第六十四話:ダンジョンの魔物
ダンジョンは階層によって出てくる魔物の種類や頻度が異なるらしい。
基本的に、階層が浅いほど魔物は弱く、階層を重ねるごとにだんだんと強くなっていくのだとか。
ただ、それも確実ではなく、時には階層を超えて普段はその階層に出現しないような強力な魔物が出てくることもあり、そういうのは初心者殺しとか呼ばれているらしい。
まあ、確かに階層で分かれているとは言っても、別に扉とかで仕切られているわけではないようだし、移動しようと思えばいくらでも移動できるのだから当然っちゃ当然だけど。
このダンジョンでは大まかに分けて、2~10階層が初心者向けで、それ以上が中級者以上向けとのこと。
1階層は安全のためにあらかじめ制圧されているらしく、魔物はほとんど出ない。出てきたとしても、スライムとかのいわゆる雑魚ばかりなのだという。
なんというか、ますますゲームっぽいよね。これでステータスでも出てきたらほんとにゲームの世界だと思う。
「仕方ないからついていくけど、あんまり深くに潜るんじゃないぞ? ほんとに危ないんだからな?」
これらの情報はすべてベル君からもたらされたものだ。
ダンジョンでポーターをやる上で、最低限の知識は持っていないとただ冒険者についていくだけになり、いざ冒険者に見捨てられてしまうと何もできなくなってしまう。だからこそ、最低限のダンジョンについての知識と逃げ道の確保は重要らしい。
まあ、いざという時に助けてくれる存在がいない以上、少しでも生存率を上げるために知識を身につけるのはある意味当然のことか。
浅い層であれば道も大体把握しているらしいし、意外としっかりしているのかもしれない。
「おい小娘、さっそく相手が出てきたぞ」
ベル君の案内の下、階層を下りていくことしばらく、大体5階層くらいまで下りたところでようやく魔物に遭遇した。
相手は緑色の肌をした人型で、手に棍棒のようなものを持っている。ゴブリンという奴だ。
数は三体。まだこちらに気がついていないのか、なにやら会話するようにギャーギャー騒いでいる。
ニクスによると、ゴブリンは魔物の中でも最底辺にいるいわゆる雑魚らしい。
大した力は持たないが、獣の魔物と違って多少の知恵があり、武器を作ったり集落を作ったりといったことができるらしい。
一匹だけならそれこそ子供でも相手にできるが、基本的には群れていることが多く、数の暴力によって格上の相手にも立ち向かっていけるようだ。
武器を作れるだけの知恵がある時点で雑魚ではない気もするけど、ニクスにとってはいくら集まったところで雑魚らしい。
「まずはあいつらを一人で片づけてみろ。それくらいはできるだろう?」
「や、やってみます!」
ニクスの指示によって、フェルがゴブリンに立ち向かっていく。
いくら雑魚とはいえ、相手は三体。数の上ではかなり不利なように思える。
冒険者ギルドがつける魔物のランク的にもゴブリンは最低ランクらしいけど、やっぱり数が揃うと厄介そうだけど、果たして。
「やあ!」
フェルは素早い身のこなしでゴブリンの一体に接近すると、手にした剣で首を両断した。
フェルの持つ剣は急遽用意した安い数打ち物なので、そこまで頑丈ではないけれど、思いっきり振りかぶればゴブリンの首を叩き斬ることくらいはできるようだ。
不意打ちだったというのもあって、一体はあっさりと倒すことができた。
しかし、異変に気付いた他の二匹が手にした棍棒で殴りかかってくる。
「はっ!」
フェルはすぐさま後ろに飛び退り、攻撃を躱す。そして、体を捻って再び剣を振るうと、ゴブリンの一体に手傷をつける。
痛みによって棍棒を取り落としたゴブリンを蹴りつけて転倒させると、返す刀でもう一体を袈裟斬りにした。
最後に、倒れたゴブリンにとどめを刺し、戦闘が終了する。
流石、元Cランクパーティの一員。ゴブリン程度なら三体相手でも余裕で倒せるようである。
いざという時は助けに入ろうと思ったけど、何の心配もいらなかったね。
「流石にこの程度はこなすか。なら次だ。気を引き締めていけ」
「はいっ!」
そう言ってニクスはさらに奥に進んでいく。
フェルもこの程度ではまだまだと思っているのか、力強く返事をしていた。
「お、おい、素材はいいのかよ?」
しかし、そこでベル君がちらちらとゴブリンを見ながらそう聞いてくる。
そういえば、一応ポーターとして雇ったのだから、ある程度の素材は持ち帰らないと損かな?
というか、せっかく入場料まで払って入っているのだから、修行だけで終わらせてしまったらもったいない。家賃の支払いのためにも、素材はできる限り回収していった方がいいだろう。
「ゴブリンの素材を欲しがる奴がいるのか? せいぜい肥料にしかならんと思うが」
「武器が使えるんだよ。たまに鉄を使ってるからそれが売れるんだ」
ゴブリンの素材はあまり有用ではないらしい。
基本的に、魔物の素材というのは武器や防具の他、毛皮で衣服を作ったり、肉を食料にしたりするようだが、ゴブリンはそういうことに利用できる部位がかなり少ないらしい。
一応食べられないことはないが、かなりまずいらしいね。俺も食べたことはないけど、見た目的にあんまり食べたいとは思えない。
唯一役に立つのがゴブリンが作る武器であり、時には鉄を使った頑丈なものもあることから、それなりの値段で売れるとのこと。
まあ、大抵は木製ばかりで、状態も悪いからそういうのはあんまり高くはないらしいけど。
「そう思うなら回収すればよかろう。いちいち我に許可を取る必要はない」
「ま、まあ、そういうことなら持っていくけど……」
ベル君は少し複雑そうな表情でゴブリンの棍棒を拾っていく。
ただ、リュックは先の冒険者によって持っていかれてしまったので、今のベル君は入れ物を持っていない。
だから、持とうにも手に持つくらいしかできなく、棍棒三本だけでも結構嵩張ってしまって大変そうだ。
まあ、いざとなればアイテムボックスがあるし、どうしても持っていきたいものがあればそれに入れればいいんだけどね。
「おい小僧。次の階層の道はどっちか知っているか」
「い、いや、これ以上は知らない。というか、まだ潜るつもりなのか? もう10階層だぞ」
その後も、魔物に遭遇する度にフェルが相手をし、10階層までやってきた。
ここまで来てわかったことは、ここら辺の魔物ではフェルの相手にはならないということだ。
フェルの実力がDランク程度と考えるなら、この辺の魔物はF~Dランク程度。たまに苦戦することはあるにしろ、危機に陥るということはなく、危なげなく倒すことができていた。
安定して倒せるというのはいいことではあるが、ニクスはこれでは不満らしい。
命の危機を感じるくらい、もっと強い相手と戦わせて、死に物狂いで戦ってくれるのが理想なのだという。
俺としては、最初は簡単な相手で慣らして、徐々に強い相手にシフトしていく方がいいと思うけど、それではまどろっこしくてやっていられないとのこと。
まあ、気持ちはわからないでもないけど、それでフェルが怪我をしてしまうのは怖いなぁ……。
いくらいざという時は助けに入るとは言っても、それを見極めるのは難しい。
早めに助けに入ってしまったらフェルの経験にならなさそうだし、遅すぎたらフェルを危険に晒してしまう。
せめて、フェルがあんまり傷つかないうちに助けに入ろうか。そんなことを思いながら、フェルを見ていた。
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