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第六十六話:並び立つということ

「にくしゅ……」


「ダメだ」


「……まだ、いう、ない」


 さっそく話しかけてみたが、俺が何かを言う前にニクスは否定してきた。

 まあ、ニクスのことだから俺が言いたいことを予想していたんだろうけど、だとしても酷くない?

 俺やニクスは幻獣種という特別な魔物で、体力も並外れているからこの程度では全然疲れないけど、フェルは人間だ。

 あんまり気にしていなかったけど、ベル君だって結構疲れてきているみたいだし、そろそろ休ませてあげないと倒れてしまいそうである。

 疲れた状態で魔物に出会ったらどうするのか。万全の状態なら勝てる相手でも、疲れていたら負けてしまう可能性だってある。

 確かに何日もダンジョンから出てこなかったら心配をかけてしまうだろうけど、別に制限時間があるわけでもないんだからそこまで急いで戦わせる必要もないと思うんだけど。


「小娘を休ませろというのだろう? この程度で休んでいてはいつまで経っても強くならん。ダメだ」


「ふぇる、にんげん、わたしたち、ちがう」


「いずれは人間をやめるのだ。ならばこの程度で音を上げられては困る」


 確かに、ニクスがフェルを鍛えるのは、いずれ俺と暮らせるようにするためだ。

 俺と、つまりドラゴンと一緒に暮らすのだから、強さの他にも並外れた体力が必要となる。

 当然だろう、ドラゴンが住むのは人にとっては未開の地であり、並の人間では到達できないような場所なのだから。

 だから、その体力をつけるためにも多少厳しくなるのはわからなくなない。

 だけど、訓練というのはメリハリが大事であり、何でもかんでも続ければいいというものではない。時には休むことも重要である。

 しかし、ニクスはそれを否定しているようだった。


「もし小娘の疲労を取りたいというのなら、貴様の治癒魔法で癒してやればよかろう。その規格外の治癒能力なら、疲労も取り払えよう」


「うーん……」


 確かに、俺の治癒魔法なら疲労すらも回復できる可能性はある。

 他の制御できてきている魔法と違って、治癒魔法は練習時間があまりとれない関係なのか、常に全力の魔法をかけてしまう。

 だから、理屈としては疲労も回復するだろうけど、それをやるのはあんまり気が進まなかった。

 魔法によって疲労を飛ばしてまでフェルに無理をさせたくはないし、体の成長のためには疲労も必要なことである。

 なんだっけ、超回復だっけ? 筋トレとかで壊れた筋肉が以前よりも強くなって再生するっていう奴。

 もし、俺の治癒魔法が壊れた筋肉すらも回復させてしまうとしたら、フェルの頑張りを無にしてしまう可能性もある。

 だからこそ、怪我を治す以外で治癒魔法はあまり使いたくはなかった。


「なに、まだ動けている以上は余裕があるということだ。倒れるまでは戦わせても問題あるまい」


「もんだい、あり」


 ナチュラルに倒れるまで戦わせようとしているけど、普通に危ないからね?

 まさかとは思うけど、これを毎日続ける気じゃないだろうな。

 もしそうだとしたら、フェルが可哀そうすぎる。

 いくら鍛えるためとは言っても、そんなことしたらフェルが精神的に病んでしまいそうだ。

 俺のために鍛えてくれるのは嬉しいけど、度が過ぎれば俺も怒るぞ。


「小娘と共に暮らしたいのだろう? ならば貴様も協力せよ」


「きょうりょく、する。でも、やりすぎ、だめ」


「我のやり方がやりすぎだと?」


「そう」


「ならば、貴様ならどう鍛える?」


 む、そう言われると、どうするんだろう。

 まあ、こうしてダンジョンに潜って魔物と戦い、経験を積むというのは間違っていないと思う。

 このダンジョンに出てくる魔物は序盤は余裕で勝てるくらいの強さで、中盤であるここら辺の階層ではちょっと苦戦するくらい。

 だから、強さ的には相手にするにはちょうどいいだろう。

 問題はその頻度だな。

 メリハリが大事と言ったように、やはり適度に戦って適度に休むことが重要だと思う。

 少なくとも、倒れるまで戦わせるのが正解だとは思わない。


「白竜の、貴様は小娘をどうしたいと思っているのだ?」


「え?」


「共に野生で暮らすこと、それが望みではないのか?」


 まあ、今のところの目標はそうだろう。

 今では俺が人間として人間社会で暮らすのもいいのではないかと思っているけど、ニクスのことを考えると、やはり野生で暮らすことになりそうである。

 そのためにフェルにはかなりの負担を強いてしまうけど、フェルも俺のためにやる気になってくれているし、この気持ちが続く限りはこれでいいとも思う。


「貴様のやり方は人間の中で強くなる方法だ。人間の中で強くなるのであれば、それでも問題はないだろう。しかし、今目指しているのは貴様と並び立てるほどの強さを得ることだ。そのためには、並の修業ではまるで足りん。倒れるほど修行してようやく、いや、それでも足りないくらいだ」


「……」


 つまり、俺がフェルと共に野生で暮らすことを望むのなら、フェルはそれくらい大変な修行をしなくては到底成しえないということだ。

 人間をやめろとまで言ったのだ。確かに並大抵の努力では到達できないだろう。

 でも、実際にやってみるまで、まさかそんなに大変なものだとは思いもしなかった。

 恐らくこれは毎日続くことだろう。下手をしたら、何日もダンジョンに潜ったまま、寝る間も惜しんで戦うことになるかもしれない。

 フェルはそこまでの覚悟を持っているんだろうか。後悔していないだろうか。

 罪悪感が浮かんでくる。俺のために、フェルの人生を狂わせてしまうとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。


「わかったなら小娘のことをしっかり見ていろ。本当に危なくなったら助けてやれ。死なれて面倒なのは我も一緒だ」


「はい……」


 ちらりとフェルの方を見る。

 肩で息をし、今にも倒れそうではあるけど、決して休みたいとかもうやめたいとか、そう言った弱音は吐かなかった。

 フェルもフェルで何か覚悟を持っているのかもしれない。ならば、それを俺が邪魔してはだめだろう。

 俺にできることは、フェルが死なないように最低限の手を貸すことだ。


「小娘、まだやれるな?」


「は、はい!」


「よし、では次だ。あいつを倒してこい」


「はい!」


 フェルは愚直に魔物に挑んでいく。

 その動きにはキレがなく、攻撃も大ぶりなものになってしまっているけれど、それでも精いっぱい戦っている。

 複雑な気分ではあるけど、今は見守るのが正解だと信じよう。


「狂ってる……」


 ふと、そんな呟きが聞こえてきた。

 振り返ってみると、そこには肩で息をしているベル君の姿があった。


「そこまでして強くなって何になるんだ? あんなふらふらになるまで戦って、死んじゃったらどうするんだよ! 死んじゃったらそれでおしまいなんだぞ!?」


 そうニクスに食って掛かる。

 確かに、普通の人からしたらこの光景は異常だろう。

 いくら鍛えるのが目的とは言っても、休憩なしで延々と戦い続けるなんて狂ってる。

 それが例えばジムみたいな安全な場所で体を鍛え続けるというならまだありかもしれないけど、ここはダンジョン。相手にする魔物は容赦なくこちらを殺そうとしてくるし、少しでもミスをすれば帰ってこられないかもしれない。

 そう考えると、ここまでして鍛えるのはおかしいと思うだろう。


「それが仲間にやることかよ! 馬鹿じゃねぇの!」


 ベル君は若干泣いているようだった。

 フェルの姿を見ていられなかったのかもしれない。俺のことをあれだけ心配していたのだから、今ニクスがしていることがどれだけ鬼畜なのかわかるのだろう。

 その気持ちはわかるけど、ニクスの考えに賛同できないわけでもない。

 俺はどうしたらいいかわからず、ちらちらと両者を見ていた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
難しいよなぁ
肉腫! これが腫れ物にさわるというやつか。
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