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第七十一話:新米冒険者

 ダンジョンに通い始めてから二か月ほど。

 ここまでくると常連の部類に入ってきて、受付の人やよく寄る露店の人なんかには顔を覚えられてきた。

 と言っても、正直あんまり露店に用はないんだよね。

 ダンジョンの入り口で売っているものは、食料やランタンなどの冒険者の必需品。それと、ダンジョンならではのものというなら地図が挙がるだろうか。

 このダンジョンは30階層まであると判明しているように、すでに攻略されているダンジョンである。

 だから、その構造はある程度把握されているし、出てくる魔物の種類も大まかに判明している。

 だからこそ、ダンジョン内の構造を示した地図というのもそこそこの精度で存在し、初めてダンジョンに潜るような初心者からしたら結構ありがたい存在である。

 ただ、二か月も通っているといつも通っている道くらいは把握できてくるもので、別にそこまで必要にはならない。

 もちろん、20階層以降はまだ必要になることもあるけど、そこまでくるとそれなりの実力が必要になるのか、精度も悪くなってくる。

 あまり信用できない地図を持っていくくらいなら、自らの勘に任せた方がましだ。特に、野生で生きていて、勘が鋭いニクスにとっては地図は逆に邪魔になるようで、初めはちょいちょい買っていたが、すぐに使わなくなってしまった。

 それどころか、最近ではランタンに使う油を買うのが面倒だからと自分の炎で照らして進むようになったのでますます露店に寄らなくなっている。

 あんまり寄らないと向こうから話しかけられるのでその時はしぶしぶ買うこともあるけどね。


「あ、ルミエール!」


 いつものように受付を済ませ、ダンジョンへ入ろうとしていると、そこにベル君がやってきた。

 ベル君だけど、あれから何度か会うことはあった。

 まあ、一緒に行くと鍛錬の邪魔になるので連れていくことはないのだけど、一応知り合いということで、会う度にこうして挨拶するくらいの関係にはなったということである。

 未だに俺が一緒にダンジョンに潜ることには反対のようだが、それでも一応俺がただの子供ではないということには気づいたのか、そこまで強くは言ってこなくなった。


「これからダンジョンか?」


「うん。べるは?」


「俺もこれから潜る」


 ベル君は俺達以外の冒険者と共に今でもダンジョンに潜っているようだった。

 あれから外れは引いていないのか、特に傷やあざが増えているということはないし、今のところは大丈夫なんだろう。

 ふとベル君の後ろを見てみると、こちらにやってくる三人組を認めることができた。


「ベル、その人達は?」


「あ、うん、この人達も冒険者だよ」


 見たところ、駆け出しの冒険者のようだ。

 身に着けている防具はフェルのものよりも貧弱そうなものだし、武器に至っては棒に何かの魔物の角か何かを括り付けた急造の槍である。

 もちろん、全員がそうというわけではなく、今話しかけてきた人はちゃんとした剣を持っているようだけど、年齢も若そうだし、なんだか初々しいね。


「そうなのか。初めまして、俺はファクトと言います。まだEランクの駆け出しですが、冒険者パーティ『ゴブリン撲滅隊』のリーダーをやっています」


 そう言って、手を差し出してくる。

 『ゴブリン撲滅隊』って、なんか直球なパーティ名だな。

 ゴブリンに何か恨みでもあるんだろうか。だとしても、パーティ名にそれを入れてしまったらゴブリン討伐以外の依頼を受けにくそうだよね。


「初めまして、私はフェルです。えっと、私達のパーティ名って……?」


「そんなものはない。そもそもパーティでもないだろう」


 そういえば、一緒に活動はしているけど別にパーティを組んでいるというわけではないんだよね。

 一応、パーティには固有のパーティ名が存在するものと臨時のものがある。

 前者は友達同士などで一緒に冒険者になり、ずっと一緒のパーティで活動していこうと決めたもので、基本的にパーティメンバーが変わることはない。

 対して、後者はソロの冒険者や何かの用事や不慮の事故によって人が不足したパーティが別の冒険者を誘うことによってできるもので、正式にパーティ登録を行っていないパーティのことである。

 別にどちらでもパーティとして活動するには問題はないが、パーティ登録をしておけば、メンバーの誰かが功績を上げれば自動的にパーティも評価されるので、ランクが上がりやすいというのはある。

 それに、ソロと違って複数人で活動するので不意の事故によって行動不能になってもカバーが利きやすく、死亡率が下がるというのもある。

 臨時のメンバーだとどうしても連携の面では不利になりやすいし、パーティを組むのだったらやはり長く一緒にいられる場所を選ぶのがいいと思う。


「ということは、臨時のパーティですか。女性だけですし、幼い子供もいるようですが、大丈夫なんですか?」


「はい、大丈夫ですよ。私は一応Dランクですし、ニクスさんに至ってはSランクですから」


「Sランク!? そ、それは失礼しました!」


 Sランクと聞いて、慌てて頭を下げるファクトさん。

 まあ、Sランクと言えばそれこそ世界的に見ても一握りしかいないかなりレアなランクらしいし、駆け出しが心配するような人じゃないよね。


「あ、あの、もしよろしければアドバイスなどいただけないでしょうか? Sランク冒険者から見て俺達はどうでしょうか」


「えっと、どうします?」


 顔を上げると、目をキラキラさせながらこちらを見てくる。

 普通に信じちゃってるけど、これがもし嘘だったらどうする気なんだろう。

 ニクスって、Sランク冒険者として活動している割にはそこまで騒がれないんだよね。ギルドに行った時も特に話しかけられたりはしなかったし。

 いや、一応ちらちら見られたり、こそこそと話したりはしていたけど、やっぱり近寄りにくいからだろうか。

 Sランクというだけでも大抵のランクの人にとっては話しかけるには恐れ多い人だし、ニクスは話し方があれだからその気がなくても威圧しているように感じてしまうこともある。

 下手に怒らせればそれこそ本気で殺しにかかる場合だってあるようだし、そりゃ噂話はしても話しかけては来ないよね。

 ファクトさんはどうやら知らなかったようだけど、その好奇心は時に身を滅ぼすかもしれない。

 果たして、ニクスはどう答えるんだろうか?


「ふむ、貴様らの実力を見ていないから何とも言えんが、見た目で人を判断するようならその癖はなくした方がいい。いつか必ず足元を掬われるぞ」


 てっきり突き放すと思ったけど、意外と普通に返答した。

 いや、これは遠回しに貶しているのか? 確かに、女性だけだからって甘く見ていたようだしね。

 ファクトさんはそれに思うところがあったのか、必死に謝っていた。

 まあ、多分ニクスが言ったのは自分のことじゃなくて俺のことな気がするけど、それは言わなくてもいいだろう。


「時間が惜しい。我はもう行くぞ」


「あ、はい。アドバイスありがとうございます!」


 パーティ全員で頭を下げて見送られてしまった。

 どうせあちらもすぐにダンジョンに潜るのだからすぐに会いそうな気もするけど……いや、そんな遅くはないか。最近は20階層以降に直行しているし。

 人は良さそうだったけど、駆け出し冒険者についていってベル君は大丈夫だろうか?

 多分、ベル君のことだから10階層以降には進ませないように言うだろうけど、もし強引に進もうとするならちょっと心配ではある。

 でもまあ、そんなこと気にしたところでどうにもできないし、無事に帰ってくることを祈るしかないよね。

 そんなことを思いながら、先を行くニクスの後をついていった。

 感想ありがとうございます。

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