遊ばれたので、遊ぶことにした。
今、私はめっちゃ怖いところにいる。
隣にお姉ちゃんがいなかったら、お家に帰るって言い出しそうなくらい怖い。
ライナス帝国の政を担う人々がずらりと揃っている大会議室。
そこの上座というか、皇帝陛下の隣に座らされている。
なぜか隣に!!
「ガシェ王国よりもたらされた情報は、各々目を通してもらったと思う」
皇帝陛下の目の前には、何やら書類があるのだが、それが我が国からの情報なのかな?
「一番の懸念は、謎の組織についてだろう。推測にすぎぬが、この大陸に再び戦渦を起こそうとしている可能性が高い」
すでに書かれてあることだったのか、戦争が起きるだろうと言われても、皆冷静だった。
「そこでだ、我々は一つ、ある方法を試みようと思う」
ちらりと盗み見た皇帝陛下は、凄く楽しそうな顔をしている。
「聖獣の契約者が、本当に魔物を真名で従えることができるのか、私自ら試そう」
……えぇぇぇ!!!
いや、それはダメでしょ!
皇帝陛下が魔物の出没する地域に行って、ゴブリンやコボルトと会うってことだよね!?
どう考えても危険だし、護衛する人たちだって大変じゃん!
会議に出席している人たちの動揺が、ざわめきとなって広がるのが見てわかる。
そんな中、平然としているのが他の皇族たち。
ルイさんとテオさんはわかるとしても、クレイさんやエリザさんも顔色一つ変えていない。
チャラ男とダオ少年は出席していないのは、何か裏でもあるのかな?
「陛下の御身に何かあったらどうなされるのです!次代の殿下方は、いまだ聖獣様に認められておりませんぞ!」
水の聖獣と契約していなければ、皇帝の位にはつけない。
もし、皇帝陛下の身に何かあったのなら、先帝が再び治めるか、他の契約者を王配として迎え入れるかのどちらかになるだろう。
「その点は心配いらないだろう。こちらには、とっておきの切り札があるのだからな」
そう言って私の方を見る皇帝陛下。
こっちを見るな!
まるで私がその切り札みたいじゃないか!
「失礼ですが、その幼な子に何ができると言うのです!」
えぇ、私もそう思いますよ。
何ができるんですかね?
もふもふするくらいしか取り柄はありませんが?
なのに、皇帝陛下はニヤリと笑う。
「それを言ってもいいが、ここにいる皆に、名に誓ってもらうがいいのか?」
『名に誓う』ほどのことなのかと、ほとんどの人が驚いている。
でも、皇帝陛下がこうももったいぶるからなのか、なぜかみんな名に誓い始めた。
怖いもの見たさ的なものかもしれないけど。
その中で一人だけ、名に誓わなかった人がいた。
「ヘリオス殿はよろしいので?」
知らないおじさんが尋ねたのは、あの男装の麗人だ。
「あぁ、私はすでに誓っているのでね」
「どういうことですかな?」
「それはあとで私から説明しよう」
おじさんが重ねて問おうとすると、皇帝陛下が間に入り止めた。
おじさんは納得いかないようだったけど、皇帝陛下のひと睨みで大人しくなる。
「ここにいる、ネフェルティマ嬢は創造神様の愛し子だ。我が帝国の聖獣たちが認めているので、間違いはない」
そう告げたあと、皇帝陛下はあえて、みんなの前でユーシェに問うた。
ユーシェは、みんなに見せつけるがの如く、私に顔を擦りつけてくる。
聖獣は、契約者以外には懐かない。
ラース君もそうだったけど、契約者のヴィと私以外の側には近寄らない。
王様や王妃様のことは、ヴィの親だから気にかけてはいるようだけどね。
ただ、ユーシェは遊ぶのが好きだから、皇帝陛下の子供たちには気を許しているみたい。
それでも、ユーシェが私に甘えてくる姿に、みんな驚いていたけど。
つかユーシェ、私の髪をハムハムするのやめてくれ!
ユーシェの口から、自分の髪を奪い返す。
さすが、水の聖獣様。
よだれでべっちょりにはなっていなかった。
ユーシェも気がすんだのか、私と皇帝陛下の間に頭を突っ込んできて、皇帝陛下の脚を枕に寛ぎだす。
同じ青天馬でも、性格がこうも違うとは。
サチェはもう少し大人しい。いや、上品と言った方が雰囲気にあっているな。
「そこで、ネフェルティマ嬢が我が帝国に滞在している間に、ここに書いてある計画を進めたいと思う」
たぶん、シアナ計画のことかな?
というか、私もその報告書読みたいんだけど!
「ヘリオスが事前に誓っていたのは、この計画をヘリオス領でやるからだ」
それで、私のことを知っていたのか。
だけど、皇帝陛下の言葉に何人か不満を述べている。
「そうか。では、お前たちがヘリオス領で起こったオーグル被害の費用を支払うのだな」
不満を言っていた人たちは、すぐに口を噤んだ。
ルノハークに追いやられた魔物の被害にあったのが、ヘリオス領ってことか。
そこら辺の詳しい話はあとで聞くとして、そんな地域で魔物を保護したら、住民から総反発くらわないか?
「オスフェ家が出してきた数字を見れば、お前たちが利益欲しさに口出したいのもわかるがな」
ニヤリと笑った皇帝陛下に、そんなことは…と言葉を濁す人たち。
…そうか。我が家はそんなに儲けていたのか。知らなかったわ…。
やっぱり、その報告書、見せてもらっていいですかね?
「愛し子が現れた時代は、歴史が大きく動く。私の代で滅びるか、これから十季、二十季と続いていくのか、我々の選ぶ選択次第だということは忘れてはならない」
いや、愛し子がいるから荒れるんじゃなくて、荒れ始めたから愛し子が必要になるんじゃ?
神様、人任せだしさ。
それに、これだけ神様に気に入られている国なら、千年も二千年も続くよ!たぶん…。
「たとえ種族が違えど、長きに渡ってともに守り続けてきたこの国を、正体もわからない奴らの好きにさせぬ。そうだろう?」
凄いな。さすがはラーシア大陸一の大国の皇帝陛下だ。
言っていることは、皇族として当たり前なことなのに、みんなの顔つきが変わった。
矜持や誉れを感じているような、キリッとした顔になっている。
「我が帝国でも、この謎の組織をルノハークとし、奴らの目的を阻害する計画をロスラン計画とする。この名を潰すことだけは、許されないぞ」
皇帝陛下が言った意味がわからなかった。
ロスランという名前に特別な何かがあるのだろうか?
「ロスランとは、ライナス帝国の前、ライナス国をお創りになった初代皇帝陛下のことよ」
お姉ちゃんがこっそりと教えてくれた。
なるほど。初代の名に泥を塗るなってことか。
…これは、私も気合いを入れていくべきか?
「さて、今日はこの辺にしておこうか。あまりに長い会議は、客人を疲れさせるだけだからな」
という皇帝陛下の言葉で会議は終わりになったんだけど、皇帝陛下が席を立たないから、誰も退室できない。
「ネフェルティマ嬢、これ、読みたい?」
報告書を持ち、ふりふりと振って見せる皇帝陛下。
「はい!」
読みたいさ!
さっきからずーっと読みたかったさ!
「どうしようかなぁ」
はて?
これ、遊ばれてる?
目の前で揺らされる報告書に手を伸ばすも、届かないようにと遠ざけられる。
手を引っ込めると、また手の届きそうなところでふりふりされる。
ぐぬぬぬ。
「ユーシェ、それ取って!」
皇帝陛下を枕にしていたユーシェにお願いすると、一瞬の隙をついて、報告書をパクリと咥えた。
そして、皇帝陛下の手から素早く抜き取り、私へ差し出す。
あまりにも素早い動きだったので、皇帝陛下も驚いて目を見開いていた。
「ありがとう!ユーシェ!」
お礼を言って報告書を受け取ると、皇帝陛下が恨めしそうに言った。
「ユーシェめ、裏切ったな」
-ヒィィン
ユーシェが鳴いたので、何か抗議したのかもしれない。
「仕方ないな。では、カーナディア嬢、ネフェルティマ嬢、別の部屋に移ろう。ここではゆっくりできないしね」
一緒に行こうと促され、他の皇族たちも動き出した。
会議に参加していた面々は、ようやくかとホッとしているようだ。
皇帝陛下に連れていかれたのは、あの皇族の憩いの部屋。
ルイさん、テオさんはもちろん、クレイさんとエリザさんも一緒だ。
そして、なぜかいるパウルと森鬼。
たぶん、皇帝陛下に呼び出されたのだろう。
「わからないことがあったら聞いてくれ。まぁ、彼の方が詳しいだろうが」
パウルの方に視線をやったので、そういう理由でパウルを呼び出したのか。
報告書に目を通す。
国の正式な文書なので、所々難しい部分もあるが、読めなくはない。
最初は、ルノハークという組織の動きに気づいた経緯が説明してあった。
魔物が北に追いやられているのを、時系列で追ったグラフみたいなのまでついている。
そして、ラーシア語をしゃべれる魔物からの証言も記載されているが、たぶん森鬼とシシリーお姉さんのものだと思う。
私が誘拐された事件も書かれており、もちろんオスフェ家大暴走も少しだけ書かれていた。
聖主とやらの情報はほとんどないが、ガシェ王国内で活動していたルノハークの、主だった犯罪行為や資金の流れなど、結構細かいところまで掴んでいる。
最後に、イクゥ国周辺の現状と、情報部隊が掴んでいること、情報部隊隊長の推測が書かれている。
気になったのは、大規模な拠点を発見したということ。
そして、ルノハークの目的がライナス帝国での武力衝突ではないかということ。
「どうして目的がライナス帝国だと?」
「あぁ。イクゥ国で、ガシェ王国とライナス帝国が攻めてくると言って回っている奴らがいるらしくてね」
こんな言い方をするってことは、そんな事実はないということかな。
「以前、創聖教がイクゥ国の災害は神罰だと宣言したのは知っているかな?」
神罰!?
うーん、聞いたことあったような、なかったような。
つか、神様がそんなことするかな?
神様が自分の手を汚せるなら、私はここにいないと思うんだよね。
「まぁ、三巡近く前のことだから、ネフェルティマ嬢は知らないか」
その神罰とやらがどう関わってくるのかと思ったら、その神罰が起きたのが獣人のせいだと言っているらしい。
んな馬鹿なって思うけど、皇帝陛下は混乱のときこそ、嘘が本当になるって。
「うそなのに?」
「真実は関係ないんだ。情報に振り回されて、民が誤った判断を下す。しかし、それが国全土、ガシェ王国や我が帝国まで広がれば、本当になるだろう?」
うーん、大陸全体が争えば、原因は獣人になるってこと?
でも、嘘は嘘だよね。
真実が広がれば、争いにはならないんじゃあ…。
そう問うてみるも、皇帝陛下は否と言う。
「人とは、自分に都合の悪いことは、見なかったことにするし、聞かなかったことにするものだ」
…自分でも心当たりがあるだけに何も言えない。
「つまり、ルノハークは今、ライナス帝国に内乱を起こさせようとしているということですか?」
お姉ちゃんは報告書を読み切ったのか、テーブルの上に置き、皇帝陛下に尋ねた。
「その内乱に応じて、何かを起こすつもりではないかと思っている。さすがに、内乱だけが目的ではないだろう」
その何かは、まだわからないと…。
「ですが、戦を起こすことが、人の幸せに繋がると考えているというのは、どうもお粗末な感じがします」
普通に考えれば、戦争は不幸だと思う。
勝利や敗北の先には、たくさんの人の死があるから。
「なるほど。では、カーナディア嬢は、何が目的だと思う?」
「そうですわね…わたくしだったら復讐でしょうか?」
いきなりお姉ちゃんの口から物騒な言葉が出てきて驚いた。
不安になり、お姉ちゃんを呼ぶと、お兄ちゃんに似た優しい笑みを浮かべた。
「わたくしがルノハークの拠点を燃やしたとき、すべてが憎かったのです。ネマを傷つけ、ディーを殺したルノハークのすべてが」
だから、人を殺しても、悼む心はなかったと言う。
お姉ちゃんの言葉を聞いて、何かがストンと落ちた。
そうか、私のあれは復讐だったのかと。
ディーを殺した二人に、ソルの魔力で襲い、殺したけれど、私の心には何もなかった。
罪悪感も、悼む気持ちも、ただただ悲しくてどうしようもなかった。
「おそらく、聖主とやらにとっては、この大陸に住む民たちも、ルノハークの者たちも、復讐をするための捨て駒。というのが、わたくしの予想ですわね」
お姉ちゃんはあくまでも仮説にすぎないと念を押す。
「そちらの線でも調べさせてみるか」
「すぐに尻尾を出すような存在ではなさそうですが…。我が国の情報部隊がこれほど後手に回っているのは珍しいですもの」
皇帝陛下とお姉ちゃんの話を聞きながら、報告書を読んでいると、その情報部隊の隊長さんの意見が書かれている項目に目が止まった。
『我々がこれだけ捜索しても、聖主の情報はわずかにしかない。本当に聖主という人物がいるのか、疑問でもある。
可能性として考えられるのは、聖主がルノハークの者にも一切姿を見せていない、または、ルノハーク自ら作りだした虚像。
このまま、ルノハークの拠点を潰していっても、聖主を捕まえることはできないと思われる。
よって、別の作戦を推奨する』
聖主っていう人物が本当はいないよってこと?
いたとしても、ルノハークと関連付けできないかもしれない?
ますます謎が深まるなぁ。
聖主って、誰なんだろうね。
この隊長さんの別の作戦とやらも気になるけど、もう始まっているのかな?
「陛下、この別のさくせんってなんですか?」
「あぁ、それはまだこちらにも連絡が来ていないんだ。ひとまず、イクゥ国にある大きな拠点は潰すと聞いているよ」
今さらだけど、他の国で我が国の騎士たちがそんなことやっていいのだろうか?
「外交問題にならない?」
「大丈夫よ、ネマ。我が国の騎士たちは優秀ですもの。我が国が関与している証拠を残すことはないわ」
……ん?
つまり、ばれるとヤバいんじゃあ…。
「まぁ、実際、イクゥ国側にばれたとしても、文句はつけてこないだろう。イクゥ国に治安維持する力がないのだからね」
外交って、そんなに緩いものなの?
治安維持の協力で、騎士団を派遣したとかで誤魔化せるもの?
なんか納得できないでいると、さらに皇帝陛下が教えてくれた。
「イクゥ国は本当に存亡の局面に立っているんだ。このままだと、ガシェ王国や我が帝国が手を出さなくてとも滅びる」
ということは、イクゥ国だけでなく、小国家群の小さな国はもっとヤバいってことで。
もしかしたら、もういくつかは滅びているかもしれない?
「他国に楯突く気力はないさ。それなのに、面白い噂が流れている。だからなおさら、ガシェ王国がやることに口出さないだろう」
皇帝陛下が大丈夫というのなら、ガシェ王国が非難されるというような事態にはならないのだろう。
「そうそう、この大きな拠点を潰すの三日後だから。お土産が届くらしいから、楽しみにしてて」
三日後に何が届くって?
ルノハークの拠点を潰して、なんでお土産が届くの??
皇帝陛下に聞こうとしたけれど、口を開く前にユーシェに邪魔された。
構えと言わんばかりに、鼻っ面をグリグリしてくるので、しょうがないからぎゅーってしてあげた。
ほんと、感触は水なのに掴めるってどうなのよ!
こう、プールの水面をバンバン叩くと固い感じと言えばいいのか。
ゼリーとかスライムとかとも違うから、いつも表現できなくてわーってなる。
-ブルルッ
「ユーシェが遊びにいこうと言っているぞ」
皇帝陛下が通訳してくれた。
そうだ!
遊びにいくなら、ダオ少年も誘っちゃおう!
「ダオルーグ様をおさそいしてもいいですか?」
「ん?ダオをか?」
「はい。いっしょに遊ぼうってやくそくしているんです」
そうかそうかと皇帝陛下は穏やかな笑顔をしているけど、聞き手に回っていたテオさんやエリザさんが顔を顰めていた。
テオさんが表情出すのって、珍しいな。
「ネマさん。ダオの周りの大人には気をつけてくださいね」
エリザさんがそう忠告してきた。
以前、お姉ちゃんが言っていたことと関係がありそうだ。
「ダオは、自分が聖獣様に認められると思っていないせいか、周りを見ることをしない。皇族と繋がりを持ち、力をつけたいと思っている輩がすり寄っているというのにな」
なんか、言葉に毒を感じる。
テオさんが言うと恐ろしいんだが…。
「それらを上手くあしらうのも、皇族が持たなければならない技量だ。それで潰れるのであればそれまで。放っておけ」
さっきまで、優しい父親な顔だったのに、皇帝陛下も恐ろしい顔になっているよ!!
ほんと、この国に生まれなくてよかったわー。
「悪い人はユーシェが追い払ってくれるよね?」
なんとか場の雰囲気を変えようと、ユーシェに話を振る。
ユーシェは任せておけと言わんばかりに、鼻を鳴らした。
「そうだ。ついでにカイディーテ様とサチェ様を誘ったらどうかな?さすがに、我が帝国の聖獣が集う場所に入ろうなどという者はおらんだろう」
おぉ!
その案、乗ります!!
ということで、ダオ少年へのお伺いは、皇帝陛下が出してくれることになった。
カイディーテとサチェは、普通に呼べば来るよと言われたので、遊ぶ場所が決まってから呼ぶことにした。
「ユーシェ、どこで遊ぶの?」
-ブルルル
「噴水がある庭だって。あそこはユーシェのお気に入りの場所なんだよ」
なるほど、お気に入りの場所に案内してくれるってことか。
「じゃあ、行こう!」
ユーシェが背中に乗ってもいいと言ってくれたので、乗ろうしたけれど、手も足も届かなかった。
みんなに笑われながら、森鬼に乗せてもらう。
「シンキ、私はカーナお嬢様についているから、ネマお嬢様を頼んだぞ」
パウルがそう言うと、森鬼もわかったと一言。
そういえば、パウルは森鬼に対する態度がかわったな。
こう、砕けた感じになっているけど、私が寝ている間に仲良くなったのか?
森鬼をお供に、ユーシェお気に入りの噴水がある庭へと向かう。
その庭には、細い水路が張り巡らされており、中央に大きな噴水があった。
その噴水からの水が、水路に流れ込んでいるようだ。
水路も私のくるぶしくらいまでの深さしかないため、水遊びするにはもってこいだ!
靴を脱いで、水路の中を歩いていると、ダオ少年がやってきた。
さすがに一人ではなかったけど、予想外の人物にはちょっと驚いたよ。
「貴女、陛下を使ってダオを呼び出すなんて、どういうつもり!」
従姉妹ちゃんも来ちゃったかぁ。
この手のタイプは人の話を聞かないから苦手なんだけどな…。
「いっしょに遊ぶやくそくしてただけだよ?」
ダオ少年は、付き添いの侍女の後ろに隠れたままだ。
えーっと、従姉妹ちゃんの名前、なんだったっけ?
んー、確か…マリなんちゃら?
「マーリエ様、失礼でございますよ」
あ、そうそう!マーリエだ!
侍女がそうたしなめるも、マーリエ嬢は聞いちゃいない。
「ダオが皇族だから、取り入ろうとしているんでしょ!わたくしのお母様がダオを守っているんだから、そうはいかないわよ!!」
「私が皇族に取り入って、何かあるの?」
「…何って、ダオのお嫁さんになるとか…」
やっぱり女の子だね。
ちょっと顔を赤らめながらお嫁さんって言ってる。
「んー、たぶん無理じゃないかな?私もけいやく者だし、聖獣がみとめないとけっこんできないらしいよ?」
私がソルの契約者であることは隠していないので、言っても問題はないはず。
愛し子のことは名に誓ってもらわないといけないけど。
さすがに私の発言に驚いたのか、マーリエ嬢も侍女もダオ少年もビックリ顔になってた。
「契約者ですって!?うそおっしゃい!」
「うそじゃないよ。北のさんみゃくに住む炎竜とけいやくしているから。ねー、ユーシェ」
自分の国の聖獣の言うことなら信じるだろうと、ユーシェに同意を求めたら、なぜか渋々な感じで頷かれた。
なぜだ!!
まさか、火と水という相反する属性だからソルのことが嫌いとか?
「そんなことより、早く遊ぼう!日がくれちゃう!」
「そんなことって……」
ほらほらと、マーリエ嬢とダオ少年の手を引っ張る。
「あ、カイディーテとサチェも呼ばないと」
呼べば来ると言っていたので、大きな声でカイディーテとサチェの名前を呼んだ。
そうしたら、本当に来たよ。
カイディーテは以前のように地面から現れ、サチェは噴水の水から登場だ。
侍女が短い悲鳴をあげていたけど、自分の国の聖獣が怖いってことないよね?
「カイディーテ様、サチェ様…」
マーリエ嬢も顔色が悪い。
ダオ少年も私の後ろに隠れてしまった。
「大丈夫。こわくないよ!」
カイディーテは、なんだこいつらって顔しているけど、別に怒っているわけではない。
サチェはユーシェにグルーミングをしているので、機嫌はいい方なんじゃないかな?
「今日はみんなで遊ぶぞー」
私がそう宣言すると、ユーシェは楽しそうに翼をはためかせた。
遊ぶと言っても、カイディーテは見ているだけの方が多かった。
なので、ユーシェに頼んで、カイディーテにシャワーを浴びせてみた。
ぐっしょり濡れた毛並みはぺたんこになって、カイディーテが一回り小さくなったように感じる。
グルルルと低く唸ると、私たちの側でカイディーテはブルブル体を捻り水を飛ばす。
マーリエ嬢と私はキャーキャー言いながら逃げる。
一人逃げ遅れてしまったダオ少年は、全身濡れねずみだ。
風邪ひくといけないので、サチェにお願いしてダオ少年を乾かす。
テンションが上がってきたのか、ユーシェは水路の水をすべて奪い、一つの大きな水の塊を作った。
空中に浮く大きなそれをどうするのかと見守っていると、突然風船が割れるように弾けた。
雨のように水が降ってくると身構えるも、なかなか落ちてこない。
再び上を見上げると、小さな水の粒がたくさん浮いたままになっていた。
太陽の光を反射し、キラキラと輝くそれは、まるでダイヤモンドのようだった。
「きれー」
「素敵ですわ!」
「ユーシェ、凄い!」
私、マーリエ嬢、ダオ少年の順に感想を述べると、ユーシェは自慢気に鳴いた。
ユーシェだけにいい顔をさせてられないと、今度はサチェが力を振るう。
水の粒がさらに小さくなり、スーッと冷たい風が吹いたと思ったら、白いものがひらひらと落ちてくる。
「雪だ!」
ライナス帝国の帝都は、ガシェ王国の王都より南に位置するので、まだまだ暑い季節。
それなのに、雪が降っている!
「見て!結晶がこんなにはっきりと見えるわ」
マーリエ嬢の言う通り、雪を手に載せると、すぐに解けず、雪の結晶が目で見えた。
雪というよりは、氷晶の方が近いかもしれない。
こうなると、カイディーテの力も見てみたくなるのだが。
カイディーテに視線をやると、俺はやらないぞっていう感じだった。
「カイディーテも!」
何度かねだって、ようやく、渋々受け入れてもらえた。
カイディーテが水のなくなった水路を、おみ足でタシッとすると、水路に使っていた石がズブズブと沈み出した。
石が沈んだところから土が湧き、私はピンときた。
泥遊びだ!
土と水が揃えば、泥遊びができる!!
実際に土に触れてみると、砂場の砂よりも水分を含み、握ると固まる。
つまり、お城が作れるぞー!!
「これでお城を作ろう!」
汚れるのを渋るマーリエ嬢を無理矢理土に触れさせる。
初めての感触なのか、マーリエ嬢が驚いていた。
「本当にこれでお城が作れますの?」
「作れるよ!まずこう、山を作って…」
二人でペタペタと山を作っていると、ダオ少年が自ら輪の中に入ってきた!
「ダオはどんなお城がいい?」
「この輝青宮みたいなお城ですわよね?」
「うーん、ネマのところのお城も見てみたい」
三人で、ああでもないこうでもないと作り続け、完成したときには夕方だった。
「すごいのができた!!」
作ったお城は輝青宮をモデルにしたもの。
お手本がすぐ側にあるのだからと、輝青宮になったのだ。
わからないところは、サチェに乗せてもらい、輝青宮を上から見たりと観察もばっちりだ。
思った以上にダオの手が器用で、細かな装飾はすべてダオが作った。
「今日はこのくらいで」
完成したのを見届けて、侍女からストップがかかった。
もうちょっと遊びたかったけど、お腹も空いた。
「また明日も遊ぼう!」
「仕方ないですわね」
満更でもなさげなマーリエ嬢。
ダオも笑顔なので、また明日もこの面子で遊ぶことになりそうだ。
ネマにようやく遊び友達ができたようです。




