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第七十七話:妥協案

「……お受けいただきありがとうございます。ですが、その、そちらの方は強いのですか?」


 一応、ニクスが出向くということにはなったが、その理由はフェルの修業にちょうどいいからという理由だった。

 そうなると、必然的に戦うのはフェルということになり、ニクスは同行するだけということになる。

 いや、もちろんフェルで勝てないと判断したならばニクスが戦うこともあるかもしれないが、いくらニクスが連れてきた冒険者と言えども、ほぼ無名の冒険者を信用することはできないようだった。

 一応フェルは個人でもDランクの実力を持っているけど、それは遠く離れた町でのことであり、この辺りでは誰も知らない。いくら情報収集を欠かさないギルドマスターだったとしても、流石に辺境の地を拠点としている冒険者一人一人を覚えているはずもない。


「まだまだ未熟者だが、ダンジョンの雑魚共に負けることはない。問題はないだろう」


「そうですか……失礼ですが、ランクの方は?」


「え、えっと、今はDランクです」


 フェルが正直に答えると、メリアさんは目を見開いて驚く。

 それはそうだろう。本来ならSランク、あるいはAランクの冒険者に頼むような依頼だ。その守護者とやらは相当に強いのだろう。

 それなのに、戦わせると言っている少女のランクはDランク。とてもじゃないが、太刀打ちできるとは思えない。

 ニクスの威圧にも怯まなかったメリアさんだったが、流石に年端も行かないDランクの冒険者に任せるとなるとかなり不安が強いようだった。


「……今回の依頼は、町の命運を左右する大事な依頼です。できることなら、ニクス様自身が相手をしてくださると助かるのですが」


「こ奴では不足か? たかがSランク程度の雑魚だろう?」


「確かに、低ランクの者が才能を開花し、格上の相手を倒すことはあります。ですが、それは本当に稀な話です。今回は確実に倒せなければならない重要な場面。修業であれば、私が相手を斡旋いたしましょう。ですのでどうか、考え直してはいただけませんか?」


 そう言って頭を下げるメリアさん。

 確かに、ここで守護者を倒せなければスタンピードは止まらない。

 もちろん、守護者を倒せなかったとしても、溢れ出る魔物を倒しつくしてしまえば自然にダンジョンコアの能力が戻り、スタンピードは収まるだろう。

 しかし、それをやるにしても多くの戦力が必要であり、多くの被害が出るのは想像に難くない。

 守護者を倒せるだけの強さを持つ人がいるのなら、その人に任せたいと思うのは当然のことだろう。

 フェルを舐めていると言えばそうだけど、Dランクと聞いて期待しろというのも無理がある。特に、失敗すればスタンピードが起きてしまうというこの状況では、より確実な方を取りたくなるだろう。

 フェルもそれをわかっているのか、特に言い返したりはしない。けれど、ニクスは不満なのか、あからさまに面倒くさそうな顔をした。


「我は今、こ奴の育成で忙しい。こ奴を参加させないというのであれば、我が出ることはない」


「それで、彼女が死ぬようなことがあっても?」


「この程度で死んでもらっては困る。まあ、もし倒せぬようであればそ奴が手を貸すだろうよ」


 そう言って顎で俺の方を示す。

 え、ここで俺を出すの?

 メリアさんがこちらの方を向くが、案の定訝しげな表情を浮かべている。

 そりゃそうだ。フェルでも不足と感じているのにそれよりさらに幼い、冒険者ですらなさそうな幼女を見て危なくなったらこいつが助けるだろうと言われてもピンとこないだろう。


「え、ええと、そちらは?」


「名はまだない。だが、我に匹敵するほどの才能を秘めている。この小娘よりも強いだろうよ」


「は、はぁ……」


 メリアさんは困惑するばかりである。

 うーん、どうすればいいのこれ?

 そりゃ確かにドラゴンの姿に戻ればフェルよりは圧倒的に強いだろうけども。人間の姿ではそこまででもないと思うんだけどな。

 いや、人間姿でも今のフェルよりは強いか。防御はともかく、魔法の威力は折り紙付きだし、身体能力だって相当高い。それこそ、同じ幻獣種でもない限りは負けないだろう。

 だけど、それをどう説明すればいいんだ。

 実は正体はドラゴンなので負けませんって? そんなこと言えるわけがない。

 ドラゴンは人族にとって脅威の対象だし、見つかればすぐにでも討伐隊が組まれるような相手だ。それなのに、人間の町で正体を明かせるはずもない。

 何とか辻褄が合うように言い訳を考えようとしたけど、見た目五歳程度の幼女がSランク級の魔物に勝てるビジョンは全く浮かばなかった。


「……わかりました。ニクス様がそこまでおっしゃられるなら実力は確かなのでしょう。ですが、一度試させていただけませんか? この目で見て、それで判断させていただきたく」


「ほう」


 メリアさんは悩んだ末に、実際に戦ってみて、それでどれほどの実力があるのかを判断することにしたようだ。

 確かに、実際に見てみなければ実力なんてわからない。もしかしたら、Dランクというだけで実際はランク詐欺かもしれない。

 だったら、実際に戦って確かめる。そうすれば、納得することができるはずである。

 相手の意見を否定せず、自分が納得する方法としてはかなりいいのではないだろうか。

 俺はちらりとニクスの方を見る。意外にもその提案には納得したらしく、少し笑みを浮かべていた。


「ならば今すぐ場を整えよ。貴様に目にもの見せてやろう」


「わかりました。では、訓練場に移動しましょう」


 そう言って立ち上がる。

 さて、なんだか変なことになってきたけど、これは割と貴重な体験かもしれない。

 一応、フェルはダンジョンで対人戦もどきを経験しているとはいえ、完全な対人戦は初めてだ。

 いや、以前パーティを組んでいた時は剣を教えてもらうために仲間と模擬戦くらいはしたことあるらしいけど、ある程度剣術が使えるようになってからは、もっぱら魔物相手に試すことが多かったらしい。

 だから、純粋に強い人間と戦うのは久しぶりだろう。

 どのような戦いを見せてくれるのか、少し楽しみでもある。


「ふぇる、だいじょうぶ?」


「う、うん、ちょっと不安だけど、これまでたくさん頑張ってきたし、全力を出してみるよ」


 フェルは少し不安そうだったが、気合な十分のようだ。

 俺は安心させるようにフェルの手を握り、激励する。

 メリアさんはどんな戦い方をするんだろう? ギルドマスターというからには強いだろうし、ちょっと興味がある。

 もし、メルセウスと同じくらいなんだとしたら今のフェルで勝てるかなぁ。

 やがて訓練場に辿り着く。訓練場というか、闘技場みたいな場所だなここ。

 中央にテニスコートのような長方形のフィールドがあり、その左右に階段状に客席が用意されている。

 多分、あそこで試験官とかが観戦して動きを見たりするんだろうけど、あんなに遠くて見えるんだろうか。

 まあ、この世界の人達は割りと目がいいみたいだし、大丈夫かもしれないけどね。

 そんなことを考えながら、これからの戦いに思いを巡らせた。

 感想ありがとうございます。

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どうなるかな
幼女こそが最強だ。偉い人にはそれがわからんのです
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