第六十三話:ダンジョンへ突入
「みんな、きた、いくね」
「あ、おい……!」
俺はベル君に別れを告げ、ニクス達の下へと駆け寄る。
なんかフェル、口元によだれの跡があるんだけど、なにがあった?
「あまりうろちょろするな。探すのが面倒だ」
「ごめん」
「まあいい。いくぞ」
ニクスはぶっきらぼうにそう告げて、入り口の方へと進んでいく。
まあ、これは俺が悪いので怒られても仕方ない。というか、ニクスもそんなに怒っていなかったようだし、別に大丈夫か。
フェルが手を差し伸べてきたので手を取り、ニクスの後についていく。
とりあえず、フェルにはよだれの跡があることを教えてやったら恥ずかしそうに拭っていた。
なんかおいしそうな露店でもあったか?
「ま、待て待て!」
そのままダンジョンに入ろうと思ったら、ベル君がついてきた。
なんだろう、怪我はちゃんと治してあげたし、まだ何か用があるんだろうか?
「危ないって言ってるだろ! なんでそっちのお姉さん達も止めないんだよ!」
「なんだ貴様は」
ベル君の声に、ニクスが振り返る。
その表情は心底面倒くさそうで、俺のことを睨みつけていた。
お、俺のせい? いやまあ、確かに助けたのは俺だけどさ。
「お、お前がニクスか? なんでそんな小さい子をダンジョンに連れて行こうとしてるんだよ! 危ないだろ!」
「黙れ。何も知らぬ小僧が口を挟むんじゃない」
「ひっ!」
ニクスが睨みつけると、その威圧感にベル君が息を飲む。
俺のことを心配してくれているんだろうけど、ニクスに対してそれは逆効果だ。
というか、俺は大丈夫だって言ったんだけどな。やっぱりこの姿だと信じてもらえないか。
「白竜の、何だこいつは」
「はこぶ、ひと。けが、してた、なおした」
「また面倒なことに首を突っ込みおって……」
わかりやすく深々とため息を吐くニクス。
し、仕方ないじゃん。目の前で怪我してたら放っておけないでしょ。
「おい小僧。人を見た目で判断するな。こいつは貴様などより何万倍も強い」
「お、俺が女の子に負けるって? 流石に負けないぞ!」
「貴様がどう思おうが知ったことではない。言ってわからぬなら、その身に教え込んでやろうか?」
「ひっ……!」
あ、ニクス魔力を少し解放したな?
あれをやると威圧感が増す。大人でもビビるほどなんだから子供相手に使ったらトラウマものなんじゃないだろうか。
案の定、がちがちに固まってしまって、歯をがちがちと鳴らしている。
ちょっと可哀そうになってきた。
「そ、それ、それでも、女の子を危ない目に遭わせるなんて納得できない!」
「ほう、耐えるか。そこらの有象無象よりは骨があるようだ」
普通の子供だったら腰を抜かしてしまうか、逃げ出してしまうか、とにかく反抗なんてできないだろうけど、ベル君はかなり胆力があるのかニクスの威圧を耐えきってしまった。
でも、これでもかなりギリギリなはずである。
そもそも、ベル君が反論しているのは俺がダンジョンに潜るのが危険だからという理由であり、原因は一応俺にあると言える。
そう考えると、これ以上ベル君に恐怖を与えるのは少し心苦しいな。
「ニクス、まって」
「なんだ」
「べりゅ……べる、つれてく」
「予想はしていたが、やはりそうなるか」
俺がダンジョンに潜るのが心配というのなら、ベル君自身が守ってくれればいい。
ベル君はポーターであり、しかもそれなりに場数を踏んでいるようだ。ダンジョンには詳しいだろうし、連れて行ったらそれなりに役に立つことだろう。
ニクスがいれば安全だろうし、さっき冒険者に酷い目に遭わされてお金も貰えなかったようだから、ここで雇う形にして給金を出せば、大人しく従ってくれる可能性も高い。
少しのお金と手間で諦めてくれるのなら、それが一番楽じゃないだろうか?
「言っておくが、我は面倒見んぞ。連れていくならば貴様が面倒を見ろ」
「わかった」
「まったく、ただでさえ時間を食っているというのに面倒なことだ」
そう言って、ニクスはさっさと先に行ってしまった。
てっきり反対されると思っていたけど、割とすんなり許してくれて少し驚いている。
まあ、面倒事を持ってきた俺が全部責任取れってことなのかもしれないけど、結果オーライということで。
「べる、いこ」
「え、は?」
「ふぇる、つれてきて」
「いいのかなぁ……」
成り行きを見守っていたフェルも少し悩んだ後にベル君の手を取った。
何が何だかわかっていないようだけど、まあ、道中で説明すればいいだろう。
別に本気で働きに期待してるわけではないし、ここで実力を見て、それで諦めてくれればそれでいい。
俺は一緒にベル君の手を取ると、ニクスの後を追った。
ダンジョンに入る際に俺やベル君の存在を門番は目撃していたが、特に何か言われることもなく、普通に通ることができた。
黙認されているというのは本当らしい。むしろ、黙認していないほうが少数派なのかもしれないね。
まあ、それはさておき、ダンジョンへと突入する。
ダンジョンにはいくつかタイプがあって、洞窟型、遺跡型、塔型など色々あるらしい。
このダンジョンはその中でも洞窟型で、文字通り洞窟のように岩肌が覗く薄暗い場所だった。
まだ入り口だからか、一応たいまつで明かりは確保されているけど、少し進めばそれもなくなり、ほとんど足元が見えない。
一応光源として、なんか光る石がところどころにあるので完全な暗闇ではないけれど、これランタンとかなしで探索するのは大変そうだな。
ランタンに関しては、フェルが持ってきていたので問題はない。というか、最悪ニクスが自力で火を出せるし、明かりに関しては心配しなくていいだろう。
さて、魔物がたくさんいるとのことだけど、まだ先かな?
まあ、こんな入り口近くに出たら表に出ちゃいそうだし、本番は2階層以降ってところかもしれないね。
「お、おい、どういうことだ!?」
ランタン片手に進んでいると、ベル君が耐え切れないと言わんばかりに声を上げた。
まあ、有無を言わさずといった形で連れてきたからね、納得はできていないだろう。
でも、あそこで俺は大丈夫だと言い続けたところでどうせ信じないだろうし、だったら実際に見てもらった方が早い。
受付で結構時間を取られたせいですでに昼だし、今回はそんなに進めんさそうだなぁ。
「みる、はやい」
「お前なぁ……」
かなり不服そうではあるけど、ベル君もあそこは俺のことなど放っておいて諦めるべきだったと思う。
まあ、怪我をしていたところを勝手にやってきて勝手に治療した俺が言えた立場じゃないかもしれないけど、本人が大丈夫だと言っているのにいつまでも止めるのは迷惑すぎる。
相手が親友だとか家族だとかならともかく、さっき知り合ったばかりの赤の他人相手にそこまでマジになったらねぇ。
いや、悪いこととは言わないけどね。相手のことを気遣えるというのはいいことだと思うし。
とにかく、ベル君にはしばらく付き合ってもらうとしよう。
俺は適当にベル君の愚痴を聞き流しながら奥へと進むのだった。
感想ありがとうございます。




