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第九十四話:人姿での戦闘

 俺は振り上げられた拳を見て、横へ飛び退る。

 風圧がすさまじく、この小さな体では簡単に煽られてしまうのがネックだけど、その点はあえて大きく飛ぶことによって距離を取り、壁を蹴って近づくという戦法を取った。

 元々、俺の正体はドラゴンである。それが人化の術によって人の姿になろうとも、その身体能力は高いままだ。

 ただ、流石にドラゴンの姿と比べれば力は弱いし、体の小ささも相まって殴ってもあまり致命傷にはならない。

 となると、攻撃の手段として考えるべきは魔法である。

 なので、俺は光の刃を作り出すと、次々と飛ばしていった。


『そ、その量は卑怯じゃないかな?』


 最初は避けていたダンジョンマスターだったが、めげずに何度も続けていると、次第に避けられなくなったのか、だんだんと被弾が増えていった。

 刺さった部分を見てみると、普通に傷ができているし、血も流しているからちゃんと効いているんだろう。

 フェルの攻撃でほとんど傷つかなかったのに魔法ではこうもあっさりなのはちょっと驚いたけど、まあ俺の魔法は鎧すら砕くほどの威力だし何もおかしくはないかと思いなおす。

 この調子で放ち続けていれば勝てそうだけど、ダンジョンマスターもただでやられることはないらしい。

 一度後ろに飛び退くと、地面に向かって思いっきり平手を振り下ろした。

 その瞬間、地面が次々に盛り上がり、槍のようになって襲い掛かってくる。

 これは、魔法? ニクスも地面から火柱を立たせることができるし、それと似たようなものだろうか。

 とにかく、見えているなら当たることはない。ジャンプして避け、天井を蹴って近づく。

 いや、近づこうとしたが、できなかった。

 なぜなら、天井に足を付けた瞬間、天井から土の槍が飛び出し、俺の体を貫いたから。


「かはっ……」


 俺の鱗はどんな攻撃も弾いてしまうほどに硬い。しかし、それはドラゴン形態の時の話であって、人間状態では適応されない。

 鋭い痛みが走る。視線を下に向けてみると、お腹から槍の先端が突き出していた。

 文字通り串刺しか。なんで生きてるんだろ。

 かなり痛かったが、気絶するほどではない。せいぜい、思いっきり腹を殴られたくらいの衝撃だ。

 もちろん、それでも痛いことに変わりはないが、俺はなぜか冷静に物事を考えることができた。

 背中から突き刺されている以上、抜くのはそう難しくない。返しのようなものはないし、重力に身を任せるだけでも勝手に抜けていくことだろう。

 ただ、普通に考えて、槍で串刺しにされたなんて体験したらパニックを起こすと思う。

 俺は元人間で、前世は何の変哲もないただの会社員だった。それなのに、今腹を串刺しにされても特に慌てることなく、冷静に物事を見定めることができている。

 これは明らかに異常だった。

 ドラゴンとして転生したおかげで精神面でも強靭になっているとか? いや、生まれたばかりの頃に狼に襲われた時は普通にパニックに陥ったし、それはない気がする。

 となると、自分の力を正しく理解したからだろうか。

 あの頃は自分がどんな能力を持っているかもよくわかっておらず、狼に捕まった時は本気で死ぬかと思っていた。

 けれど、今は痛いは痛いけど、この程度では絶対に死なないだろうという確信がある。

 痛いのは嫌だけど、死なないのならいくらでも治すことができるし、死ななければ安いと思ってしまっているのかもしれない。

 なんか、そう考えると人間離れしてきたなぁ……。


「じゃま……」


 とにかく、このまま刺されているのは不快だ。

 俺は足元に風の塊を作り出すと、それを推進力に飛び出した。

 勢いよく槍が抜ける。傷口が広がったような気がしたけど、そこまで痛くなかったから大丈夫だろう。

 そのままダンジョンマスターに迫ると、その顔を殴り飛ばした。


『ぐはぁ!?』


 ダンジョンマスターの巨体が吹き飛ぶ。

 ただのパンチであればそこまでの衝撃にはならないだろうが、風魔法による推進力と、さらに殴る瞬間、手に土魔法でメリケンサックを作り出したから威力的にはかなりのものだろう。

 むしろちょっと強くしすぎたかもしれない。腕が痺れてしまっている。


『な、なん……』


 立ち上がったダンジョンマスターは信じられないといった表情でこちらを見ていた。

 急所への一撃ではあったけど、流石にただ殴っただけでは倒せないか。

 でも、さっきの魔法があろうとも、どうにかできる自信はある。

 さっきは後れを取ったけど、要は地面や天井に触れなければいいだけの話だ。

 それだったら、風魔法を使えば飛ぶことができるし、何の問題もない。


『君はいったい何者なんだい? そんなに幼いのに、普通じゃない』


「わたし、どらごん」


『ドラゴン!?』


 本当ならドラゴンだということは明かさないほうがいいだろうけど、すでにニクスがばれてしまっているし、ダンジョンマスターにならばばらしてしまっても問題はないだろう。

 ダンジョンマスターは驚愕に固まってしまい、隙だらけの状態となる。

 今なら簡単に倒せそうだけど……何となく憎めないんだよね、この人。

 そりゃ、フェルをここまで追い込んだことには思うところはあるけど、それは助かりたいからという理由があるからであって、ある意味当然のことと言える。

 フェルを傷つけたことは許さないけど、その点だけ見るならば別にこの人は悪くないと思うんだよね。

 暴走に関しても、別に好きでやっているわけではなさそうだし。


「ちなみに我はフェニックスだ。貴様とは格が違う」


『フェニックス!? ドラゴンとフェニックスが何で一緒に……』


 俺に合わせてニクスも種族をネタばらしする。

 どちらも魔物の中でも幻獣種と呼ばれる特別な魔物であり、以前は神の遣いとして神に仕えていたこともある種族。

 ダンジョンマスターがどれほどの魔物かは知らないけど、流石にこの組み合わせには驚愕するしかなかったらしい。


『は、はは……こりゃ勝ち目はないね』


 そう言って膝をつき、姿を変える。

 一瞬の後、そこにいたのは最初に表した人型の姿だった。


『降参するよ。ドラゴンとフェニックスに勝てるわけないからね。嫌だけど、この命を差し出すことにするよ』


「むぅ……」


 随分と潔い。

 まあ確かに、ドラゴンとフェニックスが揃っていたらよほどのことがなければ勝てないだろうけど、俺はドラゴンと言ってもまだ子供だし、俺にだけだったらまだ勝てる可能性はあるだろうに。

 それに、これがもし嘘だったらどうするつもりなのだろうか。そんな簡単に命を差し出してしまってはあれだけ生に執着していたのが嘘のようである。

 こうもあっさり命を差し出されてしまうと逆に命を取りづらい。

 というか、そもそも俺はこの人を殺そうとなんて思ってなかったし、できることなら助けたいとも思っている。

 そりゃ、嘘をついて俺を騙そうとしたことはよくないことかもしれないけど、結局のところそれは助かりたいからという一心の行動だったわけだし。

 俺はニクスの方を見る。ニクスはため息をつきながら、こちらに歩いてきた。


「勝てぬと見るやあっけなく命を差し出す潔さは認めよう。本当は小娘の修業の一部としたかったが、白竜のが出しゃばったせいでそれは難しくなったし、もはや貴様に利用価値はない。せめて痛みもなく送ってやろう」


 そう言って手に炎を出現させるニクス。

 俺はそれを見て、とっさに言葉が出なかった。

 できることなら助けてあげたい。けれど、助けてほしいとも言えない。

 暴走してスタンピードを起こしてしまっている以上、ダンジョンマスターを倒す以外に即座に止める方法はないし、生かしておいたら町に多大な被害が出ることは間違いないだろう。

 それにそもそも、助けるだけの理由もない。俺が助けたいと思うのは命乞いをしてきたからであって、それ以外に何の理由もない。

 魔物の世界は弱肉強食、強い者が生き、弱い者は淘汰されるのが常。であれば、ここでダンジョンマスターを倒すことに何の罪もないし、当然のことと言える。

 本来ならあえてダンジョンに潜らない限りは出会わなかったはずの相手。それが何の因果かこうして出会うことになってしまった。

 こうして出会ってしまった以上、もはや運命は決まってしまっていたのだろう。

 ニクスが手にした炎を振ると、ダンジョンマスターは炎に包まれる。

 ダンジョンマスターは死んだら転生するというのは嘘だったにしても、もしも来世があるのなら、今度は敵ではなく、仲間として出会いたいなとそう思った。

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