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第八十一話:時間の問題

 その後、案内役を用意するからそれまで待っていてほしいと言われて、いったん解散となった。

 ダンジョンコアの場所を知る人というのはかなり少ないらしく、町ではダンジョンコアを管理する部署があるものの、ほとんどあってないようなものらしい。

 だから、普段は他の業務をやっているらしいのだけど、そのせいで仕事に追われてしまい、すぐには移動できない状態なのだとか。

 町の一大事だというのに何をやっているのやら。

 一応、こうしてニクスに依頼ができた以上はそれを全面的にバックアップする気らしく、守護者に挑む日にはダンジョンの入場を禁止し、またそれに伴う物資はすべてギルドが支給するなど、かなりの優遇っぷりである。

 その上あんな報酬まで約束してくれるというのだから破格だよね。


「さて、少し予定は狂ったが、問題はない。小娘、貴様ならば守護者とやらをやれるな?」


「そ、それは……」


 一度借家に戻った後、テーブルを囲んで今後の対策を練る。

 と言っても、やることは単純だ。守護者がいる場所まで行って、倒す。それだけである。

 ただ問題があるとしたら、守護者の情報がまるでないことだろうか。

 守護者がいて、それを倒せばスタンピードは収まるというのはあくまで別のダンジョンでの出来事だ。

 この町のダンジョンは今までスタンピードが起こったことはなく、それゆえ守護者がどんな姿をしているかすらわからない。

 メリアさんに聞いてみても、ダンジョンによって出てくる守護者の姿は変わるらしく、ここのダンジョンに出てくる守護者がどんな容姿で、どんな攻撃手段を持っているかはわからないらしい。

 だから、倒せるかと言われても確実に倒せますとは言いづらいわけだ。


「ここでやれぬというのなら、貴様に芽はない。白竜のと暮らすという夢は諦めることだ」


「そ、そんな!」


「なに、簡単なことだ。倒せさえすればいい、ただそれだけのことよ」


「にくす、ふぇる、いじめる、だめ」


 確かに、フェルの実力は上がっていっているとは言ってもそんな化け物じみて強くなったというわけではない。

 数年単位で修行していたのならともかく、まだ数ヶ月程度しかやっていないのだからこれでも十分早いペースだ。

 ニクスはボスを倒すことによってこの基礎修行を終了とすると言っていたけど、それがなぜいきなり守護者に変わってしまっているのだろう。

 守護者はボスよりも強いらしいし、どう考えてもやりすぎだと思う。

 もちろん、それくらい強くなければならないというのはあるかもしれないけど、人間がそんなポンポン強くなるなんてことはありえない。それこそ、主人公補正とかがない限りは。

 だから、仮にここで守護者に勝てなかったとしても、それはフェルの実力不足というわけではないと思う。


「白竜の、Sランクの雑魚すら倒せないようでは貴様と共に暮らすなど夢のまた夢だ。幻獣種ならまだしも、ただの魔物に負けるようならば下手に夢を見させないほうが得策ではないか?」


「にくす、きゅう。じかん、ひつよう」


 まあ、言いたいことはわかるよ? Sランクを雑魚というのはニクスの感覚だろうからあれだけど、確かに俺と共に暮らすのならSランクすらも屠れるくらい強くなければいつ死ぬかわからない。

 いくら俺が守るとは言っても、やはり最低限の強さというものは必要なのはわかる。

 でも、だからと言って今すぐそれを強要するのは違うだろう。

 フェルだって必死に努力している。この短期間でこれだけ強くなったのだから将来有望なのは間違いないだろう。

 でも、その実力まで到達するには時間が必要であり、いきなりポンと強くなれるはずもない。

 なんにしても時間が必要。それが普通なのだ。

 それとも、ニクスは生まれた時から強かったのだろうか? 俺も生まれた直後からそれなりに活動できたから幻獣種は生まれたばかりでもある程度の強さを持っているのが普通なのかもしれないけど、流石に今の強さではなかったと思うのだが。


「確かに時間は必要だ。だが、修行に時間をかければかけるほど貴様と共にいられる時間は減っていくと思うが?」


「ぐっ……」


 強くなるには時間が必要。これは間違いない。

 でも、だからと言ってゆっくり着実に強くなるのを待っていたら、それこそ数十年があっという間に過ぎていくだろう。

 フェルは今16歳。冒険者として活動できる年齢が大体30代後半までということを考えると、全盛期はせいぜい後20年ちょっとだろう。

 当然ながら、それを過ぎれば肉体も老いていき、力もなくなっていく。

 なぜだか、フェルはずっとこのままなんだと思っていたけど、人間である以上は老いには逆らえない。

 フェルが俺と並びたてるくらい強くなる頃には、それこそフェルはおばあさんになっていてもおかしくない。

 別にフェルがおばあさんになったからと言って見放すつもりはないけど、確かにそれでは共に暮らせる時間は限りなく少なくなるだろうな。

 そう考えると、ある程度無茶をしてでも一気に強くなった方がましなのかもしれない。

 でも、それでフェルが死んじゃうようなことがあったら嫌だし……。


「別に数十年が過ぎる程度我にとっては些細な時間だが、貴様にとってはそうではないだろう?」


「そう、だけど……」


「ならば貴様も小娘の成長を願え。貴様が幸せを感じなければ心を砕いた意味がない」


 ニクスにとって、フェルはただの手段の一つで、本当の目的は俺のことを思ってのことらしい。

 まあ、そりゃそうだよね。ただでさえ人間嫌いのニクスが、人間のフェルと一緒に暮らすなんてどう考えてもおかしな話だし。

 まあ、フェルへの態度を見る限り、完全に嫌いというわけではなさそうだけど、結局一番大事なのは俺なんだと思う。


「ルミエール、大丈夫だよ。私、勝つから」


「ふぇる……?」


「確かに不安だけど、ルミエールのためだもん。乗り越えてみせるよ」


「……そっか」


 相手はボスよりもさらに強い。ボス相手ですら苦戦するだろうフェルでは勝てない可能性の方が高い。

 でも、それでもフェルは勝つと言ってくれた。

 他の誰でもない、俺のために。

 やっぱりフェルは強いな……。体も、そして心も。


「ニクスさん、乗り込むのはいつですか?」


「案内役とやらが到着次第すぐだ。こんな面倒事さっさと終わらせてしまいたいからな」


 案内役が到着してすぐとなると、それこそ明日にでも行く可能性がある。

 フェルに残された時間はなく、今の実力でどうにかする他ない。

 フェルがどこまでやれるかはわからない。でも、少ない手札で勝ってこそ、成長が見込めるというものである。

 今できる限りのことを精一杯やる。それがフェルにできるすべてだ。


「今日は休め。時間がかかるようなら、明日も修行だからな」


「はい!」


 時間的にはまだ昼過ぎではあるけど、今からダンジョン行くには少し遅いし、さっきギルドにいたのにまたギルドに行くのも気分的になんか違うので、今日は修行はお休みということになった。

 なんだかんだ、この町に来てから初めての休息ではないだろうか? いや、一応ちょいちょいニクスはどこかに出かけていたようだったから、その時は休めてたか。

 ニクスならば今からでもダンジョンに乗り込んでもおかしくはなかったけど、流石にそこは自重したのだろうか。

 ともあれ、今日はしっかり休んで、明日以降に備えよう。

 感想ありがとうございます。

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