第八十六話:援軍
ダンジョンから現れたのはホブゴブリンの集団。
大半はぼろい剣を持っているだけの雑魚ではあるが、中にはアーチャーやタンクと言ったような特殊な武器を持っている個体もおり、さらにはリーダーもいるようで統率もなかなか取れている。
一体一体はそこまで強くはないが、集団となると途端に連携の良さを発揮し、かなり強力な相手となるため、いくらゴブリンが雑魚と言われているとはいえ侮れない。
こちらはまだ迎撃の準備が整っていなかったこともあって、場は阿鼻叫喚となった。
露店を構えていた者は慌てて持てるだけのものを持って避難しようとし、まだ駆け出しの冒険者達は怯えてその場から動けなくなり、ある程度経験を積んだ冒険者も場当たり的な対応をしているもののすぐに押し返されてしまっている。
こうなってしまった以上、町へ魔物がなだれ込むのは止められないだろう。
まあ、それはフェルがいなければの話ではあるが。
「はあっ!」
フェルは瞬時に飛び出すと、逃げ遅れた人に襲い掛かろうとしていたホブゴブリンを一刀両断する。
続けて、襲い来るホブゴブリン達を相手取り、剣捌きで翻弄しては隙を見て切り伏せる。
やはり確実に強くなっている。もうホブゴブリン程度に負けることは絶対にないだろう。
「急いで避難してください! 受付まで行けばしばらくは安全なはずです!」
「あ、ありがとう、助かった!」
フェルはその後も襲われそうな人を優先的に助け、受付のある建物へと誘導していく。
あの建物は入り口からかなり近いところにあるけれど、他の露店と違ってかなりちゃんとした造りの建物だ。
中に立てこもって入り口を封鎖すれば多少の間は耐えられるだろう。
仮に日をまたぐほどの時間が経ったとしても、あそこなら食料も医療品もあるし、それなりに何とかなるはずである。
問題はこちら、町へのルートを潰す方だ。
ダンジョンと町はそこそこ離れてはいるが、その間に壁のようなものがあるわけではない。ただの一本道であり、行こうと思えば誰でも抜けることができる。
今は逃げだした冒険者や露店の店主などでごった返しているけど、それがなくなれば完全に素通りできるようになるだろう。
そうなれば、町へ魔物を通すことになってしまう。それは避けたい。
フェルはかなり善戦しているが、相手は数百、いや、もしかしたら数千単位の数がいるかもしれないほどの大群。流石に一人だけでは捌ききれない。
できることならニクスにも手を貸してもらいたいところだけど、ニクスは腕を組んで見ているばかりで動こうとしない。どうやら手を貸すつもりはないようだ。
となると、俺が手を貸すしかない。
あんまりこの姿で目立ちたくないけど、今はそんなこと言っている場合でもないし、仕方ないよね。
「きょうか、かける」
それでも、一応は対策を取ることにする。
ここで俺がドラゴンの力をいかんなく発揮して蹂躙すれば、それこそ秒で片が付くことだろう。
しかしそれでは、俺の正体に感づかれてしまうかもしれないし、そうなってしまうと面倒くさい。
だから、戦っている冒険者達にバフをかけることにした。
光魔法は筋力上昇や脚力上昇など、身体能力を底上げする魔法がいくつかある。
基本的にはその対象は一人だけだが、別に必ず一人にかけると決まっているわけではない。やろうと思えば、魔力さえあれば何人でも同じバフをかけることは可能だ。
だから、俺は今戦っている冒険者すべてにバフをかける。
たとえランク的に負けていても、バフをかければ実力差は多少補える。俺が直接手を出さなくても、ある程度使い物にはなってくれるだろう。
まあ、後で誰がバフをかけたんだと疑われるかもしれないが、直接魔法を放って倒すのと違って、バフは意図的にエフェクトを付けない限りわからないからそうそう気づかれることはないと思う。
もしかしたら、火事場の馬鹿力的なものが発動したと思ってくれることだろう。
「なんだ、急に体が軽くなったぞ」
「うぉ、何だこの切れ味は。俺そんなに力が強かったのか?」
「これならやれる、やれるぞ!」
フェルの活躍を見て呆然としていた冒険者達も次々と参戦していき、ホブゴブリンの群れを押し返していく。
だが、ホブゴブリンの方も負けていない。仲間をいくら倒されても臆することなく次々となだれ込んでくる。
本当に際限がないようだ。早いところ守護者を倒したいし、ダンジョン内に取り残されているであろうポーター達も助けたいけど、まだこの場を離れるわけにはいかない。
早くメリアさん、というかギルドの応援が来てくれると嬉しいんだけど。
「ルミエール!」
と、そこに俺の名を呼ぶ者がいた。
振り返ってみると、そこにはメリアさんを初めとした冒険者を引き連れたベル君の姿があった。
「事情はこの少年から聞きました。そして、すでにスタンピードが始まってしまったことも理解しています。お前達、一歩も町には入れさせるなよ!」
「「「おおー!」」」
メリアさんの合図で冒険者達が切り込んでいく。
かなりの数を連れてきたのか、その数は30人を超えていた。
大半はこの場にいた冒険者だけだっただろうから、30人ともなればギルドの常駐戦力の大半だろう。よほどこの事態を重く受け止めてくれたようだ。
ワンチャン、ベル君の言葉が信じてもらえず、塩対応されてしまうのではないかと心配していたけど、メリアさんはきちんと信じて最大戦力を用意してくれたようである。ありがたい限りだ。
「べる、ないす」
「あ、ああ」
「ニクス様、迎撃の指揮をしてくださりありがとうございます。ここからは私が引き継ぎます」
「ああ、そうしろ。我はさっさと守護者の下に行きたいのでな」
どうやらニクスが指揮をしていると思ったらしい。
まあ、ニクスは後ろで腕を組んでじっと見つめているだけだったし、確かにそう見えないことはないかもね。
でも、これで戦力は大幅にアップした。ギルドの戦力がどれくらいかは知らないが、フェル一人に負けるってことはないだろう。
後はみんなにバフをかけてあげれば少なくとも守護者と戦う時間くらいは稼げるはずである。
「小娘、行くぞ」
「も、もう大丈夫ですか?」
「援軍が来た。この場は任せても大丈夫だろうよ」
「よかった……」
完全に安全とは言えないかもしれないが、少なくともこの数がいて対応しきれないということはないだろう。
俺のかけたバフには活性効果もある。簡単に言えば、体力を徐々に回復するような状態だ。
だから、時間が経ってもそこまで疲れることはないし、長期戦でも十分に耐えられると思う。
この場は任せても問題はないだろう。
「ルミエール、その……」
「うん、みんな、たすける」
「た、頼んだぞ!」
遠慮がちに話しかけてきたベル君に頷いて返す。
守護者の討伐と子供達の捜索。両方同時となると少し大変ではあるけど、見捨てるわけにもいかないし、何とかするしかない。
未だに予断は許さないが、まずは一歩進むことができたことを喜ぼう。
俺達は頷きあうと、三人でダンジョンへと潜っていった。
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