分に、顔をぐりぐりと押しつける。
「セリューノス陛下、お約束通りに届けに参りました」
「おぉ!ヴィルか!久しく見ないうちに、ずいぶんと立派になったな。リリーナが手紙で自慢するわけだ」
「…母上が失礼いたしました。まだまだ私は未熟者ですよ」
謙遜することはない、息子にも見習わせたいなどと、久しぶりに会った親戚みたいな会話がされていた。
はぅぅぅ。もふもふ。
『ほぉ。小さきキュウビとは珍しい。…また、侍らすものを増やしたのか』
ソル、侍らすって言うのやめて!
仲間だから!OK?仲間だからね!!
うぅぅ。この尻尾の弾力も堪らん……。
『シンキ、と言ったか。お主も苦労しているようだな』
「…いや、大丈夫だ。それより……」
おい、森鬼。今、否定するまでにあった間はなんだ!!
というか、あちこちで旧交を温めるみたいな交流会が行われているのはなんでだ?
稲穂が嬉しそうにソルに近づいている。
あうぅぅ。ラース君の舌は相変わらず絶妙な力加減!
「ネマ、いつまでラースとじゃれている」
「ずっと!!」
いつまでと問われても、ラース君がいるのであればずっと側でもふもふしていたい。
「ラース」
ヴィがラース君を呼ぶと、私はラース君に咥えられてヴィのもとまで運ばれた。
くっ。ラース君に裏切られた!
「ネマ、あれがなんだかわかるか?」
ヴィが指し示す先には七つの檻。
そして、その檻の中に入っているのは大きな生き物だった。
図鑑でしか見たことのない、鋼のように鈍く反射する肌は、騎士が使う鎧よりも硬く丈夫で、咆哮する口元から覗く牙は剣を噛み砕くという。
ソルやリンドブルムの側にいるので小さく感じてしまうが、森鬼よりも断然大きい。縦にも横にも、二倍近くはありそうな気がする。
ボサボサの髪の毛と鋭く伸びた爪もある。
見た目は正しく鬼のようで、角がないのが不思議なくらいだ。
「オーグル?」
魔物の中でも好戦的で、一度暴れ出すと手がつけられず、大きな被害が出るという。
「そうだ。イクゥ国の大きな拠点で、ルノハークが捕まえていた」
ルノハークはオーグルを使って何をするつもりだったのだろうか?
そして、このオーグルたちが贈り物だったとして、陛下は何をするつもりなんだ?
「さて、ネフェルティマ嬢。あのオーグルの中で一番強いものがどれかわかるかな?」
んんん?なんでクイズ?
まぁ、いいけど…。
一番強いねぇ。
まず、奥の二匹は違うかな。たぶん、雌だと思うし。
外見からだと、みんな胸筋たくましいおっぱいで、雌だとしても乳房特有の柔らかさが皆無なんだけど。
他に比べると少し小さかったりするくらいで、これっていう決め手はない。
でも、直感が雌だと言っている。
残る五匹を観察すると、元気に咆哮を上げていたり、ソルやラース君のことを気にしていたりと、一様に落ち着きがない。一匹を除いては。
そのオーグルは、檻の中で胡座をかいて座り、頬杖をついて、ボーッと何かを眺めているようだった。
明らかに余裕がある態度だ。
「あの子だね」
「よし、では行こうか」
うん、いいけど。陛下はオーグルに近づいて大丈夫なのかな?
陛下のあとをついていき、ヴィやルイさんたちも興味深そうに集まってきた。
さて、何をやらされるのやら。
「君はラーシア語をしゃべれたりするかな?」
言語能力のある魔物もいるので、オーグルがしゃべれる可能性はある。
話しかけられたオーグルは、ボーッとあらぬ方向にやっていた視線を陛下に向けた。
「君たちには、この絋深の森で生活をしてもらうのだが、一つ条件がある」
こちらを探るような目付き。
理解しているのかは、まだわからない。
「私の下につくこと。わかるだろう?」
一瞬にして鳥肌が立った。
何これ…めっちゃ怖い!!
ガタガタと震えそうになる体を必死に押さえる。
陛下は笑ってすらいるのに、身にまとう空気が冷たく刃のように鋭い。
殺気よりももっと恐ろしい何かだ!
私の様子に気づいたのか、ヴィが抱き上げて大丈夫だと言ってくれた。
それだけで、体に突き刺さるような何かが和らいだのが不思議だった。
「陛下がこわい……」
「大丈夫だ。あれは聖獣の力と陛下の魔力が合わさったもの。お前に害を加えることはない」
しかし、それでも安心はできなかった。
あれは怖いもの。容易に使ってはいけないもの。
「もしかして、聖獣の力が怖いのか?」
そうかもしれないけど、聖獣が力を使う場面はこれまでもたくさん見てきた。
そのときは怖いなどと感じたことはない。
「炎竜殿の力を暴走させたせいで、無意識に大きな力を拒絶しているか……」
えぇ!?つまりあれか?トラウマってやつなのか??
トラウマになってもおかしくない出来事だったけど、まさか聖獣の力の方に恐怖を感じるとは…。
いや、暴走させたのは自分なんで、自業自得って思わなくもないけど。
どうしよう……。
「しかし、これほどの聖獣の力を使うことなど、そうそうない。それに、聖獣の力はネマを傷つけることはできない。気をつけるべきは、お前が炎竜殿の力を使わないかだ」
私がソルの力を暴走させてしまったのは、魔力がないことも要因だった。
ヴィや陛下のように、魔力量が多い契約者ならば、聖獣の力を体内に取り込み、より強力な魔法を発する動力として使えるんだって。
魔力が少ない契約者は、体内に入れてしまうと負荷がかかりすぎるので、表面にまとうものなんだとか。
このトラウマみたいな恐怖も、聖獣の力を取り入れてしまいボロボロになった体が、本能的に教えてくれているのだろう。体内に入れるんじゃないぞと。
「大丈夫、ネマちゃん?久しぶりに本気を出せるってはしゃいでいるみたいなんだよねぇ」
はしゃいでいる陛下とは?
どういうことなのか説明してもらおうと思ったのに、ルイさんが危ないから離れるよと、陛下を残して草地の端の方まで連れていかれた。
ソルとラース君の側なので、絶対安全領域なのはわかるが……。
「さぁ、どちらが強いか、勝負と行こうか」
陛下は軍人から大振りの剣を受け取ると、オーグルの檻を開けるよう指示した。
オーグルも喧嘩を売られたとわかったのか、先ほどまでのボーッとした姿ではなく、陛下を見つめたまま舌舐めずりをした。
「聖獣の力は借りないから安心しろ。なんなら、まとめてでも構わないぞ?」
陛下も笑顔で挑発するものだから、オーグルが大きな咆哮を上げて襲いかかった。
陛下が吹き飛ばされる姿が目に浮かんだが、実際は陛下の身長くらいはある大きな剣を使って、オーグルの拳を受け止めていた。
瞬時にその拳をいなし、剣を振るう。
キィィーンという高い金属音がして、陛下はオーグルと距離を取り、構える。
オーグルは陛下を捕まえようと手を伸ばすが、簡単に避けられてしまう。
そこで何を思ったのか、オーグルは自分が捕らえられていた檻を持ち上げたのだ。しかも、軽々と!
陛下めがけて檻を地面に叩きつけたり、振り回したりするが、どうしても動作が大きくなるので、陛下に当たることはなかった。
陛下は檻を足場にして高くジャンプすると、オーグルの頭に剣をまっすぐ振り下ろした。
しかし、直前でオーグルは腕で庇い、頭に当たることはなかったが、腕からは血が流れていた。
笑みを崩さない陛下だったが、その笑みが深くなる。
本当に、オーグルとの戦いを楽しんでいるらしい。
今までのは小手調べだったようで、息つく間もなく剣が繰り出される。
あんな大きな剣を体の一部かのごとく操り、オーグルの体にも傷がどんどん増えていく。
致命傷はないものの、防戦一方なオーグルに勝ち目はないように思えた。
そんなとき、空気が震えるほど大きな咆哮を上げた。
近くにいれば、体に衝撃を感じるくらいだったのか、陛下の動きが止まった。
そして、咆哮する前より盛り上がった筋肉の変化に驚いた。
人間ではありえない筋肉量だし、きっとゴリラよりもモリモリしている。
そんなヤバい筋肉がついている腕が陛下を襲う。
離れた場所にいる私にまで、ブォンっていう音が聞こえた。
動けない陛下はもろに食らい、吹き飛んだあと地面に転がった。
警衛隊や軍人たちが殺気ばむ。
「はやるな」
陛下を助け出そうと動こうとした者たちを、ルイさんが制する。
ゆっくりと立ち上がった陛下は、いまだに笑っている。
もう、本当に怖いよ、あの人!
陛下の笑みに恐怖を感じ、ぎゅーっとヴィに抱きつく。
勢いあまって首も締めてしまったけど、すまん。
陛下の周りに、白い靄が立ち始めた。
あれには見覚えがある。
ママンが怒ったときに出すアレだ。
その靄は段々と濃くなり、陛下の剣にまとわりだす。
剣の刃が一回り大きくなると、刀身にはキラキラとした透明なものがあった。
陛下は再び剣を振るうと、オーグルに当たった場所が白く変化した。
そして、同じ場所にもう一度当たると、白く変化した場所が砕けた。
ひょっとして、凍らせているのか?
あの頑丈な体が砕けるってことは、液体窒素並みの温度で凍らせているってことじゃ……。
いやいやいや、めっちゃ恐ろしいわ!!
そしてついに、オーグルが膝をついた。
陛下はオーグルの首に剣を当て言った。
「私の下につくか?」
「……我らが主と認めよう」
やっぱりしゃべれたのか!お前!!
「ならば、セリューノス・ラウ・ライナスがお前に『ダグラード』の名を与えよう」
ダグラードと名付けられたオーグルの額に、あの青くて丸っこい紋章が浮かんだ。
ダグラードを従えた陛下は、残りのオーグルたちにも名を与えていく。
一番強いオーグルが負けたからか、みんな大人しく従っていた。
「いい贈り物をもらったよ」
怖い笑みではなく、上機嫌なニコニコとした笑顔で陛下がヴィに言った。
「喜んでもらえたのなら何よりです」
ヴィも猫かぶりな笑顔で対応する。
あ、また鳥肌が……。
「まったく、ネマちゃんが怯えていましたよ。あまり無茶をなさると、母上に報告しますからね」
弟に苦言を呈され、すまなかったと私に謝る陛下に恐れおののく私。
私に謝る必要はないと思います!
「この絋深の森から出ることは許さないが、それ以外なら自由にしていていい」
「わかった」
ダグラードは他のオーグルたちを引き連れて、絋深の森へと入っていった。
「さて、ヴィルたちを晩餐に招待したいのだが、いかがかな?」
「これから、この人数をですか?」
「空を飛んでいけばいいだろう?」
というわけで、ヘリオス伯爵の屋敷には戻らず、空を飛んで宮殿まで帰ることになった。
しかし、陛下単独で飛行するというのは警衛隊の隊長が許さなかったので、飛竜兵団が来るまで待つはめに。
その間、私はギゼルたちとおしゃべりをしようと側に行った。
「ギゼル、元気してた?」
-ネマに会えると聞いてきてみれば、あいつらにいいように利用されたようだ。
めっちゃ不機嫌だった!!
ダンさん、なんて言って連れてきたの!!
慌ててダンさんを探すと、ソルの側にいた。
微動だにせず、じっとソルを見つめている。
心なしかうっとりしているように見えるのは気のせいか?
「ダンさん!!」
大きな声で呼ぶと、ようやくこちらに気づいてくれた。
「ギゼルたちがふきげんなんだけど、なんて命令したの?」
「…え?えぇぇ??」
驚いているけど、竜たちの変化に敏感なダンさんが気づかないっておかしい。
「どうしたの?なんかなやんでいるの?」
「あ、いやー」
濁しながら、チラチラとソルの方を見やる。
「ソルがどうかしたの?」
「憧れの存在が近くにいて、緊張しているんだよ、ダンは」
答えたのはダンさんではなく、知らないおっさんだった。
「あこがれ??」
「竜が好きすぎて、隊長まで登り詰めた奴だぞ。原竜が手に届く距離にいて、普通でいられるわけがないってな」
なるほど。ダンさん、めっちゃ好きだもんね。レスティンだけじゃなく、他の人にも揶揄われるくらい、竜好きで有名なのか。
「ところでおじさん誰ですか?」
「失礼した。王立騎士団情報部隊隊長のシーリオ・ユジィという」
騎士が行う貴族に対しての敬礼とともに名乗られた。
「デールラント・オスフェの次女、ネフェルティマです」
隊長職ということもあり、敬意を表する礼を取って、こちらも挨拶をする。
「ダンさん、帝都までみんなで行くって言っているから、ギゼルたちをせっとくしないと…」
「そうだった……」
しょんぼりと肩を落とすダンさん。
で、なんて言ってあの子たちを連れてきたのさ。
「ネフェルティマ様、よければダンに力を貸してやってくれませんか?あいつ、愚図る竜たちに、ネフェルティマ様と会えるからって言ってオーグルを運ばせたんです」
あぁ、それか!
仕方ないなぁ。
「ほら、ダンさん行くよ!」
ダンさんを引っ張って、ギゼルたちのもとへ行く。
ダンさんに対して、文句を言う子たちを宥め、草地を使って思い切り遊ぶ。
私だけじゃ手が足りないので、森鬼も巻き込んだ。
なぜかまだ、尻尾を引っ張られて引きずられるのを気に入っているらしい。
ズリズリと引きずられ、草地が耕される。
ご機嫌が直ったかなぁと思ったら、今度はワイバーンと一触触発になりそうになったりと大変だった。
まぁ、ソルが一言言っただけで大人しくなったけど。
さすがソル!
「それではお気をつけて」
ヘリオス伯爵とルティーさんに見送られ、次々と空へ飛び立つ。
ルイさんとテオさんはワイバーンに乗っている。
お姉ちゃんやパウルたちはリンドブルムに。
ちゃんと、絶対に落とすなとリンドブルムたちには釘を刺しておいたので大丈夫だろう。
ちなみに、森鬼は星伍と陸星を抱えて、ソルに乗っている。
森鬼が可愛いく見えるから、星伍と陸星の可愛さはハンパないことがわかる。
稲穂は白と一緒にソルの頭の上にいる。火の属性同士、仲良くなったのか?
グラーティアは私と一緒にラース君に乗っている。
久しぶりのラース君のもふもふを、体全体で味わっていた。
ほんと、羨ましいぞ!
私もラース君のもふもふに埋もれたい!!
にしても、はたから見たら凄い集団だよね、これ。
目立つソルがいたから、あっという間に国中に噂が広まったらしいよ。
『北の原竜が竜種を引き連れて、南の国を滅ぼした』って。
おまけ
『シーリオ!愛し子がいるわ!』
ネフェルティマ様の姿を見たセラフィが興奮した様子で俺の周りを飛び回る。
『凄いわ!炎竜様に青天馬様にラース様と、聖獣様たちが揃う姿も見られるなんて…』
そう。セラフィだけでなく、他の精霊たちも興奮している。
愛し子がいて、聖獣様も揃っている。
これから帝都の宮殿に行けば、さらにもう一体の青天馬と地虎がいるのだ。
はしゃぎすぎて、周りに影響が出ないか心配だな。
『ねぇ、シーリオ。愛し子に話しかけましょ!』
「はいはい。大人しくしていろよ?」
セラフィとともにネフェルティマ様のところへ行くと、ダンが気まずそうな顔をしていた。
ははーん。また炎竜様を眺めていたのか。
ダンのことをネフェルティマ様に教え、名乗るところまではよかった。
セラフィが、可愛い可愛いを連呼して、ネフェルティマ様にまとわり出した。頭を撫でたり、頬を突いたりと、やっていることは大したことないが、お前がそれをやると大変なことになるだろう!
心配が的中し、他の精霊たちもネフェルティマ様にまとわり始めた。
段々と姿が見えなくなっていく。
中位の精霊が数体と、下位の精霊が数え切れないくらいネフェルティマ様にくっついている。
察して欲しい。
笑いを堪えるのがどんなに大変かを。
精霊の姿を見ることができる殿下は、珍しく声を上げて笑っている。
それにつられて、ライナス帝国の皇帝陛下も笑っていらっしゃる。
ラース様が止めてくれなければ、ずっとくっついていたに違いない。
というわけで、プレゼントはオーグルでした!
ライナス帝国での計画は、目指せスカ◯ツリー計画となります(笑)
ツリーハウスは作者の趣味です!秘密基地、作ったりしませんでした?
私は親にバレバレで作っていましたよd( ̄  ̄)
最後に、感想と男装の麗人の対義語に対しての情報、ありがとうございますm(_ _)m
ようやく、時間が取れそうなので、ゆっくりですがお返事していきますね!




