第七十三話:研鑽を積んで
トラブルもありつつも奥深くに進むことしばらく。
今日も25階層あたりで足を止め、魔物を倒す作業を始めた。
フェルの動きだが、かなり良くなっているように思える。
疲労による体の鈍りはあるにしろ、戦っている最中は気持ちが高揚するのか、そこまで致命的なミスというものはなく、次々と襲い来る魔物にかなりいい戦いを繰り広げている。
何回も同じ敵を倒しているというのもあるだろう。それによって相手のパターンを把握し、より最適な動きを模索しているようだった。
おかげで、初日は苦戦していた敵にも余裕を持って対処できるようになっており、一日に倒せる魔物の数もかなり増えているように思える。
順調に経験を積めているようで何よりだが、ここに出現する魔物相手だけに強くなっても意味はない。
本当の強さを手に入れるのなら、それこそ山に行ったり海に行ったり、いろんな場所の魔物を倒す必要があるだろう。
これがゲームのように魔物を倒したら経験値が手に入るという仕様ならここで延々と魔物を倒しているだけでも十分そうだが、現実ではそうはいかない。
ただ、偏っているとは言っても、ここは割と対人戦の経験が積めるというのが大きい。
11階層以降に出現するホブゴブリンだが、さらに奥に進んで20階層以降ともなると剣や槍、魔法を駆使する個体がほとんどである。しかも、それが群れを成していることも多い。
そうなってくると、一般的な冒険者パーティが組む、前衛とか後衛とかの役職が揃っていることも多く、それらを相手にするということは、必然的にそれらの立ち回りを学べるということでもある。
もちろん、ゴブリンと人間の知能を比べたら人間が圧勝ではあるし、単純に攻撃一辺倒になるようなこともないだろうから実際の対人戦とは違うかもしれないけど、それでも剣の往なし方や魔法の見極め方など、学べることは多い。
その点では、このダンジョンはかなりいいダンジョンかもしれないね。
「よし。それなりに使えるようにはなってきたか?」
「そ、そうですか?」
「あくまで人間ならの話だがな。まだまだ先が長いことに変わりはない」
ニクスもフェルの成長を認めているようで、こうして労うこともある。
あんまり素直じゃないけどね。
「そろそろボスを見据えて戦うことも考えておけ。この基礎訓練は、このダンジョンのボスを倒すことによって終了とする」
「は、はい!」
ボス。そう言えば、ダンジョンにはそんなものもいると聞いた。
基本的にはダンジョンの最奥部におり、他の魔物と比べて一際強い力を持つまさにボスと呼ぶにふさわしい存在。
なぜボスが存在するのか、それはわかっていないようだけど、一説にはダンジョンの守り神とされているようだ。
実際、ボスを倒した後は宝箱が出現し、その中にはそれなりに貴重なものが入っているらしく、それを目当てにボスを目指す人も多い。
しかし、ダンジョンによって個体差はあるだろうが、このダンジョンの場合、ボスはランクで表すとBランク。わかりやすく言うと、いわゆるベテランが相手にするような相手らしい。
このダンジョンに挑んでいる冒険者達のランクは大体E~Cランク。とてもじゃないが、ボスには及ばない。
ボスを倒す度に珍しいものが手に入るというならそれを目当てに高ランクの冒険者がボス狩りをしてもおかしくなさそうだけど、ボスだけは復活するタイミングが違うらしく、一度討伐されてしまうと少なくとも一か月は出現しないらしい。
だから、ボスだけを目当てに滞在するのはあまり儲からず、それだったらもっといい素材を取れる魔物が出現するダンジョンに行き、そこで稼いだ方が楽らしい。
まあ、そのあたりの事情はあまり詳しくは知らないので、後でニクスにでも聞くとしよう。
「にくす、ぼす、だれ?」
「このダンジョンのボスは、変わっていないのならキングゴブリンだな。ゴブリンどもの長とも言える奴だが、まあ、雑魚だ」
どうやらボスまでゴブリンらしい。やたらゴブリンが多いダンジョンだなぁとは思っていたけど、言うなればゴブリンダンジョンとでも言うべきなのだろうか?
いや、ゴブリン以外も普通にいるし、別にそう言うわけではないか。
キングゴブリンはゴブリンの中でも強力な個体であるホブゴブリンのさらに上位の存在で、ホブゴブリンの中から突然変異的に生まれるものらしい。
その能力はホブゴブリンの時に培った能力をそのままに、力も体力も大幅に上昇しているようだ。
ただ、ニクスからしたら他のゴブリンとあまり変わらないらしく、やろうと思えば一撃で葬り去ることもできるらしい。
相変わらず、ニクスは規格外だと思う。流石はフェニックスだろうか。
「ぼす、かわる?」
「いや、基本的に変わることはない。しかし、極稀にダンジョンの中で力を貯め込んだ魔物が下克上を起こすことがあり、それがボスを打ち倒すとボスが切り替わることがある」
いったいどういうシステムなんだろう。ダンジョンには不思議がいっぱいである。
まあ、かなり珍しいことらしいし多分ないとは思うけど、どちらにしてもそれを倒すのがフェルの目標のようだ。
大丈夫かな。フェルはここ最近でかなり力を付けたけど、それは立ち回りがうまくなっただけであって別に体力がついたりしたわけではない。
いや、少しくらいなら体力がついたり筋肉がついて力が強くなったりしてるかもしれないけど、そんなのは何か月という時間を毎日トレーニングしてようやく身につくものだ。
このまま続けていればそれなりに強くなってはいくかもしれないけど、結局のところ一番大切なのは立ち回りであり、すなわち知恵がものを言うのだ。
ゴブリンとはいえ、初見の相手にそれがどこまで通用するかだよね。
「ふぇる、かてる?」
「今の時点で五分と言ったところか。貴様のサポートがあれば確実に勝てるだろうが、それでは意味がない」
確かに、俺が手を貸していいのだったら今の時点でも勝てそうではあるけど、やっぱりそれではだめのようだ。
フェルだけの力で勝つとなると、さらに鍛えないと難しそうである。
今でも十分頑張っていると思うけど……先は長いね。
「しかし、思った以上に魔物が多いのが気にかかる」
「まもの、おおい?」
「ああ。以前来た時はここまでではなかった」
てっきりこれくらいが普通なのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。
確かに、15階層あたりまでは階層を進むまで一体も魔物に会わないなんてこともざらだったけど、この辺りまでくると数歩歩けばエンカウントするくらいの魔物の密度である。
奥深くだから魔物が強くて多いのかと思ったけど、本来なら魔物の出現頻度はそこまで変わらず、道をすべて回るとかしない限り、1階層当たり数体に会うくらいらしい。
どういうことなんだろう?
「まあ、こっちの方が鍛えやすくて楽だがな」
「むぅ……」
魔物を倒しまくるのが目的だからこっちの方がありがたいっちゃありがたいけど、普段と違うということは何かしら意味があるはずである。
ダンジョンは不思議なことが多くて、どれが普通でどれが異常なのかよくわからないけど、もしこれが異常なのだとしたら何か起こりそうで怖いな。
俺は少し心配しつつ、フェルの戦いを見守った。
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